社会問題 Feed

2007年11月26日 (月)

そのときエンジニアは何をすべきか

4627973217 Alastair S Gunn/P Aarne Vesilind(藤本 温、松尾 秀樹訳)「そのとき、エンジニアは何をするべきなのか - 物語で読む技術者の倫理と社会的責任」、森北出版(2007)

お薦め度:★★★★1/2

(原題:The Engineer's Responsibility to Society)

アメリカとニュージーランドで流通している技術倫理の教科書の邦訳。建築士によるマンションの安全偽装問題以来、技術倫理への関心が高まってきているが、学習するのにあまり適切な本がない。この本も、教科書として作られているので、基本は先生が教材として使うものだが、
・基幹部分が小説になっている
・その中で、ポイントになるところが、囲みコラムで分かりやすく書いてある
・議論すべきポイントを課題としてかなり具体的に提示してある
の3つの特徴があるので、独学のテキストとしても十分に使える内容である。

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エンジニアとして順調にキャリアをのばすクリス。クライアントからの贈り物、東南アジアでのリゾート開発、海外で仕事をするうえでの職業文化の違い、ヘッドハンティングなど、さまざまな経験を積んでいた。充実した日々を送り、確実に業績を上げていたかにみえたある日、構造的な欠陥の疑いを、クリスがその完成前に指摘していたホテルが、重大な問題を引き起こすことに…。岐路に立たされたエンジニア、そのとき彼は何を優先するのか。

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日本の企業に勤務する人が読むのであれば、エンジニアが遭遇する問題というよりも、プロジェクトマネジャー(特に、プレイングマネジャー、リーダー)がよく遭遇する問題が多い。その意味で、エンジニアはもちろんだが、プロジェクトリーダーの人、あるいはすべてのプロフェッショナルに読んでほしいと思う。

プロジェクトマネジャーに関していえば、PMIでもプロフェッショナルの倫理規定を定めている。この内容を見て、なぜ、そのような規定があるのか理解できない人は、この本を読んでみることをお勧めする。

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2007年11月19日 (月)

プロジェクトは大義と共感

4828413510 小池百合子「小池式コンセプト・ノート―プロジェクトは「大義と共感」で決まる!」、ビジネス社(2007)

お薦め度:★★★★

小池百合子議員がクールビスプロジェクトをどのように進めていったかを、コンセプトづくり、「大義と共感」をキーワードに振り返っている。副題になっているとおり、「大義と共感」が問題だったと振り返り、小泉郵政解散の際の刺客騒動についても、同じ発想が成功をもたらしたと振り返る。

クールビスについては、膨大なプロモーション費用が問題になったが、急速に広まっていったのは事実である。仕事がら、顧客企業にいくことは多いが、最初の年は行く先々でネクタイをしたり外したりしていたが、2年目になると、ほとんどネクタイをすることはなくなった。商品のプロモーションと違い、コストをかければ成果に直結するという類の問題ではないように思うので、本当にコンセプトの勝利だといえるだろう。

そのコンセプトを作った舞台裏をかなり詳細に書いているので、興味深いし、また、参考にもなる。

ステークホルダが多く、複雑なプロジェクトの企画やマネジメントを担当している方にはぜひ、読んでほしい。

タイトルから「大義」というは政治ならではの話だと感じる人も少なくないと思う。しかし、大義というのはビジネスでも非常に効果がある。本質的にも、現実的にも、大義のないプロジェクトに協力する人もいないし、特にプロジェクトが苦境に陥ったときには大義は重要である。

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2007年10月 5日 (金)

対話

4862760171 デヴィッド・ボーム(金井真弓訳)「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★★

日本語で「話せば分かる」という言い方がある。この場合の「話す」とはどういう意味であろうか?

北朝鮮拉致問題で「対話と圧力」ということが言われている。世界中の紛争のあるところで、政策対話というのが行われている。この場合の「対話」とはどんなものだろうか?

