感謝:戴いた書籍 Feed

2007年1月19日 (金)

人生をプロジェクトマネジメントする!

4569658660_01__aa240_sclzzzzzzz_v4983093 中嶋秀隆、中西全二「25の目標」、PHP研究所(2007)

お奨め度:★★★★1/2

むかし、神戸大学の経営大学院で加護野忠男先生のマネジメント論の授業を受けた際に、非常に印象に残った言葉があった。それは、「マネジメントは生き様である」という言葉だ(もはや、講義のタイトルすら覚えていないので、この言葉はよほど印象に残ったのだと思う)。

中嶋さんと中西さんのこの著書を読んだときに思い出したのが加護野忠男先生のこの言葉だった。この本で書かれている人生をプロジェクトに見立てたプロジェクトマネジメントの考え方がまさしく、中嶋さんや中西さんの生き様なのだろうなと思ったのだ。

この本は前半は、人生の目標(25の目標)の定め方、後半は定めた目標の実行の方法について述べられている。

前半では、

・自分の人生のビジョン

をつくり、そこから、

・25の目標

に落とし込む。そして、そのうちの目標のどれかをうまく達成したら

・人生101のリスト(思い出リスト)

に書き込んでいくというスキームを提案している。そして、実際にこれらがツールとして提示されており、ワークをしながら読んでいけるような形になっている。

後半では、お二人の活動されている会社(プラネット)が提唱しているPM10のステップを使って、設定した目標を如何に達成するかが解説されている。

前半と後半をあわせて、人生をプロジェクトマネジメントするということになる。

実は、この本、著者の1人の中嶋さんから昨年の末に頂戴したのだが、このブログに書評を書くのに1ヶ月近くの時間が過ぎてしまった。とりあえず、さっと読むのはすぐにできたが、せっかくだと思い、25の目標を作り出した。作り出すと、いろいろなことが頭に浮かんできて、何度も読み直しながら、やっと先日作り終えて、こうして書評を書いている。

このような経験を通じて分かったことは、実際に目標を作ってみると、前半の目標設定の中で書かれていることが実によく分かるし、中嶋さん独特(?)のものの見方もだんだん、腑に落ちてきた。また、25が一種のマジックナンバーではないかとも思えるようになった。論より行動である。

ということで、この本を読まれる方は、実際に演習をやってみないと価値が半減する!とアドバイスしておきたい。ぜひ、25の目標を立て、その達成チャレンジを実践してみてほしい。

もうひとつ、この本は記述が極めて良質である。帯に「PMのプロ講師直伝」と書かれているのは、内容もそうだが、教える方法に対する自信の表れなのだろう。

もうひとつ読者の方へのアドバイス。前半で提案されている目標設定と達成のスキームはプログラムである。この本では、「ダイナミックに全体のバランスをとる」と書かれている。実は、このダイナミックにバランスをとる具体的な方法が後半でもあまり明確になっていない(ヒントはある)。

この本の後半に書かれている(シングル)プロジェクトマネジメントだけではなく、プログラムマネジメントの手法を習得すると、一層、25の目標がよりうまく達成できるのではあるまいか。この本を読んでプロジェクトマネジメントが一通り分かったら、次はその辺りを勉強してみてほしい。

続きを読む »

2006年12月29日 (金)

マーケターの日常

4820744062_01__aa240_sclzzzzzzz_v4840508 末吉孝生「マーケターの仕事術〔入門編〕」、日本能率協会マネジメントセンター(2006)

お奨め度:★★★★

マーケターの書いたマーケターのコンピテンシー。 

マーケターの業務シーンを想定し、それぞれのシーンで役立つ道具を「キット」としてまとめている。うまく構造化されているので、実践的である。

キットには

「チャート」:全体図

「ノウハウ」:実務上のノウハウ(手順、詳細)

「ステップアップ」:事例とトレンド

「ブック」:関連する書籍、資料

という4つの要素から構成されている。

シーンはマーケティングプロセスに沿って25準備されている(目次参照)。

解説スタイルは基本的なことをエッジを効かせて書いてある。なので読んでいて面白い。

また、この手のコンピテンシー本にありがちな、コンピテンシーの羅列という感じがない。一つ一つの道具に存在理由があることを意識し、その理由を一言かきくわえてあるかだらと思う。

たぶん、これが、マーケター末吉孝生の流儀なのだろう。

続きを読む »

