編集工学研究所「探究型読書」、クロスメディア・パブリッシング(インプレス) (2020)
(紙の本)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4295404373/opc-22/ref=nosim
(Kindle)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B08FQY9Q92/opc-22/ref=nosim
お薦め度:★★★★1/2
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◆探索型読書の効用
編集工学研究所が提唱する「探究型読書」は、物事を深く思考したり、自分なりの考えを組み立てたり、問題の本質を追及し続けるための「手段としての読書」である。
一般的な読書の目的は、「本の内容を読んで理解すること」であるが、探求型読書は「自分の思考を縦横無尽に展開させること」であり、パラダイムが違うともいえるし、見方によっては読書という行為の本質的な意味なのかもしれない。
一般的な読書の目的は「本の内容を余さず理解しながら読み通すこと」ですが、探究型読書の目的は、本を活用しながら「自分の思考を縦横無尽に展開させること」です。
本書はその探求型読書について、意義、進め方、事例と実践者との対話を掲載した一冊である。
まず、探求型読書は本が何らかの効用を持っていることを前提にしているが、それは以下のようなものだ。
・思考のジャンプ台になる
・視点を底上げする
・「わたし」の隠れ蓑になる
・友に進む乗り物になる
・対話の触媒になる
これらについては、以下の紹介する本書の内容を読んで頂ければ意味合いが分かると思う
◆探索型読書の心得
探求型の読書は、通常の読書とは目的が異なるため、本の読み方そのものに特徴がある。それは次の5つで、心得だと呼んでいる。
その1 読前・読中・読後
その2 著者の思考モデルを借りる
その3 かわるがわる
その4 伏せて開ける
その5 仮説的に進む
非常に修飾的言い方なので分かりにくいが、まずその1から。
探求型読書は、読前・読中・読後の3つのステップで本を読む。つまり、本屋に行って本棚を眺める、一冊の本を手にとってぱらぱらとページをめくってみるというところか探索型読書は始まる。これを読前という。読前の状態で、本の内容に関する仮説を立てるのだが、これは主体的に読書することを意識したもので、その準備段階が読前である。
その後に、実際に本を読む。これが読中だ。そして、最後は本の内容を振返り、連想を広げる。そのために、自分の仮説を誰かに話したり、他人の意見を聞いたりする時間を取るのだ。ここれはアナロジー思考で、どれだけ発想を広げられるかがポイントになる(本書ではアナロジカルシンキングと呼んでいる)。本書では、アナロジカルシンキングによって、情報が知恵になっていくとしている。
いずれにしても、このプロセス、特に読後のプロセスが探索型読書の有効性のポイントになる。
これはその2の「著者の思考モデルを借りる」ことに他ならない。つまり、探索型読書では、読んでいる本の著者の思考モデルを借りて、自分の思考を開始する端緒にすることを推奨している。このためには2つの方向性がある。
一つは、著者の思考モデルを詳細に分析すること。もう一つは、いったんは著者の思考モデルを参考にしながも、それを自身の問題意識に引き寄せ、独自の思考に展開していくことだ。
その次の2つの心得は分かりにくい。一つは「かわるがわる」。これは探索型読書では、正確に理解するより、仮説的に読み取っていくことを重視しており、そのために短時間で本の内容をトレースする。そういう読み方をしていると、まだよく分からないといったモヤモヤが出てくるが、それを解消するために本に向かうと、分かりすっきりするというプロセスの繰り返しになる。このもやもやとすっきりの繰り返しが「かわるがわる」だ。
もっと分かりにくいのが「伏せて開ける」。これは何かを記憶したいなら、そのとっかかりと作ればよいという考え方のもとで、読んだ場所をいったん「伏せ」、その内容を目をつぶって回想し、その後、該当するページを開けて、内容を確認することを推奨している。
これを繰り返し行うことがその5の「仮説的に進む」に貢献する。つまり、伏せて開けることによって、仮説が思い浮べやすくなるという。確かにどの通りだ。
探求型読書の最大のポイントは、自身の問題を本の内容を照らし合わせて、少ない情報を材料にしながらまずは仮説をくみ上げ、その仮説をフィルターにして、本の内容をスキャニングしていくことにある。これは実際に実践してみないと腹落ちしないと思うが、やってみると非常に楽しく、気づきの多い作業である。
◆探索型読書のための本の選び方
次に、本書では探索型読書に適した本の選び方を示している。既に述べたような読書のなので、ある程度形式的な面でも、内容的にも適・不適がある。形式的な面で、薦めているのは、新書だという。これは、構造化されており、また丁寧に情報設計されているからだという。
内容的には、ハウツーものより、学術的なアプローチを採用したものやノンフィクションが適しているそうだ。これも、やはり構造がしっかりしているからだろう。ちなみに、編集工学研究所では
「世界知」
「共同知」
「個別知」
の3つの知のレイヤーでとらえて、それぞれのレイヤーで、「話題の本」、「古典」、「異色の本」というようにタイプをずらしながらラインナップを選んでいるという。
◆探索型読書の進め方
本書では詳細なステップを示すとともに、そのステップを踏むために使うフォーマット「探索型読書ノート」を示している。電子ファイルも入手できるので、一度、ためして見るのが手っ取り早いだろう。
大きくは、既に述べたように読前、読中、読後のステップを踏むが、まず、読前は以下のステップになっている。
(1)ヒントを集める
・カバーや帯から読み取る
・目次から読み取る
(2)関係を可視化する
・合わせると何かになる
・3つでセット
・パカッと分かれる
・ポップ・ステップ・ジャンプ
(3)仮説を描く
・読む前に読後感を予想する
次に、読中であるが、これは目安として20~30分である。そのため、「Q読み」と「A読み」を高速に相互反復するすることが重要だ。「Q読み」、「A読み」とは本の中から、QuestioンとAnswerを探す作業である。
これを繰り返すことにより、内容の大枠を掴むのだ。これを本書では、「QAサイクル」を回すと読んでいる。そして、Q/Aを探すヒントになるのが、読前ステップの目次読みだとしている。そして、目次読みが丁寧に行われていれば、高速にサイクルを回すことができるとしている。
同時に、読者のQ/Aもメモしておくことを薦めている。つまり、著者の視点や疑問意見などを拾い読みしながら、「ここは分かった」、「ここは疑問である」といった自分の意見や問いを書き残しておくことだ。
そして読後はアナロジカルシンキングである。ここでは、読前、読後に顕在化され、可視化された問題意識とその思考過程こそが探索型読書において求めるものである。
読後に行うのは、読中ステップを経た上での読前ステップで予測した内容要約(仮説)の振返りだ。このステップには、3つの手順がある。
・仮説を振り返る
・似たものを探す
・自分ゴトに置き換える
◆実践は本書を読みましょう。
本のつくりとしては、ここまでが半分で、後半の半分は編集工学研究所が探索型読書のプログラムを紹介し、その実践例と、実践責任者との対話という構成になっている。本紹介記事で??、この部分は割愛する。興味がある人は、ぜひ、本書を読んでみてほしい。
◆体験会
ビジネス書の杜では、「探求型読書」の体験会を行います。詳しくはこちらをご覧ください!
