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2020年9月 8日 (火)

【マネジメントスタイル:雑談5】VUCAの時代の「新・現場主義」~自律分散型組織をつくる

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Jiritu

◆はじめに

現場主義は戦後の日本の高度成長の源泉だったということに異議がある人は少ないでしょう。一方で、今、日本の成長が止まっている原因になっているのが現場主義だと考えている人も少なくないと思います。

今回は、なぜこうなったのか、そしてVUCAというパラダイムシフトの中で、これからどうすべきなのかを考えてみたいと思います。

結論だけ書いておきますと、VUCAの時代に必要なのは今では私語になりつつある、現場主義です。ただし、従来の現場主義ではなく、新しい現場主義だというのがこの記事で言いたいことです。


◆日本の現場主義

戦後の大量生産の時代の競争力の源泉は事業による利益でした。そして、それを実現していたのは、経営(者)でした。

単純にいえば、企業は新しい製品を考え、生産のための設備投資し、製品を生産し、販売して利益を出し、それを活用して設備を拡充し、生産量を増やすことによってコストを下げ、製品価格を下げることによって売り上げを増やし、利益を増やすというモデルでした。このサイクルを繰り返し、企業は競争力を高め、成長していきます。

またこの延長線上で、利益を全く新規の製品の開発に活用し、新しいコンセプトの製品を作りました。これにより、製品ラインナップを充実させるとともにブランドができ、競争力を高めてきました。

この世界的な流れに楔を打ったのが、日本の現場でした。

日本の現場は製品の新規性ではなく、コストを下げることと品質を向上させることの両立で競争力を持つことを考えました。簡単にいえば、製品コンセプトとのもはいわゆる先進国で開発されたものを真似て、生産方法に工夫を加えることによって、より安いコストでより高い品質の製品をで作るというチャレンジに成功し、高度成長を成し遂げました。

ここで注目すべきは、加工方法やプロセスの工夫をしたのは経営スタッフではなく、現場で働く人だったことです。現場を徹底的に教育し、育て、コストを下げ、品質を高めるための工夫をする意識づけをしました。いわゆる改善活動と呼ばれるものです。

最大の日本企業であるトヨタが改善の繰り返しによって成長してきたことは注目に値します。一方で、もともと改善は新しいコンセプトの製品を生み出そうという活動ではなかったことに注意をしておく必要があります。

従来の現場はこのような活動をしていたわけですが、その背景には欧米ではできなかった現場への権限移譲があります。生産方法を現場で工夫するために、現場がある程度自律的に活動できるように現場の監督者に大きな権限を委譲し、現場を動かしていました。これが日本企業の現場主義です。

余談になりますが、日本は海外進出するときにこのような権限移譲を現地に導入しようとしますが、欧米ではほとんど失敗しています。欧米では経営と現場の立場の違いを明確にしているため、思った以上に現場への権限移譲という壁が大きかったためです。


◆現場主義と技術

1980年くらいからは現場主義の中心が技術になっていきます。世界的に見ても製品コンセプトは画期的なものは少なくなり、技術イノベーションによって新しい技術で製品を全く新しいものにしていくという流れが中心になってきます。

その代表がデジタル技術です。デジタル技術は多くのコンセプトに基づく製品は全く新しいものにしていきましたし、例えば家電の分野で電子レンジを考えてみてください。コンセプトは「電磁波により、水を含んだ食品などを発熱させる調理器具」ですが、デジタル技術を使うことによって、画期的な調理方法が可能になり、過去の電子レンジをイメージを変える製品が続々と出てきています。

また生産技術も大きく変えてきました。さまざまな製品にマイクロプロセッサーが導入され、従来はできなかった機能を実現したり、設計や生産現場にもデジタル技術が投入され生産性や生産の多様性を大きく変えていきました。

ここでも日本企業は従来と同じく、要素技術の改善により、低コスト、高品質を武器して競争力を持ち続けようとしていきます。やはり技術進化においても改善が中心で、デジタル技術のようにまったく新しい技術にはあまりパワーを割きませんでした。また、設計、製造においては人材の高度化に力を注ぎ、デジタル化に対抗していた印象があります。これが次の局面で致命傷になり、国際社会の中で急速に競争力を失います。


◆現場主義のその後

その後、1990年くらいからインターネットが発展してきて、デジタル技術と結合し、ビジネスの様相が一変します。いわゆるIT化です。欧米企業や中国企業はITをベースにしてグローバルなビジネスに移行していく中で、戦略的なビジネスモデルを考案し、それを実装しながらグローバルに事業を展開していくという方法で競争力を高め、成長をしていきました。つまり、協力の源泉は、ビジネスモデルになったわけです。

