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2008年3月

2008年3月31日 (月)

WBSを極める

4820118889 大川 清人「WBS構築―プロアクティブなプロジェクトマネジメントを支える技術」、社会経済生産性本部(2008)

お薦め度:★★★★

プロアクティブなプロジェクトマネジメントの実現方法を、WBSというツールに注目して、解説した一冊。

前半は、WBSの基本についてかなり丁寧に解説されれいる。多くの人が断片的に知っているということを、体系的に解説しているので、一度読んで、自分の持っている整理をしておくことをお勧めしたい。

後半は、プロジェクトマネジメントに対する考え方を、作り方と、使い方というところでノウハウの形に落としている。解説が若干難しいような気がするが、非常に参考になる内容である。

最終章は、著者のオーソリティであるEVMSを有効に活用するためには、WBSをどのように作り、どのように使っていけばよいかを解説している。

WBSは非常に奥の深いものだ。プロジェクトマネジメントの研修を一度受ければそれなりに作れる一方で、何度作ってみても本当に満足するものを毎回つくるのは難しい。その理由もこの本を読んでみればよく分かる。一言でいえば、WBSは自身のマネジメントの流儀があって、プロジェクト観、あるいは、段階的詳細化まで含めて考えればマネジメント観を表現するものだからだ。この本は、その部分にEVMSを活用したプロアクティブプロジェクトマネジメントを置き、実践的にまとめられている。この流儀に共感できる人には、相当、参考になる本だと言える。

この本を読んだだけで、著者のレベルのWBS使いになることは難しいと思うが、WBSの深さを知り、WBSを中心にしたプロジェクトマネジメントに取り組んでいくには、必読の一冊だといえよう。

なお、WBSについては、定番本

Gregory T. Haugan(伊藤衡)「実務で役立つWBS入門」、翔泳社(2005)

がある。併せて読まれることをお勧めしたい。

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2008年3月27日 (木)

下士官にみる現場リーダーのベストプラクティス

4569654029 日下公人「現場指揮官の教訓―強い現場リーダーとは何か」、PHP研究所(2007)4569654029

お薦め度:★★★★1/2

軍事や宇宙開発において膨大な国家予算を費やして開発された技術が、やがてビジネスにおいて活用され、競争優位源泉になっているものは多い。意外と目立っていないのだが、戦争の背骨になる戦略と組織(マネジメント)に対しても膨大な投資が行われており、それもビジネスの世界で活用されているものも多い。

ところが日本の軍隊は敗戦を契機に、よくないマネジメントの引き合いに出されることがあっても、よいマネジメントの引き合いに出されることはない。

この本は、多くのエピソードに基づき、日本組織の特徴を下士官に注目してまとめた本である。

この本を読んでみると、戦争というと上意下達、指揮命令系とがビシッとしている軍隊が最適だと思ってしまうが、実際にはそうではなく、下士官という「現場リーダー」がいるからこそ、「現場が動く」という現実があり、また、現場が独自の判断で行った行動に対して上官は見て見ぬふりをするという組織が意外と強いというのがよく分かる。

確かに、戦隊をどう展開するかといった戦略は現場ではどうしようもないのだろうが、現場の見えていない組織(上官)が、戦略ありきで決めたオペレーションをその通りにやるとどうなるかは大体予想できるというものだ。

欧米の軍隊だと、にもかかわらず、そこまできちんと意思決定をすることが求められ、多くの兵士の死と引き換えに上官は地位を失うのに対して、日本は現場がオペレーションの中で現場が調整をしていく。上司は日常はあまり仕事をしていないが、失敗したら責任をとる。このような組織で勝ってきた戦局が多くあることを指摘し、今、組織が機能しなくなってきたのは、下士官の存在がなくなったからだという。

下士官をビジネス組織でいえば、係長、主任、プロジェクトリーダーといったあたりの役回りである。どのような役回りか。この本の中で、米国の研究を紹介した適切な説明がある。

