いろいろ考えて、ビジネス書の杜にドラッカーというカテゴリーを設置した。特定の人のカテゴリーを置くのは初めてである。正確に把握しているわけではないが、数だけでいえば、ドラッカー氏より多くの著作を上梓している研究者やコンサルタント、教員はいないわけではない。しかし、本人以外がドラッカー先生の本を解説したり、あるいは編集したり、あるいは実践の方法を考えたりする本まで含めると、圧倒的にドラッカー氏を上回る人はいないだろう。
それも哲学とかいった抽象的な分野ではなく、マネジメントという極めて現実的な分野でこれだけの人が、ドラッカー氏の言葉についていろいろと言及するというのは、驚くばかりである。ビジネス書の杜で、これらの書籍を整理するためには、やはり、カテゴリーが必要なのだと思う。
これを機会にひとつ、ルールを決めておく。ビジネス書の杜においては、今後、ドラッカー氏を「ドラッカー」と呼び捨てにすることがある。これは「ドラッカー」というのは、人格を超越した一つのコンセプトだとみなすからである。Twitterなどで呼び捨て談義をしている人がいるので念のため。
さて、カテゴリーの設置記念にミニ連載をお届けする。連載の趣旨は、ドラッカー本人の著作以外のドラッカー本の紹介である。まず、初回は、前書きです。どうぞ、お楽しみください。
岩崎 夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、ダイヤモンド社(2009)
お奨め度:★★★★1/2
放送作家から、ビジネスのマネジャーへという異色のキャリアを持つ著者が、ドラッカーの「マネジメント」を高校野球という舞台で実践する様子をエンターテイメントとして書いた一冊。
ピーター・ドラッカー (著)、ジョゼフ・マチャレロ(上田惇生訳)「プロフェッショナルの原点」、ダイヤモンド社(2008)
お薦め度:★★★★★
原題:The Effective Exective in Action
ドラッカーの最大の理解者であり、ドラッカーの教えを30年に渡り、教えてきたジョゼフ・マチャレロ教授がドラッカーの言葉を原題のテーマで、95のアドバイスに再構成した本。
この本を理解するためには、この本で最初の項目に取り上げられているドラッカーの言葉を知っておくとよい。
「経営者の条件」に書かれている言葉で
今日の組織では、自らの知識あるいは地位ゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである
という一節である。エグゼクティブという言葉は、通常、組織上の役職を示す言葉として使われるが、ドラッカーは上の抜粋の通り、別の意味で使っており、そこにこの本全体を貫くスタンスがある。このような前提で読むべき本である。
さて、本書は成果を上げる人のバイブルとしてまとめられたもので、
(1)時間をマネジメントする
(2)貢献に焦点を合わせる
(3)強みを生かす
(4)重要なことに集中する
(5)効果的な意思決定を行う
という5つの習慣を身につけるために書かれている。ゆえにこれまで、何冊かある、ドラッカー語録のような本とは多少違った趣がある。
それは上の5つについていくつかのポイントが示されている中で
・とるべき行動
・身につけるべき姿勢
の2つの視点から、コンピテンシーの強化についての記述があり、これを意識することによって習慣化できるようなつくりになっている点だ。これこそ、マチャレロ教授がドラッカー学を教えてきたノウハウだといえよう。
ひとつ例をあげておく。上にのべたようにこの本の第1章の1項目目は
「なされるべきことをなす」
というエグゼクティブであれというアドバイスなのだが、ここでの行動と姿勢は
【とるべき行動】
自らの組織においてなされるべきことは何か?自らがなすべきことは何か?
【身につけるべき姿勢】
常になされるべきことから考えることを癖にする。手本となる人はいるか?
といったもの。
ドラッカーの膨大な著作は秀逸なものばかりだが、実践ということでいえば、この一冊に勝る本はないだろう。購入し、擦り切れるまで使いこんでほしい!
P.F.ドラッカー(ジョゼフ・マチャレロ編、上田 惇生訳)「ドラッカー 365の金言」ダイヤモンド社(2005)
お奨め度:★★★★★
The Daily Drucker!