この問題に対して深い洞察をしたコミュニケーション論の名著、「On Dialogue」という本がある。著者は物理学者にして20世紀の偉大な思想家の一人だとも言われるデヴィッド・ボームである。1996年に出版されたこの本は、2004年に第二版が出版されたが、第2版の邦訳が今回、英治出版より出版された。

419860309x ダイアローグというと真っ先に思いつくのが、この本の前書きを書いているピーター・センゲの学習する組織である。ピーター・センゲは学習する組織には、「パーソナル・マスタリー」「メンタルモデル」「システム思考」「共有ビジョン」とともに、ダイアログが必要だといっている。少し、センゲの組織学習論を書いた「最強組織の法則」から抜粋する。

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ダイアログの目的は、探求のための「器」もしくは「場」を確立することによって新しい土台を築くことである。その中で参加者たちは、自分たちの経験の背景や、経験を生み出した「思考と感情のプロセス」をもっとよく知ることができるようになる。
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この本を読んだことのない人は、ちょっとよく分からないと思うだろう。ダイアログというのは、いわゆる「話し合い」ではないのだ。コミュニケーションそのものである。「On Dialogue」によると、

対話の目的は、物事の分析ではなく、議論に勝つことでも意見を交換することでもない。いわば、あなたの意見を目の前に掲げて、それを見ることなのである

となる。もっと分からないかもしれない。対話ではWin-Winの関係を作ることが目的ではなく、不毛な競争をしないこと、共生することが目的なのだ。

そんな発想がビジネスに必要かと思った人も多いだろう。日本のビジネス慣行というのはもともと、ダイアローグを礎にしている。ただし、価値観の変わってくる中でダイアローグが行われてこなかった。このため、談合だとか、おかしな問題が出てきている。そこをもう一度、再構築するためには、文字通り、ダイアローグが必要だ。

そんなことには興味がないという人。あなたのお客様や上司と「話せば分かる」関係になりたいと思いませんか?思うのであれば、この本を読んでみましょう!

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2007年9月22日 (土)

組織の失敗のプラクティス

4103054719 上杉隆「官邸崩壊 安倍政権迷走の一年」、新潮社(2007)

政治に詳しいわけではないが、2007年9月12日の、あのような職務放棄が簡単にできるのかに興味を持ってニュースを見ていると、本書の著者上杉隆氏がいろいろと本質的なことを言われていたので、読んでみた。

読んでみた感想は、9月12日は決して異常ではなかったということだ。事の重大さの違いはあれ、安部総理やチーム安部がこの1年間にとってきたスタンスと全く同じスタンスで今の局面打開を考えたときに、このような結論に行き着くのは、不自然でもないし、際立った無責任でもない。

参議院選挙の後で、好意的な論評をする評論家は、「政策的な実績はみるべきものがある、政策以外のところで足を引っ張られた」といっている人が何人かいた。

一般企業でいえば、経営戦略は適切、マーケティングも適切だったが、営業マンが一生懸命やらなかったから失敗した。といっているようなもので、ナンセンスだ。ただし、政治家は、組織人と異なり、一人ひとりが国民の代表という看板主であることを考えると、ある程度、安部首相は気の毒だという意見もわからなくはない。

ただ、この本を読んでみてはっきりわかったのは、安部首相が目指したのはチームによる政治の運営である。にもかかわらず、その点で決定的な失敗をし、数々の無様な結果を生み出したことはチームリーダーの責任以外の何もでもないだろう。

その失敗の本質は、日本型組織で、人心をかえることなく、欧米流の組織運営をしようとしたところにある。欧米の組織運営の特徴は明確なガバナンスにあり、日本の組織運営の特徴は自己責任と非公式組織による緩やかなガバナンスにある。その意味では、政界のあり方に近い。

ガバナンスというのは仕組みの問題だけではなく、それを受け入れる従業員側の問題でもある。つまり、一人ひとりの考え方を変えないと、ガバナンスの効いた組織はできない。

これを地で行って失敗したのが、チーム安部であるというのがこの本でよくわかる。

2007年7月11日 (水)