「探求型読書」体験会参加者募集(無料)
https://mat.lekumo.biz/books/2020/10/post-59b0.html
ロルフ・ドベリ(中村 智子訳)「Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法」、サンマーク出版(2020)
(Kindle)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B089LQ12NK/opc-22/ref=nosim
(紙の本)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763138030/opc-22/ref=nosim
お薦め度:★★★★★
2013年に出版され、愛読しているロルフ・ドベリのコラム集「なぜ、間違えたのか?」が、同じ出版社からタイトルを変更して、復刊された。新しいタイトルは「Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法」で、これでThinkシリーズは
「Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」
「Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法」
「Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法」
と3冊が揃ったことになる。ロルフ・ドベリこれらの本を思考の道具箱と呼んでいるが、各書には52の道具が紹介されている。この記事ではこの3冊すべて紹介されている156個の道具のタイトルと副題を紹介しておく。改めてこうやってみると印象に残っていて、行動を変えているものが非常に多い(これに気づいたことが愛読しはじめた理由だ)。リストにで◎をつけているのがそうだ。
Kindleのサンプルで第1話は読めるので、ぜひ、読んでみて頂きたい。そして、相性が合えば購入し、手元において、何か困ったことに出会ったら、読んでみることをぜひ、お勧めしたい。
◆「Think right」
◎フレーミングのワナ:なぜ、言い方を変えただけで、結果が大きく変わるのか?
・確証のワナ その1:なぜ、「特殊なケース」には気をつけるべきなのか?
・確証のワナ その2:なぜ、「あいまいな予想」に惑わされてしまうのか?
◎権威のワナ:なぜ、エラい人には遠慮しないほうがいいのか?
・希少性の錯覚のワナ:なぜ、少ししかないクッキーはおいしく感じるのか?
・選択のパラドックスのワナ:なぜ、「選択肢」が多ければ多いほど、いいものを選べないのか?
・「あなたが好き」のワナ:なぜ、自分に似ていれば似ているほど相手を好きになるのか?
・お返しの法則のワナ:なぜ、お酒をおごってもらわないほうがいいのか?
・生き残りのワナ:なぜ、「自分だけはうまくいく」と思ってしまうのか?
・サンクコストのワナ:なぜ、「もったいない」が命取りになるのか?
・コントラストのワナ:なぜ、モデルの友人は連れていかないほうがいいのか?
◎イメージのワナ:なぜm「違う街の地図」でもないよりはまし、と考えてしうのか
・「いったん悪化してからよくなる」のワナ:なぜ、「その人」を信じてしまったのか?
・スイマーズボディ幻想のワナ:なぜ、水泳をすれば水泳選手のような体形になれると考えるのか?
・自信過剰のワナ:なぜ、自分の知識や能力を過信してしまうのか?
◎社会的証明のワナ:なぜ、他人と同じように行動していれば正しいと思ってしまうのか・ストーリーのワナ:なぜ、歴史的事件の意味は、あとからでっちあげられるのか
◎回想のワナ:なぜ、起こった出来事に対して「あれは必然だった」と思い込むのか?
・お抱え運転手の知識のワナ:なぜ、「わからない」と正直に言えないのか?
・報酬という刺激のワナ:なぜ、弁護士費用は「日当」で計算してはいけないのか?
・平均への回帰のワナ:なぜ、「医者に行ったら元気になった」は間違いなのか
・共有地の悲劇のワナ:なぜ、みんなが利用する場所では問題が発生するのか?
◎結果による錯覚のワナ:なぜ、「結果」だけで評価を下してしまうのか?
◎集団思考のワナ:なぜ、「意見が一致したら要注意」なのか?
・確率の無視のワナ:なぜ、宝くじの当選金額はどんどん高くなるのか?
◎基準比率の無視のワナ:なぜ、直感だけで判断すると間違えるのか?
・ギャンブラーの錯覚のワナ:なぜ、「プラスマイナスゼロに調整する力」を信じてしますのんか?
・アンカリングのワナ:なぜ、商談のときにはなるべく高い価格から始めるべきなのか?
・帰納的推理のワナ:なぜ、ちょっと株価が上がっただけで大金をつぎこんでしまうのか?
・マイナスの過大評価のワナ:なぜ、「悪いこと」は「いいこと」より目につきやすいのか?
◎社会的手抜きのワナ:なぜ、個人だと頑張るのに、チームになると怠けるのか?
・倍々ゲームのワナ:なぜ、50回折りたたんだ紙の厚さを瞬時に予想できないのか?
・勝者の呪いのワナ:なぜ、オークションで落札しても少しも儲からないのか?
・人物本位のワナ:なぜ、コンサートのあとでは識者やソリストの話しかないのか?
・誤った因果関係のワナ:なぜ、コウノトリが増えると赤ちゃんも増えると考えるのか?
