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2007年11月

2007年11月30日 (金)

イノベーションをマネジメントする

4270002719 ジェームズ・アンドリュー、ハロルド・サーキン(重竹尚基、遠藤真美、小池仁訳)「BCG流 成長へのイノベーション戦略」、ランダムハウス講談社(2007)

お薦め度:★★★★

この本が指摘し、かつ、答えを準備している問題は非常に重要な部分である。

日本ではイノベーションはマネジメントするものではなく、言い方は悪いが、「アイディア」と「運」だと思っている人が多い。この議論でよく引き合いに出されるのが、20年前にウォークマンを作ったソニーはなぜ、iPodを作り得なかったかという話だ。実は、本書にもこの話は触れられているので、興味ある人は読んでみてほしい。

日本ではと書いたが、この傾向は欧米でも同じような傾向があった。あまりにも、説明できない(不確実な)ことが多く、体系的にマネジメントできるものではないと考えられてきた。

この傾向が変わる契機になったのが「クリステンセンのイノベーションのジレンマ」ではないかと思う。このあたりから、日本でも著名なものでも、クリステンセンの「破壊的イノベーション」、ムーアの「キャズム」、キム氏&モボルニュは「ブルーオーシャン」など、ロジャースが提示したイノベーションモデルでは説明できないような現象を説明するモデルが多くでてきた。

そのような中で、この本はボスコンの体系的なイノベーションマネジメントの手法を紹介するものである。投資マネジメントをキャッシュカーブというフレームワークで合理的に行っていくことによって、不確実性に対処し、最適なゴールを見つけ出し、到達することができるというものだ。

商品開発を担当している人にはぜひ読んでほしいと思うが、この本は単にイノベーションにとどまらず、「マネジメントの価値」を考えさせられる本である。その意味で、すべてのマネジャーにお薦めしたい1冊である。

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2007年11月28日 (水)

文章を書いて考える

4798111228 ジェラルド・M・ワインバーグ(伊豆原弓訳)「ワインバーグの文章読本」、翔泳社(2007)

お薦め度:★★★★1/2

(原題:Weinberg on Writing: The Fieldstone Method)

メルマガを発行し始めて6年になる。かなりの頻度で書いているし、最近はブログも書いている。最初のうちは、移動のときとかに予め何を書こうかというあらすじを考えておき、机に座って一気にかくという方法を取っていた。ところが2~3年前から明らかにスタイルが変わってきた。予め考えておくのはテーマくらいで、書きながら考えるようになってきた。そして、最近、感じるのが、書くことによって考えることができるようになった。

普段、あまり文章を書きなれていない人はこの微妙な感覚の違いはぴんとこないかもしれないが、書くことによって考えるというのは、文章をあれこれいじることで頭の整理ができたり、発想ができたりすることができるようになってきた。

さて、前置きが長くなったが、ワインバーグに憧れる人は多いと思う。ソフトウエアサイエンスでは、マネジメントのトム・ピーターズのような存在である。ワインバーグの何がすごいかと改めて考えてみると、やはり、文章である。非常に深い思考を短い文章の中に凝縮する文章術は本当にすごいと思う。若いころからずっとあんな文章が書けないかと思っている。

そのワインバーグの文章術をまとめた本がでた。これだ。とりあえず、レッスンがあるので、やってみた。書いていることをきちんと理解できていると、びっくりするくらい、ワーンバーグみたいな文章が書ける。

ぜひ、読んで、試してみてほしい。

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2007年11月26日 (月)

そのときエンジニアは何をすべきか

4627973217 Alastair S Gunn/P Aarne Vesilind(藤本 温、松尾 秀樹訳)「そのとき、エンジニアは何をするべきなのか - 物語で読む技術者の倫理と社会的責任」、森北出版(2007)

お薦め度:★★★★1/2

(原題:The Engineer's Responsibility to Society)

アメリカとニュージーランドで流通している技術倫理の教科書の邦訳。建築士によるマンションの安全偽装問題以来、技術倫理への関心が高まってきているが、学習するのにあまり適切な本がない。この本も、教科書として作られているので、基本は先生が教材として使うものだが、
・基幹部分が小説になっている
・その中で、ポイントになるところが、囲みコラムで分かりやすく書いてある
・議論すべきポイントを課題としてかなり具体的に提示してある
の3つの特徴があるので、独学のテキストとしても十分に使える内容である。

