日本型経営 Feed

2008年8月10日 (日)

トヨタ流ビジネスマネジメント

4569701256 中俣秀夫「部長のためのビジネス・マネジメント」、PHP研究所(2008)

お薦め度:★★★★1/2

トヨタという他社ができないマネジメントで成長してきた企業であるので、特異なことをしているように思っている人もいるが、実際には経営の原理原則を徹底的に探究している企業という方が適切な評価だろう。よく、経営の教科書通りにやってうまくいけば世話はないという発言をする経営者がいるが、100人の経営者の中で、本当に経営学の教科書通りにやっている人はせいぜい1~2名だろう。他の人は、できない負け惜しみに行っているだけだ。現にトヨタは成功している。

また、トヨタは経営学の基本教科書にでてくるようなことだけではなく、最近注目されている組織学習などについても原理原則の一つとして極めようとしている。

続きを読む »

2008年5月 8日 (木)

部長の仕事を再考する

4480064214 吉村典久「部長の経営学」、筑摩書房(2008)

お薦め度:★★★

3か月ほど前に出版された「課長の教科書」という本がずいぶん話題になった。「課長の教科書」のオビに、「本書こそが、今、日本で最も読まれるべき本である」というキャッチが掲載されていたが、必ず読まれるべき本というのであれば、この本ではないかと思う。

大学の先生が書いた本であるので、わかりにくいが、指摘している内容は極めて重要で、ミドルが経営(企業統治)にどのようにかかわっていけばよいかという問題の基本的な考え方を述べた本である。

日本の組織は欧米に比べると現場が強い。その源泉はミドルマネジャーである。ただ、この図式が通じなくなってきた。この本でも指摘されているとおり、従来はよいものを作れば売れた。したがって、戦略(のダイナミックス)が現場の活動に大きな影響を与えることはなかった。幸之助哲学に代表されるように、(品質の)よいものを作れば売れる。よいものを売ることによって世の中に貢献し、また、収益を上げることもできるという普遍性のある「経営戦略」があったともいえる。

このような状況では、何を作ればよいかは現場が決めることができる。

ところが、求めるものが「よいもの」から、「好きなもの」に変わってきた。こうなってくると厄介である。好きなものはどんどん変わるからだ。今日まで売れていたものが、明日も売れるという保証などないのだ。

こうなってくると、現場だけでは何を作ればよいかを決めることができない。また、売れそうなものが作れたとしても従来のようにその存在が分かれば売れるほど単純でもなくなってきた。売れそうなものを売るための仕組み作りが必要になってきた。こうなると、現場だけではどうしようもない。ここで過剰反応が起こり、トップダウンの戦略経営に一挙に舵を切った。

誤解を恐れずにいえば、ある意味で、これまではミドルは現場を見て仕事をしてきた。だから、現場が強かった。下意上達の役割をはたしてきたのだ。ところが、これからは上に述べた経営環境の変化により、本当の意味で経営と現場の結節点になってきた。結節点とは、上意下達でも、下意上達でもない。自分のポジションに情報を集めて、自身の判断で上と下を動かしていくような働きが必要である。この本はこのような役割を果たすミドルを「モノを言うミドル」と呼び、モノを言うミドルがどのようなスタンスでモノを言い、また、仕組みを作っていかなくてはならないかを経営全般について説明している。まさに、部長の仕事を書いた一冊である。課長にはちょっと荷が重いと思うが、部長になっていく課長には必読の一冊だろう。

ただし、大学の先生の本であるので、やたらと理屈っぽいし、決して読みやすい本ではない。また、ガバナンス論や現在の企業統治のやり方への批判にページを割きすぎている感もある。まあ、この辺が経営論ではなく、経営学というタイトルのゆえんだろう。

ただ、ミドルの仕事の出発点は企業統治であることを考えると、こういった本を考えながら統治について真剣に考えてみることも必要だろうと思う。その意味で、読むに値する一冊である。

続きを読む »

2008年4月14日 (月)

課長の教科書

4887596146 酒井穣「はじめての課長の教科書」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)

お薦め度:★★★★1/2

この本を本屋でタイトルを見たときに、おっ!と思った。

手にとり、目次を見たら、期待したとおりのものだった。本書は、スキルと問題解決、社内政治とキャリアの4つを軸に、課長の活動のノウハウを書きあげている。

まず、最初の章は課長の定義をしている。経営的意思決定に対する関与、業務にたいする関与、リーダーシップと管理などの観点から課長とはこういうものであることを説明している。そして、日本の企業では組織の原動力だった課長が、成果主義の普及に伴う組織のフラット化の中で存在が薄くなっていき、今日、また、成果主義の揺り戻しの中で再び重要な役割になってきたという経緯を述べている。まさに同感である。

