エド・ブラドー隊長のブートキャンプ
エド・ブラドー(青木高夫訳)「交渉のブートキャンプ―12回特訓プログラム」、幻冬舎(2008)
お奨め度:★★★★
勝ち負けというのは過去の交渉スタイルであり、現在の交渉は、当事者同士がどちらも満足するための共同作業であり、相手が得られる満足度は絶対価値ではなく相対価値で決まる
を原則に書かれた交渉スキルの解説本。
エド・ブラドー(青木高夫訳)「交渉のブートキャンプ―12回特訓プログラム」、幻冬舎(2008)
お奨め度:★★★★
勝ち負けというのは過去の交渉スタイルであり、現在の交渉は、当事者同士がどちらも満足するための共同作業であり、相手が得られる満足度は絶対価値ではなく相対価値で決まる
を原則に書かれた交渉スキルの解説本。
野田 稔+ミドルマネジメント研究会「中堅崩壊―ミドルマネジメント再生への提言」、ダイヤモンド社(2008)
お薦め度:★★★★★
日本の高度成長を支えてきたミドルマネジメントが崩壊しつつある現状を丁寧に分析し、再生のための提言をした一冊。
トム・マーカート(青木 高夫訳)「外資のオキテ どこが違って、どこが同じか」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)
お薦め度:★★★★1/2
原著:You Can't Win a Fight With Your Boss(上司と戦っても勝てない)
著者はシティコープ、P&G、ACニールセンなどで経営スタッフとして活躍していたビジネスマン。いわゆる外資系の企業でビジネスピープルとして活躍する(昇進する)ための経験的にまとめたと思われる58のオキテを書いた1冊。参考までにオキテ10までは以下のようなものが並んでいる。
外資のオキテ1 ハードに、そしてスマートに働け
外資のオキテ2 結果を出さなければクビだ
外資のオキテ3 強靭な意志を持て
外資のオキテ4 時間を酷使せよ
外資のオキテ5 仕事は何としてもやり遂げよ
外資のオキテ6 誠実かつチャーミングであれ
外資のオキテ7 よい上司を見つけよ
外資のオキテ8 上司を尊敬せよ
外資のオキテ9 上司と喧嘩するな
外資のオキテ10 上司についてよく知っておけ
この本の編集者は、自社のホームページに
「これって、ほとんど日本と同じじゃないか!」と訳稿を一読して思いました。
と書いている。実は僕はこのコメントを見てびっくりした。僕はこの会社の創業者を尊敬している。直接面識があるわけではないが、メルマガなどでそれなりに影響を受けている。この本に書かれているような会社ではないと思っていた。
出版社はともかく、読んだときに、まったく同じだとは思わなかった。逆に似て非なる部分が多いなと思った。同時に、日本の多くの会社もだんだん、こういう組織文化になっているなとは思った。この本の出版社もそうなのかもしれない。
そもそも、本書の原題である「You Can't Win a Fight With Your Boss」というのは日本ではあり得ない。日本企業の良い点の一つは堂々と上司とケンカできることだ。これは、欧米(特に米国やフランス)のように白黒をはっきりさせないのでできるのだ。日本でもWin-Winという言葉が普及してしまったが、本来、日本人にはWinという考えはなかったのではないかと思う。当たり前だったのだ。
こんな違いが並んでいる。
この本が非常によいと思うのは、オキテを通じて、欧米企業の組織や文化、マネジメント、従業員の価値観というのが垣間見れること。今、マネジメントの手法はほとんど欧米発である。ところが日本ではたいていうまくいかない。日本には向かないとよく言われる。ただ、グローバル化の中で、対応せざるを得ないような手法も多い。
この議論が不毛なのは、なぜ、日本に向かないかという分析がないままで済ましていること。これがこの本を読むと、マネジメント、組織、人、などで、どのような前提にして手法が生まれているのかがよく分かる。これはたいへん、貴重なことである。
その意味で、マネジャー必読の一冊だといえる。
村中 剛志「 「先読み力」で人を動かす~リーダーのためのプロアクティブ・マネジメント」、日本実業出版社(2008)
お薦め度:★★★★
プロアクティブという概念はプロジェクトマネジメントで真っ先に出てくる概念である。にもかかわらず、説明に苦労する。日本語では、この本でつかわれている「先読み」とか、「先手必勝」とか「用意周到」とかそんな言葉を当てている人が多いが、ピンとこないという人が多い。
この本は、それを見事に、(一般的な)リーダー向けの行動レベルで書き切っている。特に、個人レベルの話もさることながら、チームマネジメントの方法を述べた第3章は非常に参考になる。プロアクティブとは何かという以前に、この本に書いてあるようにやることがプロアクティブだと言えるようなレベルまで落とし込んであるのは素晴らしい!
