ナレッジマネジメント Feed

2007年10月 5日 (金)

対話

4862760171 デヴィッド・ボーム(金井真弓訳)「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★★

日本語で「話せば分かる」という言い方がある。この場合の「話す」とはどういう意味であろうか?

北朝鮮拉致問題で「対話と圧力」ということが言われている。世界中の紛争のあるところで、政策対話というのが行われている。この場合の「対話」とはどんなものだろうか?

この問題に対して深い洞察をしたコミュニケーション論の名著、「On Dialogue」という本がある。著者は物理学者にして20世紀の偉大な思想家の一人だとも言われるデヴィッド・ボームである。1996年に出版されたこの本は、2004年に第二版が出版されたが、第2版の邦訳が今回、英治出版より出版された。

419860309x ダイアローグというと真っ先に思いつくのが、この本の前書きを書いているピーター・センゲの学習する組織である。ピーター・センゲは学習する組織には、「パーソナル・マスタリー」「メンタルモデル」「システム思考」「共有ビジョン」とともに、ダイアログが必要だといっている。少し、センゲの組織学習論を書いた「最強組織の法則」から抜粋する。

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ダイアログの目的は、探求のための「器」もしくは「場」を確立することによって新しい土台を築くことである。その中で参加者たちは、自分たちの経験の背景や、経験を生み出した「思考と感情のプロセス」をもっとよく知ることができるようになる。
=====

この本を読んだことのない人は、ちょっとよく分からないと思うだろう。ダイアログというのは、いわゆる「話し合い」ではないのだ。コミュニケーションそのものである。「On Dialogue」によると、

対話の目的は、物事の分析ではなく、議論に勝つことでも意見を交換することでもない。いわば、あなたの意見を目の前に掲げて、それを見ることなのである

となる。もっと分からないかもしれない。対話ではWin-Winの関係を作ることが目的ではなく、不毛な競争をしないこと、共生することが目的なのだ。

そんな発想がビジネスに必要かと思った人も多いだろう。日本のビジネス慣行というのはもともと、ダイアローグを礎にしている。ただし、価値観の変わってくる中でダイアローグが行われてこなかった。このため、談合だとか、おかしな問題が出てきている。そこをもう一度、再構築するためには、文字通り、ダイアローグが必要だ。

そんなことには興味がないという人。あなたのお客様や上司と「話せば分かる」関係になりたいと思いませんか?思うのであれば、この本を読んでみましょう!

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2007年7月27日 (金)

フロネシス(賢慮)型リーダーシップ

4757121970 野中郁次郎、紺野登「美徳の経営」、NTT出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

卓越した企業が、美しさとしたたかさを併せ持つ。このような企業をフロネシス(賢慮)という概念を中心に、作り上げていこうと説く一冊。

美徳の経営とは

「共通善を念頭に社会共同体の知を生かす経営」

であるとこの本では述べられている。まさに、米国型の経営に対する強烈なアンチテーゼである。非常に興味深く、また、この本の説得力を増しているのは、たくさんの事例が挙げられていることだ。

英国のコオペラティブ・バンク、バングラデシュのグラミン銀行、クラレや資生堂、財閥三井はどが、賢慮に基づく経営の例として取り上げられ、さらには、それらの企業が賢慮をどのように育成しているかを紹介している。

そして、これを人間に対するイノベーションだと位置づけており、そこに、著者たちの取り組んでいる「暗黙知」や「デザイン」が位置づけられる。そして、これから卓越した企業になっていくには不可欠であることを述べている。この中で、不祥事で有名になった企業をチクリとやっているのも見逃せない。

美徳とは何かという話だが、簡単にいえば、共通善によりもたらされるもので、CSRに通じていく概念である。その点でも、米国流の経営に対するアンチテーゼとして説得力のある話である。

昨年、小泉政権が終わり、安部政権が始まったときに打ち出したメッセージは「美しい」と「イノベーション」であった。このメッセージで漠然と思い浮かべたのがこの本にあるような内容だ。

