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2009年2月 9日 (月)

薄っぺらな自己啓発書に飽きた人に!

4903212106 ラルフ・ウォルドー・エマソン(伊東奈美子訳)「自己信頼[新訳] 」、海と月社(2009)

お奨め度:★★★★★

1841年に出版されたエマソンのエッセイ集「Self-Reliance」の翻訳。自己信頼というのはこの言葉の訳で、心理学の分野なのでも言葉として定着している。

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2008年5月24日 (土)

ジョン・ネスビッツは、何をみて、どう考えているか?

447876106xジョン・ネスビッツ(本田 直之監修、門田 美鈴訳)「マインドセット ものを考える力」、ダイヤモンド社(2008)

お薦め度:★★★★★

マインドセットは

経験、教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態

という意味でつかわれる言葉である。人間の思考様式や、心理状態というのは一面的に捉えることはできず、多面的にとらえるために、「セット(集合)」として認識される。

まず、このマインドセットの言葉の意味を念頭において欲しい。

さて、本書は世界の未来像を描き、社会に大きなインパクトを与えた「メガトレンド」の著者、未来学者ジョン・ネスビッツが書いた未来を読み解くためのマインドセットを書いた本である。

序文の中で、ネスビッツは、私には未来が予測でき、多くの人には予測できない理由はマインドセットの違いにあると指摘し、このマインドセットを身につければ、ジョン・ネスビッツのごとく、未来を予測できると説く。

さて、そのマインドセットとは以下の11である。

マインドセット1 変わらないもののほうが多い
マインドセット2 未来は現在に組み込まれている
マインドセット3 ゲームのスコアに注目せよ
マインドセット4 正しくある必要はないことを理解せよ
マインドセット5 未来はジグソーパズルだ
マインドセット6 パレードの先を行きすぎるな
マインドセット7 変わるか否かは利益次第である
マインドセット8 物事は、常に予想より遅く起きる
マインドセット9 結果を得るには、問題解決よりもチャンスを生かすべし
マインドセット10 足し算は引き算の後で
マインドセット11 テクノロジーの生態を考える

社会的な問題だけではない。たとえば、自分の会社の将来の姿を見たいとき、自分の事業の先を考えてみたいとき、この11の視点から考えることによって、適切な未来像が見えてくるだろう。

第2部では、この11のマインドセットを用いて、実際にジョン・ネスビッツが未来図を描いてみせている。メガトレンドと似ているものもあるが、この本のマインドセットの解説を読んでから読んでみると、また、別の面白さがある。

ついでだが、この本、「レバレッジ・リーディング」の著者、本田直之氏の監訳で、コメントを寄せている。このメッセージを読むと、レバレッジ・リーディングってこういうことかって分かる(笑)。

最後にもう一つ、おまけ。本書に併せたわけでもないだろうが、未来のリーダーシップ論として、ピーター・センゲの「出現する未来」とともに注目されているハワード・ガードナーの「Five Minds for the future」が翻訳された。

4270003308ハワード・ガードナー(中瀬 英樹)「知的な未来をつくる「五つの心」」、ランダムハウス講談社(2008)

この本もいずれ書評しようと思うが、この本は、未来のリーダーは

・熟練した心
・統合する心
・想像する心
・尊敬する心
・倫理的な心

の5つのマインドセットが必要だと説いている。未来リーダーを目指す人は併せて読んでみてほしい。

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2008年4月14日 (月)

創造力を生かす

4422100432 アレックス・オスボーン(豊田晃訳)「創造力を生かす」、創元社(2008)

お薦め度:★★★★★

アレックス・オズボーンの名前は一度くらい聞いたことがあるのではないだろうか?オズボーンの名前を聞いたことがなくても、ブレーンストーミングという発想法であればだれでも知っているだろう。ブレーンストーミングは、1938年、当時、広告代理店の副社長だったオズボーンが考案した発想法である。ちなみに1938年は昭和13年である。