=====

エンジニアとして順調にキャリアをのばすクリス。クライアントからの贈り物、東南アジアでのリゾート開発、海外で仕事をするうえでの職業文化の違い、ヘッドハンティングなど、さまざまな経験を積んでいた。充実した日々を送り、確実に業績を上げていたかにみえたある日、構造的な欠陥の疑いを、クリスがその完成前に指摘していたホテルが、重大な問題を引き起こすことに…。岐路に立たされたエンジニア、そのとき彼は何を優先するのか。

=====

日本の企業に勤務する人が読むのであれば、エンジニアが遭遇する問題というよりも、プロジェクトマネジャー(特に、プレイングマネジャー、リーダー)がよく遭遇する問題が多い。その意味で、エンジニアはもちろんだが、プロジェクトリーダーの人、あるいはすべてのプロフェッショナルに読んでほしいと思う。

プロジェクトマネジャーに関していえば、PMIでもプロフェッショナルの倫理規定を定めている。この内容を見て、なぜ、そのような規定があるのか理解できない人は、この本を読んでみることをお勧めする。

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2007年11月21日 (水)

人間力を鍛える本

4569694446 岡本呻也「 「超」人間力」、PHP(2007)

お薦め度:★★★★

人間力を認識レベル、行動レベル、自己とのかかわり、他者とのかかわりの4つに分け、それぞれについて、エピソードを示すことによって、人間力を学ぶことをコンセプトにした一冊。

エピソードは、ビジネス界のエピソードから、歴史上の著名人、フィクションの主人公など幅広く、できるだけよいエピソードを取り上げる工夫がされている。

エピソードから学ぶべきことの解説も簡潔で分かりやすく、気楽に読みながら、人間力強化に役立つのは非常によい。一冊買っておいて、繰り返し、眺めるとよいだろう。

取り上げているエピソードは以下のようなものだ。

落語「岸流島」戦わずして勝つ方法を考えよ
自動車トップセールスマンの「心をつかむワザ」
新規開業医院が狙う看板の意外な効果
四面楚歌 史上最大の心理戦
相手の懐に飛び込むアイデア営業術/ナポレオンの演説術
営業現場で起きている会社崩壊
意表をつく一言で不安を鎮めた大山巌
松下幸之助の腰の低さ
キスカ撤退作戦で5000人以上の命を救った木村少将
シャーロック・ホームズの観察眼
美人を口説く凄腕スカウトの目線
田中角栄  知より情の人心掌握術
戦闘機パイロットの「クロスチェック」
曹操「梅を望んで渇きを止む」
『米百俵』常在戦場

4408395501同じ著者のこの本もよい。同じようなテーストだが、こちらはインタビューなどを中心に人間力の抽出をしている。その意味で、「超」人間力の原点はこの本にあるのかもしれない。

岡本呻也「 「人間力」のプロになる―誰もここまで教えてくれなかった仕事ができる人の基本メソッド」、実業之日本社(2004)

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2007年11月20日 (火)

プロジェクトマネジャーの人間術

4872686721 Steven W. Flannes、Ginger Levin(PMI東京支部/吉沢 正文監訳)「プロジェクト・マネジャーの人間術」、アイテック(2007)

2005年に米国で発刊された「Essentail People Skills for Project Management」の翻訳。PMI東京支部の有志が翻訳している。

プロジェクトマネジャーの役割を
 ・リーダー
 ・マネジャー
 ・ファシリテータ
 ・メンター
の4つとし、これらの役割を果たすのに必要なピープルスキル(人間術と訳している)を
 ・対人コミュニケーション
 ・動機付け
 ・コンフリクトマネジメント
 ・ストレスマネジメント
 ・トラブル
の視点から、ツールとして解説している。また、最後にキャリアとそれに伴う人間観という視点でどういう心構えでキャリア形成していくべきかを論じている。
本書の特徴は
(1)プロジェクトマネジメントプロセスに人間術を対応させている
(2)キャリアステージを強く意識した手法を提案している
の2つだろう。書かれている内容は、簡潔ではあるが、独自性が強く、非常に本質をついているように思える。その意味で、ハウツーものというよりも、教科書としてプロジェクトマネジャーが内省のインプットとして使うとか、あるいは、組織でプロジェクトマネジャーの教育やワークショップの教材として使うといった使い方が適しているように思える。

また、明確に書かれていないが、この本に書かれていることはプロジェクトマネジメントのスキルがあることを前提にしているように見える。その点でも、初心者がハウツーものとして読む本ではないように思う。典型的な対象読者を一つ上げると、「PMPを取って、実践しようとしてもなかなかうまくいかなくて困っている人」だ。日本ではPMPホルダーのマジョリティだと言われてるが、米国でこのような本が出版されていることは興味深い。

