日本型経営 Feed

2007年7月11日 (水)

幻の組織構築論

4047100919 山本七平「日本人と組織」、角川書店(2007)

お奨め度:★★★★1/2

日本人論の金字塔だといわれる「日本人とユダヤ人」などの著書で多くの読者を持つばかりでなく、日本型組織論、日本型経営など、多くの分野での研究に多大な影響を与えている日本研究者山本七平先生の幻の組織論といわれる原稿がついに書籍化された。

この本は70年代にかかれたものである。従って、書かれていることについてはある程度、結論が出ていることも多い。その中にはもちろん、現実となっていない論考もあるが、重要なところでは恐ろしく当たっている。

組織のコミットメントに宗教(神)の議論を持ち込み、日本人の組織観の特殊性を説明したのが山本先生である。この本に書かれている大枠の話は他の研究者や評論家によって引用されることが多く、有名なものが多いのだが、この本を読むと、その背景の考え方が非常によくわかる。

この10年くらい、日本の企業も山本先生の描かれた日本型組織から徐々に外れつつあるが、そこに大きな軋みが生じつつある。なぜ、軋みが生じるか、どのように改革すればよいのかを明確に示されている本書は、このような時代であるからこそ、一読の価値があるといえよう。

マネジメントに関わるすべての人に一読することをお奨めしたい。

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2007年7月 3日 (火)

企業を発掘し、育てる

4582833578 原丈人「21世紀の国富論」、平凡社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

原丈人さんは日本ではあまり知られていないが、米国ではたいへん注目されている実業家で、ボーランド、SCO、ピクチャーテル、ウォロンゴング、トレイデックスなどの企業の経営と育成を手がけて来られた方だ。ボーランド時代にはビルゲイツのライバルといわれ、またネットの時代になると、早くからドットコム企業のビジネスモデルは成功しないと断言し、ドットコム企業には一切投資をしなかったキャピタリストとしても有名である。

最近では、ポストコンピュータの産業育成の視点から日本や韓国の企業でも事業育成に携わられている。

その原丈人さんが日本の産業を念頭において書かれたポストコンピュータ産業育成論。4章までは、グローバルな視点からの産業論が展開されており、最後の5章で日本への提言がある。

原丈人さんの育成論の基本は企業への愛情に溢れている。いわゆるベンチャーキャピタルとは一線を画している。むしろ、ベンチャーキャピタルやストックオプションのあり方に対して、批判的で、ベンチャーキャピタルは、長期のリスクをとっても、企業を時間をかけて丁寧に育てるべきだという点で一貫している。日本の企業の現在的な育成にはぴったりの育成論ではないかと思う。

詳しい話はこの本を読んでみてほしいのだが、ぼくは比較的早くから原丈人さんというビジネスマンに関心を持っていた。きっかけは、大学院の金井壽宏先生のゼミで、11人のミドルにインタビューをして活動を紹介する「創造するミドル」という本の輪読があった。この本の中で、原丈人さんは「ベンチャーを創造する―会社と会社をつなげてきたひと」というセッションで紹介されている。

金井壽宏、沼上幹、米倉誠一郎編「創造するミドル―生き方とキャリアを考えつづけるために」、有斐閣(1994)

原丈人さんはビジネスマンになる前は考古学の研究者だったそうで、考古学の発掘とベンチャーの発見・育成は同じだという考えに感銘を受けた。この本は、まさにこういう視点で書かれた産業育成、事業育成論が展開されている。

分析する視点は鋭く、独自性があり、丁寧に育てるという原丈人さんのスタンスに興味をもたれる方はぜひ読んでみてほしい。

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2007年7月 2日 (月)

経営を見る眼

4492501746 伊丹敬之「経営を見る眼 日々の仕事の意味を知るための経営入門」、東洋経済新報社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

経営というのは多面性があり、説明するのは非常に難しい。それを

・人はなぜ働くか
・仕事の場で何が起きているか
・雇用関係を断つとき
・企業は何をしている存在か
・株主はなぜカネを出すのか
・利益とは何か
・企業は誰のものか
・人を動かす
・リーダーの条件
・リーダーの仕事上司をマネジする-逆向きのリーダーシップ
・経営をマクロに考える
・戦略とは何か
・競争優位の戦略
・ビジネスシステムの戦略
・企業戦略と資源・能力
・組織構造
・管理システム
・場のマネジメント
・キーワードで考える
・経営の論理と方程式で考える

の21の視点から見事にきっている。

まさに、伊丹先生の知見のすべてを書ききった素晴らしい本である。会社に所属している人はぜひ一度読んでおきた本だ。

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2007年6月25日 (月)

ISO思考

4334934110 有賀正彦「「不祥事」を止めるISO思考」、光文社(2007)