若干迷走気味であるが、ぜひ、産業施策においても、ぜひ、このような方向性を見せてほしいものだ。そのヒントになる本である。

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2007年7月11日 (水)

幻の組織構築論

4047100919 山本七平「日本人と組織」、角川書店(2007)

お奨め度:★★★★1/2

日本人論の金字塔だといわれる「日本人とユダヤ人」などの著書で多くの読者を持つばかりでなく、日本型組織論、日本型経営など、多くの分野での研究に多大な影響を与えている日本研究者山本七平先生の幻の組織論といわれる原稿がついに書籍化された。

この本は70年代にかかれたものである。従って、書かれていることについてはある程度、結論が出ていることも多い。その中にはもちろん、現実となっていない論考もあるが、重要なところでは恐ろしく当たっている。

組織のコミットメントに宗教(神)の議論を持ち込み、日本人の組織観の特殊性を説明したのが山本先生である。この本に書かれている大枠の話は他の研究者や評論家によって引用されることが多く、有名なものが多いのだが、この本を読むと、その背景の考え方が非常によくわかる。

この10年くらい、日本の企業も山本先生の描かれた日本型組織から徐々に外れつつあるが、そこに大きな軋みが生じつつある。なぜ、軋みが生じるか、どのように改革すればよいのかを明確に示されている本書は、このような時代であるからこそ、一読の価値があるといえよう。

マネジメントに関わるすべての人に一読することをお奨めしたい。

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2007年7月 2日 (月)

経営を見る眼

4492501746 伊丹敬之「経営を見る眼 日々の仕事の意味を知るための経営入門」、東洋経済新報社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

経営というのは多面性があり、説明するのは非常に難しい。それを

・人はなぜ働くか
・仕事の場で何が起きているか
・雇用関係を断つとき
・企業は何をしている存在か
・株主はなぜカネを出すのか
・利益とは何か
・企業は誰のものか
・人を動かす
・リーダーの条件
・リーダーの仕事上司をマネジする-逆向きのリーダーシップ
・経営をマクロに考える
・戦略とは何か
・競争優位の戦略
・ビジネスシステムの戦略
・企業戦略と資源・能力
・組織構造
・管理システム
・場のマネジメント
・キーワードで考える
・経営の論理と方程式で考える

の21の視点から見事にきっている。

まさに、伊丹先生の知見のすべてを書ききった素晴らしい本である。会社に所属している人はぜひ一度読んでおきた本だ。

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2007年3月12日 (月)

コンサルタントの秘密の道具箱

4822281728_01__aa240_sclzzzzzzz_ ジェラルド・ワインバー(木村泉訳)「コンサルタントの道具箱」、日経BP社(2003)

お奨め度:★★★★
 

コンサルタントとしてのものの見方、行動の仕方を解説した本で、分野を限らず、コンサルティングのバイブルだといってもよい一冊である。

この本では、思考法や、行動法を道具に見立てて、コンサルタントはそれを道具箱に収め、必要に応じて取り出して、問題を解決するというメタファーを作っている。

それぞれのツールについても

イチゴジャムの法則
知恵の箱
金の鍵
勇気の棒
願いの杖
探偵帽と虫めがね
イエス・ノーのメダル
ハート

望遠鏡
魚眼レンズ
ジャイロスコープ
卵、カラビナ、羽根
砂時計
酸素マスク

といったメタファーで書かれたウィット満載の一冊である。コンサルタントやその志望者であれば読んでおいて損のない一冊だろう。

なお、この本にはシリーズが存在する。20年ほど前に出版された本だ。

4320025377_09__aa240_sclzzzzzzz_ ジェラルド・ワインバー(木村泉訳)「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」、共立出版(1990)

今、読んでみると、荒削りな感じがするが、コンサルタントの道具箱の原点であるので、こちらもとてもよい本であるので、併せて読んでみるとよいだろう。
 

2006年10月27日 (金)

