プロフェッショナル Feed

2008年1月 3日 (木)

専門家はコンピュータに勝てるのか?

4163697705 イアン・エアーズ(山形浩生訳)「その数学が戦略を決める」、文藝春秋社(2007)

お薦め度:★★★1/2

山形浩生さんの訳書を紹介するのは、これで2冊目だと思うが、実は結構読んでいる。テーマや著者で読むというよりも、山形さんが目をつけて翻訳をする本というので読んでいる。

山形さんを有名にしたのはたぶん

ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門」、メディアワークス(1998)

ではないかと思うが、僕が山形浩生にはまったのは、これではなく、

エリック・スティーブン レイモンド 「伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト」、光芒社(1999)

である。

昨年もこの本以外に、2冊ほど読んだ。

ジョージ・エインズリー「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」、NTT出版(2006)

ポール・ポースト「戦争の経済学」、バジリコ(2007)

とにかくインパクトが大きい。新しいトレンドを鋭く見つける。この本もそうではないかと思う。

さて、前置きが長くなったが、この本は「絶対計算」について書かれた本である。絶対計算という言葉はあまりなじみがないが、要するに、回帰分析やニューラルネットワークによって、実績として残っているすべてのデータを分析し、それから統計的法則を導き出す「数学」である。

最初の4章程、いやというほど、絶対計算により、人間より適切な判断ができたという事例を挙げている。象徴的なものとして、ヴィンテージワインの価格予測、最高裁判事の違憲判断の予測、野球選手の実績評価など、結構、どぎつい例を挙げた上で、まずは、マーケティングの分野での実績に触れている。

・アマゾンのリコメンド
・お見合いサイトのマッチング
・カジノ

などである。次に取り上げられているのは、政策決定において、ある政策が政策目標の実現に役立つかどうかを判断するのに、絶対計算が役立ち、防犯、貧困対策などでの実績を紹介している。

さらには、医療の世界でも同じことが起こっていると紹介している。

この本が興味深いのは、この後で、なぜ、人間はうまく判断できないのかを分析した部分。結論は、主観の混入により、統計でいうところの信頼区間がうまく設定できないことが原因だという。ここで面白いクイズがある。( )を埋めるというクイズ。

1.マーチン・ルーサー・キング牧師の死亡時年齢は( )歳から( )歳
2.ナイル川は全長何キロ?( )キロ~( )キロ

といったクイズが10問ある。これにたいして、まったくわからないというのはダメ。たとえば、1.であれば、1歳から200歳とすれば必ず正解になる。これが信頼区間だ。これに対して、正答を9個以上含む範囲を挙げた人は1%。99%は判断にバイアスが乗っていることになるという。

つまり、正解があるところをはずして、そこでいろいろな分析をするので、人間はうまく判断できないのだという。絶対計算は信頼区間を広くとり、手当たりしだいに分析していくので答えを見逃さないというのだ。

ただ、どんな問題でもそのような分析を行おうとすると、無限の因子が出てきて、不可能であることが多い。そこで、その信頼区間の絞り込みは人間(専門家)が行うべきであり、それを適切にできるためには、仮説立案が重要であると結論する。

そして、人間にそのような役割をさせるための教育のあり方にまで言及している。

日本ではビジネスの中にこのような絶対計算を取り入れることに遅れているが、そろそろではないかと思う。一度、このような世界を知っておくことはどのような仕事をしていても意味のあることだろう。

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2007年12月 5日 (水)

プロジェクトXの経営学

462304873x 佐々木 利廣「チャレンジ精神の源流―プロジェクトXの経営学」、ミネルヴャ書房(2007)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトXにはまっています。なぜから、こういう連載を始めたからです。

プロジェクトXにみるスポンサーシップ

プロジェクトXというと、そのネーミングからか、プロジェクトマネジメントの視点から取り上げられることが多い。しかし、プロジェクトXというのはプロジェクトマネジメントについて問われるべきものではなく、「プロジェクトのマネジメント」について問われるべきものである。つまり、経営組織がプロジェクトをどのように行っていったかをテーマにしているものは極めて多い(もちろん、純粋なプロジェクトものもあるが)。