・ハロー効果のワナ:なぜ、恋に落ちた相手は完璧に見えるのか?
◎別の選択肢のワナ:なぜ、成功の裏にあるリスクに気がつかないのか?
・予測の幻想のワナ:なぜ、予測が外れてばかりのエセ専門家が増殖するのか?
・別の選択肢のワナ:なぜ、もっともらしい話に惑わされてしまうのか?
・過剰行動のワナ:なぜ、ゴールキーパーはじっとしていないのか?
・不作為のワナ:なぜ、ダメージが同じなら何もしない方がよいのか?
・自己奉仕のワナ:なぜ、「成功は自分のおかげ」「失敗は他人のせい」と考えるのか?
・選択のワナ:なぜ、社内にはいつも自分と同じ同性が多いのか?
・連想のワナ:なぜ、悪い知らせだけを伝えるべきなのか?
・ビギナーズラックのワナ:なぜ、「はじめから順調」のときが危ないのか?
・ビギナーズラックのワナ:なぜ、自分への嘘でつじつま合わせをしようとするのか?◎◎共時性の奇跡のワナ:なぜ、「ありえないようなこと」でも、いつか起こるのか?
・目先の利益のワナ:なぜ、「今この瞬間を楽しむ」のは日曜日だけにすべきなのか?
・所有のワナ:なぜ、「自分のもの」になったとたんに価値は上がるのか?
・満足の踏み車のワナ:なぜ、幸福は3か月しか続かないのか?
・コントロール幻想のワナ:なぜ、自分の人生をすべて自分でコントロールしていると信じるのか?
◎ゼロリスクのワナ:なぜ、危険を徹底的になくそうとすると痛い目にあうのか?
◆「Think clearly」
ロルフ・ドベリ(安原実津訳)「Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」、サンマーク出版(2019)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763137247/opc-22/ref=nosim
◎考えるより、行動しよう──「思考の飽和点」に達する前に始める
◎なんでも柔軟に修正しよう──完璧な条件設定が存在しないわけ
◎大事な決断をするときは、十分な選択肢を検討しよう──最初に「全体図」を把握する
・支払いを先にしよう──わざと「心の錯覚」を起こす
・簡単に頼みごとに応じるのはやめよう──小さな親切に潜む大きな罠
・戦略的に「頑固」になろう──「宣誓」することの強さを知る
◎望ましくない現実こそ受け入れよう──失敗から学習する
・必要なテクノロジー以外は持たない──それは時間の短縮か? 浪費か?
・幸せを台無しにするような要因を取り除こう──問題を避けて手に入れる豊かさ
・謙虚さを心がけよう──あなたの成功は自ら手に入れたものではない
◎自分の感情に従うのはやめよう──自分の気持ちから距離を置く方法
・本音を出し過ぎないようにしよう──あなたにも「外交官」が必要なわけ
◎ものごとを全体的にとらえよう──特定の要素だけを過大評価しない
・買い物は控えめにしよう──「モノ」より「経験」にお金を使ったほうがいい理由
・貯蓄をしよう──経済的な自立を維持する
◎自分の向き不向きの境目をはっきりさせよう──「能力の輪」をつくる
・静かな生活を大事にしよう──冒険好きな人より、退屈な人のほうが成功する
・天職を追い求めるのはやめよう──できることを仕事にする
・SNSの評価から離れよう──自分の中にある基準を見つける
◎自分と波長の合う相手を選ぼう──自分は変えられても、他人は変えられない
・目標を立てよう──人生には「大きな意義」と「小さな意義」がある
・思い出づくりよりも、いまを大切にしよう──人生はアルバムとは違うわけ
◎「現在」を楽しもう──「経験」は「記憶」よりも価値がある
・本当の自分を知ろう──あなたの「自分像」が間違っている理由
・死よりも、人生について考えよう──人生最後のときに思いをめぐらせても意味がない理由
・楽しさとやりがいの両方を目指そう──快楽の要素と意義の要素
◎自分のポリシーをつらぬこう──「尊厳の輪」をつくる その1
◎自分を守ろう──「尊厳の輪」をつくる その2
◎そそられるオファーが来たときの判断を誤らない──「尊厳の輪」をつくる その3
・不要な心配ごとを避けよう──不安のスイッチをオフにする方法
・性急に意見を述べるのはやめよう──意見がないほうが人生がよくなる理由
・「精神的な砦」を持とう──運命の女神の輪
・嫉妬を上手にコントロールしよう──自分を他人と比較しない
・解決よりも、予防をしよう──賢明さとは「予防措置」をほどこすこと
・世界で起きている出来事に責任を感じるのはやめよう──世の中の惨事を自分なりに処理する方法
◎注意の向け方を考えよう──もっとも重要な資源との付き合い方
・読書の仕方を変えてみよう──読書効果を最大限に引き出す方法
◎自分の頭で考えよう──イデオロギーを避けた方がいい理由
・「心の引き算」をしよう──自分の幸せに気づくための戦略
・相手の立場になってみよう──「役割交換」することのメリット
・自己憐憫に浸るのはやめよう──過去をほじくり返すことが無意味なわけ
・世界の不公正さを受け入れよう──自分の日常生活に意識を集中する
・形だけを模倣するのはやめよう──カーゴ・カルトの犠牲にならない
・専門分野を持とう──g「多才な人」より「スペシャリスト」を目指す
◎軍事競争に気をつけよう──競争が激しいところにわざわざ飛び込まない
・組織に属さない人たちと交流を持とう──組織外の友人がもたらしてくれるもの
・期待を管理しよう──期待は少ないほうが幸せになれる
◎本当に価値のあるものを見きわめよう──あらゆるものの90パーセントは無駄である
・自分を重要視しすぎないようにしよう──謙虚であることの利点
◎世界を変えるという幻想を捨てよう──世界に「偉人」は存在しない理由
・自分の人生に集中しよう──誰かを「偉人」に仕立てあげるべきではない理由
◎内なる成功を目指そう──物質的な成功より内面の充実のほうが大事なわけ
◆「Think Smart」
ロルフ・ドベ(安原実津訳)Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法」、サンマーク出版(2020)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763138022/opc-22/ref=nosim
