対話をイノベーションにつなげるフューチャーセンター
野村 恭彦「フューチャーセンターをつくろう ― 対話をイノベーションにつなげる仕組み」、プレジデント社(2012)
お奨め度:★★★★★
フューチャーセンターの推進をされている野村恭彦さんの書いたフューチャーセンターの入門書。野村さんはフューチャーセンターネットワークで多くのフューチャーセンターがつながることによって、その真価が発揮されると考えられており、未来のフューチャーセンターディレクター(経営者)や、ファシリテータに向けて、非常に実践的にまとめられている入門書だ。
◆フューチャーセンターのコンセプト
本書ではまず、学校を引き合いに出しながら、フューチャーセンターについて説明をしている。
学校とは何かと考えてみると、教育の目的があり、校舎という施設があり、生徒が通ってきて、授業や課外活動というプログラムが運営されている。つまり、教育プログラムの提供という機能を持ち、学習という活動が行われているのが、概念としての学校ということになる。
フューチャーセンターもこれと同じように考えることができる。
機能=創造的なワークショップのファシリテーション
活動=対話やアイデアの創出
そして、フューチャーとは未来の知的資本の創出を意味しており、人が成長し、アイデアが創出され、人のつながりが生まれる場が、フューチャーセンターである。
◆フューチャーセンターの思想と原則
次に、フューチャーセンターの基本的な考え方を説明している。ポイントを上げると、まず、フューチャーセンターには強力な思想があること。それは以下のようなものであるとのこと。
・社会や市場のエコシステムを作っているのは我々の関係性である
・今日この部屋にいる100人がネットワークするだけで社会は変わる
・「未来のステークホルダ」を選ぶのは、私たち一人ひとりの意思である
・社会イノベーションが起きるかどうかは、私たち一人ひとりの行動の結果である
・このような考えを具現化したのがフューチャーセンターである
次にこの思想に基づき、フューチャーセンターにはセッションを成功させるための6つの原則がある。
(1)フューチャーセンターでは、想いを持った人にとっての大切な問いから、すべてが始まる
(2)フューチャーセンターでは、新たな可能性を描くために、多様な人たちの知恵が一つの場に集まる
(3)フューチャーセンターでは、集まった人たちの関係性を大切にすることで、効果的に自発性を引き出す
(4)フューチャーセンターでは、そこでの共通経験やアクティブな学習により、新たなよい実践が創発される
(5)フューチャーセンターでは、あらゆるものをプロトタイピングする
(6)フューチャーセンターでは、質の高い対話が、これからの方向性やステップ、効果的なアクションを明らかにする
◆フューチャーセンターに必要なロール
フューチャーセンターには、そのミッションや扱う領域を決めるディレクターがいる。これがフューチャーセンターの特性となり、集まってくる人の傾向を決める。ディレクターはファシリテーションをすることもあるが、その仕事はファシリテータにとどまらず、フューチャーセンターの活動全体を通じて、組織変革や社会変革のデザインをすることだ。
また、フューチャーセンターにはフューチャーセンターセッションをファシリテートするファシリテータがいる。ファシリテータに求められるのは、「場を信頼し、集合的な知恵を引き出す力」だ。
◆フューチャーセンターの方法論
フューチャーセンターの方法論には、
・対話の方法論
・未来思考の方法論
・デザイン思考の方法論
の3つが必要である。対話の方法論は相互理解・信頼の関係性を構築する、異質からの気づきをえる、内省や思考を深めるための方法論である。未来思考の方法論は、複数の未来シナリオを想定する、未来からバックキャストするためのものである。デザインの方法論は体験から学ぶ、作りながら学ぶ、形にしてみることで改善しつづけるための方法論である。
◆フューチャーセンターセッション
フューチャーセンターセッションは、
(1)視野を広げてテーマ設定
(2)多様性を確保して人集め
(3)非日常性を演出
(4)主体性を引き出す運営
(5)参加者全員の深い気づき
というステップで行われる。セッションは、4つのステージを意識して行う。
ステージ1:尊敬と信頼に基づく関係性構築
ステージ2:深い対話によるダイナミックな相互作用
ステージ3:多様な方法論による未来志向
ステージ4:プロトタイピングによる協働的アクション
◆フューチャーセンターの設計
フューチャーセンターの設計は、
・セッションの設計
・持続的な仕組みの設計
の2つからなる。フューチャーセンターを設計するに当たっては、6つの原則に対応する形で、
・信頼感のデザイン
・多様性のデザイン
・関係性のデザイン
・全体性のデザイン
・可視性のデザイン
・安心感のデザイン
を行う。
◆フューチャーセンターはアクションする
フューチャーセンターが単なるダイアログと異なる点は、アクションを引き起こすことである。野村さんは、アクションにつながる要因として
・課題提起者が本気であること
・実行力を持った参加者がいること
・ファシリテータが強い意志を持って関わっていること
だという。
本書を読んでいて、もっとも印象に残ったのは、「未来のステークホルダ」という言葉である。そして、それは一つのフューチャーセンターに閉じた話ではなく、ネットワークの中で実現されていく。未来を紡いでいくということはそういうことなのだろう。
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