2006年12月 4日 (月)

待望のプロダクトマネジメントハンドブック

4798111929_01__aa240_sclzzzzzzz_v3663775 Linda Gorchels(新井宏征訳)「プロダクトマネジャーの教科書」、翔泳社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

欧米では定番のプロダクトマネジメント本の一冊。プロダクトマネジメントの仕事を「プロダクトマネジャーのハンドブック」という切り口で整理している。

プロダクトマネジメントは、日本ではあまり、なじみのない概念であるが、製品カテゴリーの展開に責任を持ち、また、同時に個別の製品開発プロジェクトにプロジェクトスポンサーとして関わるマネジャーである。製品カテゴリーをプログラムだと捉えれば、プログラムマネジャーである。

この範囲で必要な知識は極めて膨大である。この本はそれを網羅しているので、さしむき、「ポーフォリオ」的な意味合いの強い一冊である。

第1部は戦略計画について述べている。第1章の戦略立案フレームワークから始まり、市場調査、競合分析、ブランド戦略、コスト戦略などについて書かれている。第2部は製品計画と戦略実行で、戦略的成長、新製品開発プロジェクト、市場投入戦略、製品管理、顧客管理について書かれている(詳細は目次参照)

第3部は多少趣が変わり、プロダクトマネジャーのリーダーシップについて書かれている。

本の構成として、すべての項目について簡単なチェックリストでプロダクトマネジャーとしての仕事がチェックできるようなつくりになっている。また、章末に14人のプロダクトマネジャーへのインタビューが採録されている。このインタビューを読むことによって、スキルポートフォリオのイメージが明確になるだろう。その意味でとても重要な要素になっている。いずれにしてもハンドブックとしてはよくできているし、プロダクトマネジメントが何かを知らない人が読んでイメージを作る、あるいは、プロダクトマネジメントの実務に関わっている人が自分の行っている仕事を体系的に整理するにはもってこいの一冊である。

一方で、あくまでもハンドブックであるので、この本1冊でプロダクトマネジメントに必要な知識のすべてが身につくと考えるのは早計。この本に書かれている活動をしようと思えば、多くのスキルを必要とする。戦略理論、マーケティング、プロジェクトマネジメント、ブランドマネジメントなどだ。ちょうどプロジェクトマネジメントのPMBOKのようなイメージで読むのがよいだろう。

実際にこの本の書かれているような仕事のやり方を手っ取り早く身に付けたいという方には、同じ著者の

0071410597_01__bo2204203200_pisitbdp500aThe Product Manager's Field Guide: Practical Tools, Exercises, and Resources for Improved Product Management

がお奨めだ。ただし、英語。この本も翻訳してほしいなあ~。

続きを読む »

2006年11月 3日 (金)

あなたは箱の中でリーダーしていませんか?

447979177901 アービンジャー・インスティチュート(金森 重樹監訳、富永星訳「自分の小さな「箱」から脱出する方法」、大和書房(2006)

お奨め度:★★★★1/2

PM養成マガジンブログ関連記事:プロジェクトという箱からでよう

この本の原題は「Leadership and self-deception」。deceptionは「騙す」という意味。米国でよく読まれるリーダーシップ読本の一つの邦訳。

邦題からも分かるように、「箱」という一風変わったメタファ(比喩)の中で、寓話を使ってリーダーシップの本質と構築方法をうまく説明している。

誰よりも努力し(ていると思っている)主人公は、ザグラム社という会社でよい職を得る。しかし、それまでのやり方がザグラム社では通用しないという事態に直面する。自分を守り、他人に影響を与えるとするやり方が、ザグラム社の風土に合わなかった。ザグラム社のリーダーシップは、自己原因性(すべての原因は自分にあるという考え方)に基づいていたためだ。

そこで、主人公は上司であるエグゼクティブからの問題指摘を受けると同時に、コーチングを受け、そのことに気がつき、箱の外に出て行くというストーリー。

このストーリーで、「箱」に並ぶキーワードが自己欺瞞。「自分への裏切り」と呼ばれている。自分への裏切りというのは自分の感情に反した行動を取った場合に、自分を正当化するためにさまざまな行動に出る。これが箱に入っている状態であり、人間関係、リーダーシップにさまざまな問題を引き起こすというのがこの本の考え方。「自己原因性(Personal Causation)」の議論として、感情に注目しているのはかなり面白いと思う。