イノベーションマネジメントの全てが分かる一冊

456965546701 大浦勇三「イノベーション・ノート―会社が劇的に変わる! 」、PHP研究所(2006)

お奨め度:★★★★

イノベーションマネジメントのポイント(論点)が実に要領よくまとめられた1冊。以下の6つの視点にまとめられている。

・事業戦略は適切か

・実現に向けた仕組み/プロセスは明確か

・必要なコンテンツ(情報・知識・知恵)は十分か

・推進体制は必要か

・人材教育/人材育成は万全か

・外部連携に死角はないか

それぞれの項目につき、さらに5つの中項目にブレークダウンし、それぞれの中項目に対して、5項目の小項目を、1項目1ページで、図表を駆使して視覚的に理解できるように実にうまくまとめられている。また、各項目とも8行ほどの解説があるが、この解説も分かりやすい。

この本を読んで、まず、最初に思いついた用途は、自社のイノベーション能力のチェックである。政府が政策目標にイノベーションを掲げ、担当大臣を置いた。また、経団連でも「イノベート日本」というキャッチフレーズを掲げた。

イノベーションへの関心の高まりは否が応でも増してくるだろう。そんなときに、とりあえず、何か一冊本を読んで、マネジメントとして何をすればよいかを把握したいときに、絶好の一冊だ。

ただ、中は、いわゆる図解的な入門書ではない。図解であるが、内容はかなり本格的なイノベーションマネジメントの解説書であるので、それなりの覚悟をして読む必要があると思うし、自分の関心の持てた項目については、他に参考書を探して深堀する必要があると思う。

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2006年10月21日 (土)

偉大なる経営論

B000ion7te01 Harvard Business Review2006年 11月号

 【創刊30周年記念号】偉大なる経営論

お奨め度:★★★★★

ハーバードビジネスレビューの創刊30周年記念号。30年間に発表された名論文の中から30本が採録されている。下にリストがあるので見てほしい。経営学にまったく縁のない人でも4~5人くらいは知っている人が多いのではないかと思う。

ほとんどの論文が実践の中で使われるようになってきた概念を示したものだ。これはすごいことだと思う。かつ、この2~30年の間に新しく生まれたマネジメント手法はほぼ、網羅されている。

つまり、そのくらいハーバードビジネスレビューは実務家のマネジメントに貢献している学術論文誌である。

マネジャーという肩書きのある人、あるいは、将来マネジャーを目指している人、いずれも、この記念号はぜひ持っておき、通勤の行き帰りにでも読んでほしい。

最後に神戸大学の加護野先生の「マネジメントの古典に触れる」という提言がある。この提言も味がある。

ちなみに、東京で本屋を探したが、最初の3件は売り切れだった。よく売れているようだ。

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2006年7月26日 (水)

ベンチマーキングしよう

482011830701 高梨智弘「ベンチマーキング入門(新版ベンチマーキングとは何か)―ベストプラクティスの追求とナレッジマネジメントの実現」、生産性出版(2006)

お奨め度:★★★1/2

日本では非常に珍しいベンチマーキングについて、ナレッジマネジメントの大家である高梨氏が解説した本。1995年に「ベンチマーキングとは何か」という本としてかかれたものを大幅に改定し、作られた本である。

内容的には高梨氏の提案するベンチマーキングのプロセスと、ベンチマーキングの活用方法について詳細に解説された本である。また、ベンチマーキング実施のノウハウについてもかなり突っ込んで書かれている。

高梨氏の提案するベンチーマーキングプロセスは

 S(Strategy)

 P(Plan)

 D(Do)

 L(Learning)

 I(Innovation)

というサイクルで、15のステップからなるプロセスである。

また、最後に1章を割いて、ケーススタディをしている。ケーススタディは、ゼロックス、ソレクトロン、リッツカールトン、アームストロング、サウスウエスト、トーラスなど。

日本ではベンチマーキングというマネジメント手法はあまりなじまない手法である。徹底的に隠す多くの企業と、あけっぴろげな少数企業といった感じだ。少なくとも20年前まではプロセスという概念がなかったのだから、このようになるのはある意味で当たり前である。

