技術経営 Feed

2007年6月 6日 (水)

イノベーションの実態

4569690661 片山修「イノベーション企業の研究 日本型成長モデルは現場がつくる」、PHP研究所(2007)

お奨め度:★★★★

日本のイノベーション書籍は学術研究的なものが多い。理論的な仮説を持ち、その仮説を検証する形で書かれている本が多い。そのような中で、研究者というよりはジャーナリストの目から見て、イノベーションによる成長企業に何が起っているかをまとめたこの本は、イノベーションのヒントを得る上で、非常に貴重な一冊だと思う。取り扱っている視点もユニークである。企業は、何かとよく取材される企業が多いが、

・キヤノンを支える本社力
・JR東日本の事業創造力
・ホンダのモノづくり基礎力
・トヨタのブランド創造力
・日本精工の部品力
・全日空の構造改革力

という風に独自の視点で取材をし、分析をしている。というか、実はこのテーマは、外部からこれらの企業をみたときに、真っ先に見える顔というのはこの当たりではないかと思う。その意味で、ジャーナリズム本であるし、読んでいて楽しい。

この中で、著者が着目しているのは、トップとのコミュニケーションに裏打ちされた現場力である。例えば、キャノンの本社力であれば、

・トップが現場にいけば、現場は刺激をうけ、張り合いを倍加させる

・全体最適がただのお題目ではなく、会社全体がひとつになって動くような仕組み作りをしなくてはならない

・経営のスピードはコミュニケーションの伝達の速さと深さによる

といったポイントをあげている。

プロジェクトX的な本はあるが、組織の取り組みをこのような視点で取り上げた本は珍しく、ありそうでなかった本。

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2007年3月23日 (金)

サービスという活動を見直す

4903241424_01__aa240_sclzzzzzzz_v4254523 ジェームス・トゥボール(小山 順子、有賀 裕子訳)「サービス・ストラテジー」、ファーストプレス(2007)有賀 裕子

お奨め度:★★★★1/2

サービスマネジメントの専門家であるジェームス・トゥボール博士が、サービスとは何かという問題をきちんと定義し、今後へのソリューションを示した本。

この本に述べられているように、ものづくりとサービスの関係というのはこの20年くらい、ずっともやもやとしてきた問題である。特に、BTOが常識になり、マーケットインが当たり前のように行われるようになって以来、サービスとものづくりの境界が消え、サービス行も製造業も何らかの形での変革を迫られてる。

ところがあまり変わっていない。双方とも、自分の領域だけでビジネスをしようとしている。この現状に対して、この本は、

サービスミックス

サービストライアングル

サービスインテンシティマトリクス

価値創造サイクル

クオリティギャップ

などのツールを提示し、サービスマネジメントとして、サービスとものづくりの融合の方法を提案している。

この本に目を通して、真っ先に進めたいと思ったのはSI企業のマネジャーやシニアマネジャーである。非常に学ぶところの多い本だと思うので、ぜひ、読んでみていただきたい

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2007年3月21日 (水)

トヨタの秘密

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ジェームズ・モーガン (著), ジェフリー・ライカー(稲垣公夫訳)「トヨタ製品開発システム」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

トヨタウエイの著者 ジェフリー・ライカーによるトヨタの製品開発システムのエスノグラフィ。日米の研究開発拠点12箇所で40人の開発担当者から延べ1000時間に及ぶ聞き取り調査を実施して書き上げた本。

トヨタウエイについてはこちらの記事を参照。

トヨタウエイの実践

トヨタといえば現場とよい意味で泥臭い改善活動の印象がつよい。しかし、マネジメントの研究者のレベルでは、むしろ、製品開発システムに関心が高かった。東京大学の藤本先生、神戸大学の延岡先生をはじめとし、多くの経営学の研究者がトヨタのシステムを研究し、論文を書いている。実際のところ、初代イプサムに代表されるリードタイムの大幅な短縮など、興味深い点は多い。

それらの本と比べるとこのライカーの本は実務者にとって参考になる。あまり、大きな仮説を設定せずに、エスノグラフィーとして淡々と調査、観察したことが書かれており、本当のところの実態がよくわかる。

