マネジメント Feed

2007年11月12日 (月)

愚かな決定を回避する

4062723506 クリスチャン・モレル(横山 研二訳)「愚かな決定を回避する方法―何故リーダーの判断ミスは起きるのか」、講談社プラスアルファ新書(2005)

お薦め度:★★★★1/2

失敗学という言葉は定着してきて、多くの本が出版されている。マネジメント上の意思決定の失敗ケースを扱った本はあまり多くない。本書はリーダーが犯しやすい意思決定の失敗を取り上げ、そのような失敗を犯す原因やメカニズムを分析した本である。

この本の中に取り上げられている例で比較的、誰にでもわかる例を一つ上げよう。あるグローバル企業のシニアマネジャーがグループ企業向けに経営管理のグローバル研修を立ち上げた。研修の目的やターゲットをあまり明確にしないままで開始したので、「お経のような研修だ」というあまりよくない評価が多く、プログラムの改善をしながら進めていった。そうしているうちに、予算の関係で、グループ外の企業にも研修を提供しようということになった。そのため、研修の内容を多様化したり、カタログを作ったりしているうちに、いつの間にか、グループ内企業向けの提供は付け足しのようになり、受講の希望があっても、定員に余裕がなくて受け入れることができないということが起こるようになってきた。

この問題は組織が意思決定する際にもっとも起こりやすいやっかいな状況の典型であるが、こんな問題はマネジメントの中では山ほどある。

この本では、このような組織の「愚かな決定」を避ける方法を事例分析の形で、行動心理学、組織行動論の視点から分析し、提唱している。この本で扱っている「愚かな意思決定」はプロジェクトのように有期性の強い仕事で起こりやすいものが多いので、プロジェクトマネジャーの人に一読をお勧めしたい。

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2007年11月 7日 (水)

寓話で読む変革型リーダーシップ

4478000344 ジョン・コッター(藤原和博訳)「カモメになったペンギン」、ダイヤモンド社(2007)

変革リーダーシップのグル、ジョン・コッターが自らの説くチェンジマネジメントを寓話として描いた一冊。

ペンギンたちの住むコロニーが氷山の内部の融解により、崩壊の危機にあることを1人のペンギンが発見する。相手にされないままに何人かに伝えるが、やっと聞いてくれる人に出会う。そのペンギンはボスに窮状を訴える。ボスは抵抗勢力の抵抗をかわしながらも、問題解決に取り組む。

最初はみんな真剣だったが、よいアイディアが出てこず、だんだん、士気が低くなる。そうしたある日、カモメが飛んでいるのを発見する。何をしているのかと尋ねたところ、次に住む場所を偵察しているのだという。

これに刺激され、遊牧構想が生まれてくる。そこで、カモメにならい、次に住む場所を探す偵察を出すことにするのだが、大きな問題に直面する。ペンギンは自分の子供以外に餌をとってやらない。これでは偵察に出たペンギンの子供は飢えてしまう。

このような問題に対して、ほかの子供ペンギンが、偵察にいくペンギンをたたえるイベントを企画する。イベントにはみんなが餌を持ってくることになった。

こうして偵察隊を出すことができ、安全な住処を見つけ、難を逃れる。その後、ペンギンたちは、この制度をどんどん、改善していく。偵察への報償は大きくなり、その分、より条件のよい住処を探してくるようになる。

ざっとまとめるとこんな話だが、8つのプロセスのチェンジマネジメントで出てくるかなり多くのポイントが寓話の形で盛り込まれており、たいへん、役に立つ。

変革をする際の大きな問題に、多くの人が変革プロセスそのもののイメージができないという問題がある。このため、抵抗勢力とならなくても、変革の足を引っ張ることが多い。この問題に対して、寓話の形で変革ストーリーを共有するというのはよいアイディアではないだろうか?

コッターの考え方で変革に取り組む企業は多い。そんな企業のすべての人にお薦めしたい一冊である。

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2007年10月10日 (水)

プロマネ必読の人材マネジメント論!