ただ、次第に状況が変わってきた。プロセスという考え方が確立され、競争するプロセスと、競争のインフラとなるプロセスで、インフラプロセスでは積極的にベンチマーキングが行われるようになってきた。

実際に経営品質などの考え方にはベンチマークに応じられることが重要な要件になっている。

そんな状況を受けて、10年ぶりに改定された本書は10年前とは比べ物にならなくくらい、価値のある本になっている(内容も充実している)。プロセスマネジメントや、経営企画に関わる人はぜひ読んでおきたい一冊だ。

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2006年7月 2日 (日)

学習する組織のバイブルから、未来のマネジメントのバイブルへ

419860309X.09.LZZZZZZZ

ピーター・M. センゲ:「最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か」、徳間書店(1995)

お奨め度:★★★★★

組織学習のバイブル。組織がシステムであることを正視させる本。組織論の分野でも大きな影響を与えている1冊である。

この本では、学習する組織では

自己マスタリー(personal mastery)
メンタル・モデルの克服(mental models)
共有ビジョン(shared vision)
チーム学習(team learning)

の5つの原理と、これらを統合するシステム思考(systems thinking)の5つの原理が必要だと述べている。

組織論として、ひとつの理論だが、ビジネスシステムという概念で企業やビジネスを見た場合、本書のような視点で組織を捉える意味は大きく、また、発展性がある。90年代終わりからずっとビジネス、とりわけ組織に大きな影響を与えてきた1冊であるが、真価がはっきりするのはむしろ、これからかもしれない。

ビジネスマンとしては、ぜひ、読んでおきたい1冊である。

また、この本には、2冊のフィールドブックがある。

453231075x09 一冊は5つの法則を如何に適用していくかを解説した本である。

ピーター・センゲ(柴田昌治訳)「フィールドブック 学習する組織「5つの能力」 企業変革を進める最強ツール」、日本経済新聞社(2003)

フィールドブックであるので、5つの原則が何を言っているのかが具体的な行動像を通じてよく分かる。もちろん、フィールドブックとして実際に使えるようなレベルのものである。

もう一冊は、5つの原則を実行するために、組織にはどのような変革課題があるかを解説し、その課題を解消するためのフィールドブックがある。上のフィールドブックとの関係としては問題解決編453231131409_1という位置づけになっている。

ピーター・センゲ(柴田昌治、牧野元三、スコラコンサルト訳)「フィールドブック 学習する組織「10の変革課題」―なぜ全社改革は失敗するのか?」、日本経済新聞社(2004)

学習する組織の構築の具体的なヒント、フィールドワークの指針も得られる貴重な本だ。必ず併せて読みたい。

(初稿:2005年3月2日)

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2006年5月11日 (木)

ナレッジワーカーのマネジメント

4270001224 トーマス・ダベンポート(藤堂圭太訳)「ナレッジワーカー」、ランダムハウス講談社(2006)

お奨め度:★★★1/2

トーマス・ダベンポートが書いたナレッジワーカーのマネジメント本。

ナレッジワーカーが高いパフォーマンスを上げるにはどのような環境が必要かについてさまざまな視点から論じている。この分野のグルの一人であるダベンポートだけあって、内容は充実しているし、説得力も十分だ。

特に9章のナレッジワーカーのマネジメントは非常に有益である。

・知識労働をしながらナレッジワーカーを管理する

・知識労働のコミュニティを作る

・ナレッジワーカーをリテンションする

・知識スキルを教え、広める

・知識フレンドリーな文化を醸成する

・官僚主義の排除

ダペンポートは5~6年前に

482011697509lzzzzzzzワーキング・ナレッジ―「知」を活かす経営」、生産性出版(2000)

という本を書いている。ダペンポートの主張は、ドラッカーのいう知識労働と微妙に違うので、もし、知識労働に対するイメージがない人はこちらの本を併せて読んでみてほしい。

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