本書では、まず、最初にプロアクティブ(先読み)するというのはどういうことかを業務効率やコストなど、いろいろな視点から説明している。
第2章以降は、たいへん、具体的だし、著者の持つノウハウを惜しみなく出してあり、分かりやすい。第2章は個人レベルのタイムマネジメントを具体的なツールとともに、示している。基本は段取り変えを如何になくすかにある。それを著者の独特のノウハウとツールで説明するとともに、実行する際にポイントになるところを丁寧に解説している。
第3章は冒頭にも書いたチーム編である。ここでは、3週間スケジュールとTOP5というツールを使い、チームでの情報共有によって、プロアクティブな段取りのコントロールを行う方法を説明している。さらに、原理を示すだけではなく、実践編として、実際にチームとしてそのような活動に取り組んでいく際の普及ステップまで示されており、たいへん、実践的である。
4章はミーティングマネジメントを如何にプロアクティブにしていくかについて、これまた、さまざまな工夫が紹介されている。基本的にはアジェンダ管理をプロアクティブに行うような仕組みになっている。
第5章はステークホルダマネジメントをプロアクティブに行う際の留意点。内容的には相手に求められる前に対応することが基本。レポートマネジメント、事前相談などについて述べられている。こちらは2~4章と比べると若干、Tips的である。
第6章ではリーダーのこころということで、「リードする」、「援助する」、「感謝する」という3つのこころがプロアクティブな行動を可能にするという著者の信念のようなものを書いている。
最後のまとめとして、村中さんはプロアクティブとは、思考法でも、マインドでも、リスク回避でもない。考え方、心構え、スタイル、姿勢であると書いている。結局、プロアクティブとは、個別の行動や思考、思考にたいして、これはプロアクティブ、これはリアクティブという風に考えていくものなのだろう。そういう意味で、プロアクティブとは何かという根本的なもやもやは消えないかもしれないが、すっきりするのではないかと思う。
最後に一つ、よけいなことを書いておく。この本で、プロアクティブの必要性として例に使っている例え話を僕もよく使う。野球で守備位置をバッターによって変え、常に真正面で捕球する野手と、常に横っとびで派手に捕球する野手はどちらがファインプレイをしているかという話だ。セミナーなどのつかみでこの話をすると、必ず、出てくる意見は「評価されるのは後者」とおうものだ。
もちろん、おかしいのだが、プロフェッショナルでない多くの日本組織では、この話は個人とかチームだけで切り離しできる話ではないのだ。組織もプロアクティブという「価値観」を持ち、顧客もまた同じ価値観を持っていないと、ジレンマが起こりかねない。非常に実践的な本なので、すぐにやってみる人もいると思うので、あえてその点をコメントしておきたい。特にチームマネジメントの中で実践する際には要注意だ。もちろん、その覚悟を持って実践してほしいという意味である。
林 衛「情のプロジェクト力学」、日本実業出版社(2008)
お薦め度:★★★★
プロジェクトマネジメントというのはマネジメントであり、経験的なアプローチや体系的なアプローチではだめで、そこに人がリーダーシップとコミュニケーションをうまく作用させる必要があることを読み物的に書いた一冊。
こういう話というのは誰も感じていないわけではなく、プロジェクトマネジャーが何人か集まれば、必ずといってよいくらいそんな話になる。井戸端会議的なアジェンダ設定で議論するのは楽しいテーマなのだが、これまで本がなかったのは体系的に整理することが難しいからだと思う。それを見事にやってのけた林衛さんに拍手したい一冊だ!