そのオズボーンが、創造力の発揮をテーマに1948年に書いた本がある。「Your Creative Power」という本。この本は日本では、1969年に創元社から「創造力を生かせ」というタイトルで紹介された。

この本、筆者が大学の専門課程の最初の年に教科書として使ったのが出会いで、それ以来だから30年近いファンということになる。今年になって、この本の新装版が出た。今までも、この本はよく紹介していたが、よい機会なので、ブログで取り上げておきたい。実は、もう、どんな本をブログで取り上げたかはっきりとした記憶がないのだが、おそらく、この本がブログで取り上げた本の中で、もっとも古い本だと思う。

分野を問わず、行動原則についてまとめて書いた本でもっとも多くの人に読まれているのは、デール・カーネギーの「人を動かす」、比較的、新しいところでは、スティーブン・コヴィーの7つの習慣だと言われている。

4422100513 4906638015デール・カーネギー(山口 博訳)「人を動かす 新装版」、創元社(1999)

スティーブン・コヴィー、ジェームス・スキナー(川西 茂訳)「7つの習慣―成功には原則があった!」、キングベアー出版(1996)

この2冊はリーダーシップに関する行動原則について書いた本である。

オズボーンの本は、これらの匹敵するくらい多くの人に読まれている本である。これを見ると、やはり、組織にとっての2大課題がリーダーシップと創造であることを物語っているように思え、興味深いところだ。

しかし、日本でオズボーンの名前を知る人はそんなに多くないと思う。オズボーンの名前を知らなくても、ブレーンストーミングを知っているのは日本くらいではないかと思うが。

そんな本であるが、創造についてすべてが書かれている本といっても過言ではない。内容をおおまかに分けると、まず、創造力が何をもたらすか、そして、創造力とはどのようなものなのかといったあたりを中心にした概論が述べられている。具体的な構成でいえば

アラジンのランプは今も輝く
創造的努力の報いは大きい
創造力を持たぬものはない
創造力は教育や年齢には関係がない
創造力は場所を選ばない
イマジネーションの種類
創造的イマジネーションの種類
創造力のランプを満たす油

といったあたりである。

そして、次に、創造力を高めるためのさまざまな工夫や手法、テクニックについて述べられている。ここには

連想力は記憶とイマジネーションを結ぶ
創造力を推進する感情的な力
意志のあるところアイディアあり
判断力はアイディアを殺すことがある
自己の創造力をそこなわないこと
創造的な努力は賞賛を好む
創造力の訓練は楽しい
まず肚をきめること
目標を定めよう
問題を分析し事実を挿入する
試案を得る
利用法を考える
借用を翻案
一ひねり変化させてみよう
拡大しよう
縮小しよう
置き換えてみよう
配置換え・再調整をしよう
反対を考えてみよう
結合させる
心の窓をあげて精神を遊ばせよう
幸運の女神は絶えず追う者にほほえむ

のようなタイトルが並んでいる。さらには、チームや組織による創造についても言及をしている。また、社会的な扱いについても触れている。

アイディアはアイディアの上に成り立つ
「三人寄れば文殊の知恵」か?
アイディア創造のふさわしいチームの作り方
提案制度
創造的力は人生を明るくする
統制における創造力
科学における創造力
教育界への要望

ということで、よいとか、悪いとかいう次元の本ではないので、書評は避けるが、とにかく、この本をきっちり一冊読めば、上にあげた本と同じく、間違いなく、世界が変わる本であることは間違いない。

もちろん、ブレーンストーミング(この本ではブレーンストーム会議)についてもたびたび、言及されているし、ブレーンストーミングとはそもそも何なのかということを感じることができるので、そのようなニーズで読んでいるものいいだろう。

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2007年10月28日 (日)

一体感をめぐる冒険

4862760120 ジョセフ・ジャウォースキー(金井壽宏監修、野津智子訳)「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

この記事で500エントリーになる。500エントリー目に残しておいた本を紹介しよう。「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」。

