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2008年5月 1日 (木)

シンプルは売れる

4492556079 ジョン・マエダ(鬼澤 忍訳)「シンプリシティの法則」、東洋経済新報社(2008)
お薦め度:★★★★★
原著:The Laws of Simplicity

世の中がだんだん複雑になっていく中で、複雑性への対処方法の本は花盛りである。ビジネス書の杜で取り上げている範囲でも、システム論、編集、データマイニング、シナリオプラニング、心理学、など、科学、人文社会にまたがって多くの手法の活用が見られる。

そんな中で、この本は一読の価値がある。この本は、複雑さを引き起こさないために、製品デザインや組織デザイン(制度デザイン)は何を考えればよいかを、「シンプル」に100ページで考察した本である。著者は、MITメディアラボ教授である、ジョン・マエダ。2006年に話題になった本だが、やっと翻訳された。

ジョン・マエダの言うシンプルの法則とは

1.削除 シンプリシティを実現する最もシンプルな方法は、考え抜かれた削除を通じて手に入る。
2.組織化 組織化は、システムを構成する多くの要素を少なく見せる。
3.時間 時間を節約することでシンプリシティを感じられる。
4.学習 知識はすべてをシンプルにする。
5.相違 シンプリシティとコンプレクシティはたがいを必要とする。
6.コンテクスト シンプリシティの周辺にあるものは、決して周辺的ではない。
7.感情 感情は乏しいより豊かなほうがいい。
8.信頼 私たちはシンプリシティを信じる。
9.失敗 決してシンプルにできないこともある。
10.1.シンプリシティは、明白なものを取り除き、有意義なものを加えることにかかわる。

の10個だ。これに合わせて、この法則によりシンプリシティ達成のための3つの鍵を提示している。

1.アウェイ:遠く引き離すだけで、多いものが少なく見える
2.オープン:オープンにすれば、コンプレクシティはシンプルになる
3.パワー:使うものは少なく、得るものは多く

このためのシンプルプロセスのコアコンセプトは、「SHE」
1.縮小(SHRINK)
2.隠蔽(HIDE)
3.具体化(EMBODY)

この本のもっとも重要なメッセージは、「シンプルは売れる」ということだろう。本ではiPodだとか、googleなどを例示しているが、この本に書かれている法則は複雑化し過ぎた世の中で真に求められている。

ぜひ、一度読んで、自分たちに求められているシンプリシティ、その実現について考えてみてほしい。薄い本であるが、議論の奥行きは極めて深い。これこそが、シンプリシティの持つパワーなのだろう。

訳はよいと思うが、この本は英語の単語のニュアンスにも奥行きがある。その意味で、英語で読んでみるのもよいのではないかと思う。

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2008年3月24日 (月)

プロジェクト成功の第4の軸(こっちが第一か?)

441680802x プロデューサーズ制作チーム、佐野 一機、インパクト・コミュニケーションズ編「プロデューサーズ―成功したプロジェクトのキーマンたち」、誠文堂新光社(2008)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトがうまくいくには何が必要か?当然ながら、これだという答えはない。体系的なアプローチと、継続的な地味な努力、これに尽きる。

その上でという議論をするなら、意見は分かれるのではないかと思う。一般には3つあるといわれている。

・プロジェクトリーダー(プロジェクトマネジャー)
・プロジェクトスポンサー
・プロジェクトマネジメントオフィス

ここの第4の軸として、プロデューサーという存在があることに気付かせてくれる一冊。

成功を収めたプロジェクトのキーマン(プロデューサー)とインタビュー形式で、そのプロジェクトのベストプラクティスを抽出しようとしている本。

読んでみて、すごいなあ~と思うのは、やはり、「現場力」。プロジェクトマネジメントでも、現場の感覚がいかに大切かがよく分かる。たとえば、一番目のエビスの立川さんの話。

エビス<ザ・ホップ>を出すのに一番反対したのは実は社内なんです。我々が一番心配したのは、エビスビールが好きで、エビスを信奉してくださるコアなお客様が離反することでした。