林さんの考えは、この問題の本質は人であり、人が作る組織である。したがって、如何に人が成長し、それによって組織が成長するかか、プロジェクト成功のカギになるというもの。この体系の中で、プロジェクトの本質を考え抜けとか、丁寧に訊けとか、技術センスを身につけろなどといったさまざまな要素を実にうまく整理している。
その際に、「情」が必要だと言っているところが林さんの真骨頂ではないかと思う。
「これからのビジネスパーソンは、論理を身につけた上で、情の大切さを知り、柔軟な思考で行動することが大切だ」
と言っている。そして、日本人は元来、論理と情をうまく使い分けできるのではないかと言っている。そして、システムが複雑になってくると論理だけではうまくいかなくなると言っている。
頭の中ではこの話は分かる。要するに大規模、複雑化してくると、論理的な整合性を保つのが難しくなるからだ。この下りを読んでいてふと、思ったことがある。それは問題が複雑になってくると、論理と情というマネジメントスキームそのものより、アーキテクチャー(制度、戦略)の問題の方が重要になってくるのではないかということ。
それを痛感するのが今、世の中をにぎわしている道路の問題とか、高齢者医療の問題など。かつてこの種の問題は、官僚が論理を担当し、政治家が情を担当することで全体としてうまくバランスが取れてきた。また、国民もその落とし処に理解を示してきた。ところがうまくいかなくなっている。
たとえば、地方の交通量の少ないところに道路をつくるかどうかという議論はまさにこの典型だ。論理的にいえば、「使われない道路をつくるのは税金の無駄遣いだ」、「今まで税金をプライオリティをつけて使ってきたのだからこれからも粛々とつくるのが正しい」の2つの論理が衝突している。
マネジメントとはこういった対立の解消をしていく仕事である。そこで、政治家が情をばらまく。道路ばかり作っていて病気の人や勉強したい人が困ってもよいのか」、「今までじっと黙って待っていた地域住民の思うがわからないのか」などなど。よけい話がややこしくなる。このような本質的な矛盾はマネジメントでは解決できない。
なぜ、こうなるんだろうと考えてみると、思い当たるのが制度設計(戦略)のまずさである。上のような本質的な論理的な矛盾が起るのは、時間の経緯とか、環境変化によるものではない。道路特定財源制度というのができたときから発生が予想できた問題である。つまり、このコンフリクトの解消はマネジメントではできない話で、制度設計として考えるべき話なのだ。
もう一度、本の話に戻るが、林さんはこの本の第2章で設計センスの話をしている。つまり、マネジメントというのはマネジメントする対象のアーキテクチャー(林さんの本ではシステム、道路の場合は道路特定財源制度)がセンスよく作られていることを前提にして述べているのではないかと思い至った。大賛成である。
であれば、論理と情を使い分けるというのは相当、高度なマネジメントだと言える。特に、相当、質の高い情を持つ必要がある。リーダーはこういうことができるようになりたいものだなと思うが、この本にはそのためのヒントが満載である。
特に、この本のタイトルにある「力学」を使って、「情」のレベルアップをしようという林さんの提案は素晴らしい!ぜひ、読んでみてほしい。
それから、著者へのお願いは、最後にドラッカーのマネジメント論との関係に触れているが、ぜひ、これを一冊の本にしてほしい!