お奨め度:★★★★

このブログで、光文社ペーパーバックスの本を取り上げるのははじめてだが、主要キーワードに英語がつけてあるというこのシリーズはなかなか、よい。

ISOのドキュメントは、昔から、対訳本が必ず出ている。結局、日本語に翻訳したときに、ニュアンスが伝わらない部分があるからだろう。

この本はISOそのものの本ではなく、最近、世間を騒がせたいわゆる不祥事、不二家、関テレ、社会保険庁を取り上げ、なぜ、不祥事が起るのか、不祥事の発生を防ぐにはどうすればよいかを述べ、その対策を打っていくときに、ISOの考え方、あるいはシステムの導入が如何に有効であるかを述べた本である。

これらの不祥事はひと言でいえば、日本流の組織文化の悪い部分が原因になっている。そこに新しい組織文化を導入しなくてはならないが、その概念は、そもそも日本語にはない。そこで、ISOという話になる。

その中で著者がもっとも重要だと主張しているのは、顧客重視ということだ。これは、ISOの最もベースになっている発想である。著者の主張は、顧客を重視した仕事をすれば、そもそも、こんな不祥事は起らないだろうと述べている。

顧客重視というと、みなさんはどういうニュアンスで受け取られるだろうか?顧客にこびるとはいわないまでも、顧客の主張を受け入れると解釈される人が多いのではないだろうか?

この言葉のISOでの用語は、customer forcus である。つまり、商品やサービスを顧客が使うところにフォーカスして、品質を考えようという意味だ。結果として、顧客満足が生まれる。

書いていることはそんなに難しいことではないが、このように英語の意味を吟味しながら読んでみると、非常に奥のある一冊である。ISOの思想を知りたいと思うのであれば、ぜひ、読んでみてほしい。

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2007年6月 6日 (水)

イノベーションの実態

4569690661 片山修「イノベーション企業の研究 日本型成長モデルは現場がつくる」、PHP研究所(2007)

お奨め度:★★★★

日本のイノベーション書籍は学術研究的なものが多い。理論的な仮説を持ち、その仮説を検証する形で書かれている本が多い。そのような中で、研究者というよりはジャーナリストの目から見て、イノベーションによる成長企業に何が起っているかをまとめたこの本は、イノベーションのヒントを得る上で、非常に貴重な一冊だと思う。取り扱っている視点もユニークである。企業は、何かとよく取材される企業が多いが、

・キヤノンを支える本社力
・JR東日本の事業創造力
・ホンダのモノづくり基礎力
・トヨタのブランド創造力
・日本精工の部品力
・全日空の構造改革力

という風に独自の視点で取材をし、分析をしている。というか、実はこのテーマは、外部からこれらの企業をみたときに、真っ先に見える顔というのはこの当たりではないかと思う。その意味で、ジャーナリズム本であるし、読んでいて楽しい。

この中で、著者が着目しているのは、トップとのコミュニケーションに裏打ちされた現場力である。例えば、キャノンの本社力であれば、

・トップが現場にいけば、現場は刺激をうけ、張り合いを倍加させる

・全体最適がただのお題目ではなく、会社全体がひとつになって動くような仕組み作りをしなくてはならない

・経営のスピードはコミュニケーションの伝達の速さと深さによる

といったポイントをあげている。

プロジェクトX的な本はあるが、組織の取り組みをこのような視点で取り上げた本は珍しく、ありそうでなかった本。

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2007年5月19日 (土)

リーダーシップからスポンサーシップへ

4532313260 柴田昌治「なぜ社員はやる気をなくしているのか~働きがいを生むスポンサーシップ」、日本経済新聞社(2007)柴田昌治

お奨め度:★★★★1/2

スコラ・コンサルティング代表の柴田さんが、自らの組織変革のコンサルティングの経験から、経営のスポンサーシップのあり方について述べた一冊。スポンサーシップは分かりにくい概念であるが、この本で提唱されているものは非常に合理的で、また、的を得ていると思う。

この本では(強い)リーダーシップの弊害について指摘し、それに変わるチームをまとめる概念としてスポンサーシップを定義している。最初、読んだときにピンとこなかったが、よく考えてみるとその通りだと思った。この本ではスポンサーシップを

リーダーシップの一種。ただ、引っ張っていくリーダーシップではなく、部下が主役になりうる機会を演出することで「質の高いチームワーク」をつくり出して行くリーダーシップ

と定義している。要するにどうだということはいえないような微妙な話である。捉え方によってはファシリテーションリーダーシップやサーバントリーダーシップと似た概念であるが、似て非なるものである。やはりスポンサーシップである。

具体的なスポンサーシップの機能としては

(1)個人のセーフティネット作り

(2)対話でビジョンを描き、共有する

(3)対話力で一緒に答えを作る

(4)当事者としての姿勢と自己革新

を一緒にあげている。

柴田さんは以前から、プロセス変革、組織変革の中で、スポンサーシップの重要性を説かれていた。

4532192048 柴田昌治「なぜ会社は変われないのか―危機突破の風土改革ドラマ」、日本経済新聞社(2003)