そして、次の章は課長に必要なスキルということで
・部下を守り安心させる
・部下をほめ方向性を明確に伝える
・部下を叱り変化をうながす
・現場を観察し次を予測する
・ストレスを適度な状態に管理する
・部下をコーチングし答えを引き出す
・楽しく没頭できるように仕事をアレンジする
・オスサイト・ミーティングでチームの結束を高める
の8つが必要だとし、これらについてポイントを解説している。
次に、課長が巻き込まれる非合法なゲームということで
・ポストと予算をめぐる社内政治
について述べて述べ、これを切にけて行くにはどうすればよいかを解説している。

そして、次に課長が直面する9つの問題ということで、問題社員への対処、部下のリテンション、部下のメンタルケア、ダイバーシティ、自身へのヘッドハンティングへの対処、海外駐在とその後のキャリアマネジメント、コンプライアンス、部下の人事評価への対処、ベテラン社員への対処といった問題について処方箋を示している。

そして最終章では、自身のキャリアマネジメントとして、自身の弱点を知る、英語力の強化、緩い人的ネットワークの構築、部長を目指す、課長で骨を埋める、社内改革リーダーになる、起業を考える、ビジネス書を読むといった戦略を示している。

これらの4本の柱は適切だと思うし、その内容もいいことがたくさん書いてある。何よりも、こういう形で課長の活動を体系化した点に価値があると思う。特に、スキルにおいては、課長になって身につけるというものではないと思うので、課長にはこんなスキルが必要だと定義したというのは画期的なことではないかと思う。

また、もう一つ、日本ではあまり社内政治を書いた本がないが、そんなに多くの分量ではないが、課長がもっとも悩む社内政治についての1章を設けているのはたいへん、素晴らしいと思う。

ひとつだけ物足りなさがあるのは、キャリアの扱い方である。スキルにしろ、問題解決しろ、社内政治にしろ、課長レベルになると、キャリアを背景に行わざるを得ない。この点があまり明確にかかれておらず、4つの柱の項目間の関連づけがあまり明示されていない。たとえば、どの部下を評価するなどは、自身のキャリアをかけた判断だし、問題解決の多くは係長のように単に答えを出せばよいという立場にはなく、キャリアをかけた答えを出さなくてはならないことがほとんどではないかと思う。

そう考えると、課長のキャリア戦略というのはもっと奥の深いものがあるように思う。企画意義もあり、内容もよくできた本だし、部分的には著者のそのような意識も垣間見れるので、よけいに残念だ。

ちなみに、僕が15年前に神戸大学の金井壽宏先生のMBAコースのゼミでクラスメートと話をしたときに、三分の二くらいの人は中間管理職のマネジメントについて学びたいと話をしていたのをいまでもよく覚えている。当時、ミドルの問題に強い関心を持つ唯一の先生が金井先生だった(今は、先生の教え子をはじめとして多少増えたが、それでもマイナーだな、、、)

ということで、実は昔から非常に関心の高いテーマ。この本を契機にこのようなニーズにこたえる出版がもっとされるとよいなと思う。本書の著者も書いているが、海外では中間管理職などマネジャーの範疇にないので、この分野の本は日本人が書くしかないな。とりあえず、酒井氏の第2作に期待!

最後に、もう、課長の人はこの本を読めばいいと思うが、これから課長を目指す人は、とりあえず、この本を先に読んでみてはどうかと思う。

4822243788 重松 清「ニッポンの課長」、日経BP社(2008)

続きを読む »

2008年4月11日 (金)

力学で情をレベルアップする

4408411280 林 衛「情のプロジェクト力学」、日本実業出版社(2008)

お薦め度:★★★★

プロジェクトマネジメントというのはマネジメントであり、経験的なアプローチや体系的なアプローチではだめで、そこに人がリーダーシップとコミュニケーションをうまく作用させる必要があることを読み物的に書いた一冊。

こういう話というのは誰も感じていないわけではなく、プロジェクトマネジャーが何人か集まれば、必ずといってよいくらいそんな話になる。井戸端会議的なアジェンダ設定で議論するのは楽しいテーマなのだが、これまで本がなかったのは体系的に整理することが難しいからだと思う。それを見事にやってのけた林衛さんに拍手したい一冊だ!

