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2020年7月 1日 (水)

【VUCA時代のプロジェクトデザイン】第1回 プロジェクト2.0からプロジェクト3.0へ

バックナンバー https://mat.lekumo.biz/pmstyle/pdesign/

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◆はじめに

Pd_2VUCA時代/VUCAワールドのプロジェクトは計画的にコントロールすることが難しく、大局的な視点でコントロールしていく必要があります。そのためのマネジメントとしては、プロジェクトの構造や成果の本質に着目してプロジェクトを実現するコンセプチュアルプロジェクトマネジメントが最も適していると考えられます。

この際の問題は、どこに視点を置いてプロジェクトの大局を考えていくかです。計画によるコントロールをする場合には目標に視点を置き、目標を達成することをマネジメントの役割にしていました。

これに対して、プロジェクトを大局的にコントロールするための方法として考えられるのは、組織のビジョンやミッションなどです。あるいはもう少し具体的なレベルでは戦略もあります。中でもVUCAの今、注目されているのが、企業が自分たちの存在意義を示すパーパスです。パーパスは自分たちがなぜ存在しているか、なぜ活動しているのかを示す概念で、欧米の先進企業ではパーパスを軸にして、ビジョンやミッション、戦略、コンセプト、プロジェクト、組織や社員の行動様式まですべてを統一するという使われ方がされるようになっています。

このような動向の中で、パーパスを起点にしてプロジェクトを動かすプロジェクトマネジメントは重要性が高まっていますが、特に計画の前提を作るプロジェクトデザインのプロセスが重視されています。そこでこの連載では、パーパスを起点したプロジェクトにおけるプロジェクトデザインの方法について解説したいと思います。

今回は第1回で、概論としてVUCA時代のプロジェクトとはどのようなものか、そしてそれに適したプロジェクトマネジメントとプロジェクトデザインの方向性について考えてみたいと思います。


◆プロジェクト2.0

この連載の前段になっているのが2011年に出版した

好川哲人「プロジェクトマネジメントの基本」、日本実業出版(2011)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00KLVQ9X0/opc-22/ref=nosim

です。この本では、モノやシステムなどの有形の成果物を生み出すプロジェクト(本連載ではこれをプロジェクト1.0と呼びます)だけではなく、サービスやビジネスモデル、イノベーションなど無形の成果物を生み出すプロジェクト2.0に対するプロジェクトマネジメントをまとめています。

プロジェクト1.0ではプロジェクトの目的はあまり重要ではありません。モノが中心になり、モノを作ることが全てで、目標の一つであり、目的でもあるからです。

しかし、無形の成果物を生み出すプロジェクト2.0ではそうは行きません。成果物を厳密に定義することは難しく、生み出されたものが適切かどうかの判断が難しいからです。適切であると判断をするためには、成果物が適切にプロジェクトで求めている成果に影響することが必要です。

例えば、新商品の開発プロジェクトを考えてみます。プロジェクト1.0であれば、成果物が満たすべき機能や要求が決められており、それを如何に速く、安く作れるかが問題になります。

これに対して、プロジェクト2.0では必ずしも成果物の満たすべき条件が決まっていません。その成果物によって生み出される成果、例えば、サービスの迅速化や多様化、顧客を満足させるなどが問題になります。つまり、プロジェクトで何を成果物とするかだけではなく、その成果物によって何を成し遂げたいかを事前に決定し、できるだけそれを実現することを目的としたプロジェクトなります。ここではプロジェクト成果と成果物、目的と目標は

プロジェクトの成果=目的の実現
プロジェクトの成果物=目標(の一部)の達成

という関係になっています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

【コンセプチュアル講座コラム】仕事の成果物と成果を分けて、働き方を変える
 https://mat.lekumo.biz/ppf/2020/03/post-23d9.html


◆プロジェクトデザインとは

さて、このように考えますと、プロジェクト2.0では成果物と成果の関係のあいまいさがあり、ある意味で、望まれた成果が得られれば成果物はどのようなものでもよいとも言えます。

少し話が脱線しますが、実際に、社内や顧客の要望で行われるモノづくりのプロジェクトもプロジェクト1.0よりプロジェクト2.0の方が多いと思われます。しかし、マーケティング、開発、営業などの縦割り組織から人を出してプロジェクトを実施している限り、プロジェクト2.0と認識してプロジェクトを進めていくのはなかなか難しい課題になります。

「プロジェクトマネジメントの基本」では明示的に概念を使っていませんが、組織として望まれる成果に対して、それを生み出す成果物を決め、その成果を生み出す仕組みづくりを「プロジェクトデザイン」と言います。プロセスとしてみれば、プロジェクトデザインは解決したい課題があったときに、それをどのような形のプロジェクト(成果や成果物あるいは目的や目標)に落とし込んでいくかを決めるプロセスです。

このように考えますと、プロジェクト2.0のプロジェクトデザインの中核は事業戦略や顧客要求などのプロジェクトの実施理由からプロジェクトの目的を決めることだといえます。そして目的を実現するための目標を達成するためにプロジェクトマネジメント計画を策定し、プロジェクトを進めていきます。


◆成果と成果物の関係

重要なことは、プロジェクト2.0の成果物と成果の間にはあいまいな点があるものの、決まった関係があることを前提をしていることです。

プロジェクト1.0では正解があることが前提になっています。主に経験によるものですが、こうすれば売れる、こうすれば顧客が求めているものを作れるといったことに対して、正解があります。別の言い方をするとプロジェクト1.0はプロダクトアウトをするためのプロジェクトなのです。