これは、マーケティングの教科書にあるような話。ところが、

エビスを選んでいる人は、「自信をもって、エビスを選んでいる自分がかっこいいと思うから」という気持ちがあるのではないかと想像するわけです。

と考えたという。これは現場ならではの感覚だと思う。この手の話が山ほどある。企画というのは本質的にこういうものかもしれない。

僕はマネジメントが現場から乖離してくるのは、宿命的なものだと思っているが、こういう本を読んで、現場への思いをリマインドすることはとても大切ではないかとも思う。

プロジェクトとプロデューサーは以下の通り。

・ヱビスビールヱビス“ザ・ホップ 立山正之
・映画「鉄コン筋クリート」 田中栄子
・ソフトウェア開発digitalstage 平野友康
・感動食品専門スーパーオイシックス・高島宏平
・Xbox 360「ブルードラゴン」プロモーションBIG SHADOW 内山光司
・絵本シリーズ「くまのがっこう」 相原博之
・クリエイティブスタジオSAMURAI 佐藤悦子
・都市再生プロジェクトR‐Investment&Design 武藤弥
・りそな銀行コラボレーションプロジェクトREENAL 藤原明

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2008年1月26日 (土)

スターバックスの44のベストプラクティス

4887595743 ジョン・ムーア(花塚恵訳)「マジマネSPECIAL スターバックスに学べ」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2007)

お薦め度:★★★★

2年半前に、このブログでスターバックスの人材育成について書いた本を紹介した。

当時は、スターバックスの事業展開については数冊の書籍があったが、マネジメントについて書かれた書籍が少なかったのだが、この1年くらいの間は、結構、本屋で新刊書を目にするようになった。

その中で、お勧めなのが本ブログでも何冊か紹介した「マジマネ」シリーズのスペシャルとして出されたこの1冊。

スターバックスの中で語り継がれている独自の成功のノウハウ(ベストプラクティス)を44個、公開している。ベストプラクティスは

・ブランディングとマーケティング
・サービスマネジメント
・人材育成

の3つに分けて整理している。ブランディングとマーケティングでは、
【ノウハウ1】事業を築く過程からブランドは生まれる
【ノウハウ4】真摯な姿勢が人々から信頼を生む
【ノウハウ14】言葉よりも行動!
など15個。サービスマネジメントでは、
【ノウハウ16】注目に値することが注目される
【ノウハウ18】顧客が笑顔になるサービスを心掛ける
【ノウハウ25】旅行者は土産を持ち帰り、探検家は土産話を持ち帰る
など14個。人材育成では
【ノウハウ30】強い企業は、従業員との間に信頼がある
【ノウハウ35】ブランドは人の情熱によってつくられる
【ノウハウ36】リスクをとり、謙虚さを忘れず、新しいことに挑戦する
など13個。これ以外にプラスアルファとして
【ノウハウ43】利益は副産物である
【ノウハウ44】高い志と情熱を持つことが、競争社会で勝ち抜く唯一の方法
の2つで全部で44だ。
読んでいて、ひとつひとつの項目から、スターバックでの店頭での対応やメニューが目に浮かぶ。つまり、実行されているのだ。なんと素晴らしいことだろう!

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2008年1月 3日 (木)

専門家はコンピュータに勝てるのか?

4163697705 イアン・エアーズ(山形浩生訳)「その数学が戦略を決める」、文藝春秋社(2007)

お薦め度:★★★1/2

山形浩生さんの訳書を紹介するのは、これで2冊目だと思うが、実は結構読んでいる。テーマや著者で読むというよりも、山形さんが目をつけて翻訳をする本というので読んでいる。

山形さんを有名にしたのはたぶん

ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門」、メディアワークス(1998)

ではないかと思うが、僕が山形浩生にはまったのは、これではなく、

エリック・スティーブン レイモンド 「伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト」、光芒社(1999)

である。

昨年もこの本以外に、2冊ほど読んだ。

ジョージ・エインズリー「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」、NTT出版(2006)

ポール・ポースト「戦争の経済学」、バジリコ(2007)

とにかくインパクトが大きい。新しいトレンドを鋭く見つける。この本もそうではないかと思う。

さて、前置きが長くなったが、この本は「絶対計算」について書かれた本である。絶対計算という言葉はあまりなじみがないが、要するに、回帰分析やニューラルネットワークによって、実績として残っているすべてのデータを分析し、それから統計的法則を導き出す「数学」である。

最初の4章程、いやというほど、絶対計算により、人間より適切な判断ができたという事例を挙げている。象徴的なものとして、ヴィンテージワインの価格予測、最高裁判事の違憲判断の予測、野球選手の実績評価など、結構、どぎつい例を挙げた上で、まずは、マーケティングの分野での実績に触れている。