ジョセフ・ジャウォースキーという「アメリカンリーダーシップフォーラム(ALF)」というリーダーシップ開発の団体を立ち上げた人物が、自叙伝の形で述べているリーダーシップの旅についてかいた本。

もともと、弁護士で、若くして法律事務所を立上げ、成功した著者は、リーダーシップの状況に問題意識を持ち、社会的起業家としてALFの立上げを決意する。それに集中していく中で、どんどん、離婚をし、ALFを立ち上げるまで、シンクロニシティに身を任せ、紆余曲折の中を進んでいく。その中で、自身、リーダーシップをめぐる旅をし、いろいろな人と出会い、いろいろなことを学び、仲間に巻き込んでいく。その中に、この本と一緒に英治出版が翻訳を出版したデヴィッド・ボームがいる。

デヴィッド・ボーム(金井真弓訳)「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)

ALFが軌道に乗ったころ、シナリオプラニングと出会い、請われて、シェルグループのシナリオプラニングのリーダーとなる。その後、この本には出てこないが、金井先生の解説によるとMITの組織学習でコアメンバーとしての役割を果たし、現在はジェネロンコンサルティングを率いて、U理論を世に知らしめることに尽くしているとのこと。

この本の後の活動は、こちらの本を読めばよいだろう(超・難解!)

ピーター・センゲ、オットー・シャーマー、ジョセフ・ジャウォースキー、ベティ・フラワーズ(野中郁次郎, 高遠 裕子訳)「出現する未来」、講談社(2006)

非常に不思議な読後感の残る本である。僕は、この本は金井先生が話題にされているのを何度かお聞きしたし、ジョセフ・ジャウォースキー氏のリーダーシップの旅の根幹を成している、サーバントリーダーシップ、ダイアローグ、U理論という概念を齧っていたので、リーダーシップの本として読んだ。難しい本なので、どれだけ、ジョセフ・ジャウォースキー氏がこの本に託したメッセージが読めているかはよくわからないが、感じるものは多々あった。

ただ、これを前提なしに読めば、副題にある「未来を作るリーダーシップ」というのはきっとピンと来ないのではないかと思う(もちろん、僕なんかに較べるとはるかに洞察力に優れた人はそんなことはないだろうが)。そんなときに、リーダーになりたいと思うあなたが、偶然、このブログ記事を読んだことの意味をかんがえてみて欲しい。ここにも、この本でいうところのシンクロニシティ(共時性;因果関係では説明できない、偶然にもほぼ、時を同じくして生じる事象があること)があるのかもしれない。

併せて、お奨めした本が2冊ある。1冊は、この本で金井先生が紹介されているが、野田さんという方がリーダーシップの旅について書かれた本。

野田 智義、金井 壽宏「リーダーシップの旅 見えないものを見る」、光文社(2007)

もう1冊は、表現の手法は違うが、同じような視点から大規模な調査をした結果をまとめたこの本。

ビル・ジョージ、ピーター・シムズ(梅津祐良訳)「リーダーへの旅路―本当の自分、キャリア、価値観の探求」、社会経済生産性本部(2007)

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2007年10月 5日 (金)

対話

4862760171 デヴィッド・ボーム(金井真弓訳)「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★★

日本語で「話せば分かる」という言い方がある。この場合の「話す」とはどういう意味であろうか?

北朝鮮拉致問題で「対話と圧力」ということが言われている。世界中の紛争のあるところで、政策対話というのが行われている。この場合の「対話」とはどんなものだろうか?