・新年の抱負が達成できないわけ【先延ばし】
・「理由」がないといらいらしてしまうわけ【カチッサー効果】
◎比較しすぎると、いい決断ができなくなってしまうわけ【決断疲れ】
・「自分は大丈夫」と錯覚してしまうわけ【注意の錯覚】
・自分でつくった料理のほうがおいしく感じるわけ【NIH症候群】
・労力をかけたものが、大事に思えるわか【努力の正当化】
◎第一印象が当てにならないわけ【初頭効果と親近効果】
・ボーナスがモチベーションを低下させるわけ【モチベーションのクラウディング・アウト】
・「ありえないこと」を想像したほうがいいわけ【ブラック・スワン】
◎現状維持を選んでしまうわけ【デフォルト効果】
・ほかの人も自分と同じ考えているように思えるわけ【偽の合意効果】
・自分より優秀な人を採用したほうがいいわけ【社会的比較バイアス】
・地元のサッカーチームを応援したくなるわけ【内集団・外集団バイアス】
◎予定を詰め込みすぎてしまうわけ【計画錯誤】
・ほらで相手を納得させられるわけ【戦略的ごまかし】
◎計画を立てると心が安定するわけ【ゼイガルニク効果】
・反射的に思いついた答えは疑ったほうがいいわけ【認知反射】
・あなたが自分の感情の操り人形なわけ【感情ヒューリスティック】
・自分の考えに批判的になった方がいいわけ【内観の錯覚】
・最適なものを見逃す場合が多いわけ【選択肢の見逃し】
◎「知らずにいる」ということに対する感情が存在しないわけ【瀉血効果】
・数字は机上で改善できてしまうわけ【ウィル・ロジャース効果】
・小さな店舗が突出して見えるわけ【少数の法則】
・「スピード狂」の運転の方が安全に見えるわけ【治療意図の錯誤】
◎平均的な戦争が存在しないわけ【平均値の問題点】
・「拾ったお金」と「貯めたお金」で扱い方が変わるわけ【ハウスマネー効果】
・統計の数字よりも、小説のほうが心を動かすわけ【心の理論】
◎私たちが「新しいもの」を手に入れようとするわけ【最新性愛症】
・目立つものが重要なものだと思ってしまうわけ【突出効果】
・占いが当たっていると感じるわけ【フォアラー効果】
・満月のなかに顔が見えるわけ【クラスター錯覚】
・「期待」とは慎重に付き合ったほうがいいわけ【ローゼンタール効果】
・誰もヒトラーのセーターを着たくないわけ【伝播バイアス】
・あなたが常に正しいわけ【歴史の改ざん】
◎下手に何か言うくらいなら、何も言わないほうがいいわけ【無駄話をする傾向】
・「王者」になったほうがいいわけ【ねたみ】
・都合よく並べたてられたものには注意したほうがいいわけ【チェリー・ピッキング】
・プロパガンダが効果を発揮するわけ【スリーパー効果】
・ハンマーを手にすると、何もかもが釘に見えるわけ【職業による視点の偏り】
◎成功の決定的な要因が「運」であるわけ【スキルの錯覚】
◎知識が転用できないわか【領域依存性】
・お金を寄付したほうがいいわけ【ボランティアの浅はかな考え】
・行き当たりばったりで物事を進めたがらないわけ【曖昧さ回避】
◎敵には情報を与えたほうがいいわけ【情報バイアス】
・ニュースを読むのをやめたほうがいいわけ【ニュースの錯覚】
・危機が好機になることがめったにないわけ【起死回生の誤謬】
◎頭のスイッチを切ったほうがいいわけ【考えすぎの危険】
◎チェックリストに頼りすぎてはいけないわけ【特徴肯定性効果】
・「いけにえ探し」はやめたほうがいいわけ【単一原因の誤謬】
・「最後のチャンス」と聞くと判断が狂うわけ【後悔への恐怖】
・あなたの船を燃やしたほうがいいわけ【退路を断つことの効果】
◎学問だけで得た知識では不十分なわけ【知識のもうひとつの側面】
アダム グラント(楠木 建訳)「GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代」、三笠書房(2014)
お奨め度:★★★★★+α
対人行動の基本関係をギバー(人に惜しみなく与える人)、テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)、マッチャー(損得のバランスを考える人)の3つのタイプに分けて、事例と心理学実験などを通じて、仕事におけるタイプと成果の関係を分析した一冊。米国でウォートン校史上最年少の終身教授になった著者のデビュー作として米国を始め、全世界で話題になった書籍の翻訳。
監訳者の楠木先生が「情けは人のためならず」を実証実験し、理論化された本だと述べられているがまさにそんな感じの本である。「情けは人のためならず」に共感できる人にはお奨めしたい。
まず、3つのタイプについてもう少し詳しく説明しておく。テイカーは常に与えるより多くを受けとうとする。ギブアンドテイクの関係を自らの有利になるよう にもっていき、相手の必要性よりも自分の利益を優先する。ギバーはギブアンドテイクの関係を相手の利益になるようにもっていき、受け取る以上に与えようと する。テイカーは自分を中心に考えるが、ギバーは他人を中心に考え、相手が何を求めているかに注意を払う。
この2つの中間にあるのが、 マッチャーで、与えることと受け取ることのバランスをとろうとする。この3つの関係は自分の役割や相手との関係でどのタイプになるかは変わるし、また、給 料の交渉をするときはテイカーになるが、未熟な相手に助言をするときにはギバーになるというふうに、変化する。ただし、仕事においてはたいていの人は、ど れか一つのタイプになっていることが多い。これが3つのタイプの前提である。
最初に非常に興味深い話から始まる。著者が行った販売員の調 査では、テイカーとマッチャーはギバーの年間2.5倍の売上げを上げていた。ギバーは強引に売りつけるようなことをせず、客にとって何がベストなのかを常 に気にかけるため、このような結果になったと思われる。ところが、意外なことに売り上げトップはギバーで、テイカーやマッチャーの平均より50%以上多く の売上げを上げていた。
