◆VUCAにおけるAIと人間の役割分担
この1年間くらい、ずいぶんVUCAの中での思考や意思決定、行動についていろいろと書いてきました。
VUCAの議論を熱心にしている背景にはAIの普及があります。VUCAとAIになんの関係があるのかと思う人もいると思いますが、要するにVUCAの時代には今のところAIではできず、人間がすべきことが活動の中心になると思われます。VUCAの時代に生き延びるには、AIの得意とする領域で活動を守るのではなく、AIに任せることは任せて、人間にしかできないことを人間が行う形で協調することが必要だと考えています。
これは問題解決の視点から見れば分かりやすいと思います。
ビジネスの基本は広い意味での問題解決です。何をつくって、どう売っていくかはすべて広い意味での問題解決です。では問題解決とは何か。まず、イノベーションを考えることによってこの問題を考えてみたいと思います。
◆VUCA時代に適応するには
コロナで一挙に突入した観があるVUCAな世界では、不確実性が高いゆえに、何事にも多様性があり、正解がない(見つからない)という状況が当たり前になります。その中で、ビジネスにしろ、人生にしろ、何かを選んでいかなくてはなりません。
このような選択をするには「自己責任」が前提になり、このためにはオーナーシップが不可欠になります。例えば、BNL(Business Network Lab)に掲載されている
「VUCAを免罪符に思考停止していないか? 国際情勢分析のプロと考える、リーダーが身につけるべき情報との向き合い方」
https://bnl.media/2020/07/globis-dialogue-3-1.html
という記事では、VUCAな世界で生き延びていくには、自ら選び取ることが不可欠であり、そのためには、オーナーシップを持ち、アンテナを張り巡らしていかなくてはならないと指摘しています。まさにその通りだと思います。
この記事では、VUCAを生き延びていくためのオーナーシップの育成について考えてみたいと思います。
◆改善だけでイノベーションができない日本
この10年くらい、日本のビジネスパースンは「どうやるか」を考えることは得意だけど、「何をするか」を考えることは苦手だと批判されることが多くなってきました。このような問題が頻繁に指摘されるようになった背景には、時代的に変化しなくてはならない状況であるにも関わらず、出てくるのは改善のアイデアばかりで、イノベーションのアイデアが出てこないことがあります。これが、経済に深刻な影響を与えています。
現実にこの20年くらいで起こったことを見ていてもよくわかります。バブルの崩壊後、日本が失われた20年とか、30年とか言っているうちに、米国ではアマゾン(1995年)、グーグル(1998年)やフェイスブック(2004年)といった企業が登場し、併せると50兆円近い売り上げをあげています。日本をみれば、例えば1997年に設立され、時代の寵児とみなされている楽天が初の売り上げ1兆円超えを達成したが2918年ですので、規模の違いがよくわかります。
PMstyleでは、「コンセプチュアル思考」という思考法を提唱しています。
好川 哲人「コンセプチュアル思考」、 日本経済新聞出版社(2017)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532320623/opc-22/ref=nosim
コンセプチュアル思考は5つの軸の軸の行き来で実践します。
大局/分析
抽象/具象
直観/論理
主観/客観
長期/短期
の5軸です。大局や長期は経営者やマネジャーのスキルとしては古くから重要性が指摘されていたものですが、この5年くらいで他の軸についても急速に認知されるようになってきたように感じています。
そこで、この記事では、抽象/具象、直観/論理、主観/客観の3軸に関する書籍を簡単にコメントをつけながら紹介してみたいと思います。
バックナンバー https://mat.lekumo.biz/pmstyle/pdesign/
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◆はじめに
VUCA時代/VUCAワールドのプロジェクトは計画的にコントロールすることが難しく、大局的な視点でコントロールしていく必要があります。そのためのマネジメントとしては、プロジェクトの構造や成果の本質に着目してプロジェクトを実現するコンセプチュアルプロジェクトマネジメントが最も適していると考えられます。
この際の問題は、どこに視点を置いてプロジェクトの大局を考えていくかです。計画によるコントロールをする場合には目標に視点を置き、目標を達成することをマネジメントの役割にしていました。
これに対して、プロジェクトを大局的にコントロールするための方法として考えられるのは、組織のビジョンやミッションなどです。あるいはもう少し具体的なレベルでは戦略もあります。中でもVUCAの今、注目されているのが、企業が自分たちの存在意義を示すパーパスです。パーパスは自分たちがなぜ存在しているか、なぜ活動しているのかを示す概念で、欧米の先進企業ではパーパスを軸にして、ビジョンやミッション、戦略、コンセプト、プロジェクト、組織や社員の行動様式まですべてを統一するという使われ方がされるようになっています。
このような動向の中で、パーパスを起点にしてプロジェクトを動かすプロジェクトマネジメントは重要性が高まっていますが、特に計画の前提を作るプロジェクトデザインのプロセスが重視されています。そこでこの連載では、パーパスを起点したプロジェクトにおけるプロジェクトデザインの方法について解説したいと思います。
今回は第1回で、概論としてVUCA時代のプロジェクトとはどのようなものか、そしてそれに適したプロジェクトマネジメントとプロジェクトデザインの方向性について考えてみたいと思います。
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◆プロジェクトの特徴
基本的なプロジェクトマネジメントの教科書を見ると、プロジェクトの特徴は
・有期性
・新規性
・段階的詳細化
の3つだとされている。これらの特徴を前提として、納期、予算、スコープをコントロールしながらプロジェクトを進めていくのがプロジェクトマネジメントである。
しかし、VUCA時代のプロジェクトにおいてはこの3つ以外の特徴として、
・自己組織化
というという特徴も考えなくてはプロジェクトとしての成果が生み出さすプロジェクトマネジメントが難しいような印象がある。
そこで、今回のPMスタイル考では、組織的な面を中心にプロジェクトの持つべき特徴を考えてみたい。そのための切り口として、最近、非常に注目度が高くなってきた自己組織化組織であるティール組織への進化を取り上げてみたい。