ところが、プロジェクト2.0になると正解があることが前提になりません。ひょっとするとあるかもしれないのですが、経験がなかったり、あるいは考えられなかったりで、プロジェクトの立ち上げ時にこうすればうまくいくというものが考えられません。

従って、プロジェクトの目的を明確にして、情報を集めながら目的に適う成果物を設定しながらプロジェクトを進めていき、成果を生み出していくプロジェクトになります。別の言い方をするとマーケットインのプロジェクトです。

マーケットマーケットインでは、効率よく成果を取り込むために、成果物から成果を生み出す部分には仮説を置きます。そして、仮説検証しながら、妥当な成果物を作り上げていくプロジェクトです。例えば、アジャイルプロジェクトマネジメントはそのようなプロジェクトマネジメント手法になっています。

さて、最近のプロジェクトを悩ませているVUCAな時代のプロジェクトはどうでしょう。それについて考えてみる前に、VUCAについて説明しておきます。


◆広まるVUCA

この10年くらい、社会でもビジネスでも一挙にVUCAという概念が浸透してきました。VUCAは

「Volatility」(変動性:変化が激しく不安定)
「Uncertainty」(不確実性:問題や出来事の予測がつかない)
「Complexity」(複雑性:多数の原因や因子が絡み合っていること)
「Ambiguity」(曖昧性:出出来事の因果関係が不明瞭で前例もない)

の頭文字をとった言葉(概念)で、1990年代に米国陸軍で使われ始めた言葉ですが、一言でいえば、

「あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難な状態」

のことです。米国陸軍で使われるようになったのは、1990年代の冷戦終結後の複雑性が増し、将来の予測が困難な国際情勢を意味する概念としてでした。

21世紀になると軍事だけではなく、社会的に使われる概念になってきました。特に、米国の軍人であったスタンリー・マクリスタル将軍が2014年のASTD基調講演でVUCAについて述べたことが一般化の契機になっているようです。その後、2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「VUCAワールド」という言葉が使われたことにより、ビジネスの世界にも一挙に広まってきました。

日本でも2017年くらいから、VUCAについての有識者の発言が目立つようになっています。そして、主にビジネスの世界で、VUCA時代のリーダーシップやマネジメントの在り方が議論されるようになってきました。

米国陸軍で使われるようになったのは、1990年代の冷戦終結後の複雑性が増し、将来の予測が困難な国際情勢を意味する概念としてでした。

21世紀になると軍事だけではなく、社会的に使われる概念になってきました。特に、米国の軍人であったスタンリー・マクリスタル将軍が2014年のASTD基調講演でVUCAについて述べたことが一般化の契機になっているようです。その後、2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「VUCAワールド」という言葉が使われたことにより、ビジネスの世界にも一挙に広まってきました。

日本でも2017年くらいから、VUCAについての有識者の発言が目立つようになっています。そして、主にビジネスの世界で、VUCA時代のリーダーシップやマネジメントの在り方が議論されるようになってきました。


◆プロジェクト3.0に必要なマネジメント

再び、プロジェクト3.0の議論に戻ります。

プロジェクト3.0はもやはり、プロジェクト成果物と成果は別のものだと考えますが、成果物から成果を生み出すロジックすら変動しているものです。ここにVUCAな要素があるのです。

例えば、ある特徴を持った商品を提供すれば若者は満足すると考えることができるのですが、それが刻々と変わり、商品が完成したころにはがらりと変わっているようなケースです。言い換えれば、成果物から成果を生み出すところを仮説検証すらできないプロジェクトです。

こうなってくると、プロジェクト成果を実現するためのポイントは、如何に素晴らしい成果物を作るかではなく、如何にプロジェクト成果物からプロジェクト成果を生み出すかにかかってきます。もちろん、成果物に目に見えて不十分なところがあってはならないのですが、それはプロジェクト成果の前提条件であり、プロジェクト成果の成立条件ではなくなってきます。

成果物から成果を生み出すには、従来のプロジェクトデザインのように、成果物を成果に対して妥当なものにするために経営やマーケティングから落とし込んだ目的を設定するだけではなく、成果物と成果の関係を柔軟にできるようにする必要があります。PMstyleでは、ここにシナリオを持ちこむことによって、調整を可能にしています。

プロジェクト1.0のプロダクトアウト、プロジェクト2.0のマーケットインという流れで行くと、プロジェクト3.0は企業や顧客が本当に必要としているものを見つけ出し、ニーズを理解した上で一から事業を組み立てていくという考え方であるマーケットアウトになります。

◆関連セミナー

パーパス・ドリブンのコンセプチュアルプロジェクトマネジメントの上流になるプロジェクトデザインについて学ぶZOOMオンラインセミナーです。


━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「パーパス」でプロジェクトを動かす
         ~VUCA時代のプロジェクトデザインの実践的方法◆
日時:2020年12月03日(木) 13:30-17:00、12月 04日(金) 13:30-17:00
    ※少人数、双方向にて、演習、ディスカッションを行います
場所:ZOOMによるオンライン開催
講師:好川哲人(エム・アンド・ティ コンサルティング代表)
詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_pm.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス
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【カリキュラム】
<第1日>
1.パーパスとプロジェクトデザイン
2.パーパス実現のシナリオ創り
3.成果と成果物を明確にし、プロジェクト目的と目標を決める
<第2日>
4.シナリオからプロジェクトコンセプトを創る
5.成果を実現する本質要求を見極める
6.成果物を実現する本質目標を決定する
7.環境変動時のプロジェクトマネジメントの対応
8.VUCA時代に求められるプログラム&プロジェクトマネジメント
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