同じような傾向は、エンジニアの生産性や医学大生の学業成績の調査でも見られた。ギバーのエンジニアは同僚の仕事 を手伝っているので自分の仕事が遅れ、生産性が低い。医学大生は同級生に勉強を教え自分の勉強に手が回らず、自分のテストの成績が悪くなる。ところが一番 生産性の高いエンジニアも成績のよい医学大生もギバーなのだ。
この本はこの不思議な現象を種明かしするとともに、パフォーマンスの悪いギバーではなく、パフォーマンスの高いギバーはどういう特徴を持っているかを解き明かし、さらに、そのようなギバーになるにはどうすればよいかを示唆している。
本書によると成功しているギバーは
(1)人脈作り
(2)協力
(3)人に対する評価
(4)影響力
の4つの点において、独自の、しかし共通性のあるコミュニケーション法を用いている。その方法の概要は
(1)人脈作り
新しく知り合った人々と関係をつちかい、以前から付き合いのある人々の結びつきを強めるための画期的なアプローチ
(2)協力
同僚と協力して業績をあげ、彼らの尊敬を得られるような働き方
(3)人に対する評価
才能を見極めてそれを伸ばし、最高の結果を引き出すための実用的なテクニック
(4)影響力
相手に自分のアイデアや関心事を支持してもらえるようなプレゼンテーション、販売、説得、交渉をするための斬新な手法
である。本書はこのようなアプローチ、働き方、テクニック、手法について、成功した例と失敗した例、その理由を説明するための心理学実験の例を始めて具体的に説明している。
また、テイカーがどういった失敗をするか、さらに、パフォーマンスの悪いギバーにならないためにはどうすればよいかについても論じている。
この本の読み方はいろいろとあると思うが、僕の場合は、一つ一つのポイントについて内省をしながら読み進んでいった。なかなか、適切で、納得性のある内容だと思う。
こ の本を読む前には、自分の周囲(あるいは日本人)はマッチャーが多いのではないかと思っていたが、2回目に読むときに今お付き合いのある人の顔を思い浮か べながら読んでみたら、意外とテイカーが多いことが分かった(隠れテイカー?)。この本では、ギバーがテイカーに振り回されないためにはどのようなことに 注意すればよいかを論じており、参考になるだろう。
いずれにしても、非常にインパクトが大きい本で、行動を変えるだけの影響力を持った本である。新年早々、早くも今年のアワード候補に遭遇という感じの一冊だ。
◆読書会のご案内
本書の読書会を企画しています。詳しくはこちら。
]]>ケビン・ワーバック、ダン・ハンター(三ツ松 新監訳、渡部典子訳)「ウォートン・スクール ゲーミフィケーション集中講義」、阪急コミュニケーションズ (2013)
お奨め度:★★★★★
ビジネススクールで初めてゲーミフィケーションの講義を取り入れたウォートンの教科書。MBAプログラムの体系と関連付けながらゲーミフィケーションの説明がされており、ゲーミフィケーションを取り入れた仕組みの構築に役立つ一冊。
ゲーミフィケーションの本は何冊か読んだが、面白いのだが、いまいち、どういうものかピンとこなかったし、何かに使うとなるとその方法が想像できなかった。この本を読んでゲーミフィケーションがどういうものかはっきりイメージできた。
ゲーミフィケーションは動機づけの一つの方法として位置付けられ、マーケティング、生産性向上、イノベーション、顧客関与、人的資源管理、サスティナビリティ など、ビジネスで真摯に追及されている事項に対して、「楽しさ」が非常に有効なツールになることを前提としている。この前提が非常に大切である。ゲーミ フィケーションと似たような言葉にゲーム理論があるが、ゲーム理論とはこの部分の前提が異なる。
ゲーミフィケーションの有効な場面は
・内部
・外部
・行動変容(企業/個人)
の3つである。ゲーミフィケーションが効果があると考える理由は
・何かの関与をしてみようと思わせる仕組みを作ることができる
・実験によりあれこれと新しいやり方を試して可能性を広げることができる
・実際に効果がでている
の3つだ。
ゲーミフィケーションが自社のニーズに合う部分を探すには以下の4つの問いを考えているとよい。
(1)モチベーション
(2)意味のある選択肢
(3)構造
(4)対立の可能性
ゲーミフィケーションにより成功する仕組みを構築するためにはフィードバックが必要であるが、フィードバックについては以下の3つの教訓がある。
・予期しない情報のフィードバックは自律性と自分で決めて行う内発的動機づけを高める
・ユーザは自分の成績を知りたがる
・ユーザーは与えられた基準によって自分の行動を変える
このような仕組みを作るためには、PBL(ポイント、バッチ、リーダーボード)の3つの要素が基本になる。PBLを基本として、
・ダイナミックス
・メカニクス
・コンポーネント
の 3つからなるピラミッドを考えることによりゲームを統合する。ダイナミックスは、ゲームの一部ではないが、ゲーミフィケーションを使った仕組みの包括的な 側面である。マネジメントに例えれば、従業員教育やモチベーションの創出、大型目標などに当たるものである。
以上がこの本の概要であるが、これから分かるように抽象度は高いが極めて実践的なゲーミフィケーションのガイドラインになっている。前半はマネジメントの視 点からゲーミフィケーションの位置づけを行い、後半は具体的なゲームのデザインの方法を説明している。後半については類書があるが、前半については類書が ない。プロセスデザインを行う人には必読の一冊である。
]]>フィル・マッキニー(小坂恵理訳)「キラー・クエスチョン 常識の壁を超え、イノベーションを生み出す質問のシステム」、阪急コミュニケーションズ(2013)
お奨め度:★★★★★
質問に着目した、イノベーションマネジメントの本。FIRE と呼ぶイノベーションマネジメントのサイクルを提唱し、この中でどのような質問をすればイノベーションを加速できるかを述べている。質問をイノベーションの触媒として捉えている本は何冊かあるが、この本は長年集めたという質問を具体的に示しており、実践的な本である。
