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2012年4月30日 (月)

組織的コミュニケーションの秘訣

4492533052坂根 正弘「言葉力が人を動かす―結果を出すリーダーの見方・考え方・話し方」、東洋経済新報社(2012)

お奨め度:★★★★★

facebook記事:「結果を出すコミュニケーション

坂根正弘氏は、21世紀に入ってからコマツの業績をV字回復させ、真の意味でグロ
ーバルな企業に育て上げた名経営者である。その坂根会長が、自らの経験に基づいて展開するコミュニケーション論。コミュニケーションという言葉から、多くの人は対人的なコミュニケーション(マンツーマン、あるいはチームコミュニケーション)を思い浮かべると思うが、この本でいうコミュニケーションは組織的なコミュニケーションである。組織的コミュニケーションは、対人的なコミュニケーションほど意識されないが、リーダーは組織的コミュニケーションに熟達し、組織を動かさなくてはできなくては仕事ができない。そのような問題意識を持っている人にぜひ、組織的コミュニケーションの達人の書いた本書をぜひ読んでいただきたい。



◆「言葉力」は、「見る」、「語る」、「実行する」

坂根氏が、組織的コミュニケーションの大切に気が付いたのは、90年代に小松ドレッサー者のCOOを務めたときに、現地のCEOにリストラの指揮をさせたときの経験にあるという。米国流のトップが決めたことに説明は必要ない。伝えて実行するだけだという考えのCEOに「なぜ、工場を閉鎖するかを説明しなければならない」と譲らなかった。そして、理由をきちんと説明し、それを数字で補足した。それによって強硬派の組合幹部が予想外に納得し、条件交渉に入れたという。このときに以来、どのような相手でも、どのような状況でも、目的や意図を明確にし、事実に基づき論理立てて語りかければ、わかってもらえるし、彼らを動かすことできる。そして、そのためには、「言葉力」が必要だという認識を持った。そして、後にコマツの社長として活動する原動力にもなった。

言葉力は
「見る」(事実を見る、本質を見る、大局を見る)
「語る」
「実行する」(言行を一致させる)
の3つがセットで考える必要がある。コマツのV字回復でいえば、

「見る」
・コマツの問題の本質はモノ作りではなく固定費にある
・コマツのもう一つの問題は、社員の「正しい危機感」の欠如にある

「語る」
・こうなったのは経営者の責任だが、みなさんも悪かったと思ってくれ」
・「必ず2年以内に結果を出す」、「雇用に手をつけるのは今回1度きりにする」
・「ダントツ」商品を作れ
・「すべてのお客さまのニーズに、応えなくていい」

「実行する」
・100の子会社をたたむ
・実行の途中経過はすべての報告する


◆ファクトが言葉力を決める

言葉の力を決めるのはファクトであるというのが坂根氏の主張である。コマツはファクトを大切する。そのために五ゲン主義を唱える。

(1)問題が起きている現場に出て
(2)現物を具体的に調べて
(3)データで現実を直視し
(4)物事を原点に立ち返り
(5)問題を顕在化し共有する

の5つのゲンである。


◆「着眼大局」、「着手小局」

同時に、リーダーは大局をみておかなくてはならないという。大局を見るとは、目先の事象にとらわれず、大きな観点、より長期の視点からの、今後の行く末を言雄氏、進むべき道を見誤らないようにすることだ。

つまるところ、リーダーは、「着眼大局」、「着手小局」が大事である。つまり、リーダーは、全体を見て進むべき方向を示すと同時に、何から始めればいいか、小さな次元で具体的に示すことが重要である。

「着手小局」のコツの一つは、抽象的なことほど、具体的なレベルの言葉で語ることだ。たとえば、顧客満足を高めようという行動指針があったとする。そのなかで、顧客のところで、機械が故障してしまった。その修理に必要な部品があるのは工場だけだが、その部品を抜くと工場は明日の組み立てに困る。こんなときに、顧客満足を高めようといっても仕方ない。リーダーはたとえば、「新車の納期と補給部品の納期なら、後者を優先させろ」というふうに具体的に指示をしなくてはならない。

特に、リーダーにしか語れないのは、「何を犠牲にするか」である。何かを犠牲にしなくては前に薦めないときには、それを明確に語ることがリーダーの役割である。


◆語り方

リーダーが語る際には、言葉の選び方や話し方にも十分に注意しなくてはならない。たとえば、

・受け売りの言葉ではなく、腹落ちのする言葉を選ぶ
・サプライズはいらない
・また、社長がいっているでよい
・大事な数字は暗記して話す
・情報を隠さない
・「極端な一点の事実」があれば、話は相手に突き刺さる

といったことだ。

いくら上手に語っても、実行が伴わないと言葉力は生まれてこない。「言う」ことを「成す」ことが言葉力の背景である。成すには、やはり、コツがある。

・実行の成果は2年以内に出す
・小刻みな実行はNG。大手術は1回で終わらせる
・本気で実行するなら標準無視もいとわない

といったことだ。


◆本質を外さない

ここでもっとも重要なことは、

本質を外して有言実行はできない

ということだ。坂根氏はこんなエピソードを紹介している。彼がサービス部長だったころ、大手サブコンAの香港の現場で火災が起こり、コマツの売った1億の建機が丸焼けになった。火災の理由は、建機についていたゴムホースが破裂し、そこから油が吹き出し、エンジンに飛びかかったことだという。ところがゴムホースは純正品ではない。この建機のゴムホースに数は膨大で、すべて純正品にすると1000万円になると顧客は反論した。そこで、坂根氏は、「純正部品を使わないのは御社の責任だ」とは突っぱねなかった。部品明細にしるしをつけ、しるしをつけた部品だけは純正にしてくれれば、何かあったときに全面的に責任を持つといってのけた。顧客が望んでいたのはこのような問題解決でこの件は、本質的なところで問題解決ができたので、一件落着した。


◆コミュニケーション改革による経営改革

コマツでは、コミュニケーションを中心にした経営改革に取り組んでいる。まず、基本的な前提として、日本の企業の強さは、現場の連携にあると考えている。その上で、組織のコミュニケーションが活性化することが組織を強くする。

組織の強さを作るのは、ミドルを中心にしたミドルアップダウンである。たとえば、トップのいうことを、ミドルが自分たちの仕事ではこういうことだと言えること。これだけでも組織はずいぶん強くなる。

コマツが実践してきた全員集会方式をとることによって、組織の情報開示力を鍛える。対話のスタートはここだ。その中で、質疑を増やしていくことにより、対話を増やしていく。
このとき、重要なことは、すてのステークホルダに対して等しく接することである。

コミュニケーションに関する本は多いが、意外と組織的コミュニケーションに関する本は少ない。しかし、リーダーのコミュニケーションスキルは、あるレベルからは対人的なものから、組織的なものに変わっていく。

トップだけではなく、たとえば、戦略実行においては、組織的なコミュニケーションは不可欠である。その点をよく認識し、この本を読んでみるといい。一見、トップリーダーの成功体験論のように見えるが、意外と体系的に語られており、ポイントがよく押さえられている。良い本だ。

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