チーフエンジニア制度、セットベースのコンカレント・エンジニアリング、平準化プロセスなど、トヨタ独自のシステムが丁寧に解説されているので、読んでいて、上記の論文ではわからないことがわかる部分がずいぶんある。特に興味深いのはこれらの制度の背景にあるルールを以下のような原則としてまとめていることである。

 プロセスのサブシステム:リーン製品開発システム原則の1~4
   原則1 付加価値とムダを分離できるように、顧客定義価値を設定する
   原則2 選択肢を十分に検討するため、製品開発プロセスを設計上の自由度が一番高い初期段階にフロントローディングする
   原則3 平準化された製品開発プロセスの流れをつくる
   原則4 厳格な標準化を使ってばらつきを減らし、フレキシビリティーと予測通りの結果を生む

 人のサブシステム:リーン製品開発原則の5~10
   原則5 開発を最初から最後までまとめるチーフエンジニア制度をつくる
   原則6 機能別専門能力と機能間統合をバランスさせる組織を採用する
   原則7 すべての技術者が突出した技術能力を持つようにする
   原則8 部品メーカーを完全に製品開発システムに組み込む
   原則9 学習と継続的改善を組み込む
   原則10 卓越性とあくなき改善を支援するカルチャーを醸成する

 ツールと技術のサブシステム:リーン製品開発システム原則の11~13
   原則11 技術を人やプロセスに適合させる
   原則12 組織全体の意識をシンプルで視覚的なコミュニケーションで合わせる
   原則13 標準化と組織的学習に強力なツールを使う

ただし、このようなトヨタ方式が有効かどうかを判断するのは読者である。これが有効であるという証拠、論拠はない。唯一あるのは、もうすぐ、世界一の自動車メーカになるだろうということだけだ。

逆にいえば、別の業界の人(たとえば、製薬)がベストプラクティスとして読んでも訳に立つ内容ではないかと思う。

それから、いくつかの開発ケースが採録されている。これらは読み物としても面白い。

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2007年3月19日 (月)

イノベーションを成功させる組織

4901234986_01__aa240_sclzzzzzzz_v4414069 トニー・ダビラ、マーク・エプスタイン、ロバート・シェルトン(スカイライトコンサルティング訳)「イノベーション・マネジメント 成功を持続させる組織の構築」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

イノベーションのマネジメントを組織の視点から書いた本。イノベーションは偶発するものではなく、管理するものであるいうスタンスに立ち、具体的な方法を述べている。

その中心になるのが経営陣の「7つのルール」。

(1)イノベーションの戦略とポートフォリオを決定する際に、強力なリーダーシップを発揮する

(2)イノベーションを階差の基本精神に組み込む

(3)イノベーションの規模とタイプを経営戦略に合わせる

(4)創造性と価値獲得のバランスをうまくコントロールする

(5)組織内の抵抗勢力を抑える

(6)社内外にイノベーションのネットワークを構築する

(7)イノベーションに適切な評価指標と報奨制度を設ける

の7つである。

この本では、この7つのルールを実行していくための具体的な方策について解説している。経営者や組織マネジャーはもちろんであるが、現場のマネジャーにも読んでいただきたい一冊である。

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2007年1月29日 (月)

MOT人材からMOTリーダーへ

4502389609_01__aa240_sclzzzzzzz_v4686950 古澤哲也「MOTリーダー育成法―技術経営成功の鍵は人材開発にあり」、中央経済社(2007)

お奨め度:★★★★

この本では、MOTは人の問題だと考え、その視点から人材開発によって技術経営を成功させるにはどうすればよいかを議論している。

この本が非常に面白いのは、MOTにおける人の問題をいわゆる技術者としての育成という視点から話をしていないことである。当然であるが、人の問題の中で中心になるのは、技術者であるのだが、問題になるのは技術的な能力ではない。経営のメカニズムの中で如何に活躍できるような人材にしていくかだ。つまり、MOTの技術部分を担う人材ではなく、リーダー人材として育成することが必要だと考えている。