林さんの考えは、この問題の本質は人であり、人が作る組織である。したがって、如何に人が成長し、それによって組織が成長するかか、プロジェクト成功のカギになるというもの。この体系の中で、プロジェクトの本質を考え抜けとか、丁寧に訊けとか、技術センスを身につけろなどといったさまざまな要素を実にうまく整理している。

その際に、「情」が必要だと言っているところが林さんの真骨頂ではないかと思う。

「これからのビジネスパーソンは、論理を身につけた上で、情の大切さを知り、柔軟な思考で行動することが大切だ」

と言っている。そして、日本人は元来、論理と情をうまく使い分けできるのではないかと言っている。そして、システムが複雑になってくると論理だけではうまくいかなくなると言っている。

頭の中ではこの話は分かる。要するに大規模、複雑化してくると、論理的な整合性を保つのが難しくなるからだ。この下りを読んでいてふと、思ったことがある。それは問題が複雑になってくると、論理と情というマネジメントスキームそのものより、アーキテクチャー(制度、戦略)の問題の方が重要になってくるのではないかということ。

それを痛感するのが今、世の中をにぎわしている道路の問題とか、高齢者医療の問題など。かつてこの種の問題は、官僚が論理を担当し、政治家が情を担当することで全体としてうまくバランスが取れてきた。また、国民もその落とし処に理解を示してきた。ところがうまくいかなくなっている。

たとえば、地方の交通量の少ないところに道路をつくるかどうかという議論はまさにこの典型だ。論理的にいえば、「使われない道路をつくるのは税金の無駄遣いだ」、「今まで税金をプライオリティをつけて使ってきたのだからこれからも粛々とつくるのが正しい」の2つの論理が衝突している。

マネジメントとはこういった対立の解消をしていく仕事である。そこで、政治家が情をばらまく。道路ばかり作っていて病気の人や勉強したい人が困ってもよいのか」、「今までじっと黙って待っていた地域住民の思うがわからないのか」などなど。よけい話がややこしくなる。このような本質的な矛盾はマネジメントでは解決できない。

なぜ、こうなるんだろうと考えてみると、思い当たるのが制度設計(戦略)のまずさである。上のような本質的な論理的な矛盾が起るのは、時間の経緯とか、環境変化によるものではない。道路特定財源制度というのができたときから発生が予想できた問題である。つまり、このコンフリクトの解消はマネジメントではできない話で、制度設計として考えるべき話なのだ。

もう一度、本の話に戻るが、林さんはこの本の第2章で設計センスの話をしている。つまり、マネジメントというのはマネジメントする対象のアーキテクチャー(林さんの本ではシステム、道路の場合は道路特定財源制度)がセンスよく作られていることを前提にして述べているのではないかと思い至った。大賛成である。

であれば、論理と情を使い分けるというのは相当、高度なマネジメントだと言える。特に、相当、質の高い情を持つ必要がある。リーダーはこういうことができるようになりたいものだなと思うが、この本にはそのためのヒントが満載である。

特に、この本のタイトルにある「力学」を使って、「情」のレベルアップをしようという林さんの提案は素晴らしい!ぜひ、読んでみてほしい。

それから、著者へのお願いは、最後にドラッカーのマネジメント論との関係に触れているが、ぜひ、これを一冊の本にしてほしい!

続きを読む »

2008年4月10日 (木)

「経営の神様」松下幸之助の物語

4478003122 ジョン.コッター(金井 壽宏監修、高橋 啓訳)「幸之助論―「経営の神様」松下幸之助の物語」、ダイヤモンド社(2008)

原書:MATSUSHITA LEADERSHIP(1997)
邦訳版:「限りなき魂の成長―人間・松下幸之助の研究」、飛鳥新社(1998、絶版)

お薦め度:★★★★

4870313456 リーダーシップの世界的な権威であるジョン・コッターが10年前に松下幸之助のリーダーシップについて書いた本の翻訳。監修者の解説によると、コッターが書いた唯一の分析的伝記だそうだ。リーダーシップのケースドキュメントとして、秀逸の一冊。

この本では、松下幸之助のリーダーシップを、松下幸之助自身、および、松下電器の成長段階に応じて

起業以前:故郷を失い、新興産業へ入って、活躍するまで
起業時期:夢を持ち、独特の経営戦略を持ち、成長する
成長:カリスマ性を発揮し、組織が発展し、BU制度を作るも、戦争が起こる
発展:世界の松下になっていく時期の総合的リーダーシップ
成熟:理想的なリーダーシップを求め、後継の育成をする