イノベーションの方法で、常識を破ろうとか、いろいろと出てくるが、実際問題としてマネジャーがマネジメントとして部下にどうやって考えさせるのかと考えると意外と難しい。対話といっても実際にはかみ合わないことが多いが、指示をしたのでは意味がない。
この問題を解消するのに有効なのが質問だ。質問だと、イニシアティブをとりながら、部下に考えさせられることができる。また、自分自身に問いかけることもできる。
FIRE (Focus, Ideation, Rank, Execution) というイノベーションマネジメントの枠組みを提供し、特に、 Ideationのところですればよい質問を体系的に紹介している。著者がいろいろな機会を通じて集めた質問の中から、イノベーションに効くものを整理し たものだそうだ。これをキラークエスチョンと呼んでいる。たとえば、ハーレイに思いを巡らせて生まれた質問は
あなたの製品やそれに関連するものは、誰から熱狂的に支持されているものか。なぜ、そうなるのか、あるいはなぜそうならないのか」
だったそうだ。
まず、本書で議論しているのは、イノベーションの一番の阻害要因である思い込みをどのように解消するかである。ここでは、思い込みに関して、
「私の業界はどのような思い込みに支配されているか」
「私の会社はどのような思い込みに支配されているか」
と いった思い込みに関する質問と併せて「ジョトル」という概念を提唱している。これがなかなか面白い。ジョトルは、思い込みの反対で、地震や津波のように突 然やってきて、戦慄の状態を引き起こす。そこでは思い込みは通用せず、どうしてよいか分からない状況に陥る。ジョトルをうまく乗り越えれば、思い込みは吹 き飛ぶ。そのためには、
あなたのビジネスを様変わりさせる可能性があるのは、どんな予想外のジョトルか
という質問が有効である。
次に議論しているのは、組織の抵抗勢力にどのように対処するかだ。抵抗勢力が拒む理由は
・エゴ
・疲労
・リスクを避けたい
・現状への満足
のいずれかである。このような理由に対して、変化が良い方向に向かうものだということを理解させることができれば事態は好転する可能性が高い。
さて、次にFIREであるが、それぞれのプロセスと質問には以下のような関係がある。
フォーカス:イノベーションを必要とする分野を特化する
アイデア作り:キラークエスションにより、素晴らしいアイデアを生み出す
ランキング:5つのシンプルな質問によりアイデアをランクづけし、ベストのものを特定する
実行:質問を使った段階的なゲートプロセスにより、ベストのアイデアからイノベーションを創造する
本書ではキラークエスションの体系化を、いわゆるコンセプト(誰に、何を、どのように)をベースに行われている。つまり、
「誰」に関するキラー・クエスチョン
「何」に関連したキラー・クエスチョン
「どうやって」に関連したキラー・クエスチョン
という風に分けている。
誰に対するキラークエスションは、フォーカスが中心に使われると思われるが、
・私には思いもつかなかった方法で製品を使っているのは誰か。具体的にはどんな方法か
・顧客が私たちの製品を選ぶときの基準は何か
・顧客が欲しいものについてあなたはどんな信念にこだわっているか
・私の製品やそれに関連するものに夢中になってくれる相手はだれか
・私の製品に不満を持っている相手はだれか
などの質問が挙げられている。各質問に対して、「ひらめきの瞬間」ということで答えをより明確なものにするための補助質問が準備されている。
次に何に関連するキラークエスション。
・カスタム製品を規格品として提供することは可能か
・新しいトレンドや流行をどうすれば利用できるか
・顧客の煩わしさを取り除き、ユニークな恩恵を新たに提供するにはどうすればよいか
など。同じようにひらめきの瞬間も準備されている。
三つ目はどうやってに関連するキラークエスション。
・私たちの業界と似ているのはどの業界か。そこから何を学べるか
・私が業界の関係を調整しなおしたら何が起こるか
・研究開発のプロジェクトを選択する基準は何か
などだ。
ここで紹介したのはほんの一部であり、各項目に関連するキラークエスションは10個以上示されており、関連質問は各3~5くらいあるので、膨大な質問リストが提供されていることになる。
これらをワークショップでうまく使って、上で述べたような方法でイノベーションにつなげていくわけだが、ワークショップの運営について述べてられている。
通常、アイデア出しではファシリテーションがポイントであると言われるが、この質問リストがあれば、質問自体がファシリテータになってくれるだろう。特に、現場でまずは自分たちで何かしようと思ったときに、役に立つのではないかと思う。
ぜひ、試してみてほしい。
ジェイク・ブリーデン(宮本喜一訳)「世界一の企業教育機関がつくった仕事の教科書」、アチーブメント出版(2013)
お奨め度:★★★★★+α
グーグル、スターバックス、マイクロソフト、IBMなどの企業をクライアントにもち、エグゼクティブ教育では世界一だと言われるディーク・コーポレート・エディケーションで教鞭をとる著者が新しい仕事の常識を述べた一冊。もし、これらの企業においてリーダーがこの本にあるような行動をできているのだとすれば、エクセレントカンパニーであることが納得できると思わせる一冊。すべてのリーダーに読んで欲しい。
経営者から新入社員まで、リーダーが「仕事」をするときには固く信じられている美徳(善行)がある。ところが、この美徳が悪い決断の原因(本書で は逆噴射と呼んでいる)になる可能性がある。よかれを思ってやっていることが実はと言う話だ。この本では、このような逆噴射を取り上げ、逆噴射を起こさな いようにするにはその美徳をどのように実行すればよいかを述べている。
その美徳とは以下の7つに関するものだ。
バランス、協働、創造性、卓越性、公平性、情熱、準備
これらにおける逆噴射を起こす原因を排除し、美徳を活かす正しい方向にいかなくてはならない。それは以下のようなものだ。
(1)無難なバランス→大胆なバランス
まず、バランス。バランスは生活や仕事で神聖化された美徳になっている。しかし、無難な妥協をするバランスをとると逆噴射を起こす。これを厳しく大胆なバランスに変えていかなくてはならない。