この問題に対して深い洞察をしたコミュニケーション論の名著、「On Dialogue」という本がある。著者は物理学者にして20世紀の偉大な思想家の一人だとも言われるデヴィッド・ボームである。1996年に出版されたこの本は、2004年に第二版が出版されたが、第2版の邦訳が今回、英治出版より出版された。

419860309x ダイアローグというと真っ先に思いつくのが、この本の前書きを書いているピーター・センゲの学習する組織である。ピーター・センゲは学習する組織には、「パーソナル・マスタリー」「メンタルモデル」「システム思考」「共有ビジョン」とともに、ダイアログが必要だといっている。少し、センゲの組織学習論を書いた「最強組織の法則」から抜粋する。

=====
ダイアログの目的は、探求のための「器」もしくは「場」を確立することによって新しい土台を築くことである。その中で参加者たちは、自分たちの経験の背景や、経験を生み出した「思考と感情のプロセス」をもっとよく知ることができるようになる。
=====

この本を読んだことのない人は、ちょっとよく分からないと思うだろう。ダイアログというのは、いわゆる「話し合い」ではないのだ。コミュニケーションそのものである。「On Dialogue」によると、

対話の目的は、物事の分析ではなく、議論に勝つことでも意見を交換することでもない。いわば、あなたの意見を目の前に掲げて、それを見ることなのである

となる。もっと分からないかもしれない。対話ではWin-Winの関係を作ることが目的ではなく、不毛な競争をしないこと、共生することが目的なのだ。

そんな発想がビジネスに必要かと思った人も多いだろう。日本のビジネス慣行というのはもともと、ダイアローグを礎にしている。ただし、価値観の変わってくる中でダイアローグが行われてこなかった。このため、談合だとか、おかしな問題が出てきている。そこをもう一度、再構築するためには、文字通り、ダイアローグが必要だ。

そんなことには興味がないという人。あなたのお客様や上司と「話せば分かる」関係になりたいと思いませんか?思うのであれば、この本を読んでみましょう!

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2007年2月 2日 (金)

ミンツバーグのエッセンス

4478307040_01__aa240_sclzzzzzzz_ ヘンリー・ミンツバーグ(DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー編集部)「H・ミンツバーグ経営論」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★★

異端の経営学者ミンツバーグの

マネジャーの仕事

戦略サファリ

などの代表的な著書から、経営論として編集しなおした一冊。

ミンツバーグの素晴らしさは、無理やり答えを出さず、ありのままでのものごとを見て、考察をすることである。学者とは本来こうあるべきだろうが、やはり、結論ありきの「戦略的仕事」をする学者の方が圧倒的に多い中で、異端の存在だといえる。鬼才 トム・ピーターズはミツバーグを20世紀最高の経営思想家だと評している。

一ツ橋大学の伊丹先生は

唯一最善解はない。ミンツバーグは子どもの目を持ち、老大家の頭を持った、異能の人である。彼の論考に制激されて、読者の頭脳もさまざまな汗をかくであろう。

と称している。最近はだれもがマネジメントには正解はないという。しかし、実感を持ってこの言葉を語る人は10人に1人もいればいいところだろう。9人の人は正解を求めたがる。するとアプローチを誤り、失敗する。

ミンツバーグはその豊富なフィールドワークから、その証拠をいやというほど見せ付けてくれる。そんな一冊でもある。マネジメントに正解はないということを本当に感じたい人はぜひ、読んでみてほしい。読んだ瞬間から、世界が変わるだろう。

この本でミンツバーグに共感できたら、ぜひ、この本を読んでみてほしい。この本にミンツバーグの思想の全てがあるのではないかと思う。

4478170258_09__aa140_scmzzzzzzz_ ヘンリー・ミンツバーグ(北野利信訳)「人間感覚のマネジメント―行き過ぎた合理主義への抗議」、ダイヤモンド社(1991)

版元の絶版で、アマゾンではトンでもない価格がついている一冊だが、本物のマネジャーを目指す人であればこれだけのお金を出しても意味があるだろう。

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2007年1月26日 (金)

影響力の武器

4414302692_09__aa240_sclzzzzzzz_ ロバート・チャルディーニ(社会行動研究会訳)「影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか」、誠信書房(1991)