・アマゾンのリコメンド
・お見合いサイトのマッチング
・カジノ

などである。次に取り上げられているのは、政策決定において、ある政策が政策目標の実現に役立つかどうかを判断するのに、絶対計算が役立ち、防犯、貧困対策などでの実績を紹介している。

さらには、医療の世界でも同じことが起こっていると紹介している。

この本が興味深いのは、この後で、なぜ、人間はうまく判断できないのかを分析した部分。結論は、主観の混入により、統計でいうところの信頼区間がうまく設定できないことが原因だという。ここで面白いクイズがある。( )を埋めるというクイズ。

1.マーチン・ルーサー・キング牧師の死亡時年齢は( )歳から( )歳
2.ナイル川は全長何キロ?( )キロ~( )キロ

といったクイズが10問ある。これにたいして、まったくわからないというのはダメ。たとえば、1.であれば、1歳から200歳とすれば必ず正解になる。これが信頼区間だ。これに対して、正答を9個以上含む範囲を挙げた人は1%。99%は判断にバイアスが乗っていることになるという。

つまり、正解があるところをはずして、そこでいろいろな分析をするので、人間はうまく判断できないのだという。絶対計算は信頼区間を広くとり、手当たりしだいに分析していくので答えを見逃さないというのだ。

ただ、どんな問題でもそのような分析を行おうとすると、無限の因子が出てきて、不可能であることが多い。そこで、その信頼区間の絞り込みは人間(専門家)が行うべきであり、それを適切にできるためには、仮説立案が重要であると結論する。

そして、人間にそのような役割をさせるための教育のあり方にまで言及している。

日本ではビジネスの中にこのような絶対計算を取り入れることに遅れているが、そろそろではないかと思う。一度、このような世界を知っておくことはどのような仕事をしていても意味のあることだろう。

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2007年12月 5日 (水)

プロジェクトXの経営学

462304873x 佐々木 利廣「チャレンジ精神の源流―プロジェクトXの経営学」、ミネルヴャ書房(2007)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトXにはまっています。なぜから、こういう連載を始めたからです。

プロジェクトXにみるスポンサーシップ

プロジェクトXというと、そのネーミングからか、プロジェクトマネジメントの視点から取り上げられることが多い。しかし、プロジェクトXというのはプロジェクトマネジメントについて問われるべきものではなく、「プロジェクトのマネジメント」について問われるべきものである。つまり、経営組織がプロジェクトをどのように行っていったかをテーマにしているものは極めて多い(もちろん、純粋なプロジェクトものもあるが)。

ということで、八重洲ブックセンターにいきプロジェクトXの本を探していたら、面白い本があった。これがこれ。

まとめ方も面白く、NHKのプロジェクトXはなぜ、面白いかという視点からまとめている。まとめたのは、京都産業大学の先生たち。分析視点は
・新規事業創造
・製品開発と企業間協調
・イノベーションと産業発展
・新市場の開拓とマーケティング戦略
・経営の国際化と組織学習
・組織間の異種協働
・リーダーシップとリーダー・フォロワーの関係
の関係。この視点の設定はたいへん、面白いし、参考になった。NHKのストーリーがプロジェクトにフォーカスしているので、その背後や環境をうまく抽出する視点だからだ。

ただし、分析は、教科書のような分析なので、経営学の教科書かと突っ込みたくなるような内容。もう少し、突っ込んでほしかった(実際に教科書として使っているようなので、そのためかもしれない)。

ということで、試みは評価したいし、この本を読んでプロジェクトXを見ると、見方が変わると思う(実際にやってみたらそうだった)。その意味でも意味があると思う。本当は★3つ半くらいにしたいのだが、★1個はその点でのおまけ。

また、プロジェクトマネジャーが、自分の置かれている立場を確認するためにも読んでほしい1冊である。

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2007年11月30日 (金)

イノベーションをマネジメントする

4270002719 ジェームズ・アンドリュー、ハロルド・サーキン(重竹尚基、遠藤真美、小池仁訳)「BCG流 成長へのイノベーション戦略」、ランダムハウス講談社(2007)