この問題に対して今までのMOTの議論は、マネジメントを教えればよいということであったが、この議論は現実的ではない。必要なのは、マネジメントができる技術者ではなく、マネジメントに参画できる技術者である。

そう考えると、問題の本質は大幅に変わり、育成とは、技術者のマネジメント能力を身につけさせることではなく、技術者のコンピテンシーを開発するという問題になってくる。

この本ではどのようなコンピテンシーが必要か、それをどのように身につけさせるか、そのための仕組みをどう作るかを議論した一冊である。

2007年1月 3日 (水)

死の谷を如何に乗り越えるか

4641162530_01__aa240_sclzzzzzzz_ 榊原清則「イノベーションの収益化―技術経営の課題と分析」、有斐閣(2006)

お奨め度:★★★★

R&Dにおける「死の谷」問題に着目し、実際の日本企業のサーベイを通じて、この問題への解決の方向性を提案している。提案は、クリステンセン先生の『イノベーションのジレンマ」や、東大藤本先生の『アーキテクチャの位置取り戦略』をベースの理論としており、これらに対する簡単な解説も含まれている。

理論的な解説をこの問題に絞っているので、MOT全般を扱う本にはなっていないが、簡潔に、実に的を得た実感を持てる問題分析と提案になっている。

また、この本の三分の二を占める内外のベストプラクティスを分析する形で、提言が構成されているので、納得性も高く、読んで面白い本である。

MOTのとってつけたようなケースではなく、このように本格的なケースを踏まえて、論理構成をする榊原先生のセンスには感動すら覚える。

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2006年10月21日 (土)

偉大なる経営論

B000ion7te01 Harvard Business Review2006年 11月号

 【創刊30周年記念号】偉大なる経営論

お奨め度:★★★★★

ハーバードビジネスレビューの創刊30周年記念号。30年間に発表された名論文の中から30本が採録されている。下にリストがあるので見てほしい。経営学にまったく縁のない人でも4~5人くらいは知っている人が多いのではないかと思う。

ほとんどの論文が実践の中で使われるようになってきた概念を示したものだ。これはすごいことだと思う。かつ、この2~30年の間に新しく生まれたマネジメント手法はほぼ、網羅されている。

つまり、そのくらいハーバードビジネスレビューは実務家のマネジメントに貢献している学術論文誌である。

マネジャーという肩書きのある人、あるいは、将来マネジャーを目指している人、いずれも、この記念号はぜひ持っておき、通勤の行き帰りにでも読んでほしい。

最後に神戸大学の加護野先生の「マネジメントの古典に触れる」という提言がある。この提言も味がある。

ちなみに、東京で本屋を探したが、最初の3件は売り切れだった。よく売れているようだ。

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2006年10月 2日 (月)

MOTの定番テキスト

453213321101 延岡健太郎「MOT“技術経営”入門」、日本経済新聞社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

日本経済新聞社が展開している Management text シリーズにMOTが登場した。著者は、神戸大学の延岡先生。この2点だけでも買いの一冊だ。

MOTの体系というのは難しい。多くの本はあるが、非常に癖がある本が多く、必要以上に技術戦略にフォーカスしたり、経済効果にフォーカスしたりといったものが多い。事情を鑑みると、やはり、従来のマネジメント論と差別化したいという想いが強いのだと思われる。

しかし、MOTといえども、目的は利益を上げることであり、事業成長をさせることであるので、従来のマネジメント論と変わらない。従って、従来のマネジメント論に、技術的ポイントを満遍なくばら撒いたような本が必要で、戦略経営でそのような本を書けるのは、延岡先生や神戸大学の技術経営の先生だけではないかと思っていた。

その期待に裏切らない一冊である。本書は、MOTへの視座を明確にした上で、戦略、事業構造、組織構造、プラットホーム、組織マネジメント、プロジェクトマネジメント、顧客価値創造、企業間連携など、非常にオーソドックスな流れで、MOT論を展開している。

453213247909 いずれ、「ゼミナール経営学」のようなマネジメントの基本テキスト的存在になっていくことが期待される。

ぜひ、一冊購入し、じっくりと読んでほしい。

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2006年5月12日 (金)