この本では、この行動パターンがある限り、業績に結びつかないとしている。確かにその通りだ。

問題は箱から抜け出すにはどうすればよいか、これが問題だ。この本の示唆で非常に役立つのは、「箱に入っているときにしても無駄なこと」を明確にしている。

(1)相手を変えようとすること

(2)相手と全力で渡り合うこと

(3)その状況から離れること

(4)コミュニケーションと取ろうとすること

(5)新しいテクニックを使おうとすること

(6)自分の行動を変えようとすること

の6つ。この指摘は鋭い。確かに、多くの人が箱に入ったまま、これらの努力やトレーニングをしようとしている。無駄だというのも最初から読み進めていくとちゃんと納得できる。

最後に、箱から出る方法というのが書かれている。

「他の人々に抵抗するのをやめたときに、箱の外に出ることができる」

本の質と同じく感心したのが、翻訳の質が非常に高いこと。米国のオフィスを舞台にしたストーリーであるが、まったく違和感なく読める。米国発のこのスタイルの本は、ストーリーそのものに違和感があって落ちないが、この本にはまったくそれがない。

それからこの本を読んでいく中で、イラストの存在が非常に役立つ。ロジックが結構複雑なので、自分で図を書きながら読んでいかないとおそらく、頭が混乱してくる。それを代わりにやってくれるイラストが入っている。なんと、寄藤文平さんの非常に味のあるイラストだ。

最後に少し違う視点からのメッセージ。10年くらい前に亡くなった安部公房という作家がいる。哲学的な作品を多く残した作家で、抽象的ながらもプラクティカルな文学性は高く評価され、欧米にも多くの作品が紹介されている。その中の一つに、「箱男」という作品がある。

4101121168 安部公房「箱男」、新潮社(1982)

ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男。箱に隠れて覗きをしたり、普段はできないことをすることに快感を感じる。

そのような行動を繰り返しているうちに、やがて主人公は箱男から箱を買い取ろうとした医者の偽箱男へ、少年Dへ、露出狂の画家ショパンへとめまぐるしく移ってゆく。

そうしているうちに、誰が箱男か、箱男のエスノグラフィーを書いているのは誰なのかがわからなくなってしまう。

という話なのなのだが、「小さな箱から脱出する方法」の本質をより深く理解するためには、安部公房の「箱男」を読まれることをお奨めしたい。

続きを読む »

2006年10月27日 (金)

イノベーションマネジメントの全てが分かる一冊

456965546701 大浦勇三「イノベーション・ノート―会社が劇的に変わる! 」、PHP研究所(2006)

お奨め度:★★★★

イノベーションマネジメントのポイント(論点)が実に要領よくまとめられた1冊。以下の6つの視点にまとめられている。

・事業戦略は適切か

・実現に向けた仕組み/プロセスは明確か

・必要なコンテンツ(情報・知識・知恵)は十分か

・推進体制は必要か

・人材教育/人材育成は万全か

・外部連携に死角はないか

それぞれの項目につき、さらに5つの中項目にブレークダウンし、それぞれの中項目に対して、5項目の小項目を、1項目1ページで、図表を駆使して視覚的に理解できるように実にうまくまとめられている。また、各項目とも8行ほどの解説があるが、この解説も分かりやすい。

この本を読んで、まず、最初に思いついた用途は、自社のイノベーション能力のチェックである。政府が政策目標にイノベーションを掲げ、担当大臣を置いた。また、経団連でも「イノベート日本」というキャッチフレーズを掲げた。

イノベーションへの関心の高まりは否が応でも増してくるだろう。そんなときに、とりあえず、何か一冊本を読んで、マネジメントとして何をすればよいかを把握したいときに、絶好の一冊だ。

ただ、中は、いわゆる図解的な入門書ではない。図解であるが、内容はかなり本格的なイノベーションマネジメントの解説書であるので、それなりの覚悟をして読む必要があると思うし、自分の関心の持てた項目については、他に参考書を探して深堀する必要があると思う。

続きを読む »

2006年10月25日 (水)

技術者のためのマネジメント入門

453213324601 伊丹敬之, 森健一編「技術者のためのマネジメント入門―生きたMOTのすべて」、日本経済新聞社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