ジョン.コッター(金井 壽宏監修、高橋 啓訳)「幸之助論―「経営の神様」松下幸之助の物語」、ダイヤモンド社(2008)
原書:MATSUSHITA LEADERSHIP(1997)
邦訳版:「限りなき魂の成長―人間・松下幸之助の研究」、飛鳥新社(1998、絶版)
お薦め度:★★★★
リーダーシップの世界的な権威であるジョン・コッターが10年前に松下幸之助のリーダーシップについて書いた本の翻訳。監修者の解説によると、コッターが書いた唯一の分析的伝記だそうだ。リーダーシップのケースドキュメントとして、秀逸の一冊。
この本では、松下幸之助のリーダーシップを、松下幸之助自身、および、松下電器の成長段階に応じて
起業以前:故郷を失い、新興産業へ入って、活躍するまで
起業時期:夢を持ち、独特の経営戦略を持ち、成長する
成長:カリスマ性を発揮し、組織が発展し、BU制度を作るも、戦争が起こる
発展:世界の松下になっていく時期の総合的リーダーシップ
成熟:理想的なリーダーシップを求め、後継の育成をする
という段階で、松下幸之助がどうかわり、それによって松下電器がどのようになっていったかが述べられている。キーワードは「素直な心」。
経営の神様トム・ピーターズが提唱したビジネス慣習を戦後すぐに実践しているのは経営の神様たるゆえんだろう。
松下幸之助の経営リーダーとしての
利益をあげているということは、社会に奉仕、貢献できている証である
という独自の哲学は、米国では過去のものになりつつある。80年代からの金融工学を応用し、実態経営と利益がかけ離れてきたためである。それが定着してきた90年代にこの本が出版されたのは興味深い。また、5年くらい前から日本でもこのような経営が普及の兆しが見られ、企業から松下の名前も消えようとしている。この時期にこの本が翻訳されるのも大変意義があると思う(1997年に一度出版されて、絶版されているらしい)。
もう一度、幸之助が唱えた企業活動の原点に戻るようなリーダーとリーダーシップの再生を願っている人は多いのではないだろうか?そのためには、「素直」な心が重要だということだろう。素直な心を失うと、利益を上げることが自社の利益にしからないことを教えてくれる一冊である。
プロデューサーズ制作チーム、佐野 一機、インパクト・コミュニケーションズ編「プロデューサーズ―成功したプロジェクトのキーマンたち」、誠文堂新光社(2008)
お薦め度:★★★★1/2
プロジェクトがうまくいくには何が必要か?当然ながら、これだという答えはない。体系的なアプローチと、継続的な地味な努力、これに尽きる。
その上でという議論をするなら、意見は分かれるのではないかと思う。一般には3つあるといわれている。
・プロジェクトリーダー(プロジェクトマネジャー)
・プロジェクトスポンサー
・プロジェクトマネジメントオフィス
ここの第4の軸として、プロデューサーという存在があることに気付かせてくれる一冊。
成功を収めたプロジェクトのキーマン(プロデューサー)とインタビュー形式で、そのプロジェクトのベストプラクティスを抽出しようとしている本。
読んでみて、すごいなあ~と思うのは、やはり、「現場力」。プロジェクトマネジメントでも、現場の感覚がいかに大切かがよく分かる。たとえば、一番目のエビスの立川さんの話。
エビス<ザ・ホップ>を出すのに一番反対したのは実は社内なんです。我々が一番心配したのは、エビスビールが好きで、エビスを信奉してくださるコアなお客様が離反することでした。
これは、マーケティングの教科書にあるような話。ところが、
エビスを選んでいる人は、「自信をもって、エビスを選んでいる自分がかっこいいと思うから」という気持ちがあるのではないかと想像するわけです。
と考えたという。これは現場ならではの感覚だと思う。この手の話が山ほどある。企画というのは本質的にこういうものかもしれない。