お薦め度:★★★★

この本が指摘し、かつ、答えを準備している問題は非常に重要な部分である。

日本ではイノベーションはマネジメントするものではなく、言い方は悪いが、「アイディア」と「運」だと思っている人が多い。この議論でよく引き合いに出されるのが、20年前にウォークマンを作ったソニーはなぜ、iPodを作り得なかったかという話だ。実は、本書にもこの話は触れられているので、興味ある人は読んでみてほしい。

日本ではと書いたが、この傾向は欧米でも同じような傾向があった。あまりにも、説明できない(不確実な)ことが多く、体系的にマネジメントできるものではないと考えられてきた。

この傾向が変わる契機になったのが「クリステンセンのイノベーションのジレンマ」ではないかと思う。このあたりから、日本でも著名なものでも、クリステンセンの「破壊的イノベーション」、ムーアの「キャズム」、キム氏&モボルニュは「ブルーオーシャン」など、ロジャースが提示したイノベーションモデルでは説明できないような現象を説明するモデルが多くでてきた。

そのような中で、この本はボスコンの体系的なイノベーションマネジメントの手法を紹介するものである。投資マネジメントをキャッシュカーブというフレームワークで合理的に行っていくことによって、不確実性に対処し、最適なゴールを見つけ出し、到達することができるというものだ。

商品開発を担当している人にはぜひ読んでほしいと思うが、この本は単にイノベーションにとどまらず、「マネジメントの価値」を考えさせられる本である。その意味で、すべてのマネジャーにお薦めしたい1冊である。

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2007年11月19日 (月)

プロジェクトは大義と共感

4828413510 小池百合子「小池式コンセプト・ノート―プロジェクトは「大義と共感」で決まる!」、ビジネス社(2007)

お薦め度:★★★★

小池百合子議員がクールビスプロジェクトをどのように進めていったかを、コンセプトづくり、「大義と共感」をキーワードに振り返っている。副題になっているとおり、「大義と共感」が問題だったと振り返り、小泉郵政解散の際の刺客騒動についても、同じ発想が成功をもたらしたと振り返る。

クールビスについては、膨大なプロモーション費用が問題になったが、急速に広まっていったのは事実である。仕事がら、顧客企業にいくことは多いが、最初の年は行く先々でネクタイをしたり外したりしていたが、2年目になると、ほとんどネクタイをすることはなくなった。商品のプロモーションと違い、コストをかければ成果に直結するという類の問題ではないように思うので、本当にコンセプトの勝利だといえるだろう。

そのコンセプトを作った舞台裏をかなり詳細に書いているので、興味深いし、また、参考にもなる。

ステークホルダが多く、複雑なプロジェクトの企画やマネジメントを担当している方にはぜひ、読んでほしい。

タイトルから「大義」というは政治ならではの話だと感じる人も少なくないと思う。しかし、大義というのはビジネスでも非常に効果がある。本質的にも、現実的にも、大義のないプロジェクトに協力する人もいないし、特にプロジェクトが苦境に陥ったときには大義は重要である。

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2007年10月26日 (金)

禁断のコミュニケーション技術

4894512807 三浦博史「神様に選ばれるただひとつの法則~人生を勝利に導くコミュニケーション術「プロパガンダ」 」、フォレスト出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

プロパガンダとは

 自ら働きかけて自らの思う方向に他人や集団を動かすこと

である。もともと、布教活動をさす言葉だったが、プロパガンダという言葉を有名にし、同時に、世の中から葬ったのは、ナチスの大衆扇動をプロパガンダと呼んだことだろう。それまでの言葉の使い方を考えてみると非常に不遜な使い方であるが、プロパガンダという言葉はいまだにこの言葉を引きずっているし、悪いイメージがある。

そのプロパガンダが欧米のハイクラスのビジネスマンに注目されるスキルになっているという。

・仕事やプライベートでの「人間関係」を良くしたい!
・カリスマ的な「リーダーシップ」が欲しい!
・「広告」「PR」「マーケティング」に関わっている!
・「セールス」関係の仕事をしている!
・上司、部下、お客様、同僚に好かれ、「仕事」で結果を出したい!
・本当の「自分の魅力・実力」を認めてもらいたい!
・転職や就職の「面接」を成功させたい!
・まったく新しいコミュニケーション術の本が読みたい!