仕事柄、エンジニア出身のマネジャーにマネジメントの勉強をすることをお奨めすることが多い。確かにその目的に適う書籍は、日本にも結構あるのだが、視座がマネジメントにある本がほとんどである。つまり、経営の中でどのように技術を役立てていくかという視点がある。

しかし、この本は珍しく、視座が技術にある。技術を中心に経営をしていくにはどうしたらよいかを説明している。技術者に薦めたい本である。

内容もとてもよい。そんなに高度な内容ではないが、必要最小限の問題として、戦略のあり方、マーケティング活動のあり方、組織のあり方、プロジェクトマネジメントなど一通りの経営プロセスの解説がある。同時に、新事業創造、マーケティングコミュニケーション、ビジネスモデルといった事業マネジメントについても触れられている。

書き方も事例を中心にかかれており、実践的である。

特に、素晴らしいと思うのは、日本のMOTの本はなぜかあまり正面からプロジェクトマネジメントを取り上げていない。この本は経営プロセスの一つとして1章を割いて解説されている。拍手したい!

最後に、どうでもいいが、著者もなんとも豪華。編者の伊丹敬之先生、森健一先生は、もちろんだが、常盤文克先生、徳重桃子先生、佐々木圭吾先生、坂本正典先生、宮永博史先生、齊藤友明先生、西野和美先生。

続きを読む »

2006年10月20日 (金)

しびれるマネジメント論

406213582501 天外伺朗「マネジメント革命 「燃える集団」を実現する「長老型」のススメ」、講談社(2006)

お奨め度:★★★★★

この本の第4章はフロー理論について書かれている。「燃える集団」を作る方法をフロー理論で説明しようとしているのだが、その方法を「長老型マネジメント」と読んでいる。

文字通り、長老のようなマネジメントを行うことによってフローを作る。キーワードは包容力、やりすごし、空気のような上司など、管理型のマネジメントとは大きく異なる。また、管理型のマネジメントが形を変えたエンパワーメントとも違う。ガバナンスということをマネジメントの中心課題としない、まさに、日本で古くから行われているマネジメントだ。これをソニーの出身の著者が、井深大のマネジメントを引き合いに出して語っている。

読んでいて、こういう上司のいる職場で仕事をしたいと思う人は多いと思う。しびれる一冊だ。

やり過ごしの効用については、東京大学の

453219135109 高橋伸夫「できる社員は「やり過ごす」、日本経済新聞社(2002)

で非常に面白い説明をされている。この本と併せて読んでみるとよいだろう。

この本、文庫本は2002年だが、単行本の初版は1996年。MBAに関心が高まり、戦略経営、成果主義に注目が集まっていたこのような本を書いた慧眼には本当に感服だ。高橋先生は、加護野、野中といったグルとは違った視点から日本型経営のよさを研究している研究者で、実務家としては注目した一人だ。

もうひとつ。フローについては、この本。

https://mat.lekumo.biz/books/2005/09/post_0a78.html

2006年10月17日 (火)

議論を見える化する

453231288401 堀 公俊、加藤 彰「ファシリテーション・グラフィック―議論を「見える化」する技法」、日本経済新聞社(2006)

お奨め度:★★★★

ファシリテーションの本を何冊も読んで、話は分かるのだが、どうも腑に落ちないと思われた方はすくなくないのではなかろうか。この本はこの答えを与えてくれる。

この本では、議論の見える化をテーマにしている。この本で言っている見える化とは、

 議論を如何に図に要約するか

という技術である。この技術を、ファシリテータのあまたの中の動きから、具体的に、ホワイトボードや模造紙に書くときの文字の大きさや書き方、色の使い方、挿絵の使い方など至るまで具体的に説明している。特に第4章は、ファシリテータのあまたの中を解剖するということで、何を考えて何を書くかを時系列で説明しているので、非常に面白いし、有益である。

4章にかぎらず、本の中ではテーマに相応しくふんだんにビジュアルが使われており、たいへんよくイメージがつかめるので、読んだことをそのまま応用できるだろう。また、実際に作例がたくさん掲載されているので、それをじっくりと見ていくのもスキルアップに大いに役立つだろう。

ただし、誰でもがすぐにできるものではない。イメージを掴んだら、ひたすら実践してみることに尽きるだろう。その際、自分のアウトプットを持って、この本を読み直してみるのもよい。この本に書かれている(おそらくベテランファシリテータの)図と自分の図を比較してみることは非常に有効だと思われる。

