コンセプト立案力を高める4つのステップ
木谷 哲夫「成功はすべてコンセプトから始まる」、ダイヤモンド社(2012)
お奨め度:★★★★★+α
facebook記事「「思い」を「できる」にかえる」
元マッキンゼーのコンサルタントの書いたコンセプトを中心にした仕事術。今、もっとも求められるのはコンセプト立案力であり、経験や蓄積が競争に役立たなくなっている中で、いかにコンセプトで競争をするかを述べた本。
コンセプトというと新規事業、新規商品というイメージがあるが、コンセプトが求められるのは新規事業だけではない。組織の立て直しや、企業再建にもコンセプトは必要になる。たとえば、IBMの再建をしたガースナーは就任直後に、社内のブレーンから「システム構築からアークテクチャーの決定、コンピューターの運用、管理に至るまで、文字通り顧客の側に立って、引き受け、行動する企業」というコンセプトを示されたことが、再建の成功につながったと述べている。
コンセプトが重要な理由は、まず、コンセプトを決定して、あとはその実現にまい進できる、言い換えると指導力を発揮できるところにある。
コンセプトという言葉はいろいろな分野で使われる。「コンセプト」は似ているが、定義はまちまちである。この本では、自分が実現したいことの包括的イメージとしている。
よいコンセプトを作るためには、
・良いコンセプトとは何か
・良いコンセプトにつながるアイデアをどう出すのか
・どういう姿を到達点として目指すべきか
・はじめの一歩をどうやって踏み出せばいいか?
の4つの問いに答えることができればよい。そのために
ステップ1:コンセプトの持つパワーを理解する
ステップ2:アイデアを作る
ステップ3:持続できる将来像を作る
ステップ4:人に伝え、人を巻き込む
というステップを踏むことを提唱している。
大きなインパクトのある仕事をしようと思えば、インパクトがあり、実現可能性があることが必要である。ただし、ここにたどり着くには2つのアプローチがある。一つは日常業務としてやっていることで、現実的な課題解決から出発し、課題を一つずつ潰していく方法である。このやり方は注意しないと、インパクトの低いレベルで終わってしまうことである。
もう一つが、この本で薦めている方法で、コンセプト・ドリブンと呼ぶ方法である。この方法はできるかどうかにこだわらず、インパクトのあることを積み重ねていって、インパクトのある結果を出そうするものだ。
この本では面白い例を挙げている。トヨタ方式は実現可能性ドリブンアプローチだと思われているが、大野耐一がやろうとしたことは在庫をなくすという誰もができないと思っていたことで、それを目標に掲げて、ついにたどり着いた展開的なコンセプト・ドリブンアプローチである。
コンセプトが良いといえるのは、
・面白さ
・説得力
・生き生きとイメージできること
・焦点が絞れていること
の4つであり、ステップ2以降でこれを如何に実現していくかを述べている。
まず、よいコンセプトを生むクリエイティブ思考について。クリエイティブな思考をしようとすると、アイデアのオリジナリティにこだわるがこれが失敗のものである。借り物のコンセプトでも本気で取り組めば自分のものにすることができる。オリジナリティのこだわりすぎると、人の輪が広がらない。そこで、目指すべきは、オリジナルではなく、リソースフル(発想の引き出しを増やす)である。
クリエイティブとは、既存のものを組み合わせることで実現できることが多い。これを目指すべきだ。
組み合わせ能力を増やすには、
・毎日の生活から自分なりの一次情報を蓄積する
・自分のあまり知らないことは、情報の蓄積を集中的に行う
・シンクビッグ
・視点の抽象度を上げて鳥瞰してみる
・他人の視点で見る
・つねに素人であり続ける
といったことを実行すればよい。
次に、アイデアをお金に変えるためのビジネスモデル思考法について述べている。ポイントはステップ3の持続性にある。本書では、
事業コンセプトの本質はサスティナビリティにある
と断言している。つまり、一発屋で終わるようなコンセプトはよいコンセプトとは言えない。持続しようとすると、アイデアがお金を生み出すことが不可欠である。そのためには、お金を回す仕組みとしてのビジネスモデルが極めて重要である。
ビジネスモデルは
・顧客
・提供価値
・その根拠
の3つの要素からなる。言い換えれば、お金を回すためにこれらをどうすればよいかを考えればよいことになる。たとえば、ノルウェーの漁師は高収入の職業になっている。彼らは
・顧客:安全な魚が食べたい世界中の顧客
・提供価値:世界でもっとも安全なサーモンを届ける
・その根拠:きれいな水で、抗生物質を使わず、高い養殖技術で厳格に管理する
というビジネスモデルで、魚を養殖し、世界中に売っている。
最後は、ステップ4の巻き込み。
巻き込みは
(1)1行コンセプトをつくる
(2)物語化する
(3)資料をつくる
(4)自分を伝える
という手順で進めるとよい。
言っていることは面白く、説得力があり、生き生きとイメージでき、焦点が絞れている。読んでいると、よいコンセプトの仕事ができそうな気になるよいコンセプトの本である。
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