幻の組織構築論

4047100919 山本七平「日本人と組織」、角川書店(2007)

お奨め度:★★★★1/2

日本人論の金字塔だといわれる「日本人とユダヤ人」などの著書で多くの読者を持つばかりでなく、日本型組織論、日本型経営など、多くの分野での研究に多大な影響を与えている日本研究者山本七平先生の幻の組織論といわれる原稿がついに書籍化された。

この本は70年代にかかれたものである。従って、書かれていることについてはある程度、結論が出ていることも多い。その中にはもちろん、現実となっていない論考もあるが、重要なところでは恐ろしく当たっている。

組織のコミットメントに宗教(神)の議論を持ち込み、日本人の組織観の特殊性を説明したのが山本先生である。この本に書かれている大枠の話は他の研究者や評論家によって引用されることが多く、有名なものが多いのだが、この本を読むと、その背景の考え方が非常によくわかる。

この10年くらい、日本の企業も山本先生の描かれた日本型組織から徐々に外れつつあるが、そこに大きな軋みが生じつつある。なぜ、軋みが生じるか、どのように改革すればよいのかを明確に示されている本書は、このような時代であるからこそ、一読の価値があるといえよう。

マネジメントに関わるすべての人に一読することをお奨めしたい。

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2007年4月20日 (金)

クリエイティブ・クラスを目指そう!

447800076x_01__sclzzzzzzz_v23679609 リチャード・フロリダ(井口典夫訳)「クリエイティブ・クラスの世紀~新時代の国、都市、人材の条件」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

リチャード・フロリダは都市経済学者である。フロリダによると、今、経済はクリエイティブ・クラスと呼ばれる人材がリードするという時代に入ったという。本書はその論文である。

クリエイティブ・クラスというのをひと言で言うのは難しいが、新しい概念ではない。15年前にピーター・ドラッカーがナレッジワーカーの時代であると指摘したが、クリエイティブクラスそのものはナレッジ・ワーカーである。

ただし、ナレッジワーカーの中で、リードしていける、イノベーションを引き起こすることのできるナレッジワーカーであり、フロリダの主張はそのようなクラスのナレッジワーカーが経済を引っ張り出しているというのだ。

ドラッカーのいうように、いまや、先進国におけるほとんど仕事は知識労働になっている。言い換えると、労働者の多くはナレッジワーカーである。知識労働における価値の増大はイノベーションが全てであるといってもよい。そう考えると、この流れは自然な流れである。

表紙で紹介されているカーデザイナーの奥山清行氏の言葉が印象的である。

「トヨタの成功の理由は製造現場のクリエイティブ・クラスにある」

マネジャーのクリエイティブ・クラスとは、通常ではできないような目標をイノベーションによりクリアしていくような人材であろう。クリエイティブであるかどうかが、これからのマネジャーの評価基準になることをこの本は教えてくれる。

特に30代の人は時間をとってでもじっくりと読んでみて欲しい。人生観が変わるかもしれない。

2007年2月27日 (火)

リーダーシップの旅

433403389x_01__aa240_sclzzzzzzz_v4457439_1 野田 智義、金井 壽宏「リーダーシップの旅 見えないものを見る」、光文社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

ILSというNPOを立上げ、次世代のリーダーの輩出に取り組んでいらっしゃる野田智義先生と、日本のリーダーシップ論の第一人者である神戸大学の金井先生のコラボレーションによるリーダーシップ論。

野田先生のリーダーシップ観はサーバントリーダーシップの色合いが濃いが、そこに金井先生もいろいろな視点から意見を述べ、全体としては非常にダイバシティーの強いリーダーシップ論の本になっている。

この本の評価というか、サーバントリーダーシップへの評価は分かれると思う。ちょっと気になってアマゾンの書評を見たが、期待を裏切らず、全面否定派と全面肯定派が登場していた。僕はもちろん、全面肯定派である。

