薄っぺらな自己啓発書に飽きた人に!
ラルフ・ウォルドー・エマソン(伊東奈美子訳)「自己信頼[新訳] 」、海と月社(2009)
お奨め度:★★★★★
1841年に出版されたエマソンのエッセイ集「Self-Reliance」の翻訳。自己信頼というのはこの言葉の訳で、心理学の分野なのでも言葉として定着している。
僕が、「Self-Reliance」を最初に読んだのは、
ラルフ・ウォルドー エマソン(入江 勇起男訳)「精神について (エマソン名著選) 」、日本教文社; 改装新版版(1997)
であるが、この本に採録されているものに比べると、ずいぶん読みやすいような気がする。
エマソンは、自己啓発の祖として知られるが、その背景にあるのは、人間を自然や宇宙を統べる巨大な霊とつながる神聖な存在だと捉え、「大霊」と一つになる道を指し示した思想家。すごく響くことをたくさん言っているのだが、とにかく難しい。
その点、この本は非常にわかりやすく訳されている。「Self-Reliance」が書かれたのは、1841年だそうなので、なんと150年以上前だ。150年前の本だとは思えないような、文章になっている。
・自分の考えを信じること、自分にとっての真実はすべての人にとっての真実だと信じること
・ねたみは無知であり、人まねは自殺行為であること、善かれ悪しかれ、自己は受け入れなければならないこと、世界は広く、善きものであふれているが、自分に与えられた土地を耕さないかぎり、身を養ってくれる一粒のトウモロコシでさえ自分のものにはならないこと-教育を受けているうちに、私たちはこうしたことを悟っていく
・大いなる「意志」によって働き、それによって善きものを得るなら、「偶然」の輪は鎖で封じられ、幸運がめぐってくるかどうかを思い煩う必要もなくなる
といった心を打たれる言葉が並ぶ。
言葉を味わいながら、この本をじっくり読むというのもいいのだが、できれば、背景にある思想を知った上でこの本を読んでみることをお薦めしたい。言葉の響き方が違う。エマソンの哲学の解説書は何冊もあるが、ぼくがお奨めしたいのはこれ。
リチャード ジェルダード(沢西 康史訳)「エマソン 魂の探求―自然に学び神を感じる思想」、日本教文社(1996)
空虚なキャッチコピーと、よく考えれば訳のわからない図が並ぶ自己啓発書にいい加減うんざりして、卒業したいなあと思っている人、本当に自分を見つめ、自己啓発をしたいと思う人は、ぜひ、エマソンの扉を開けてみてほしい。
特に、そんな方は、このあたりの本から入っていかれることをおすすめしたい。
僕はエマソンの影響をかなり受けていると自分でも自覚している。決断力がある、行動に移すというお褒めの言葉をいただくこともあるが、そのときはエマソンのおかげだと感じることが多いことを最後に書いておきたい。
自分が見失ったときに、一つはコーピングのようなテクニカルな方法で自信をつけていくというやり方はある。確かに、小さな成功を連ねていけば自信にはなる。しかし、そこから、自分を信頼することまでの間には相当な距離がある。
その距離を埋めるには、「考える」しかない。エマソンがプロデュースする自己信頼を巡る哲学をしよう。
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