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2007年11月19日 (月)

プロジェクトは大義と共感

4828413510 小池百合子「小池式コンセプト・ノート―プロジェクトは「大義と共感」で決まる!」、ビジネス社(2007)

お薦め度:★★★★

小池百合子議員がクールビスプロジェクトをどのように進めていったかを、コンセプトづくり、「大義と共感」をキーワードに振り返っている。副題になっているとおり、「大義と共感」が問題だったと振り返り、小泉郵政解散の際の刺客騒動についても、同じ発想が成功をもたらしたと振り返る。

クールビスについては、膨大なプロモーション費用が問題になったが、急速に広まっていったのは事実である。仕事がら、顧客企業にいくことは多いが、最初の年は行く先々でネクタイをしたり外したりしていたが、2年目になると、ほとんどネクタイをすることはなくなった。商品のプロモーションと違い、コストをかければ成果に直結するという類の問題ではないように思うので、本当にコンセプトの勝利だといえるだろう。

そのコンセプトを作った舞台裏をかなり詳細に書いているので、興味深いし、また、参考にもなる。

ステークホルダが多く、複雑なプロジェクトの企画やマネジメントを担当している方にはぜひ、読んでほしい。

タイトルから「大義」というは政治ならではの話だと感じる人も少なくないと思う。しかし、大義というのはビジネスでも非常に効果がある。本質的にも、現実的にも、大義のないプロジェクトに協力する人もいないし、特にプロジェクトが苦境に陥ったときには大義は重要である。

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2007年11月16日 (金)

日本における合理的経営の追求

4492501762 西尾久美子「京都花街の経営学」、東洋経済新報社(2007)

お薦め度:★★★

経営学者である著者が、5年にわたるフィールドワークを経て、京都の花街のビジネスシステムを分析し、まとめた一冊。内容は非常に面白いし、置屋のシステムを中心にして全体を分析しているのも納得できる。ただし、フィールドワークが中心で、現在のシステムについての分析が中心であるためか、置屋の話も読み物レベルで、本質がえぐりだされていないのではないかという感想を持った。

それはそうとして、花街のビジネスシステムをうまく、ベストプラクティスとして切り出しているので、ベストプラクティスとしては参考になる点が多い。置屋というと日本的なものだと思われているかもしれないが、実態は違う。最も大きな違いはリスクマネジメントである。

高いレベルの顧客満足を実現しようとした場合に、いろいろな面でリスクを取る必要がある。取引もそうだし、人材育成もそうである。花街のビジネスシステムは、リスクを取ることを前提にして、リスク管理を徹底する点に特徴がある。これは、欧米のマネジメントの考え方に近い。

それを日本の人間関係の中でいかに行うかに置屋システムの秘密があることまでは、よくわかる本である。

シニアマネジャー、経営者、プロジェクトスポンサーなどのお薦めしたい一冊である。

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2007年11月14日 (水)

現場中心のマネジメントに必要なリーダーシップ

476126473x 金井 壽宏、池田 守男「サーバントリーダーシップ入門」、かんき出版(2007)

お薦め度:★★★★★

神戸大学の金井先生が近年ずっと重要性を主張されているサーバントリーダーシップを、その実践者としての資生堂前会長の池田守男相談役とコラボレーションをした一冊。

第1章で最初に金井先生がサーバントリーダーシップの基本的な解説をされている。次に、第2章で池田さんがご自身の社長時代の店頭起点、逆ピラミッド型組織の施策について述べられ、それを支えてきたのが、サーバントリーダーシップであることを述べられている。

これを基調にて、第3章では金井先生と池田さんのサーバントリーダーシップをテーマにした対談が掲載されている。内容はビジネスはもちろんだが、社会におけるサーバントリーダーシップの議論までに及んでいる。

そして、最後に、4章で再び金井先生がサーバントリーダーシップの実践へのアプローチについてご自身の意見をまとめられている。

第1章のサーバントリーダーシップの体系的な解説については、まず、リーダーシップとは何かという問題から、金井先生の主張を述べた上で、提唱者といわれるロバート・グリーンリーフの理論を紹介されている。そして、従来のリーダーシップとサーバントリーダーシップがどう異なるかを解説するととにも、サーバントリーダーシップに関するよくある誤解に触れ、誤解の内容に理解することを求めている。