4334934218 長野慶太「部下は育てるな! 取り替えろ! ! Try Not to Develop Your Staff」、光文社(2007)

お奨め度:★★★★

僕は成果主義の一番の問題は、若年層を飼い殺しにしてする組織が増えたことではないかと思っている。マネジャー自身が自分の目標に追われ、長期的な視点で部下を育成するような余裕がない。一方で、米国と根本的に違う点が、部下を「切り捨てででも、成果を挙げようとする」ほどの覚悟もない。

これは一見、温情のように見えるが、結果として、失敗しないようなことだけを部下にさせるというマネジメントをしているマネジャーが多い。これでは、部下はまったく成長しない。作業に熟練するだけである。

こんなことをやっているのであれば、部下を育てることを放棄した方がよい。この問題を正面から指摘した貴重な一冊。

適材適所、捨てる神あれば、拾う神あり。能動的にチャンスを与える。

そろそろ、真剣にこのような発想を持った方がよいのではないだろうか?

■態度の悪い部下はすぐに取り替えろ!
■もう職場に「協調性」なんかいらない
■「エグジット・インタビュー」で情報王になる
■「質問1000本ノック」の雨あられ
■部下がシビれる! 革命上司の「褒める技術」
■「ヘタクソな会議」を今すぐヤメさせろ!
■あなたを勝てるチームのボスにする人事戦略

など、過激な内容が並ぶこの本を読めば、背中を押されること間違いなし。

特にプロジェクトではメンバーを育てようなどを考えないこと。使えないメンバーは切り捨てる。使えると判断すれば、厳しく使う。これによってのみ、次の世代を支えていく人財が育つのではないだろうか?

まあ、非現実的だと思う部分も多々あるが、とりあえず、読んでみよう!プロジェクトマネジャー必見の人材マネジメント論!

2007年10月 1日 (月)

プロジェクトマネジメントの取り扱い説明書

4534042876 西村克己「世界一やさしい プロジェクトマネジメントのトリセツ」、日本実業出版社(2007)

お奨め度:★★★★

以前、この本の出版社の方から日本で一番売れている本は、西村克己先生の

よくわかるプロジェクトマネジメント (入門マネジメント&ストラテジー)

だと聞いたことがある。日経BP社の人に、伊藤健太郎さんの

プロジェクトはなぜ失敗するのか―知っておきたいITプロジェクト成功の鍵

が一番売れているという話を聞いた後だったので、推理すると西村先生の本がもっとも売れている本かもしれない。

なぜ、唐突にこのようなことを書き始めたかというと、本の流通のしくみはよく知らないが、それぞれが1位というのは両方とも正しいのかもしれないと思ったからだ。この2冊の本は、プロジェクトマネジメントの本であるが、ジャンルが違うのではないかと思ったのだ。伊藤氏の本は現場マネジメントとしてのプロジェクトマネジメントの本であり、西村先生の本は経営管理の一環としてのプロジェクトマネジメントの本である。つまりはドメインが違う。

さて、この記事で紹介する西村先生の新刊は、同じ出版社から「トリセツ」シリーズで出版された書籍であり、経営管理としてのプロジェクトマネジメントというのがより、色濃く出た一冊である。その意味で、あまり、なかったタイプの本である。「よくわかるプロジェクトマネジメント」よりできは明らかによいし、だいぶ、進化している。

プロジェクトマネジャーのプロフェッショナルを目指す人ではなく、マネジメントの一分野としてプロジェクトマネジメントのスキルを身につけておきたいというビジネスマンの人に、やっと薦めることのできる本が出てきた。

マネジャーの方、必読の一冊。

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2007年9月24日 (月)

組織の心理的側面

4478001898_3DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編著「組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する」、ダイヤモンド社(2007)

お勧め度:★★★★

ハーバードビジネスレビューに掲載された組織行動論の論文の中で、実践的な論文を14編集めている。以下の14編である。

受動攻撃性:変化を拒む組織の病
信頼の敵
沈黙が組織を殺す
「不測の事態」の心理学
なぜ地位は人を堕落させるのか
楽観主義が意思決定を歪める
「意識の壁」が状況判断を曇らせる
リーダーシップの不条理
転移の力:フォロワーシップの心理学
卑屈な完全主義者の弊害
善意の会計士が不正監査を犯す理由
選択バイアスの罠
道徳家ほどおのれの偏見に気づかない
失敗に寛容な組織をつくる

それぞれ、著名な論文であり、経営学のテキストに取り入れられるようなものばかりである。このシリーズの中でも、すごい一冊である。

と同時に、組織行動論といえば、理屈ばかりだと思いがちであるが、心理的な側面に注目した論文(それも著名な論文)がこれだけあるというのは驚きである。

それだけ組織は深いということだろうか。

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日本組織の病巣「組織の<重さ>」

4532133378 沼上 幹、軽部 大、加藤 俊彦、田中一弘、島本実著「組織の〈重さ〉―日本的企業組織の再点検」、日本経済新聞社(2007)