プロダクトストラテジー

4822244423マイケル・E・マクグラス(菅正雄, 伊藤武志 訳)「プロダクトストラテジー~最強最速の製品戦略」、日経BP社(2005)

お奨め度:★★★★1/2

戦略、マーケティングマネジメント、技術マネジメントのバランスがよく取れたプロダクトマネジメントの本。米国のビジネススクールの定番テキスト。

マイクロソフト、IBM、デル、インテル、シスコ、アップル、ゼロックスなどグローバルなハイテク企業は、どうやって競争力のある製品を生み、育てたのかという切り口で、ベストプラクティスとなる戦略パターンを提示している。

製品戦略に留まらず、タイミング、計画立案、コンティンジェンシープラン、マーケティングや資金面での検討事項、などといった製品戦略に付随する様々なプロセスについても言及されているので、非常に実践的な内容になっている。

テキストとして書かれているので、それなりに知識がある人が読むと、説明が冗長であり、まどろっこしい部分があるが、初心者が最初に読み、なおかつ、それなりに深い知識を得るには絶好の本である。

特に、戦略、マーケティングマネジメント、技術マネジメントのバランスについて適切な知識が得られると思うので、プロダクトマネジャーになる人にお奨めしたい本である。

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2006年4月 1日 (土)

3+2=5世代のテクノロジーマネジメント

450238200001lzzzzzzz 古田健二「第5世代のテクノロジーマネジメント―企業価値を高める市場ニーズと技術シーズの融合」、中央経済社(2006)

お奨め度:★★★★

日本では、MOT(マネジメントオブテクノロジー)は理科系(研究開発部門や、エンジニアリングマネジメント)の人材のスキルだと考えられている節があるが、経営との融合が低い。米国では、MBAコースの中でかなりの時間をとっているため、よい書籍が多い。ところが日本では、少なくとも、組織マネジャーが読むことができて、なおかつ、自身のマネジメント活動の参考になる本はほとんどなかった。3年くらい前から、MOTの本は恐ろしく増えているが、そのような本を書いている著者自身が視点の違いに気がついていないのではないかと思う。つまり、技術という視点からものごとを見ているため、事業視点があまりくっきりと浮かんでこないのだ。

「ほとんど」と書いたのは、そうは言いながらも過去にもよい本があったからで、その中の1冊が、この本の著者でもある古田さんが5年前に書かれた

450235960209lzzzzzzz 古田健二「テクノロジーマネジメントの考え方・すすめ方」、中央経済社(2001)

である。今回の本は、この本の発展版である。

さて、なぜ、第5世代かという話をしておく必要がある。1991年に米国で、「Third Generation R&D」という本が出版されて話題になった。第3世代の研究開発である。第3世代というのは、テーマの発想の方法にある。それまでは「技術シーズ」によるテーマ発想をしていたのに対して、第3世代では、「市場ニーズ」を基にしたテーマをしようというものである。この違いは米国では研究開発に大きなインパクトを与えた。この本は日本でも翻訳出版されている。

4478370745フィリップ・ラッセル、タマーラ・エリクソン、カマル・サード(田中靖夫訳)「第三世代のR&D―研究開発と企業・事業戦略の統合」、ダイヤモンド社(1992)

ただし、日本ではあまり大きな話題にはならなかった。

古田氏によると、第5世代というのは、2+3の5であり、第2世代と第3世代の考え方を統合したものであるとのこと。

実は上に述べたこと、つまり、理科系の人だけではなく、文系の人も役立つ理論というのは第3世代の理論であり、古田さんの前著も基本的には第3世代のテクノロジーマネジメントをベースにして書かれている。

が、この何年か、第2世代と第3世代のバランスの重要性が盛んに言われるようになってきており、そのあたりの流れを受けて、新たな本を書かれたのではないかと想像する。

内容であるが、両世代の理論が網羅的に書かれている。事例にもふんだんに触れており、大変に分かりやすい本である。ただ、価格が高いので、購入にはそれなりに覚悟がいる。だた、読んでみて損はない。特に、製造業の企業の組織マネジャーには、ぜひ、覚悟を決めて読んで頂きたい。

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