ということで、八重洲ブックセンターにいきプロジェクトXの本を探していたら、面白い本があった。これがこれ。

まとめ方も面白く、NHKのプロジェクトXはなぜ、面白いかという視点からまとめている。まとめたのは、京都産業大学の先生たち。分析視点は
・新規事業創造
・製品開発と企業間協調
・イノベーションと産業発展
・新市場の開拓とマーケティング戦略
・経営の国際化と組織学習
・組織間の異種協働
・リーダーシップとリーダー・フォロワーの関係
の関係。この視点の設定はたいへん、面白いし、参考になった。NHKのストーリーがプロジェクトにフォーカスしているので、その背後や環境をうまく抽出する視点だからだ。

ただし、分析は、教科書のような分析なので、経営学の教科書かと突っ込みたくなるような内容。もう少し、突っ込んでほしかった(実際に教科書として使っているようなので、そのためかもしれない)。

ということで、試みは評価したいし、この本を読んでプロジェクトXを見ると、見方が変わると思う(実際にやってみたらそうだった)。その意味でも意味があると思う。本当は★3つ半くらいにしたいのだが、★1個はその点でのおまけ。

また、プロジェクトマネジャーが、自分の置かれている立場を確認するためにも読んでほしい1冊である。

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2007年11月20日 (火)

プロジェクトマネジャーの人間術

4872686721 Steven W. Flannes、Ginger Levin(PMI東京支部/吉沢 正文監訳)「プロジェクト・マネジャーの人間術」、アイテック(2007)

2005年に米国で発刊された「Essentail People Skills for Project Management」の翻訳。PMI東京支部の有志が翻訳している。

プロジェクトマネジャーの役割を
 ・リーダー
 ・マネジャー
 ・ファシリテータ
 ・メンター
の4つとし、これらの役割を果たすのに必要なピープルスキル(人間術と訳している)を
 ・対人コミュニケーション
 ・動機付け
 ・コンフリクトマネジメント
 ・ストレスマネジメント
 ・トラブル
の視点から、ツールとして解説している。また、最後にキャリアとそれに伴う人間観という視点でどういう心構えでキャリア形成していくべきかを論じている。
本書の特徴は
(1)プロジェクトマネジメントプロセスに人間術を対応させている
(2)キャリアステージを強く意識した手法を提案している
の2つだろう。書かれている内容は、簡潔ではあるが、独自性が強く、非常に本質をついているように思える。その意味で、ハウツーものというよりも、教科書としてプロジェクトマネジャーが内省のインプットとして使うとか、あるいは、組織でプロジェクトマネジャーの教育やワークショップの教材として使うといった使い方が適しているように思える。

また、明確に書かれていないが、この本に書かれていることはプロジェクトマネジメントのスキルがあることを前提にしているように見える。その点でも、初心者がハウツーものとして読む本ではないように思う。典型的な対象読者を一つ上げると、「PMPを取って、実践しようとしてもなかなかうまくいかなくて困っている人」だ。日本ではPMPホルダーのマジョリティだと言われてるが、米国でこのような本が出版されていることは興味深い。

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2007年10月10日 (水)

プロマネ必読の人材マネジメント論!

4334934218 長野慶太「部下は育てるな! 取り替えろ! ! Try Not to Develop Your Staff」、光文社(2007)

お奨め度:★★★★

僕は成果主義の一番の問題は、若年層を飼い殺しにしてする組織が増えたことではないかと思っている。マネジャー自身が自分の目標に追われ、長期的な視点で部下を育成するような余裕がない。一方で、米国と根本的に違う点が、部下を「切り捨てででも、成果を挙げようとする」ほどの覚悟もない。

これは一見、温情のように見えるが、結果として、失敗しないようなことだけを部下にさせるというマネジメントをしているマネジャーが多い。これでは、部下はまったく成長しない。作業に熟練するだけである。

こんなことをやっているのであれば、部下を育てることを放棄した方がよい。この問題を正面から指摘した貴重な一冊。

適材適所、捨てる神あれば、拾う神あり。能動的にチャンスを与える。

そろそろ、真剣にこのような発想を持った方がよいのではないだろうか?

■態度の悪い部下はすぐに取り替えろ!
■もう職場に「協調性」なんかいらない
■「エグジット・インタビュー」で情報王になる
■「質問1000本ノック」の雨あられ
■部下がシビれる! 革命上司の「褒める技術」
■「ヘタクソな会議」を今すぐヤメさせろ!
■あなたを勝てるチームのボスにする人事戦略

など、過激な内容が並ぶこの本を読めば、背中を押されること間違いなし。

特にプロジェクトではメンバーを育てようなどを考えないこと。使えないメンバーは切り捨てる。使えると判断すれば、厳しく使う。これによってのみ、次の世代を支えていく人財が育つのではないだろうか?

