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2011年7月 2日 (土)

仕事とは「やり直しの繰り返し」

416374150X 木村 俊介「仕事の話―日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」」、文藝春秋(2011)

お奨め度:★★★★★

インタビュアーという「仕事」を名乗り、当世きってのインタビューの名人が、週刊文春で連載していたインタビュー連載を本にまとめた一冊。非常に丁寧にインタビューされており、面白くまとめているので、読んでいると多くの気づきが得られると思う。「おわりに」も書かれていて、副題にもなっているが、仕事とは「やり直しの繰り返し」だという。これに共感できる人はぜひ読んでみよう!

仕事という感覚が薄れているように思う。

最近、気になっているコマーシャルがある。リコーが流しているコマーシャルで、吉田拓郎の「流星」の手島葵によるカバーをBGMに使ったCI。このCM、なかなかいい。もう、半年以上前だと思うが、最初にみたときに、ぐっときた。

手島葵 流星 リコーのコマーシャル

「この仕事で本当の自分になれた」
「働くあなたをITソリューションでささえたい」

やりがいとか、動機とかいうが、その原点は仕事をしているという感覚にある。ドラッカーの石切り工の話は、ビジョンの話だが、石切りの仕事には難しさや面白さがある。

ビジョンは重要なのだが、地に足がつかないと、嘘くさい。地に足がつくという感覚は、仕事の難しさや面白さんの中にある。たとえば、「ITソリューションで社会に貢献します」というと一体それはどういうことだと思い、嘘くさく感じる。でも、「働くあなたをITソリューションでささえたい」と言われると、難しさや面白ろさを想像できる。

このコマーシャルは、リコーの人たちの仕事のリアリティを数十秒でうまく表現しているように思う。

勘違いしてはならないことは、仕事のリアリティは、仕事の現場だけにあるわけでもないことだ。現場だけにある仕事はまた、別の意味で地に足がついていない嘘くささがある。

現場をアクターだとすれば、リアリティは、舞台装置としての組織、そして仕事のオーディエンスである社会のバランスの中にある。このCMは、このバランスをうまく表現しているから胸を打つのだろう。

「仕事にはリアリティがあり、仕事の面白さはリアリティの中にある」ことをもう一度、思い出させてくれる本。ここで取り上げられている仕事は32。本書に出てくる仕事を、その仕事のエッセンスとともに紹介しよう。

「馬鹿になれなければ、新しいことはできない」(水野和敏/自動車開発者)
「根を詰めた制作は、健康を犠牲にしますね」(葉山有樹/陶芸家)
「結論は、自分の判断の中にしかないのです」(渡邊剛/心臓外科医)
「普通の中の普通、をデザインするには」(佐藤卓/グラフィックデザイナー)
「地方なら、何者でもない自分でいられる」(木皿泉/脚本家)
「救助において、失敗というものはありません」(小野智木/ハイパーレスキュー隊員)
「発見よりも重要なのは、権利と利益の確定です」(吉野彰/リチウムイオン電池開発者)
「研究の内容は、机の上に反映されています」(伊藤高明/化学製品開発者)
「プレゼンできなければ、実験屋で終わってしまいます」(池谷裕二/脳研究者)
「科学者は、社会の難問を解決しなければ」(西成活裕/渋滞学者)
「絶対世界一になります、と社長に宣言しました」(塩原研治/時計職人)
「否定されてからが仕事、という時もある」(佐々木宏/クリエイティブディレクター)
「映画の美術の役割は、背景に演技をさせること」(美術監督/種田陽平)
「新しいメディアで、決定的なものを作りたい」(中島聡/ソフトウェアエンジニア)
「顧客は、お前の自我になんて興味ないんだ」(奥山清行/工業デザイナー)
「教わるって、馬鹿にされているんだよ」(中村義一/精密機器製造者)
「生命の循環を伝えたかった」(今森光彦/写真家)
「守備なら、どこでも一流になれます」(江崎重利/運動具店長)
「仕事のほとんどは、利害の調整なんです」(岡村淳弘/鉄道ダイヤ作成者)
「眉間にシワを寄せても、いい仕事はできないよね」(中村好文/建築家)
「商売は、一生懸命なだけではダメですから」(根本郁芳/夜光塗料開発メーカー)
「信じさせられるものを信じる必要なない」(津村記久子/小説家)
「風景が、自分を解放してくれた」(五十嵐大介/漫画家)
「知らない風景は、思うようには描けません」(男鹿和雄/アニメーション美術監督)
「何度目でも、新鮮に動作を味わうように」(康本雅子/ダンサー)
「通訳者の時代には、現場の矛盾に苦しんでいました」(鳥飼玖美子/通訳研究者)
「生き切るには、死を考える時間が必要なのです」(田村恵子/看護師)
「美容記事は、自分を再確認するためのもの」(齊藤薫/美容ジャーナリスト)
「動機は、笑わせたいだけで」(松尾スズキ/作家・演出家・俳優)
「私は、経験主義の漫画家です」(安野モモコ/漫画家)
「命を、懸けなさい」(北島素幸/料理人)
「逃げず、気仙沼から技術を発信していく」(高橋和志/造船技術者)

インタビューアという自身の仕事も、ぜひ、書いてほしかったなあ(笑)

この手の本の先駆けには、2004年から、B-ing編集部がいろいろなテーマで作った「プロ論。」があるが、この本はインタビューが深く、仕事に焦点が当たっており、違った面白さがある。

プロ論。

プロ論。2

プロ論。3

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