この本はここが中心になっている。この本だけ読むと、スポンサーシップで会社が変わるというように読めなくもないが、そういうことではないと思う。ただ、本当にこの部分にフォーカスしないと会社が変わらないということを事例などを通じて切実に伝えてくれる本である。

組織変革に関わっている人はもちろんだが、プロジェクトスポンサーシップを発揮しなくてはならない人はぜひ読んで欲しい。具体的に何をすればよいかが分かるだろう。

2007年4月11日 (水)

鷲、龍、桜

4087203816_01__sclzzzzzzz_v44667512_aa24 キャメル・ヤマモト「鷲の人、龍の人、桜の人米中日のビジネス行動原理」、集英社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

キャメル・ヤマモトさんは僕が共感を覚えるコンサルタントの一人だ。多数の著作を世に出しており、理論の深堀の度合いにはいろいろと批判もあるようだが、実践的なフレームワークを作っている点は深く評価したい。とくに、

4492532196_01__sclzzzzzzz_aa240_グローバル人材マネジメント論―日本企業の国際化と人材活用」、東洋経済新報社(2006)

や、

4532311160_09__sclzzzzzzz_v46957813_aa24稼ぐチームのレシピ」、日本経済新聞社(2004)

などで見られるダイバーシティに富んだマネジメント論は共感を覚える部分が多い。

さて、そのキャメル・ヤマモトさんの原点ともいえるような本が出た。この本。例によって、きっちりフレームワークにはめて説明している。この本では、日本、米国、中国の行動原理を、「行動文法」という規律で要約し、それをベースにして、金銭観、キャリア観、組織観の違いを説明している。

ベースになる行動文法は以下のようなもの。

米国:スタンダードを自由に決めて守らせる

日本:働く「場」のいうことをきく

中国:1対1の関係で仲間(圏子)を作る

この行動文法によって、金銭観、キャリア観、組織観に以下のような違いが出てくるというのがキャメル・ヤマモトさんの主張。

           米国人         中国人        日本人

・金銭観      カテバリッチ教    学歴圏金       結果金 
・キャリア観    アップ・オア・アウト  リスク分散       職人染色 
・組織的仕事観  分ける人           はしょる人        合わせる人

ステレオタイプかもしれないが、なかなか、面白い分析である。少なくとも、米国流の考え方を適用して失敗するケース、中国人を相手に仕事をしてトラブルケースでは、この分析は当たっていることが多いと思う。

問題はこれを知った上で、どのようにグローバル化をしていくか、どのようにダイバーシティを取り込んでいくかだ。その点で、上に上げた2冊の本も含めて、役立つ本である。  

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2007年4月 9日 (月)

日本人ビジネスマンも捨てたものじゃない

4478000395_01__aa240_sclzzzzzzz_v4228015 マーク・フラー (著), ジョン・ベック(グロービス経営大学院監修)「サムライ人材論―アメリカがうらやむ日本企業の強み」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★

日本は再生がお家芸だと得著者がキーワードに挙げるのが、「武士道」精神。乱世を生き延び、志を持つサムライ人材こそが、日本独自の強みだという。

この本は、このサムライ人材なる人材について、強みという視点から、特性を分析している。同時に、話は組織論までに、および、武士社会の縦型組織のよい点についても分析している。

このような分析に基づいて、日本企業は侮れないという結論をしている。

結構、おっと思うような指摘がある。特に、サムライの階層とのバランスを考えたリーダーシップ論は非常によいヒントになる。

ハンバーガーを食べ飽きて、おバンザイを懐石料理だといっているような気がしないでもないが、彼が説いているマインドセットは確かに持っている人が多いと納得できるものだ。その意味で、日本人が参考にできる人材・組織論だといってもよいし、リーダーが読むとまた、違った意味で学ぶところがおおいだろう。

2005年4月24日 (日)

現場力を鍛える

4492531718 遠藤功「現場力を鍛える 「強い現場」をつくる7つの条件」、東洋経済新報社(2004)

お奨め度:★★★1/2

遠藤氏は「現場」を体系的に語れる貴重な存在である。この本も期待にたがわない。

この本の中で、現場力について

企業のオペレーションを担う現場が持つ組織能力のこと。具体的には、現場自らが問題を発見し、解決する能力を指す。この組織能力には企業間格差があり、現場力の高い企業は持続力のある競争力を確保している

という定義をされている。この能力が弱くなってきているというのがこの本の背景であり、現場力を強くするための7つの条件が説明されている。

現場力を鍛えた先に待っているものは、オペレーションエクセレンスである。遠藤氏はオペレーションエクセレンスについて

 MBAオペレーション戦略

の中でかなり突っ込んだ議論をしているので、こちらも併せて読んでみるとよいだろう。

オペレーションエクセレンスと現場力は、矛盾している部分もある。そのあたりをきちんと整理しながら読んでいく必要がある。

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