この競争の中では、戦略やビジネスモデルをいかに最適なものにするかがポイントでした。日本企業もこの競争の中で、従来の現場主義が通用しなくなり、戦略的な経営に進もうとしていました。しかし、デジタル化で遅れていたため、ネットワークで統合するITの導入がスムーズにいかず、さらに現場の抵抗が根強く、結局、中途半端になってしまい、大きく競争力を下げることになります。

このような動向を見ていると、日本企業は現場が強いと言われてきましたが、その意味合いはだんだん変わってきたように感じます。

上に述べましたように、戦後の高度成長の中で、日本企業の現場は独特の方法で努力を重ね、高い競争力を持つようになり、現場主義を確立していきます。この競争力の背景には、単に生産技術や製品技術だけではなく、製品/サービスを実際に顧客に届けるまでに行う事業のプロセスで行う現場活動全体(いわゆる、バリュー・デリバリー・システム)で、それぞれの活動に対して自社や競合他社の強み・弱みを整理し、自社の特徴や課題を抽出し、改善してきたからだという印象があります。本当に素晴らしいものでした。

一方で、競争力が強くなるにつれて、現場出身の人たちが経営の中核に入っていき、それに伴い、徐々に現場が経営活動の中で強いパワーを持つようになってきました。

ところが、90年代に入ると、インターネットが普及し、競争力の主体が技術からビジネスモデルに変わってきます。この動きにバブルの崩壊というダメージを受けていた日本企業はついていくことができず、結果的に現場のバリュー・デリバリー・システムとしての競争力は弱まり、一方で現場の経営活動の中での力はそのまま、残りました。

その後、さまざまなやり方で経営が力を持とうとしましたが、上で述べましたように、現場の抵抗もあり、中途半端な状態に留まり、ビジネスモデル構築に適応できず、企業自体の競争力が弱まってきたのが実情だと考えられます。

今、現場主義という言葉はあまり使われなくなってきましたが、それは現場主義という言葉の意味するところは、競争力はないが、経営的なパワーはあるというイメージになっているからではないかと思っています。


◆VUCAになって現場力が再び問われるようになった

こういう流れの中で、さまざまな要因があって、VUCAな時代に入ります。VUCAはインターネットと同じくらい大きなパラダイムシフトだと考えられ、コロナで加速されるものと考えれられます。どのようにパラダイムが変わるかというと、大きな変化は以下の3つだと考えています。

(1)最適化の意味がなくなること。
(2)予測の価値がなくなること。
(3)経験の意味がなくなること。

これに伴い、戦略や計画はあまり意味と持たなくなってきました。いい意味での行き当たりばったりが求められます。そのように考えると、VUCAに適応していくには現場の力が不可欠です。言い換えると、現場を中心に事業や経営を動かしていくことが不可欠です。本来の意味での現場主義が必要なのです。


◆これまでの現場主義とこれからの現場主義の違い

ただ、VUCAの時代の現場主義は従来の現場主義とは根本的に違うことがあります。それは、経営との関係です。これまでの現場主義は、現場が力を持ち、経営は権限移譲を含め、その支援をするという位置づけでした。つまり、経営の主体は現場で、進む方向も現場が決めていました。

しかし、今、求められているのは現場と経営の一体化です。現場だけで進んでいくべき方向を決めることは困難ですが、同時に、経営だけで決めることもできません。これがVUCAの時代の特徴だといえます。

VUCAの時代には現場が最前線で動き、試行錯誤する。その結果を現場と経営が共有し、進む方向を決めていく。そして、現場はその方向に向けて、試行錯誤を重ね、その結果によって方向を変えていくというプロセスが必要です。その意味では現場と経営という区分はなく、ホラクラシー組織、アジャイル組織、ティール組織、プロジェクト型組織、などの自律分散型の組織が必要だということでしょう。

このような組織による現場活動と経営活動の一体化こそが新しい現場主義だといえます。そして、VUCAな時代に適応していくには、このような現場を創ることが一番の近道だといえます。


◆新しい現場主義の中心はパーパスである

このような組織運営をするための中核になるのはパーパスです。

従来は経営がビジョンを明確に定め、現場はその実現、実践を考えるという考え方でした。しかし、これでは現場は動きません。

かつての現場主義の源泉は、自分たちの存在意義にありました。自分たちが企業の競争や成長にコミットしているという実感があったので、現場は頑張れました。そして、技術からビジネスモデルに経営の中核が変わってきたときに、現場がついていけなかったのは逆に存在意義が分からなくなったからです。

必要なのは、人為的なビジョンではなく、本当の意味での存在意義(パーパス)を見つけ出す。そして、その企業の人全員が自然に湧き出してくるような自分たちの存在意義を見出い、企業や社会にコミットしていく。こんなパーパスが必要なのです。

このパーパスこそが、新しい現場の中核になるものです。

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