もっと、そこで書かれている誤解は、第2章の池田さんの話を読めばほとんど陥ることはないと思われる。池田さんはご自身が社長の時に、逆ピラミッド型の組織を提唱され、組織全体が前線で顧客に対応するBC(ビューティコンサルタント)を支えていく。そのためにミドルマネジャーは何をすればよいか、シニアマネジャーは何をすればよいか、そしてエグゼクティブや社長は何をすればよいかを明確にし、実践していくという施策を紹介されている。まさに、サーバントリーダーシップの実践である。

そこで疑問に思ったことは、第3章の対談で解決する。ここまでが、サーバントリーダーシップの理解であり、そのあと、サーバントリーダーを目指したいと思った人のために、アドバイスやガイドを4章で与えているので、盛り上がって読了できるだろう。

ビジネスの中でサーバントリーダーシップが効果的な局面は実に多いと思う。特に、金井先生や、金井先生の話を聞いた人が感じているように、変革型リーダーシップとしてサーバントリーダーシップは重要だ。その意味で、変革をプロジェクトで遂行していくことを考えると、プロジェクトスポンサーやプロジェクトマネジャーが身につけるべきリーダーシップの一つだと言えよう。

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2007年11月12日 (月)

愚かな決定を回避する

4062723506 クリスチャン・モレル(横山 研二訳)「愚かな決定を回避する方法―何故リーダーの判断ミスは起きるのか」、講談社プラスアルファ新書(2005)

お薦め度:★★★★1/2

失敗学という言葉は定着してきて、多くの本が出版されている。マネジメント上の意思決定の失敗ケースを扱った本はあまり多くない。本書はリーダーが犯しやすい意思決定の失敗を取り上げ、そのような失敗を犯す原因やメカニズムを分析した本である。

この本の中に取り上げられている例で比較的、誰にでもわかる例を一つ上げよう。あるグローバル企業のシニアマネジャーがグループ企業向けに経営管理のグローバル研修を立ち上げた。研修の目的やターゲットをあまり明確にしないままで開始したので、「お経のような研修だ」というあまりよくない評価が多く、プログラムの改善をしながら進めていった。そうしているうちに、予算の関係で、グループ外の企業にも研修を提供しようということになった。そのため、研修の内容を多様化したり、カタログを作ったりしているうちに、いつの間にか、グループ内企業向けの提供は付け足しのようになり、受講の希望があっても、定員に余裕がなくて受け入れることができないということが起こるようになってきた。

この問題は組織が意思決定する際にもっとも起こりやすいやっかいな状況の典型であるが、こんな問題はマネジメントの中では山ほどある。

この本では、このような組織の「愚かな決定」を避ける方法を事例分析の形で、行動心理学、組織行動論の視点から分析し、提唱している。この本で扱っている「愚かな意思決定」はプロジェクトのように有期性の強い仕事で起こりやすいものが多いので、プロジェクトマネジャーの人に一読をお勧めしたい。

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2007年11月 9日 (金)

トヨタの闇

4828413995 渡邉 正裕、林 克明「トヨタの闇」、ビジネス社(2007)

お薦め度:★★★1/2

このブログで取り上げた本は500冊を超えるが、企業もので圧倒的に多いのはトヨタである(というよりも、出版点数が多いので、ある意味、当たり前だが)。

トヨタの分析はベストプラクティスとして行われることが多い。理由は2つあり、90年代は主に、日本流のエクセレントな現場であったが、2000年以降、業績の飛躍的な向上により、経営的なベストプラクティスとして取り上げられることが多くなった。

ただ、光があれば、影がある。影の部分に焦点を当てた本はあまりなかったが、珍しくそんな本が出てきた。いわゆる暴露本、スキャンダル本の類ではない。著者たちが、自社Webで展開している「企業ミシュラン」の作成の際の取材に基づきかかれた本のようである。ちなみに、著者の一人の渡辺さんは以前から企業ミシュランの活動をされており、書籍になっているものもある。

4344010949 渡邉 正裕「企業ミシュラン〈06年版〉IT・サービス業編―これが働きたい会社だ」、幻冬舎(2005)

タイトルや帯は過激というか、スキャンダル本の匂いがぷんぷんだが、内容を読んでみると、確かにトヨタのやり方だとそれはあるなと思える内容が多いし、また、取材インタビューなどがそのまま掲載されているので、信憑性もある。

ということで、トヨタ信者であれば、一度、読んでみてほしい本である。

ただし、この本の作られているスタンスには賛同できない。上に書いたように光があれば、影がある。問題は影をいかに少なくしようと努力しているかだ。実は、この本の中に書かれている1項目をトヨタに勤める友人から聞いたことがあり、会社はずいぶん、努力をしているようだ。

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