という段階で、松下幸之助がどうかわり、それによって松下電器がどのようになっていったかが述べられている。キーワードは「素直な心」。

経営の神様トム・ピーターズが提唱したビジネス慣習を戦後すぐに実践しているのは経営の神様たるゆえんだろう。

松下幸之助の経営リーダーとしての

 利益をあげているということは、社会に奉仕、貢献できている証である

という独自の哲学は、米国では過去のものになりつつある。80年代からの金融工学を応用し、実態経営と利益がかけ離れてきたためである。それが定着してきた90年代にこの本が出版されたのは興味深い。また、5年くらい前から日本でもこのような経営が普及の兆しが見られ、企業から松下の名前も消えようとしている。この時期にこの本が翻訳されるのも大変意義があると思う(1997年に一度出版されて、絶版されているらしい)。

もう一度、幸之助が唱えた企業活動の原点に戻るようなリーダーとリーダーシップの再生を願っている人は多いのではないだろうか?そのためには、「素直」な心が重要だということだろう。素直な心を失うと、利益を上げることが自社の利益にしからないことを教えてくれる一冊である。

続きを読む »

2008年3月27日 (木)

下士官にみる現場リーダーのベストプラクティス

4569654029 日下公人「現場指揮官の教訓―強い現場リーダーとは何か」、PHP研究所(2007)4569654029

お薦め度:★★★★1/2

軍事や宇宙開発において膨大な国家予算を費やして開発された技術が、やがてビジネスにおいて活用され、競争優位源泉になっているものは多い。意外と目立っていないのだが、戦争の背骨になる戦略と組織(マネジメント)に対しても膨大な投資が行われており、それもビジネスの世界で活用されているものも多い。

ところが日本の軍隊は敗戦を契機に、よくないマネジメントの引き合いに出されることがあっても、よいマネジメントの引き合いに出されることはない。

この本は、多くのエピソードに基づき、日本組織の特徴を下士官に注目してまとめた本である。

この本を読んでみると、戦争というと上意下達、指揮命令系とがビシッとしている軍隊が最適だと思ってしまうが、実際にはそうではなく、下士官という「現場リーダー」がいるからこそ、「現場が動く」という現実があり、また、現場が独自の判断で行った行動に対して上官は見て見ぬふりをするという組織が意外と強いというのがよく分かる。

確かに、戦隊をどう展開するかといった戦略は現場ではどうしようもないのだろうが、現場の見えていない組織(上官)が、戦略ありきで決めたオペレーションをその通りにやるとどうなるかは大体予想できるというものだ。

欧米の軍隊だと、にもかかわらず、そこまできちんと意思決定をすることが求められ、多くの兵士の死と引き換えに上官は地位を失うのに対して、日本は現場がオペレーションの中で現場が調整をしていく。上司は日常はあまり仕事をしていないが、失敗したら責任をとる。このような組織で勝ってきた戦局が多くあることを指摘し、今、組織が機能しなくなってきたのは、下士官の存在がなくなったからだという。

下士官をビジネス組織でいえば、係長、主任、プロジェクトリーダーといったあたりの役回りである。どのような役回りか。この本の中で、米国の研究を紹介した適切な説明がある。

米国のビジネスパースンは1マス、つまり、自分の職務という「縦のライン」で、かつ、1等級分の仕事しかしていない。日本のビジネスマンは自分の職務に隣接する多種類の仕事をしているばかりか、自分の所属等級を含めて上下に三マス分の仕事をしている。つまり、九マス分の仕事をしていることになる。

隣接の仕事はさておき、上下三マスということろがミソである。少なくとも自分の領域では、自分の上と自分の下の役割も兼ねる。多能工ならぬ、多層工である。

これが日本型マネジメントの本質である。もちろん、これは「ホンネ」の部分の話であって、この本の著者も指摘しているように「タテマエ」では上のマスは上司がやっていることになっていなければならないことは言うまでもない。このあたりのヒューマンスキルをどのように軍隊の中で作り上げていたかも紹介している。

その意味で、日本型組織のベストプラクティスを紹介した非常に貴重な1冊だといえる。係長、課長クラスのマネジャーにぜひ読んでいただきたい。

続きを読む »

2008年1月 1日 (火)