リーダーシップの獲得過程を「旅」というメタファーにしているのは、非常に興味深い。リーダーシップ研修などいろいろなリーダーシップ開発の方法はある。効果も出ている。しかし、この本で野田先生と金井先生が訴えているリーダーシップは、誰かに教わるものではなく、自分自身が選択をし、生きていく中で初めて身につくものだ。そのプロセスを旅に例えているが、まさに、旅であり、この本は旅のガイド本でもある。この本の最終章は「返礼の旅」と名づけられている。この中に野田先生の印象的なコメントがあるので、抜粋しておく。

心からの熱い思いがあり、何かを実現したいと夢や志を真剣に語る人に、周囲の人は喜んで手助けをしてくれる。リーダーシップの旅を歩む私たちは、人に助けられ、支えられる中で、自分が人を活かしているのではなく、人に自分が活かされている、そしてそのことによって、自分はさらに行動できるのだという意識を持つ。
利己と他利が渾然一体とはり、「自分のため」が「人のため」、「人のため」が「自分のため」と同一化する中、リーダーは自分の夢をみんなの夢に昇華させる。

何度読んで素敵な言葉である。さらに、こう続く。

リーダーはリーダーシップの旅の中で、大いなる力というギフトを授かる。旅を続けられること、それ自体がギフトでもある。私たちはもらったギフトを他人と社会に返す責務を負う。(中略)。ギフトを社会に返す中で、私たちはさらに真の意味での社会のリーダーへと成長する。

この本を読むときには、野田先生の訳されたスマトラ・ゴシャールの名著

意志力革命

を併せて読まれることをお奨めしたい。

2006年10月 1日 (日)

心地よい格差社会

482224542x01 小林由美「超・格差社会アメリカの真実」、日経BP社(2006)

お奨め度:★★★★

この1年くらい、政争の具に使われている「格差問題」。この議論を聞いていて、なんとなく釈然としない部分がある。それは、格差があることが良いことか悪いことか、それとも、そういう次元の議論ではないのかである。

僕自身の考えをはっきりいえば、格差があるところで、すべての人が幸福感を感じることができるのが政治ではないかと思う。そのように考えたときに、格差を是正すると言う言葉で表現しようとしているものが、富の再配分を意味しているのか、格差を前提として平等な社会を作ろうとしているのかすら明確にならないままで、格差という言葉が独り歩きしているような印象が強い。

この本では、超金持ちと、仕事のプロと、貧乏人と、社会的落ちこぼれしかいないといわれる米国社会の実態をデータに基づいて描き出してるととにも、社会に格差が定着していく一連の流れの中で政治のスタンスを分かりやすく分析している。

さらに、それでもなぜ、アメリカという国は心地よいのかという分析と行っている。この章がたいへん、興味を引いた。

この分析のポイントはスピード感である。自民党総裁選でしばしば話題になった再チャレンジを見ているといかにも日本的でうんざりしてくる。それはスピード感がないことだ。例えば、30歳でトップ手段を走っていた人が何らかの挫折をした人が40歳までの10年間頑張り、再び、トップ集団に並ぶところまできた。日本人的にはよく頑張ったということになるだろう。実際に今まであまり見られなかったことだし、再チャレンジということになるのだろう。このようなプロセスを支援するというのは、いわゆる勝ち組が単に優越感を持って負け組みを支援しているだけだ。

再チャレンジが可能な社会というのはこういうことではないと思う。失敗した人が、自身の才覚で成功した人を抜きさる。これが再チャレンジが可能な社会だと思う。例えば、ベンチャー企業を起こして失敗した。経営者の資質に疑いがなければ、負の資産を持たないままで、再び、再起の機会を与えられることが再チャレンジだろう。

これは日本人の国民性からは許しがたい部分がある。まずは負の資産をきれいにするところから始めるべきだと思うとなる。この部分がある限り、米国のようになることは難しいなということを痛感した一冊だった。

ただし、この本には第8章に面白い問題提起がある。米国のモデルがグローバリゼーションに耐えられるかという問題だ。ぜひ、本書を読んで確認してみてほしい。

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