お奨め度:★★★★★

1週間くらい前にこの本がアマゾンのビジネス書ランキングベスト10に入っていてびっくりした。見ると、なんと50人以上の★★★★★が並んでいるが、いま、15年以上前の本がなぜと思った。反面、そうかと思った部分があるので、ビジネス書の杜で取り上げた。おそらく、このブログで取り上げている本の中ではもっとも古いものだと思うが、時代に関係なく、★★★★★である。

この本を読んだのはもう10年以上前である。MBAに行っているときに、マーケティングの講義の課題図書になり、レポートを書いた。MBAの2年間で読んだ本はおそらく100冊くらいになると思うが、その中でも印象深い1冊である。

セールスマン、募金勧誘者、広告主など承諾誘導のプロの世界で、「承諾」についての人間心理心理学の視点から、人に影響を与えるにはどうすればよいかを体系立てて説明している。

この本では、豊富な実験結果や実例に基づいて、影響力を受けるパターンを以下の6つに整理している。

・返報性
 人間は他人から何かを与えられたら自分も同様に当たる様に努力する
・一貫性
 人間は自分の言葉、信念、態度、行為を一貫したものにしたいと考える
・社会的証明
 人間の多くの振る舞いは、他人を模倣する傾向にある
・好意
 人間は自分が好意を感じている知人に対してイエスと言う傾向がある
・権威
 人間は権威者に対して思考せずに服従する傾向がある
・希少性
 人間は機会を失いかけるとその機会をより価値のあるものとみなす

これらの6つのパターンを活用して、人に影響を与えようというのがこの本の主張。

リーダーシップ、ファシリテーションなど、人に影響を与えることが注目されている今の時代に、そんなに難しくなく、かつ、きちんとした理論を身につけるには絶好の一冊だといえる。

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2006年11月 7日 (火)

「実行」とは何か

453231037709_2 ラリー・ボシディ、ラム・チャラン(高遠裕子訳)「経営は「実行」―明日から結果を出す鉄則」、日本経済新聞社(2003)

お奨め度:★★★★★

物事をきちんと行うための体系的なプロセスを「実行」というコンセプトのもとに、失敗例、成功例をまじえて解説した一冊。

著者のラリー・ボシディはハネウエル・インターナショナルの前会長で、GEのジャック・ウェルチなどにも大きな影響を与えた経営者である。

この本では、実行を

実行とは体系的なプロセスであり、戦略に不可欠である
実行とはリーダーの最大の仕事である
実行は企業文化の中核であるべきである

だと位置づけ、何をどうするかを厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を求める体系的なプロセスだと定義している。非常に良く分かる。

昨今、実行ということが盛んに言われるようになってきたが、概念的に実行を唱えるだけではなく、もう少し、体系的、論理的にアプローチをしたい人にはぜひお奨めしたい一冊である。

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2006年10月16日 (月)

プロジェクトマネジメントはサイエンスかアートか

487311299001 スコット・バークン(村上 雅章訳)「アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法」、オライリー・ジャパン(2006)

お奨め度:★★★★★

著者がマイクロソフトで養ったプロジェクトマネジメントの技を披露した本。ソフトウエアプロジェクトの本だと、必ずといってもよいくらい、開発マネジメントのテクニカルな話題に重心が置かれるが、この本は違う。目標のマネジメント、人のマネジメント、組織のマネジメント、コミュニケーションのマネジメント、アイディアのマネジメントなど、本来のプロジェクトマネジメントのイシューを中心にして組み立てられている。具体的な内容は、目次を参考にしてほしいが、開発マネジメントについても、手法ではなく、仕事の進め方としてのポイントが書いてある。

ソフトウエア開発プロジェクトは、ハードウェアのプロジェクトとは違うと主張する人がよくいる。プロジェクトファシリテーションなどが妙にはやっているのもその流れだと思割れる。