お勧め度:★★★★1/2

日本企業の強さの源泉であると考えられてきた創発戦略の創出と実行が機能不全に陥っている。その原因は、「重い組織」にある。つまり、「重い組織」が経営政策を阻害し非合理的な戦略を創発していることにあるという。

この日本組織の病巣ともいえる仮説を沼上先生らしいフィールドスタディで徹底的に調査している価値のある一冊。

研究論文に基づいて書かれた本のようで、問題提起にとどまっているが、この本を読んで連想したのが、柴田昌治氏のこの本。

なぜ社員はやる気をなくしているのか~働きがいを生むスポンサーシップ」、日本経済新聞社(2007)

柴田氏がこの本で指摘していることを、膨大な調査で裏付けたような形になっている。ということは、この問題の解決策のひとつが柴田氏が必要だと指摘するスポンサーシップであることは間違いない。

日本組織がどのように変わってきているかということを考えてみたときに、はやり、スポンサーシップ(とは昔は言わなかったが)の欠如に行き着くように思う。その原因は柴田氏も指摘しているように業績主義にある。沼上先生の言われる重さは、業績主義と環境づくりのバランスの悪さゆえに出てきているように思う。

一方で、もう、おそらく昔に戻ることはできない。そう考えると、今すべきことは、重さの解消を仕組みとして実現していくことだ。そのひとつがスポンサーシップであることは間違いない。

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2007年9月21日 (金)

今、注目される「個を活かす組織」

4478001944 クリストファー・バートレット、スマントラ・ゴシャール(グロービス経営大学院訳)「【新装版】個を活かす企業」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

クリストファー・バーレットとスマントラ・ゴシャールの「The Individualized Corporation」が新装版として出版された。ちょうど、原書が出版されて10年になる。

序文には今は亡き、スマントラ・ゴシャールへの追悼もこめて、現代的な「Individualized Corporation」の意味について述べている。また、今回、翻訳を担当したグロービス経営大学院の方があとがきで、組織変革をめぐる日本の状況の変化について述べられている。

旧版は組織行動論の名作「組織行動のマネジメント―入門から実践へ」と同じシリーズで出版されているが、この時期に改めてハードカバーの立派な本として出版した出版社の英断に拍手を送りたい。

内容的には上に述べた追加があるが、基本的に変わらない。訳はかなり、洗練されているように思う。

このブログを初めてから売れた本の中で、PMBOKとこのブログの家主である好川の本を除いて一番売れている本は、スマントラ・ゴシャールの、「意志力革命」である。意志力革命に至る思考プロセスを知る上でこの本の持つ意味は大きく、今回の企画は非常にうれしい。

なお、この後に旧版の書評(2005年8月2日)をつけているので、内容はそちらを参考にしてほしい。

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2007年9月12日 (水)

ヒトデかクモか

4822246078 オリ・ブラフマン、ロッド・A・ベックストローム(糸井恵訳)「ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★

「本当に責任者のいない組織」が、どれだけ創造的で、従来の秩序を破壊し、経済的なインパクトを与えるのかについて述べた組織論。

著者は、このような組織をヒトデになぞらえ、その強さを事例としてeBayやSkypeなどのネット企業を通じて分析すると同時に、トヨタのマネジメントをその枠組みで分析し、日本型経営が目指す組織経営ではないかとしている。

日本型組織が責任のいない組織であり、ある意味でイノベーティブであるというのは経験的に正しいと思う。米国流の組織マネジメントのように、明確なガバナンスのもとに経営者から新入社員まで責任を分担するクモ的な組織運営は、実力のあるビジネスマンが集まる組織であれば合理性がある。それゆえに、自己責任による能力開発とセットになっている。

経営者は株主に対する短期のコミットメントが必要であり、社員も短期の業績評価が求められ、全ては経済的成果にベクトルが向けられる。しかし、これでは本当にイノベーティブなことはできない。もし、仮にこの本でいう「本当に責任者のいない組織」が存在可能であれば、イノベーションが生まれる可能性は多いだろう。一方で、この本で事例に書かれているトヨタを見ても、ガバナンスがないわけではない。どちらかというと、社員から見えない、あるいは意識しないようにされているだけだ。その意味で、この本に書かれているような単純な話でもないように思う。