続きを読む »

2006年10月12日 (木)

PMBOKのITプロジェクトへの適用の具体的方法

488373232001 山本需「PMBOK第3版を活用するITプロジェクトマネジメントへの適用と実践」、ソフトリサーチセンター(2006)4883732320

お奨め度:★★★★

PMBOK第3版をITプロジェクトに適用する方法を体系的に述べた本だが、いろいろ、ある本の中でもっとも具体的に書かれている本だ。

PMBOKのプロジェクトマネジメントプロセスに従って淡々と書かれている中に、著者の知見やノウハウがTips的な形で埋め込まれており、特に初心者が使いやすい内容になっている。

なによりよいのは、テンプレートが豊富であり、それが非常に役立つだろう。

PMBOKをITに適用するというのは何冊か類書がある。非常に興味深いのは、その方法が異なることだ。その中で、もっともオーソドックスなのは、この本と同じ出版社から出版されている佐藤義男さんの書かれた本である。この本はもともとは、日本プロジェクトマネジメント協会(当時は日本プロジェクトマネジメントフォーラム)のSIG活動で原型ができただけあって、非常にオーソドックスにまとまっている。どのようなIT組織にも使えるだろう。その一方で、教科書的という批判もある。

佐藤さんの本に較べると、教科書的なイメージはなく、文字通り、実践的な本である。その分、PMBOKの適用に関して、著者のオリジナルの視点が含まれているので、読む際には佐藤さんの本と比較しながら読んでいかれることをお奨めしたい。

続きを読む »

2006年10月 1日 (日)

超現場主義で商売繁盛

4774507601 上野和夫「人事のプロが書いた商売繁盛学 ”超現場主義”のすすめ」、現代書林(2006)

お奨め度:★★★★

著者の上野氏は西武百貨店人事部で30年のキャリアを積まれた方で、その上野氏が小売業の「儲かるサービス現場」にこだわって書き上げた一冊である。事例などは小売業を事例に書いてあるが、顧客接点のあるビジネスを展開している企業においては、非常に学ぶところの多い本である。

この本では顧客接点で高い付加価値を生み出す人材をたくさん育成し、顧客から「ありがとう」といわれるプロのサービスを提供する企業をサービスカンパニーと定義し、サービスカンパニーを目指すために必要な人材育成、人事制度について提案されている。

第1章ではサービスカンパニーを作るための超現場主義10か条が提案されている。これが非常に興味深い

1)体制作りの目的は顧客価値創造の一点に向けられている

2)そのためにもっとも効果的で効率的な仕事の仕組みをくつくること

3)顧客価値創造に直接関係しない仕事は徹底的にそぎ落とすこと

4)個々人の能力を最大限発揮させるための仕組みをつくりあげること

5)個人には自己責任の原則が確立していること

(あと、5つあります)

第2章では、プロフェッショナルについて論じられている。西武、プロフェッショナルというと常に出てくるのが、伝説のシューフィッター久保田美智子さんであるが、彼女のプロフェッショナル論が社内研修の内容をベースにして紹介されている。今まで雑誌などで何度が読んだが、よく分からなかった部分が良くわかった。

小売業のプロフェッショナル論というのはITなどの専門性の高いプロフェッショナル論とは異なる部分が多いと思っていたが、この本を読んでそうではないことが明確になり、この本の主張そのものが、どんな分野でも通用するものだという認識に至った。

実は、この本を読む2週間くらいまえに、ある大手IT企業の事業部長さんと話をする機会があり、顧客からの要件がうまく聞きだせない、どうすればよいだろうかという相談を受けた。その際に、小難しい話(要件定義の方法論)はそれはそれで必要だが、もっと根本的に、人間同士が話をするのだから、その場でどういう態度を取るかは極めて重要で、この部分にサービス業や小売業からもっとベタなベストプラクティスを引っ張ってきたほうがいいのではないかという持論を展開したところ、露骨にいやな顔をされた。この部長さんにぜひ、お奨めしたい一冊である。

後半は人事制度について議論されている。前半の主張に整合する形の人事制度の提案であり、なるほどと納得できる内容である。

PMstyle 2025年1月~3月Zoom公開セミナー(★:開催決定)

アクセスランキング

カテゴリ

Powered by Six Apart

Powered by Google

  • スポンサーリンク
  • サイト内検索
    Google