米国のビジネスパースンは1マス、つまり、自分の職務という「縦のライン」で、かつ、1等級分の仕事しかしていない。日本のビジネスマンは自分の職務に隣接する多種類の仕事をしているばかりか、自分の所属等級を含めて上下に三マス分の仕事をしている。つまり、九マス分の仕事をしていることになる。

隣接の仕事はさておき、上下三マスということろがミソである。少なくとも自分の領域では、自分の上と自分の下の役割も兼ねる。多能工ならぬ、多層工である。

これが日本型マネジメントの本質である。もちろん、これは「ホンネ」の部分の話であって、この本の著者も指摘しているように「タテマエ」では上のマスは上司がやっていることになっていなければならないことは言うまでもない。このあたりのヒューマンスキルをどのように軍隊の中で作り上げていたかも紹介している。

その意味で、日本型組織のベストプラクティスを紹介した非常に貴重な1冊だといえる。係長、課長クラスのマネジャーにぜひ読んでいただきたい。

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2008年3月24日 (月)

プロジェクト成功の第4の軸(こっちが第一か?)

441680802x プロデューサーズ制作チーム、佐野 一機、インパクト・コミュニケーションズ編「プロデューサーズ―成功したプロジェクトのキーマンたち」、誠文堂新光社(2008)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトがうまくいくには何が必要か?当然ながら、これだという答えはない。体系的なアプローチと、継続的な地味な努力、これに尽きる。

その上でという議論をするなら、意見は分かれるのではないかと思う。一般には3つあるといわれている。

・プロジェクトリーダー(プロジェクトマネジャー)
・プロジェクトスポンサー
・プロジェクトマネジメントオフィス

ここの第4の軸として、プロデューサーという存在があることに気付かせてくれる一冊。

成功を収めたプロジェクトのキーマン(プロデューサー)とインタビュー形式で、そのプロジェクトのベストプラクティスを抽出しようとしている本。

読んでみて、すごいなあ~と思うのは、やはり、「現場力」。プロジェクトマネジメントでも、現場の感覚がいかに大切かがよく分かる。たとえば、一番目のエビスの立川さんの話。

エビス<ザ・ホップ>を出すのに一番反対したのは実は社内なんです。我々が一番心配したのは、エビスビールが好きで、エビスを信奉してくださるコアなお客様が離反することでした。

これは、マーケティングの教科書にあるような話。ところが、

エビスを選んでいる人は、「自信をもって、エビスを選んでいる自分がかっこいいと思うから」という気持ちがあるのではないかと想像するわけです。

と考えたという。これは現場ならではの感覚だと思う。この手の話が山ほどある。企画というのは本質的にこういうものかもしれない。

僕はマネジメントが現場から乖離してくるのは、宿命的なものだと思っているが、こういう本を読んで、現場への思いをリマインドすることはとても大切ではないかとも思う。

プロジェクトとプロデューサーは以下の通り。

・ヱビスビールヱビス“ザ・ホップ 立山正之
・映画「鉄コン筋クリート」 田中栄子
・ソフトウェア開発digitalstage 平野友康
・感動食品専門スーパーオイシックス・高島宏平
・Xbox 360「ブルードラゴン」プロモーションBIG SHADOW 内山光司
・絵本シリーズ「くまのがっこう」 相原博之
・クリエイティブスタジオSAMURAI 佐藤悦子
・都市再生プロジェクトR‐Investment&Design 武藤弥
・りそな銀行コラボレーションプロジェクトREENAL 藤原明

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2008年3月20日 (木)

マネジメントの奥儀

4492556001 リアズ・カデム、ロバート・ローバー(小林薫訳)「1ページ・マネジャー」、東洋経済新報社(2008)4492556001

お薦め度:★★★★1/2

ケン・ブランチャードの「1分間マネジャー」は多くの人は一度は読んだことがある本だと思う。

4478350094ケン・ブランチャード、スペンサー・ジョンソン(小林薫訳)「1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか! 」、ダイヤモンド社(1983) この本に実践編があることを知っている人はどのくらいいるだろうか?