(2)惰性的な協働→責任のある協働
この本で言っている協働とは組織の中で人と一緒に働くことだが、真摯に意図を考えない惰性に流された協働は逆噴射を起こす。これを責任のある協働に変えていかなくてはならない。
(3)自己陶酔的創造性→役に立つ創造性
創造性も逆噴射になることがある。自己陶酔的に創造性が発揮される場合だ。これを役に立つ創造性に変えていかなくてはならない。
(4)プロセスの卓越性→成果の卓越性
卓越性とは高いクオリティのことであるが、高い基準をプロセスに求めると逆噴射を起こす。これを防ぎ、卓越性を実現するには成果の卓越性を求めなくてはならない。
(5)結果の公平性→プロセスの公平性
卓越性とは逆に、公平性は結果を重視すると逆噴射を起こす。したがって、プロセスの公平性を実現しなくてはならない。
(6)脅迫的な情熱→調和のとれた情熱
情 熱は自分の仕事に対する愛情であるが、度を越した情熱は自分の生活や仕事から他の要素を排除してしまい、他のことを犠牲にして一つのことばかり考える逆噴 射を起こす。これを、仕事に対する情熱が生活の他の部分との調和を保ち、仕事にこだわることで生活にもよい影響がでてくるようにしなくてはならない。
(7)舞台裏の準備→舞台上の準備
準備は自分が仕事をする態勢を整えることだが、準備のし過ぎは成果を生まず、仕事を遅らせることがある。現実には準備と実際の仕事は同時に始まることもあり、舞台上で準備するようにしなくてはならない。
本書はこの7つの美徳に対して、逆噴射を起こさずによい結果を生み出すにはどうすればよいかを事例を紹介したのちに、実践方法について極めて具体的に説明している(これにトレーニングをつければ研修になるくらいの具体性で)。
(1)のバランスの実践方法について紹介してみよう。
大胆なバランスとは
不要な妥協や交換条件を排除し、相反をするような決断を下すようなビジョン
だとし、適切な時機の見極めが鍵だとしている。そして、
・不要な妥協を監視する
・インターバル手法をとる(ひとつずつ順番にこなしていく)
・リーダーとして売りにしたいことにまい進する
・強固な意見を柔軟に主張する
・やめる仕事のリストを作る
・選択肢のポートフォリオを作る
・パラドックスを歓迎する
といったことを実践すればよいとしている。
他の6つについても同様に実践の方法を示しており、使える。
研 修の内容をベースに書籍にしていると思われ、体系的にまとまっており、すっと頭に入ってくる構成になっている。すごい本だと思うのは、具体的でありなが ら、どのような層のリーダーにも実践できるような内容になっていることだ。つまり、経営リーダーでも、新入社員のチームリーダーでもこの内容を活用でき る。簡単なようで、すごいことだ。
ぜひ、読んでみてほしい。
池田貴将「覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰 (Sanctuary books)」、サンクチュアリ出版(2013)
お奨め度:★★★★★
明治維新に大きな影響を与えた天才思想家・吉田松陰の教えに素晴らしい解釈をつけて紹介した一冊。非常にインパクトがある教えばかりで心を打たれる。また、各章の最初にある松陰からの学びも深い。
松陰の教えは以下の6つに整理されている。
Mind(心)
Leadership(士)
Vision(志)
Wisdom(知)
Fellow(友)
Spirit(死)
これらについて、松陰からの学びといいなと思った教えを紹介していこう。
ま ず、マインド。ここでは、「動きながら準備をする」ことを学びとしている。折しも今、「いつやるか? 今でしょ!」という予備校の先生の言葉が流行語になっているが、これだ。人は準備をしてからやろうと考えがちであるが、それではいつまでもできないという のが松陰からの学びなのだ。
マインドでは41の教えが紹介されているが、中でもいい言葉だと思ったのはこれ。「失敗の定義は無数」
すぐに成功だとか失敗だとかいう。成功したことは明確に分かるが、失敗したことははっきりと分からないことが多い。慌てず、失敗の本質を見極め、対処に動けというのは素晴らしい示唆。
次はリーダーシップ。この点での学びは「無駄と削ぎ落とす」こと。無駄を削ぎ落とし、精神を研ぎ澄ます。そして、目の前の安心よりも、正しいと思う困難を取る。これがリーダーのあるべき姿だ。士の発想だ。
ここでいいなと思ったのはこれ。先駆者の思想で「なにが得られるかは後」で、「自分たちがやる意味が先」だと言う指摘。いま、イノベーションが必要とされながら、なかなか実際には動けない。その原因がここにある。維新のためには、ここはこの発想が欠かせない。
もう一つは、「使える部下がいないというのは勘違い」で、部下の能力が引き出せていないだけだという教え。
三つ目はビジョン、志。志は、今のシステム、考え方、ルールを否定する。そういうものを飛び越えないと実現しないものに目を向けるという学び。
ここでは35の教えが紹介されているが、役割が人を作るという教え。よく言われている地位が人を作るような話ではない。何がおきても自分の仕事に責任を持つ。逃げない。その仕事をすることが自分の生物としての役割だと考えられたときに命が宿るという教え。
四つ目はウィズダム、知。松陰からの学びは、知とは知識を増やすことではなく、志のために、行動することで、それが学問の理解だという。そして、行動力の源泉は負けん気だという。
こ こでは28の教えが紹介されているが、「勝つ人と勝ち続ける人」という教え。個人での学習、組織での学習、いろいろと学ぶことが重視されているが、その理 由は、勝つことではなく、勝ち続けることだろう。そのためには、勘や経験に頼らず、本質を学び続けることを怠ってはならないと教える。
では、本質とは何か。松陰は、語らずともそれに触れただけで、分かってしまうもの。シンプルで、分かりやすく、身近なものとして感じられるものだという。
五つ目はフェロー、友。ここでの学びは、まず、自ら熱くなり、自分から動きだすこと。そこに友が現れる。そうして、維新は実現された。