つい最近、逝去したドラッカー先生の言葉から375点を選び出した金言集(ドラッカー逝去:https://mat.lekumo.biz/pm/2005/11/post_911d.html)。
ドラッカー先生の名言集は2003年に一度、出版されている。
P.F.ドラッカー(上田 惇生訳)「仕事の哲学」、ダイヤモンド社(2003)
P.F.ドラッカー(上田 惇生訳)「経営の哲学」、ダイヤモンド社(2003)
P.F.ドラッカー(上田 惇生訳)「変革の哲学」、ダイヤモンド社(2003)
P.F.ドラッカー(上田 惇生訳)「歴史の哲学―そこから未来を見る」、ダイヤモンド社(2003)
これを全部買っているでの、迷ったが、装丁がきれいだし、選ばれている言葉も好きなものが多かったので、結局買った。ドラッカーファンであれば持っておきたい1冊。
365なので、タイトルのごとく、デイリーなのだが、結局、買った日に読んでしまった(笑)。ドラッカーの言葉はメールマガジンを書くときに本当にインスピレーションを与えてくれる。いい本が出た。
ピーター・ドラッカー(上田惇生訳)「テクノロジストの条件 はじめて読むドラッカー (技術編)」、ダイヤモンド社(2005)
お奨め度:★★★★★
ドラッカーの著作を読んでいると、その端々に、技術に対する非常に深い造詣を感じることがある。ただ、その全体像が見えなかった。
このように著作集として整理されると、改めて、ドラッカーの技術に対する造詣の深さに改めて驚かされるばかりである。
MOTにかかわっている人はもちろんであるが、技術者として、目先の技術を追いかけるだけではなく、高い志をもち、技術による社会貢献に取り組んで行きたいと考えている人に特にお奨めしたい。
また、最近、MOTブームの一方で、飛行機や鉄道などでは、技術軽視によると思われる災害、事故が目につく。また、携帯電話などの電子商品では技術、あるいは技術者の社会的な責任を全うしていない事例が目につく。もう一度、技術者、あるいは技術のスタンスを考え直す時期に来ている。
そのような時期にぜひ読んでみたい1冊である。
また、あわせて、
プロフェッショナルの条件~いかに成果をあげ、成長するか
https://mat.lekumo.biz/books/2005/02/post_4.html
チェンジリーダーの条件~みずから変化をつくりだせ!
https://mat.lekumo.biz/books/2005/06/post_7754.html
イノベーターの条件~社会の絆をいかに創造するか
https://mat.lekumo.biz/books/2005/06/post_234dB0084066JM.html
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ピーター・ドラッカー(上田惇生訳)「 イノベーターの条件―社会の絆をいかに創造するか」、ダイヤモンド社(2000)
お奨め度:★★★★★
ドラッカーの論文集第3弾で、社会構造の変革について述べた著作を集めている。ひとつひとつの論文を見ると、さすが、ドラッカーという含蓄の深い論文ばかりであり、また、言及している範囲も経済だけではなく、政治、教育など、非常に広範な範囲で言及されており、深く読むと、これらが、非常に深く関連していることが分かる。
ドラッカーの社会論の中で興味深いのは、NPOの議論である。NPOの重要性を古くから訴えてきた一人がドラッカーであるが、ここにきてやっと、予測した未来が現実のものになりつつある。その流れを検証するにも絶好の1冊である。
P.F.ドラッカー「プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか」、ダイヤモンド社(2000)
お奨め度:★★★★★
ドラッカーの小論文を 自己実現という観点からまとめた1冊である。
横串のテーマで見ると改めてドラッカーの知見の深さに感動するし、また、体験談をベースに書かれている部分は、ドラッカーの生き方そのものに感動を覚える。
しかし、本としてみれば少し物足りない気がする。 その物足りなさは、一つ一つの論文が深いにもかかわらず、前後に並んでいる論文との関連性が薄いという編集上の問題である。また、少し全体的に散漫な気もした。すでにドラッカーの本を何冊か読んでいる人にとって、ドラッカーの価値を高める一冊にはなりにくいだろう。
ただし、タイトルにあるように「はじめて読むドラッカー」というコンセプトなので、このコンセプトであればまあ、納得できるレベルである。
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