4478350132 ケン・ブランチャード、ロバート・ローバー(小林薫訳)「1分間マネジャー実践法―人を活かし成果を上げる現場学」、ダイヤモンド社(1984)実践法はタイトルの通り、1分間マネジャーの実践法について書いている。この本は、1分間マネジメントの実践として、目標設定、称賛、叱責を体系的に行うという方法を紹介したものであり、

部下を生かすABC法:目標、実践、事後方策
部下を伸ばすPRICE方式:目標を明確にする、実践行動を記録する、部下を参画させる、部下を教育指導する、評価する

の2つのメソッドが中心になっている。

この方法を実践するために、著者の一人であるロバート・ローバーが、

・説明責任
・データ収集
・フォードバック
・認識
・訓練

の5つのシステム作りが重要であるという主張の本を出版した。ロバート・ローバーは1分間マネジャーのコンセプトに矛盾しないようにこれを1枚(1ページ)の書類でやるという考えとしてまとめたのが、本書。

本としては1分間シリーズと同じくストーリー形式で、苦境に陥ったエックス社の組織復活のストーリーとして書かれている。

読んでいて興味深かったのは、普通、業績が悪くなると、人は「過剰管理」に走る。これは企業でも、事業でも、プロジェクトでも同じだ。それは決してよい結果を招かないのは皆さんもご承知の通りだが、このような状況で1ページというコンセプトは非常に理にかなっているということだ。

マネジメントの本質が書かれているといってもよいだろう。

なお、この本とは関係ないが、

0470052376 Clark A. Campbell「The One-page Project Manager: Communicate and Manage Any Porject With a Single Sheet of Paper」、John Wiley & Sons Inc(2006)0470052376

という本がある。PMBOKをどのように適用しようかというときに大変、役立つ本である。書名のみ、ご紹介しておく。

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2008年3月16日 (日)

仕組みで考える

4887596111 泉正人「最少の時間と労力で最大の成果を出す「仕組み」仕事術」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)

お薦め度:★★★★1/2

作業系と考える系を区別、仕組みにより作業系の生産性を上げることにより考える時間を作り、仕事の質を上げることを推奨する一冊。

本書の前半は仕組みとはどういうものかを例をあげながら、なぜ、仕組みづくりが重要かを簡潔に述べている。

それによると、仕組みづくりは

・才能に頼らない
・意志の力に頼らない
・記憶力に頼らない

の3つを原則(黄金律)とし、仕組みによって、作業だけではなく、マネジメント(チームを動かす)こともできると指摘する。

考え方として面白いのは、失敗への対処を仕組みかする、続けることを仕組みで実現するなど、広い範囲で仕組みをとらえていること。本質はルーチンワークを仕組みにするということではなく、考えることが価値を生まない仕事はルーチンワーク化し、仕組みを作ることによって合理的に実行していくことにあるといったことだろう。

後半は自身の取り組んでいる事例で、具体的な方法を述べている。ひとつはチェックリスト。もう一つはOutlookをうまく使う方法。いずれも、ポイントは一元化にあるとしている。つまり、チェックリスト化することにより、重複を防ぐ。また、メール、仕事などの各種の情報を一元管理する。

実例だけに、説得力がある。

この本で一番印象に残ったのは、失敗を仕組みで考える(改善する)ということだ。仕組みにより考えることにより、同じ(類)の失敗を繰り返すことがなくなる。これは改善の原点でもあるが、これにより実現される効率化は大きいのはないかと思う。

最後に仕組みで考える人の7つの習慣というのが示されている。これがなかなか深い。深いから、極める価値があるのだろう。

(1)楽することにこだわる

(2)シンプルに考える

(3)記憶せずに、記録する

(4)わからないことは聞く

(5)自分の時間を時給で判断する

(6)うまくいっている人の真似をする

(7)自分を型にはめる

この本を読んで、似通った発想だと思ったのが、この本。

三田紀房「個性を捨てろ!型にはまれ! 」、大和書房(2006)