「主客一体」がビジネスの基本

2008年第1号です。本年もよろしくお願いいたします。 今年のスタートはこの本から。

リクルートワークス編集部「おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る」、英治出版(2007)

お薦め度:★★★★1/2

リクルートワークスが「おもてなし」とは何かを考えるために、旅館、茶道、花4862760333街、祭など「おもてなしの場」を調査し、その道の第一人者の話を聴いた連載「おもてなしの源流」を書籍化したもの。ワークスの連載のときから興味深く読んでいたが、改めて、書籍化され、まとめて読んでみると本質がはっきりしてくる。

欧米流のサービスは主と客が分離され、その関係構築に主眼を置く。これに対して、この本があぶりだしている日本のもてなしは、主客の立場が入れ替わることさえ許容し、主と客が共にその場をつくる「共創」の関係を持つことを基本としている。

これは旅館、茶道、花街、祭など、いずれにおいてもその傾向がはっきり見られる。そして、このスタイルを評価し、それを求めて欧米の人々がやってくるという。

非常に興味深い話である。

本書はサービスマネジメントの本として位置づけられているのだと思うが、これらはおそらく、すべてのビジネスにおける主客関係の基盤になっていると思われる。

たとえば、メーカに頼んでものをつくることを考えてみてほしい。メーカとユーザが協力することは比較的あたりまえだととらえられてきた。そうして初めて、ユーザは自分たちが役立つものを手に入れることができると考えらてきたのだ。

これに対して、欧米では、まず、契約ありき。契約で主客と明確にし、それぞれの領分をきちんと守ることによって、メーカは良いものを作ることができ、ユーザは役立つものを作ることができると考えられてきた。

この根底には、専門性に対して社会的な敬意を払い、たとえスポンサーといえどもその専門領域に手を突っ込むべきではないというプロフェッショナリズムがある。

今、日本もまさにこの方向に向かっている。

職人というと、自分の技術に自信を持ち、顧客はそれを対価として受け入れてくれるようなイメージがある。しかし、これは誤ったイメージではないかと思う。鮨屋で「おれの握ったすしが食えねえのか」の世界があるというが、京都のある(有名)鮨屋の店主にそんなのは職人ではないという話を聞いた。職人とは、「相手に悟られないように相手のニーズを聞き出し、そこに洞察を加えて客を満足させることができる」ものだという。ゆえに、無愛想な客と愛想のよい客で、出す鮨の品質が違うのもやむなしだそうだ。だから、客も作法をわきまえている必要があるし、品質を維持するためにわきまえない客は断る。だから、一見さんは断るのだという。これは花街にも通じる話だ。

少なくとも日本流のプロフェッショナルとはこれ、つまり、客と一緒に場を作れる人ではないのか?

そんなことを考えさせてくれる一冊である。

【アマゾンで買う】おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る

【楽天ブックスで買う】おもてなしの源流

続きを読む »

2007年12月 5日 (水)

プロジェクトXの経営学

462304873x 佐々木 利廣「チャレンジ精神の源流―プロジェクトXの経営学」、ミネルヴャ書房(2007)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトXにはまっています。なぜから、こういう連載を始めたからです。

プロジェクトXにみるスポンサーシップ

プロジェクトXというと、そのネーミングからか、プロジェクトマネジメントの視点から取り上げられることが多い。しかし、プロジェクトXというのはプロジェクトマネジメントについて問われるべきものではなく、「プロジェクトのマネジメント」について問われるべきものである。つまり、経営組織がプロジェクトをどのように行っていったかをテーマにしているものは極めて多い(もちろん、純粋なプロジェクトものもあるが)。

ということで、八重洲ブックセンターにいきプロジェクトXの本を探していたら、面白い本があった。これがこれ。

まとめ方も面白く、NHKのプロジェクトXはなぜ、面白いかという視点からまとめている。まとめたのは、京都産業大学の先生たち。分析視点は
・新規事業創造
・製品開発と企業間協調
・イノベーションと産業発展
・新市場の開拓とマーケティング戦略
・経営の国際化と組織学習
・組織間の異種協働
・リーダーシップとリーダー・フォロワーの関係
の関係。この視点の設定はたいへん、面白いし、参考になった。NHKのストーリーがプロジェクトにフォーカスしているので、その背後や環境をうまく抽出する視点だからだ。

ただし、分析は、教科書のような分析なので、経営学の教科書かと突っ込みたくなるような内容。もう少し、突っ込んでほしかった(実際に教科書として使っているようなので、そのためかもしれない)。