などの思いを持つ人が注目しているそうだ。実際にこの本を読んでみると、コミュニケーションをまったく別の体系でまとめており、非常に面白いと思う。

特に面白いのは、コミュニケーションと情報という本来は別のものを結びつけ、情報というのをどのようにコミュニケーションの中で位置づければよいかというビジネスコミュニケーションにとってとても重要な問題をうまく整理している点。

欧米では禁断のコミュニケーションスキルと呼ばれているが、禁断に手を出してみませんか?

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2007年10月15日 (月)

トヨタの奇跡

4478000794 高木 晴夫「トヨタはどうやってレクサスを創ったのか―“日本発世界へ”を実現したトヨタの組織能力」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

トヨタものは多いが、この高木先生の一冊は分析の切り口(仮説)が見事で、非常に読み応えのある一冊である。

この本では、レクサスの成功要因を分析している。レクサスについては、これまでのトヨタスタイルで本当にできるのだろうかと懐疑的だった人が多い。現に、LSが出てくるまでに出たレクサスに関する本は、どうして失敗したのかとか、挫折とかそんなテーマだった。

この背景にいくつかの理由があるようだが、何よりも、トヨタとブランド確立、それも、高級ブランドの確立というのはイメージが分からないという人が多いのではないだろうか?

この一冊はトヨタの成功をいずれも人がベースになる5つの組織能力に整理している。以下の5つである。

(1)人のつながりによって仕事を成し遂げる能力
(2)創造の革新を人々のつながりを行き来させる活動の中から形成する能力
(3)リーダーの洞察を情熱で人々のつながりのエネルギーレベルを上げる能力
(4)誰と誰がつながると仕事が成し遂げられるかを誰もが考える能力
(5)誰がつながっても仕事が成し遂げられるような問題解決の共通基盤を持つ能力

この本はこの5つをケースストーリーで説明されており、最後に、それぞれの論理的な分析を解説するという形態をとっている。そのケースストーリーを読めば分かるのだが、当事者もやはりためらっていた。ところが、カローラをどんどん進化させるのと同じ流儀でやり遂げてしまうのだ。

その背景にあるのが、上の5つの組織能力というわけだが、何よりも人の持つ可能性を強く感じさせる。それはトヨタマン独特のものかもしれないし、日本人全般に通じるものかもしれない。

トヨタというのは成功要因が非常に分かりにくい企業である。ホンダなどと比べると、なぜ、成功しているのかまったく分からないといってもよい。しいてあげるのであれば、「やれることはすべてしている」といえよう。日産やホンダの特色のある部分と比べても、決して遜色を取らない。ある意味で、マネジメントとはこうやるという鏡だともいえる。

その中で、人と組織能力に注目して見事に成功要因を整理した本書は一読の価値があろう。

もちろん、高木先生の専門分野の組織行動論のテキストとしても一級品である。

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2007年8月15日 (水)

成功事例で学ぶ顧客視点に立った成長

4903241580 江口一海、矢野英二、木島研二、郷好文「顧客視点の成長シナリオ―モノづくりの原点」、ファーストプレス(2007)

お奨め度:★★★★1/2

顧客中心型経営手法を3つのコンセプトと事例を中心にしてまとめた一冊。

3つの活動コンセプトとは

・顧客価値の本質を実現する、顧客との接点を再編する活動
・顧客価値の本質にマッチする商品とサービスを提供する活動
・売り方と商品が実現する価値を顧客網上に構築する活動

の3つであり、序章では、この3つを、iPod、日亜LED発光ダイオード、キーエンス、デル、スターバックス、ユニクロ、アサヒビール、などのよく知られたベストプラクティスから導きだしている。

その後、第1部では、事例研究編として、コエンザイムQ10サプリメント、新幹線インバーター装置開発の2つのケーススタディでこの3つの活動コンセプトを分析している。

第2部は実践編ということで、この3つの活動コンセプトを実現するための事業モデル、成長シナリオについて提案している。

読みモノとしても面白いし、顧客価値の本質がどこにあるのか、自社のコンピタンスをその本質にあわせこんでいくにはどうすればよいのかについて多くの気付きを与えてくれるよい本である。

また、新幹線のインバーターの開発の事例はプロジェクトマネジメントの視点からも、顧客視点にたった場合に、トレードオフのマネジメントをどうするかといった重要な問題に対するたいへんよい答えになっているので、事業マネジャーだけではなく、プロジェクトマネジャーにとっても得るところの多い一冊である。

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