併せて読んでみよう。

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2008年3月11日 (火)

対話により描かれたプロジェクトマネジメントの暗黙知

4883732533 中村 文彦「ITプロジェクトを失敗させる方法―失敗要因分析と成功への鍵」、ソフトリサーチセンター(2008)

お薦め度:★★★★1/2

著者の中村さんとは、日本プロジェクトマネジメント協会の研究会で、PMコンピテンシーの開発方法の研究に一緒に取り組んだことがある。そのときは、習慣化という方向にまとめていったが、こういう方法もあるんだなということを認識させてもらった一冊。

プロジェクトを提案・受注、立ち上げ・計画、実行、終了に分け、あとから振り返ると、分岐点だったなというようなプロジェクトの場面を切り出し、そこで、失敗の原因になるような意思決定や行動を「対話」の形で描いている。

そして、それに対して、どうすればよいかを簡潔に説明した上で、今度は、よい意思決定や行動を「対話」の形で描いている。

対話はテンポがよく、言外のニュアンスもうまく描いてあり、参考になる。解説は簡潔で読みやすく、ポイントも適切だと思うので、全体としてコンパクトなのだが、かなりのことが伝えられる一冊である。

また、これ以外にコラムがあり、コラムでは比較的トピックス的な話題をこれまた、簡潔に説明している。

読み方としては、まず、悪い事例で、どこが問題かを考え、その上で、著者の考えを書いた解説を読んで確認する。そして、自分ならどう行動修正するかを考えてみて、よい事例を読んで確認するという手順で読んでいける。

考えながら、気づきながら読んでいくことで、かなりのコンピテンシーの開発ができると思う。

また、対話することそのものへの暗黙知も描かれているように思う。これが結構重要ではないかと思わせる本である。読んでいるうちに、仮に、悪い対話であったとしても、対話をすることが重要だと思ったのだ。うまくいかなければ、なぜ、うまくいかないかを考え、そこからさらにうまくいく方法を模索していくという行動学習が行われる第一歩は対話である。その意味で、悪い事例からよい事例へどのように推移していけるかというのがポイントかもしれない。

最後に、この本と直接関係ないが、僕の経験でよい使い方があるので、提案しておく。プロジェクトチームでのチーム育成やチームビルディングのエクスサイズに使うと有益である。1回のミーティングで1例取り上げ、悪い事例をプロジェクトチームで読んでチームで議論する。それで、よい事例を配る。そこでどこが違うかを議論し、そのあと、プロジェクトマネジャーが著者の言っているポイントを中心にしてこういう風にしようとまとめると有効である。

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2008年3月 8日 (土)

リストフリークの作った本

4777108805 堀内浩二「リストのチカラ」、ゴマブックス(2008)

お薦め度:★★★★

なかなか、よいタイトルの本だ。確かにリストというツールには、何か特別なパワーがあるように思う。パワーではなく、チカラかもしれない。

みなさんは、リストというと何を思い浮かべるだろうか?僕が最初に覚えたリストは社是だ。みなさんも経験があると思うが、会社に入るとまず、しつこく感じるくらいに唱和させられるのが社是だろう。わたしたちのクライアントの中でも、研修の場などでも、毎朝、社是を唱和している会社がある。

僕がいた三菱重工の社是は

一、顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する。
一、誠実を旨とし、和を重んじて公私の別を明らかにする。
一、世界的視野に立ち、経営の革新と技術の開発に努める。

である。

僕が三菱重工を退社して、もう20年近い時間が経つが、この3つは今でも僕の価値観になっているし、何より、まだ、唱和できる!これがリストのチカラではないかと思う。

さて前置きが長くなったが、具体的にリストが持っているのはどんなチカラだろうか?それを教えてくれる本である。

著者の堀内さんがlistfreakというサイトを作られて、活発に活動されていた。なかなか、ユニークな命名である。

そのサイトがついに本になった。拍手!