しかし、この本を読んでいると、決してそんなことはないと思い知らされるだろう。ソフトウエアという商品の特性は確かにある。

しかし、そこで必要なマネジメントはハードウェアや、ソフトウエア以上にソフト的なサービス開発プロジェクトとなんら変わらない。マイクロソフトという会社のやり方は昔から何かと批判の対象になることが多かった。古くはDOSをめぐるビジネスのスタンス、Windowsに代表されるGUI環境ビジネス、最近ではインターネットへのアプローチなどだ。しかし、結局、最後に勝つのは、MSだった。

その秘訣はマネジメントがビジネスを意識したものであることと無縁ではないだろう。この本は、プロジェクトマネジメントに関心を持つ人に読んでほしいのはもちろんだが、もう少し、広く、マネジメントに関心をもつ人にもぜひ読んでほしい一冊である。ソフトウエアエンジニアリングの知識がない人が読んでも分からないところは少ないだろう。

マーケティングは50%がアートで、50%がサイエンスだといわれる。プロジェクトマネジメントもそういった側面がある。特に、MSが展開しているようなビジネスを強く意識したプロジェクトマネジメントはアートの要素が多い(エンジニアの人は自分たちの領域の方がアートの要素が多いと思っているかもしれないが、それは勘違い)。

その意味で、この本に書いてあることはまさに、プロジェクトマネジメントのアートの部分だ。

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2006年7月 2日 (日)

Presence

406282019601 ピーター・センゲ、オットー・シャーマー、ジョセフ・ジャウォースキー、ベティ・フラワーズ(野中郁次郎, 高遠 裕子訳)「出現する未来」、講談社(2006)

お奨め度:★★★★★

人格の成長を前提とした問題解決を行うU理論を中心にして、個人や企業の在り方を問う一冊。

久しぶりの5つ星。「The Fifth Discipline」(邦訳「最強組織の法則」)を書いた組織学習のグル ピーター・センゲの新著。15年前に「The Fifth Discipline」を最初に読んだときには、何かよく分からなかった。学習する組織には

システム思考(systems thinking)
自己マスタリー(personal mastery)
メンタル・モデルの克服(mental models)
共有ビジョン(shared vision)
チーム学習(team learning)

の5つのディシプリンが必要だという理論を目の前にして、一つ一つの要素の意味と、組織学習の関係はなんとなく分かるが、この5つといわれたときに、ピンとこなかったのをよく覚えている。その後、何度か読み直して、本当に分かったのは、守部信之氏による翻訳本を読んだときだった。これは一つには言葉の壁があった。例えば、masteryという言葉があるがこの言葉は日本語にはないと思う(ちなみに、この本のフィールドブックの翻訳者であるスコラコンサルティングの柴田氏は「自己実現」と訳されている)。しかし、今回の本は、日本語で読んでも難しい点がたくさんある。

この本の原著のタイトルは「Presence」である。たぶん、この言葉に適切に対応する日本語はないのではないかと思う。著者の野中先生と高遠さんは「出現する未来」という訳をつけられている。この訳はよく分かる。

今回の本は、「U理論」なる理論を提唱する本である。一言でいえば、自らが唱えているアクションラーニングについて書いた本であるが、この本の視座としては、学習には人間の生き方があるというものである。

U理論は仏教に基づく考え方で、二元論的な判断を中止し、全体を内省することによって、より正しい行動が直感的に生まれ、結果として自然に、素早くできるようになるという考え方。

具体的には、以下の3つのステップで構成される。

第1ステップ(Sensing):見るということを知る。
1.保留 - 習慣的な思考の流れから自分自身を切り離す
2.転換 - 生成過程に目を向ける
3.心の目でみる - 我執などを捨てること。これは presensing にもかかわる
第2ステップ(Presensing):プレゼンス
1.手放す - sensingにもかかる。
2.受容
3.結晶化 - 気づき(Mindfullness)が明確に現れること。これはrealizingにも関わる
第3ステップ(Realizing): 自然の力になる
1.目的の結晶化
2.プロトタイピング
3.システム化

前著もそうだが、この本はもっと深く考えないと理解できない。いよいよこの領域に入ってきたかという感じの一冊である。

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