僕はマネジメントが現場から乖離してくるのは、宿命的なものだと思っているが、こういう本を読んで、現場への思いをリマインドすることはとても大切ではないかとも思う。
プロジェクトとプロデューサーは以下の通り。
・ヱビスビールヱビス“ザ・ホップ 立山正之
・映画「鉄コン筋クリート」 田中栄子
・ソフトウェア開発digitalstage 平野友康
・感動食品専門スーパーオイシックス・高島宏平
・Xbox 360「ブルードラゴン」プロモーションBIG SHADOW 内山光司
・絵本シリーズ「くまのがっこう」 相原博之
・クリエイティブスタジオSAMURAI 佐藤悦子
・都市再生プロジェクトR‐Investment&Design 武藤弥
・りそな銀行コラボレーションプロジェクトREENAL 藤原明
ピーター・ドラッカー (著)、ジョゼフ・マチャレロ(上田惇生訳)「プロフェッショナルの原点」、ダイヤモンド社(2008)
お薦め度:★★★★★
原題:The Effective Exective in Action
ドラッカーの最大の理解者であり、ドラッカーの教えを30年に渡り、教えてきたジョゼフ・マチャレロ教授がドラッカーの言葉を原題のテーマで、95のアドバイスに再構成した本。
この本を理解するためには、この本で最初の項目に取り上げられているドラッカーの言葉を知っておくとよい。
「経営者の条件」に書かれている言葉で
今日の組織では、自らの知識あるいは地位ゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである
という一節である。エグゼクティブという言葉は、通常、組織上の役職を示す言葉として使われるが、ドラッカーは上の抜粋の通り、別の意味で使っており、そこにこの本全体を貫くスタンスがある。このような前提で読むべき本である。
さて、本書は成果を上げる人のバイブルとしてまとめられたもので、
(1)時間をマネジメントする
(2)貢献に焦点を合わせる
(3)強みを生かす
(4)重要なことに集中する
(5)効果的な意思決定を行う
という5つの習慣を身につけるために書かれている。ゆえにこれまで、何冊かある、ドラッカー語録のような本とは多少違った趣がある。
それは上の5つについていくつかのポイントが示されている中で
・とるべき行動
・身につけるべき姿勢
の2つの視点から、コンピテンシーの強化についての記述があり、これを意識することによって習慣化できるようなつくりになっている点だ。これこそ、マチャレロ教授がドラッカー学を教えてきたノウハウだといえよう。
ひとつ例をあげておく。上にのべたようにこの本の第1章の1項目目は
「なされるべきことをなす」
というエグゼクティブであれというアドバイスなのだが、ここでの行動と姿勢は
【とるべき行動】
自らの組織においてなされるべきことは何か?自らがなすべきことは何か?
【身につけるべき姿勢】
常になされるべきことから考えることを癖にする。手本となる人はいるか?
といったもの。
ドラッカーの膨大な著作は秀逸なものばかりだが、実践ということでいえば、この一冊に勝る本はないだろう。購入し、擦り切れるまで使いこんでほしい!
細谷功「地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」」、東洋経済新報社(2007)
お薦め度:★★★★
「マンホールのふたはなぜ丸いのか」「鏡が上下でなく左右を逆転させるのはなぜか」「ビル・ゲイツの浴室を設計するとしたらどうするか」
これらの質問に答えられますか?これらの問題(クイズ)は
ウィリアム パウンドストーン(松浦俊輔訳)「ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?」、青土社(2003)
に掲載されているもので、マイクロソフトが入社の際の面接で実際に使っている問題だそうだ。
では、次の問題はどうだろうか?
日本全国に電柱は何本あるか?