本書は、大きく2つのパートにわかれている。前半は、listfreakから堀内さんが選び抜いた50のリストが、コメントとともに5つのカテゴリに分けて紹介されている。カテゴリはコメントとともに5つのカテゴリに分けて紹介されている。カテゴリは、「まるごと覚えてしまいたいリスト」、「日々使いこなしたいリスト」、「月に一度は目を通したいリスト」、「いざというときに頼りたいリスト」、「折に触れ、じっくりと読み返したいリスト 」の5つだ。

そして後半はリストを使う方法、作る方法について述べている。僕は以前、ある会社の社是を作った経験がある。その経験に照らし合わせてみると、若干、物足りない部分があるが、なるほどと思うことの方がはるかに多い。堀内さんの「リスクフリーク」の本領発揮っていうところだろう。

この本の何より素晴らしい点は最後の2章に述べられている「リスト力」なるものだ。たとえば、ワークショップをするとかのときに、重要なものを3つあげてくれとか、結構、リストを使っている。何か意図があってやっているのだと思うが、その意味を8つのステップに分けて見事に整理している。また、編集力に通じるところで、リストをどのように編集すればよいかについても解説してくれている。

ありそうで、なかった素晴らしい本だ。

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2008年3月 7日 (金)

「やる気要塞」を攻略しよう!

4903908046 金井壽宏「やる気!攻略本」、ミシマ社(2008)

お薦め度:★★★★

実務家向けのMBAコースではケースメソッドが中心になるが、リーダーシップやモチベーションなどのヒューマン系のケースとして最も意味のあるのが、すぐれたリーダーやマネジャーの「持論」であるというのがこの本の著者である金井壽宏先生の考えで、その考えの中で、このブログでも紹介した「働くみんなのモティベーション論」が書かれている。

やる気を自己調整する

この本は、その続編として位置づけられた本である。最後に述べるようにこの本の制作過程に多少かかわったのだが、そのときは、そういう話だったので、結構、固めの本だと思っていたのだが、出来上がりを見てびっくりした。

内容的には

(1)モチベーションのケースとしての持論の紹介
(2)持論に関係する理論の紹介

を金井先生自身の経験と、インタビューに基づいてまとめているのだが、それらをロールプレイングゲーム風に見ていきながら、区切り区切りでやる気TIPS(あなたはここでこのような視点を手にいれました)を得るという形で整理しながら、まとめられている。また、最後に、やる気語録が掲載されている。

僕はハウツー本が嫌いなので、ほとんど読まないし、このブログでもほとんど取り上げない。仮に、金井先生が書かれた本でもハウツー本であれば取り上げない。この本をハウツー本だと読んでしまう人もいると思うが、そのように読んでほしくない。この本はやる気を探す旅を本というメディアの中に構築した本だ。TIPSは一種のハウツーだと見えなくもないが、思考のもとであり、それを得たことにより、また、違った視点を持って次の旅に出る。そんな本である。

この本の特徴は、この構成にあるように思う。

モチベーションの本というのはリーダーシップと同じように恐ろしくたくさん出ている。本がたくさん、出ている分野というのは、いろいろな考え方がある分野であると同時に、これといった決定打がない分野でもある。モチベョンもそんな分野である。

この本のアプローチがすべての人に有効だとは思わないが、いろいろなアプローチがあるのなら、こんなアプローチにはまる人もいると思う。

その意味でよい本だと思う。もちろん、内容そのものはフィールドワークでは日本の第一人者の金井先生の作られた本であるので、文句なくよい。エピソードの切り込み方は絶品である。

