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2012年4月23日 (月)

従業員第一、顧客第二

4862761259ヴィニート ナイアー(穂坂かほり訳)「社員を大切にする会社 ―― 5万人と歩んだ企業変革のストーリー」、英治出版(2012)

お奨め度:★★★★★+α

facebook記事:「世界でもっともモダンな経営

HCLテクノロジーズ(以下、HCLT)の2005年からの対話を中心にした企業変革の道のりを、トップリーダーであるヴィニート・ナイアー自身が振り返った一冊。HCLTの変革の特徴は、「従業員第一、顧客第二」というビジョンにある。


HCLTは日本でもよく知られているインド企業である。グローバルでは8万5千人の従業員を抱え、60億ドルの売り上げを持つ企業だ。半端な規模の企業ではない。まず、この点を頭に入れておく必要がある。

HCLTの変革は4つのステップで行われた。

(1)変革の必要性を生み出す~鏡よ鏡
(2)変革の文化を生み出す~透明性による信頼
(3)変革の構造を築く~組織のピラミッドを逆さまにする
(4)変革の権限を委譲する~CEOの役割を変える

の4ステップである。

各ステップを簡単に説明する。

まず、変革の必要性を生み出すステップでは、鏡に映る自分たちの姿を見て、自分の気にいらないものを探した。HTCLは、成長はしているが、他のITベンダーの成長と比較すると成長が小さいという微妙なポジショニングの中で、あえて自分たちは後続集団にいるという現実と向き合うという決断をした。

そして、「鏡よ鏡」というエクスサイズを繰り返し、見つかった問題はいくつかある。そのなかで、これからは、イノベーションは「何を提供するか」と「どのように提供するか」の両方がうまく機能しなくてはできない。そのような視点で現状を見ると、「バリューゾーンにもっとも近い従業員を会社が支えていないことに問題がある」ことに気づく。そして、会社全体がバリューゾーン(顧客に価値を提供している人たち)に仕えることが必要で、
「従業員が第一、顧客は第二」
というコンセプトができた。

次に、変革の文化を生み出すステップでは、変化したいという意志と実際に変化するという行為の間のギャップを埋めた。このギャップの理由の一つは、経営者と従業員の間における信頼の欠如であり、信頼の文化を築く必要がある。

HCLTでは、組織構造が従業員の足かせになり、才能の発揮を妨げていた。この状況を解決するためには、信頼の文化が必要であり、そのためには透明性を高めることが必要だった。透明性は

・各利害関係者が企業のビジョンを知り、自分の貢献が具体的にどれだけ組織の目標達成に役立ったかを理解できるようにする
・各利害関係者が企業の目的に対し、個人的で深い責任感を持てるようにすうr
・職場にいるY世代の従業員にとって、透明性は常識である
・知識経済において、HCLTは顧客とも透明性を築くことを望んでいる
・HCLTは組織の外部から要員を投入し、特定のプロジェクトや任務を担当させる。これらの外部要員がすぐにスピードを上げて、できるだけ効率よくプロジェクトに着手できる唯一の方法は、企業が情報を隠さず、プロジェクトが抱える長所、短所、問題点、懸念などを完全に透明化することである。

の側面から信頼につながる。このために、CEOのオフィスを開放するなど、さまざまな方策を講じている。

次のステップは変革の構造を築くことである。HCLTの最大の問題は、バリューゾーンを組織が支えていないことである。この問題を解決するために、HCLTは逆ピラミッド型の組織を構築している。単にサーバントリーダーシップにとどまらず、アカウンタビリティを逆転させている。その仕組みを実現しているが、先に述べた徹底的な透明化である。
なかでも、効果的だったのがスマートデスクサービスである。スマートデスクサービスは、顧客用に構築された問題管理システムをバックオフィスと従業員の間の社内的な懸案事項に対応しようというものだ。従業員に何か問題が生じたり、情報が必要になれば、従業員は対応を求めて、担当部署にチケットを発行する。チケットにはデッドラインが示されており、誰もが閲覧でき、解決したかどうかの判断は発行者にしかできないというものだ。

そして、最後のステップはCEOの役割を変えることだった。まずは、変革の権限をリーダーに委譲すること。そのために、バリューゾーンの近くにいるリーダーに質問を投げかけ、彼らに解決を委ねる。それによって、自己管理、自己統制が可能な企業が生まれる。

従業員たちは、自分自身が経営者であるがごとく、仕事の情熱をもやし、バリューゾーンの中で、絶えず、変革とイノベーションに力を注ぐ。そして、意思決定はスピード化される。

ここに、「従業員第一、顧客第二」が活きてくるわけだ。

従業員第一、顧客第二というキャッチフレーズはたまに見かける。また、CSだけではなく、ESを重視する企業も増えてきた。もっとも有名なのはディズニーランドである。ディズニーランドのやり方と、HCLTのやり方は共通点がある。バリューゾーンで働く人たちに権限を移し、組織はそれを全面的にサポートしていることだ。このやり方には、ある程度普遍性があるように思える。

HCLTの興味深いところは、SI企業であるということだ。日本のSI企業はモノ作りを標榜しているところが多い。モノ作りであれば、バリューゾーンは生産技術や製品技術などの技術開発にある。技術によって大幅に収益が変わってくるからだ。

HCLTの成功は、SIがモノ作りではなく、サービスであることを示している。これは、日本の企業でも大いに参考にすべきだろう。ただし、見せ掛けだけの権限委譲でもダメだし、プロジェクトに対してアカウンタビリティを負うことがポイントである。

SI事業のマネジャーをやっている人には、そのような視点を持ってぜひ読んでみてほしい一冊だ。

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