その点も含めて示唆に富んだ一冊である。

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2007年8月31日 (金)

なぜ、あなたは、自ら「重責」を負うのか

4569692311 田坂 広志「なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか 人間の出会いが生み出す「最高のアート」」、PHP研究所(2007)

お奨め度:★★★★1/2

すべてのマネジャーに呼んでほしい素晴らしい本。田坂ワールドの集大成ともいえる一冊。

僕はビジネス書を読むときに、感情移入せずに読むように心がけているが、この本は、はやり、知識や意見として参考になるだけではなく、やはり、共感を覚える部分が極めて多い。

内容もさることながら、まずはタイトルが素晴らしい。田坂先生は自身著書で言霊のことを書かれていることからもわかるように、言葉をとても大切にされている方だ。

4492554718 田坂 広志「経営者が語るべき「言霊」とは何か」、東洋経済新報社(2003)

この本のタイトルは、田坂流のマネジメントへの賛美だろう。むかし、細腕繁盛記という連続ドラマがあった。このドラマのオープニングのナレーションは「銭の花の色は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の匂いがする」というナレーション。これも商売というものに対する賛美だと思うが、この田坂先生の言葉も同じようなニュアンスを感じる。

さて、この本では、「マネジメントの道を歩む方々へ」として、まず、以下のような問いかけから始まる。

「なぜ、あなたは、自ら「重責」を負うのか」

という問いかけから始まる。田坂先生の言われる重責とは「部下や社員の人生」であり、「部下の成長を支える覚悟」である。こんな苦しいのに、どうして、人はマネジメントの道を歩むかという問題提起で、マネジメントの素晴らしさを伝えようとしている一冊だ。

内容については先入観なくじっくり読んでほしいので、あまり書かない。一言でいえば、自分のキャリアを明確に意識し、キャリア発達を実現するためのマネジャーの道を歩む。そして、それは、コミュニケーションを通じて、部下の自立を促すことにより実現できるものだ。

非常によい言葉がちりばめられた本であるので、隙間時間で読むのではなく、まとまった時間をとって、噛みしめながら読んでほしい本だ。

この本を読んで、思い出した本がある。このブログでも紹介したことがあるが、ジョセフ・バダラッコの「決定的瞬間の思考法」だ。

4492531793 ジョセフ・バダラッコ(金井寿宏、福嶋俊造訳)「「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために」、東洋経済新報社(2004)

この本も、マネジャーが重責を担う中で、キャリアを変えかねない瞬間にどのような意思決定をすべきかをかいた本。この本も併せて読まれることをお奨めしたい。

2007年8月17日 (金)

ホワイトカラーの生産性マネジメントの切り札

4382055717 坂本裕司「ホワイトカラーの生産性を飛躍的に高めるマネジメント―HPTの実践マニュアル」、産業能率大学出版部(2007)

お奨め度:★★★★

経営コンサルタントである著者が、MBA時代の経験、コンサルティングの経験、諸先輩から学んだ経験を集大成し、独自に纏め上げたマネジメント技術HPT(Human Performance Technology)を開示した一冊。

IEのホワイトカラー版というイメージだと言っているが、プロジェクトマネジメントを業務に適用するとこんな感じになるという意味で興味深い。もちろん、ツールは著者のオリジナリティにあふれるものだ。

HPTの中核概念は、PND(Performance Next Door)という概念にあるが、この概念は、現状のパフォーマンスレベルで達成可能なレベルを超える目標を掲げ、ビジョンを明確にし、目標達成のために戦略を練り、組織機能を明確にし、プロセスを改善することによりその目標を達成しようとする考え方。そのために考案されたさまざまなツールが紹介されている。

特徴的であるのは、IEを意識しているだけあり、非常にツールが現場的であること。すぐにでも使えるようなレベルのツールである。非常に体系的に整理されている。

フレームワークとしては少し複雑すぎるきらいがある。加えて本の書き方が簡潔であるため、実践のパートはIEだとか、プロジェクトマネジメントのバックグランドがない人が読むと理解に苦労する部分があるのではないかとも思う。

むしろ、本として読まずに、ツールを中心に追いかけていくとよいかもしれない。

また、HTPの実践を行うに当たってトップとメンバーの役割についても明確にし、必要なスキルを解説している。この点も含めて実践的であるので、ホワイトカラーの方にはぜひお奨めしたい一冊である。

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