最後に、この本を作るにあたって、金井先生からの依頼でインターシビューイの1人にならせて戴いた。編集者の方とライターの方が来られ、

人と組織の活性化研究会、加護野忠男、金井壽宏 「なぜあの人は「イキイキ」としているのか―働く仲間と考えた「モチベーション」「ストレス」の正体

で提案されている「イキイキ・サイクル・チャート」(この本では「やる気チャート」と呼んでいる)を書いてくれと言われて、書けなかった。デコボコがないのだ。

「イキイキ・サイクル・チャート」で落ち込んでいるところから立ち直るまでのところを分析したかったのだと思うが、僕の持論はプロフェッショナルは「やる気に左右されない」ということに尽きるので、やる気を意識しないようにしている。無駄足にしてしまったなと、そんな贖罪の思いを持ちながら読んだ。

2008年3月 2日 (日)

松岡正剛と物語編集

「遊」の時代から松岡正剛氏のファンである。とんでもない編集人である。どんな著作を読んでもうっとりするような物語を楽しむことができる。

2000年に自らの方法論を伝えるイシス編集学校を設立された。いつか参加したいと思っているのだが、知人で何人か参加している人の話を聞くにつけ、深みにはまりそうな気がして、躊躇している。

そうこうしているうちに、この学校で教えていると思われる編集の本質を垣間見せる本が出てしまった。この本だ。

4478003866 松岡正剛「物語編集力」、ダイヤモンド社(2008)

この本は、物語の5大構成要素としている

ワールドモデル(世界構造)
キャラクター(登場人物)
シーン(場面)
ストーリー(スクリプト・プロット)
ナレーター(語り手)

の5つを各章とし、[破]師範(番匠)と講評をするととにも、学衆がつくりあげた27篇の物語エチュードが紹介する作りになっている。物語エチュードは、アリスとテレス賞(コンテスト)入賞作のなから選び抜かれた作品だそうだ。

12人の師範は、

今井歴矢/奥野博 /太田眞千代/森美樹/林十全 /野嶋真帆/小池純代/高柳康代/田中俊明/古野伸治/倉田慎一/赤羽卓美

の12名。すごいメンバーである。

ちなみに、[破]というのは[守]の後の応用コース。詳しくはこちらを参照してほしい。

http://es.isis.ne.jp/

物語、ストリーテリングの有用性について書いた本は少なくない。たとえば、このブログでも紹介したことがあるが、

4478732809 田坂 広志「企画力 「共感の物語」を伝える技術と心得」、ダイヤモンド社(2004)

4837921795 平野日出木「「物語力」で人を動かせ!―ビジネスを必ず成功に導く画期的な手法」、三笠書房(2006)4837921795

など、とてもわかりやすく、印象深い本である。また、最近、翻訳された本で、

4495376012 ジョン・ブラウン(高橋正泰、高井俊次訳)「ストーリーテリングが経営を変える―組織変革の新しい鍵」、同文館出版(2007)4495376012

はかなり、マネジメント手法として突っ込んだ本である。もう物語が有用であることは定着してきたといってよいのかもしれない。

ただ、これは物語が語れる、書ける、編集できるという前提で有用であるという話であって、物語を語ることは非常に難しい。経験があってもケースを作るのは難しいが、これも同じ難しさだ。

実際にコンサルティングの中で物語を入れてみると、効果があることに驚かれると同時に、うまく物語を使うことが難しいことを痛感する。

僕がイシス編集学校に行きたいと思っているのは、この壁を感じているからだ。

この分野の本がかけるのは、ひょっとして日本で松岡正剛しかいないのかもしれないが、今回の物語編集力はその一端を垣間見せてくれる。こんな本がもっと出ないかなと思う。

それから、松岡正剛ファンの人は、この本を読んだ後で、比較的明確で、広範なテーマについて書いた本、たとえば、

4122043824 4122045592 松岡 正剛「花鳥風月の科学」、中央公論新社(2004)

松岡 正剛「ルナティックス - 月を遊学する」、中央公論新社(2005)

などを合わせ読むと、編集という概念がすっきりとするのではないかと思う。お薦め!

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