まあ、非現実的だと思う部分も多々あるが、とりあえず、読んでみよう!プロジェクトマネジャー必見の人材マネジメント論!

2007年9月21日 (金)

今、注目される「個を活かす組織」

4478001944 クリストファー・バートレット、スマントラ・ゴシャール(グロービス経営大学院訳)「【新装版】個を活かす企業」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

クリストファー・バーレットとスマントラ・ゴシャールの「The Individualized Corporation」が新装版として出版された。ちょうど、原書が出版されて10年になる。

序文には今は亡き、スマントラ・ゴシャールへの追悼もこめて、現代的な「Individualized Corporation」の意味について述べている。また、今回、翻訳を担当したグロービス経営大学院の方があとがきで、組織変革をめぐる日本の状況の変化について述べられている。

旧版は組織行動論の名作「組織行動のマネジメント―入門から実践へ」と同じシリーズで出版されているが、この時期に改めてハードカバーの立派な本として出版した出版社の英断に拍手を送りたい。

内容的には上に述べた追加があるが、基本的に変わらない。訳はかなり、洗練されているように思う。

このブログを初めてから売れた本の中で、PMBOKとこのブログの家主である好川の本を除いて一番売れている本は、スマントラ・ゴシャールの、「意志力革命」である。意志力革命に至る思考プロセスを知る上でこの本の持つ意味は大きく、今回の企画は非常にうれしい。

なお、この後に旧版の書評(2005年8月2日)をつけているので、内容はそちらを参考にしてほしい。

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2007年8月 6日 (月)

日本初のリカバリーマネジメント本

4822262111 長尾清一「問題プロジェクトの火消し術―究極のプロジェクト・コントロール」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★

長尾清一さんの書かれた

447837449x09lzzzzzzz先制型プロジェクト・マネジメント―なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか

は今でも、このブログで最も支持されているプロジェクトマネジメント本である。その長尾さんの待望の新著が出版された。リカバリーマネジメントをテーマに書かれたこの本だ。

全般的には、リカバリーマネジメントを問題解決だと捉え、単に思考するだけではなく、問題解決を実行するためにどのような行動が必要かを具体的に、かつ体系的に書かれた本で、前著に劣らず、非常によい本である。

ただ、前著もそうだったが、書かれていることを理解できたとしても、実践するのは大変に難しいと思う。本としての書き方が悪いのではない。ましてや、内容がまずいわけではない。書き方は非常に丁寧であり、これでもかと思うくらい実践的に書かれている。

難しいのだ。それでも前著は、プロジェクトマネジャーとして一定の資質を持つ人であればかなりの部分は訓練や経験をつめばできると思う。その意味でも非常によい内容だと思った。プロジェクトマネジメントは難しいのだ。安直にできるものではない。

今回の本に書かれていることは半分できればよいのではないかと思う内容だ。そのくらい、リカバリーマネジメントというのは難しい。この本を読んで、何ができればトラブルに対処できるようになるかを知り、精進をして欲しい。

2007年7月 9日 (月)

プロフェッショナルを育てる、プロフェッショナルに成長する

4495375814 松尾睦「経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス」、同文舘出版(2006)

お奨め度:★★★★1/2

人はいかに経験から学び、プロフェッショナルへと成長するのかという命題に対して、経験に焦点を当てて、学習メカニズムを明確にしようとした本。

本書は、人材育成の7割は経験によるものだとし、その経験をどのように成長に結び付けていくかが人材育成のポイントになると説いている。結び付けの視座として、組織活動、マーケティング活動など、現実の経営活動の中で学習が機能するかを説いている。その意味で、研究書ではあるが、かなり実践的であり、実務に役立つインプリケーションがたくさん盛り込まれている。

また、ケースもふんだんに盛り込まれているので、書かれていることの理解も容易にできる。さらに、心理学的な視点も踏まえているので、自分自身の成長を考えるに際しても参考になる一冊である。

プロジェクトマネジャーに代表されるプロフェッショナル人材を育てることを課題とする人材育成担当者にぜひお奨めしたい一冊である。

また、マネジャーは、この本と「最強組織の法則」など、組織学習の本と併せて読むと、個人の成長(自己マスタリング)と組織の学習の関連性も想像でき、面白いだろう。

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2007年6月18日 (月)

プロフェッショナルの人材開発のベールをめくる

4779500583 小池和男編「プロフェッショナルの人材開発」、ナカニシヤ出版(2006)