このように途方もない問題に対して有効だとされる思考方法が「フェルミ推定」である。この本は、フェルミ推定について解説した本である。この本では、まず、この問題を例にとりながら、フェルミ推定の方法について説明している。本書で説明している方法は以下の通り。
(1)アプローチ設定
まず、この問題に対するアプローチを決定する。たとえば、
「単位面積当たりの本数を市街地と郊外に分けて総本数を算出する」
ことにする。
(2)モデル分解
対象をモデル化して単純な要素に分解する。この例ではポイントは市街地と郊外では電柱の密度が違うことである。そこで、それぞれのエリアの「単位面積当たりの本数」とそれぞれの「総面積」からそれらの積で総本数が算出するというモデルにする
(3)計算実行
実際に計算を実行する。ここで、まず、市街地を「50平方メートルに1本」、郊外を「200平方メートルに1本」としてモデル化する(この設定はセンス)。これで、もし、日本の面積が38万平方キロメートルだと知っていれば使える。もし、知らなければ、また、別のフェルミ推定を行う。そして、市街地と郊外の面積比については日本の国土の四分の三が山間部と言われているので、20%を市街地とする。
(4)現実性検証
もし、部分的にデータが取れれば、そこで検証する
本書では、フェルミ推定がうまくできるのが地頭が強いとし、フェルミ推定の「結論から考える」、「全体から考える」、「単純に考える」の3つを合わせた思考プロセスを強化する方法を述べている。
この種の思考能力が必要だという人とそうではないという人がいると思う。マイクロソフトが試験に使っていることからも分かるように、創造的な仕事、構成的な仕事をしようとすると必ず必要になってくる能力である。たとえば、コンサルタントには必ず必要な能力だとよく言われる。
ということで、必要だと思う人には大変よい本である。ぜひ、読んでみてほしい。
ちなみに、巻末には、「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」、「世界中で1日に食べられるピザは何枚か」、「琵琶湖の水は「何滴」あるか」の3つの問題について解答付きで掲載してある。同時に、10個以上の練習問題が掲載されている。クイズとしてチャレンジするのもよいかもしれないが、クイズとしての興味なら、ビル・ゲイツの面接試験の方がよいかもしれない。
松本 整「勝負に強い人がやっていること―ここぞという時に結果を出す考え方・行動の仕方」、ナナ・コーポレート・コミュニケーション(2007)
お薦め度:★★★★1/2
著者の松本整氏は競輪の世界で最年長のG1タイトル取得の記録を持つ競輪の名選手でありながら、現役時代から自分のトレーニングジムを開設し、独自のメソッドによるアスリートのトレーニングを行っているという変わったキャリアの持ち主。その松本氏が、自身のメソッドをまとめた本。
いくつもはっとするところが多い。
この本では最初にプロフェッショナルの定義から始まる。プロフェッショナルの定義はビジネスの世界ではいくつもあるし、わかったような概念になっているが、松本氏の定義はいたってシンプル。プロとは
「常に勝ち続けることのできる人」
だという。この定義は「が~ん」という感じだ。人材育成の仕事をしていながら、なんとなくプロフェッショナルの定義はよくわからないという思いを持ち続けてきたが、これで納得。この定義は単純なようで、極めて深い。
おそらく、僕が知っているすべてのプロフェッショナルの条件はこれで片付く。
プロフェッショナルの条件でおそらくもっとも多くの人が納得しているのはドラッカー博士の定義だと思う。
での定義は
「成果をあげる」という絶対目標を持ち、自らの行動に「責任」を持つ人材
である。この本の定義はイメージしにくい。何がイメージしにくいかというと、ドラッカー博士のいうところの「成長」というキーワードだ。成長するというのはどういうことか?
たぶん、ここに松本氏のいう「続ける」というキーワードがくっついていることに気付かされた。
松本氏のメッセージは、スキルだけでいえばアマチュアの方が強い場合もある。プロフェッショナルとはその職業としてトップランナーとして継続的に食っていける人だという明確なメッセージ。特に、成果を上げることができるようになってからの継続が難しい。
一つの仕事で成果を上げることもそんなに簡単なことではない。しかし、継続するのはその何十倍も難しい。だから、(特に日本人は)長くやっていることを評価する。
ビジネスでいえば、マーケティングのプロフェッショナルといえばどんな状況で売れる商品を企画できる人。プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルというとどんなプロジェクトでもそのプロジェクトに収益をもたらすことができる人のことだ。この状況では、売れなくても仕方ないとか、プロジェクトが成功しなくても仕方ないといっている間はアマチュアっていうことだ。
この本は、このプロフェッショナルにどのようになっていくかを「一般論」として論じている。たとえば話に自身の競輪の経験を使っているケースが多いが、スポーツ一般に通じる話だと思うし、僕の読む限りではビジネスにも通じる話だ。
前半は比較的ロジカルにかかれており、後半は読者に発破をかけるような記述が多い。これも意図したものだと思われる。本物のプロフェッショナルを目指す人、元気になりたい人にお勧めしたい一冊。
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