ここでは22の教えが紹介されている。この中で、集団で生きることは、清廉と協調のバランスをとることだと教える。清廉はどんな人といても、自分を失わないことであり、協調はどんな人といても、その人に調子を合わせて楽しめることである。
最後はスピリット、死。死を意識することは、わずかな残り時間で何ができるかを考えることに似ているという。そして、やり残していることを臆せずにやればよいと教える。
ここでの教えは11。ここでの教えの中で印象的なのは、「自分はどこからやってきたのか」という教え。自分の原点を考えているうちに、感激の心が起こり、よしやってやろうと決意するという。
吉 田松陰は僕の出身地である山口県の萩の出身である。山口では吉田松陰については詳しく学ぶ機会がある。なんとなく、吉田松陰に持っていたイメージと、この 本で描かれているイメージはよく合っている。松陰は30歳で生を絶たれる。その短い人生において、語られる数々のエピソードは常に生死を賭けたものであ り、まさに覚悟を決めた生き方であったのだろう。そして、その覚悟が明治以降の国家に大きな影響を与えた人材を輩出した。
このような人物とビジネスの世界で考えると、真っ先に思い浮かぶのがジャック・ウェルチである。ウェルチにはリーダーシップのよる薫陶で多くの人材を生み出したとされるが、リーダーシップだけではなく、覚悟があったのだと思う。
日本にはどの分野でも人材が生まれなくなっているという指摘がある。それは人材を育てる人の覚悟の問題だろう。
]]>アンドリュー・ソーベル、ジェロルド・パナス(矢沢聖子訳)「パワー・クエスチョン 空気を一変させ、相手を動かす質問の技術」、阪急コミュニケーションズ(2013)
お奨め度:★★★★★
質問することは難しい。質問を効果的に使いたいと考えていくと、対話とか、洞察とか、高尚な話になっていくが、本来、質問は目的があって行うものだ。そう考えると、パターンはあるはずで、それをプロのコンサルタントがまとめた本。これまでありそうで、なかった本。
あなたが営業マンで売り込みがうまく行かなかったらどうするだろうか?どうして売れないのだろうかと考えてみてもなかなか問題は見つからない。こんなときに自問してみるといい。
・相手はそれによって解消できる大きな問題や状況を抱えているだろうか?
・相手はその問題を自分のこととしてとらえているだろうか?
・相手は現在提供されているもの、あるいは、その改善率に不満を抱いているだろうか?
・相手はあなたをその仕事の適任者として信頼するだろうか?
この4つの質問は、売り込むときに使う
・この相手は買う条件が整っているだろうか
という質問の条件を確認することになる質問だ。質問を構造化しているわけだ。
もうひとつ。あなたはコンサルタントだとしよう。クライアントが、M&Aについて重要な決定をしようとしている。そのときに、こうきいてみるとよい。
これはミッションや目標の実現に役立ちますか?
本書では質問を以下の視点からまとめている。
(1)いつこの質問を使うか
(2)この質問のバリエーション
(3)フォローアップの質問
上の質問であれば、
・相手が基本理念と矛盾しようとしたことをしているとき
・相手が新しい方向に多くの時間と資源を投入しようとしているとき
・相手がミッションや目標を真剣に考えているとは思えないとき
といったタイミングが挙げられている。これから分かるようにこの質問はかなり概念的なものであり、使うにはコンセプチュアルスキルが必要であるが、応用できる範囲が非常に広い。質問をパターン化しているために、多くの質問はそのような特徴を持っている。
さらに、バリエーションも示されている。
・御社のミッションと目標を確認させていただけますか?
・これはあなたの価値感や信念と矛盾しないでしょうか?
などだ。さらに、フォローアップの質問も示されている。
・なぜそうなのですか、なぜそうではないのですか?
・ミッションに適っていて、考慮に値する別の案や考え方はないでしょうか?
こ の2つの例を見ただけでこの本のパワーが分かると思う。状況と、応用状況での質問パターンと、フォローアップが示されているので、非常に使いやすい。とい うよりも、行動パターンとして覚えてしまうのだろう。また、この枠組みを使って、自分なりにバラエティを増やしたりすることももちろん可能だ。
基本的には上に述べたようなパターンで活用法が示されているが、なかに、陳腐な質問の例も示されている。
・夜中にふと目覚めて不安になるのはどういうことですか?
といったもので、これは避けなくてはならない質問だとされている。この場合には、将来について知識に裏付けられた質問をするとよい。
・御社で今後成長が見込まれるのはどの分野でしょう?
・追加資源があったらどの分野に投資しますか?
・なぜこれほどの成功をおさめることができたのですか?今後、そのアプローチは変わるのでしょうか?
といった質問で相手の気持ちを掴んだり、相手の世界観を知るとよい。こういう質問が34章に渡って示されている(第1章は、導入)。そして、最後に、
・新規ビジネスを獲得する
・人間関係を築く
・人を指導・指南する
・危機的状況や苦情に対処する
・上司と円満な関係を保つ
・部下と円満な関係を保つ
・新しい提案や着想を判断する
・会議を改善する
・寄付を募る
という9つの状況に分けて、合計293の質問が示されている。この質問の中から、自分の必要なものを抜き出して、本文のフレームで整理しておけば、強力な武器になることは間違いない。
実はこの本、感動的によかった本
選ばれるプロフェッショナル ― クライアントが本当に求めていること
の著者の一人である、アンドリュー・ソーベルの著書だったので中身を見ずにアマゾンで注文したのだが、目を通してびっくりした。
この本が1700円で手に入るというのは驚きだ。質問というアプローチの有効性は多くの人が認めているが、実際には質問を作るのが難しい。そのような悩みを一挙に解消してくれる一冊だ。
座右の書としてぜひ一冊持っておきたい。
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