お奨め度:★★★★

新聞記者、研究者、革新的マネジャー、ファンドマネジャー、融資審査マンなどのプロフェッショナルがその技能をどのように開発されていくかをフィールド調査によって明確にした一冊。

小池先生の指導によるフィールドワークだけあって、どの論考もかなり深く突っ込んであり、かつ、簡潔にまとめられている。技能開発に携わる人にとってはもちろんだが、いわゆるプロフェッショナル人材を育成しなくてはならない人にはとても参考になる本である。

また、読み物としても面白いので、人材開発を仕事にする人だけではなく、プロフェッショナル自身が読んでも、自らの能力開発について気づきのある一冊である。

難点は、ここで選ばれている職業がプロフェッショナルという集団から見たときに、どの程度、一般性があるのかがよく分からない点。例えば、研究者と医者はその技能開発が異なるように思うし、販売員のようなサービス系の技能を持つプロフェッショナルも異なるように思う。

ぜひ、今後、このほかのいろいろなプロフェッショナルについてもフィールドワークをして、第2弾、第3弾を作ってほしい。

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2007年6月 4日 (月)

田坂流プロフェッショナル論

4569690386 田坂広志「プロフェッショナル進化論 「個人シンクタンク」の時代が始まる」、PHP研究所(2007)

お奨め度:★★★★

プロフェッショナルのロールモデルとして人気の高い田坂氏のプロフェッショナル論。

これからは、一人のプロフェッショナルがシンクタンクの役割を担う次代で、そして「個人シンクタンク」の機能を身につけたプロフェッショナルが、縦横に結びついて活躍する時代」になっていくと主張している。

そして、個人シンクタンクになっていくには

インテリジェンス力:必要な情報や知識を集め、分析・統合する力

コミュニティ力:人々の智恵を集め、新たな智恵を生み出す力

フォーサイト力:これから何が起こるのかの未来を予見する力

ビジョン力:これから何をめざすのかのビジョンを提示する力

コンセプト力:これから何を為すべきかのコンセプトを提案する力

メッセージ力:未来予見、ビジョン、コンセプトを広く伝える力

ムーブメント力:ビジョンとコンセプトにより変革の動きを生み出す力

の7つの力が必要だと説いている。

最初に読んだときの印象は、理想論だと思ったが、これはよく考えてみると、非常にバランスがとれており、現実的な話ではないかと思う。みなさんも、読んで考えてみてほしい。

2007年5月19日 (土)

リーダーシップからスポンサーシップへ

4532313260 柴田昌治「なぜ社員はやる気をなくしているのか~働きがいを生むスポンサーシップ」、日本経済新聞社(2007)柴田昌治

お奨め度:★★★★1/2

スコラ・コンサルティング代表の柴田さんが、自らの組織変革のコンサルティングの経験から、経営のスポンサーシップのあり方について述べた一冊。スポンサーシップは分かりにくい概念であるが、この本で提唱されているものは非常に合理的で、また、的を得ていると思う。

この本では(強い)リーダーシップの弊害について指摘し、それに変わるチームをまとめる概念としてスポンサーシップを定義している。最初、読んだときにピンとこなかったが、よく考えてみるとその通りだと思った。この本ではスポンサーシップを

リーダーシップの一種。ただ、引っ張っていくリーダーシップではなく、部下が主役になりうる機会を演出することで「質の高いチームワーク」をつくり出して行くリーダーシップ

と定義している。要するにどうだということはいえないような微妙な話である。捉え方によってはファシリテーションリーダーシップやサーバントリーダーシップと似た概念であるが、似て非なるものである。やはりスポンサーシップである。

具体的なスポンサーシップの機能としては

(1)個人のセーフティネット作り

(2)対話でビジョンを描き、共有する

(3)対話力で一緒に答えを作る

(4)当事者としての姿勢と自己革新

を一緒にあげている。

柴田さんは以前から、プロセス変革、組織変革の中で、スポンサーシップの重要性を説かれていた。

4532192048 柴田昌治「なぜ会社は変われないのか―危機突破の風土改革ドラマ」、日本経済新聞社(2003)

この本はここが中心になっている。この本だけ読むと、スポンサーシップで会社が変わるというように読めなくもないが、そういうことではないと思う。ただ、本当にこの部分にフォーカスしないと会社が変わらないということを事例などを通じて切実に伝えてくれる本である。

組織変革に関わっている人はもちろんだが、プロジェクトスポンサーシップを発揮しなくてはならない人はぜひ読んで欲しい。具体的に何をすればよいかが分かるだろう。

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