ということで、試みは評価したいし、この本を読んでプロジェクトXを見ると、見方が変わると思う(実際にやってみたらそうだった)。その意味でも意味があると思う。本当は★3つ半くらいにしたいのだが、★1個はその点でのおまけ。

また、プロジェクトマネジャーが、自分の置かれている立場を確認するためにも読んでほしい1冊である。

【アマゾンで買う】チャレンジ精神の源流―プロジェクトXの経営学

【楽天ブックスで買う】チャレンジ精神の源流―プロジェクトXの経営学

続きを読む »

2007年12月 3日 (月)

P2Mガイドブック

4820744690 日本プロジェクトマネジメント協会「新版 P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック」、日本能率協会マネジメント出版情報事業(2007)

お薦め度:★★★★1/2

P2M(プロジェクト&プログラムマネジメント)は日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が推進しているプロジェクトマネジメント方法論であり、PMBOKと同じ個別プロジェクトのマネジメントに加えて、プログラムマネジメントとポートフォリオマネジメントを統合した(広義での)プログラムマネジメントのフレークワークである。

本書はP2Mのガイドブックの新版(第2版)。内容的に第1版と比較すると、
・フレームが明確になり、しっかりとしてきた
・プロファイルなどの独自概念がこなれてきた
などの改良点が見受けられる。

ガイドブックとしては第1版は読むのに苦労するくらい、読みにくい部分が多々あったが、これがすっきりとしてきて、読みやすくなっている。その意味で、第1版はPMC、PMSなどの資格試験を受験する人以外には薦めにくかったが、今回のバージョンはプログラムマネジメントを必要とする実務家に薦めることができる内容だといえよう。

PMBOK(R)を推進しているPMIでも昨年プログラムマネジメント&ポートフォリオマネジメントの標準を発表し、この3つを合わせるとちょうど、P2Mと同じ位置づけになる。内容的には、P2Mに一日の長がある。また、PMIのこのドキュメントは現在のところ、ガイドラインというよりはホワイトペーパーに近い(来年の改定でどこまで変わるか!?)

P2Mも第1版はホワイトペーパーだったと思うが、やっとガイドラインと言えるものになってきた。この点でもPMIと比較すると一日の長がある。この進化がどれだけ普及に役立つかは見ものだ!興味ある人は、とりあえず、本書を読むところから始めよう!

【アマゾンで買う】新版 P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック

【楽天ブックスで買う】P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック新版

なお、今回の改定の中で、実務に適用しようとすると改善された理由に含蓄のありそうな部分が少なくない。その意味で、実務適用を考えるに当たっては、第1版との併用をお勧めしたい。今回、新版が出たことでいずれは廃番されるのだろうから、買っておくなら今のうちだ!

45696283894569628370  P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック〈上巻〉プログラムマネジメント編

P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック〈下巻〉個別マネジメント編

続きを読む »

2007年11月16日 (金)

日本における合理的経営の追求

4492501762 西尾久美子「京都花街の経営学」、東洋経済新報社(2007)

お薦め度:★★★

経営学者である著者が、5年にわたるフィールドワークを経て、京都の花街のビジネスシステムを分析し、まとめた一冊。内容は非常に面白いし、置屋のシステムを中心にして全体を分析しているのも納得できる。ただし、フィールドワークが中心で、現在のシステムについての分析が中心であるためか、置屋の話も読み物レベルで、本質がえぐりだされていないのではないかという感想を持った。

それはそうとして、花街のビジネスシステムをうまく、ベストプラクティスとして切り出しているので、ベストプラクティスとしては参考になる点が多い。置屋というと日本的なものだと思われているかもしれないが、実態は違う。最も大きな違いはリスクマネジメントである。

高いレベルの顧客満足を実現しようとした場合に、いろいろな面でリスクを取る必要がある。取引もそうだし、人材育成もそうである。花街のビジネスシステムは、リスクを取ることを前提にして、リスク管理を徹底する点に特徴がある。これは、欧米のマネジメントの考え方に近い。

それを日本の人間関係の中でいかに行うかに置屋システムの秘密があることまでは、よくわかる本である。

シニアマネジャー、経営者、プロジェクトスポンサーなどのお薦めしたい一冊である。

続きを読む »

PMstyle 2025年1月~3月Zoom公開セミナー(★:開催決定)

アクセスランキング

カテゴリ

Powered by Six Apart

Powered by Google

  • スポンサーリンク
  • サイト内検索
    Google