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2011年1月 9日 (日)

ポジティブ心理学の実践ガイドブック

47979305 タル・ベン・シャハー(成瀬 まゆみ訳)「ハーバードの人生を変える授業」、大和書房(2010) 

お奨め度:★★★★★

HAPPIER」で知られる、タル・ベン・シャハー教授の講義の実践ガイドブック。シャハー教授は授業で教わったことを実際の行動に移すことで、理論を自分のものとして吸収する方法を「リフラクション」と読んでいるが、本書は教授をはじめ、多くの(ポジティブ)心理学者の理論を実践に移すリフラクションのためのワークブックである。このワークブックによって、ハーバード大学のディヴィッド・パーキンスン教授が「生産的知識」と呼ぶ知識、すなわち、自分たちをとりまく世界をよく理解して、状況にうまく対処するための知識を育むことができる。

本書では、52のテーマについて、基礎理論のブリーフィングを行い、考察課題(Think)、実践課題(Action)の設定をしている。テーマは52あり、全部は紹介できないので、印象に残ったものをいくつか紹介する。

1 感謝する
【解説】心理学者のロバート・エモンズとマイケル・マッカローの実験で、毎日1~2分、感謝できることを書き出すことを続けると、人生を肯定的に評価できるようになり、幸福感が高くなり、ポジティブな気分を味わえるようになった。最終的に、よく眠れるようになり、より多くの運動をするようになり、身体的な不調も減った。
【Think】あなたが感謝できることは何か。自分の人生でありがたいと思うことは何か
【Action】感謝ノートをつくる

5 意義を見いだす
【解説】マーパ・コリンズは犯罪と麻薬のはびこるシカゴのスラム街で教師をしていたが、近所の子供のために中学3年~高校3年が学ぶ学校を創設する。そこで近所の学校からのオチこぼれを4年間でシェークスピアやエマソンを読めるようになる。しかし、財政的には苦しく、何度も閉鎖の危機に追い込まれるが、コリンズは最後には幸せな結末が待っていると信じ、信念を見失うことは無かった。そして、彼女にとって教師という職業は他のどんな職業より人生に意義を与え、お金では買えない満足感をもたらした。彼女は教師としての体験は「フォートノックスのすべての金塊」より価値があると感じていた。幸せこそが「究極の通貨」だからだ。
【Think】あなたにとって、フォートノックスのすべての金塊より価値のあることは何か。
【Action】行動表をつくる

8 すべてをシンプルにする
【解説】私たちはたくさんの活動を日々の生活に押し込むことによって、忙しくなりすぎている。その結果、究極の通貨となりうるものに気付かずにすごしている。多くのすばらしさを見失っている。この状況を解決する特効薬はないが、すべきこを減らして生活をシンプルにしても、成功は妨げられるわけではない。
【Think】どのような分野や活動において時間に追われることが、あなたの幸福感を阻害しているか
【Action】時間に使い方を見直す

12 完璧主義を見直す
【解説】どんなことでもゴールまでの道のりはまっすぐで何の障害もないものだと考える完璧主義から、失敗は人生の自然な一部分であり、成功につながる欠かせない要素だと理解する最善主義に変わる
【Think】生活の中で、あなたが最善主義者になりやすい分野はあるか。完璧主義者になってしまいがちな分野はあるか
【Action】最善主義を身につける

24 解釈を変える
【解説】認知療法の基本的前提は、人はできごとそのものに対して反応するというより、その出来事への自分の解釈に反応するというものだ。つまり、認知のゆがみが現実感を失わせているとすれば、あることが分かったら、その出来事に対する考え方を変え、違ったように感じればよい。
【Think】あなたがこれまでに激しい感情的な反応をおこしたときのことを思い出し、あなたの反応は適切なものだったかどうかを考える。また、その状況に別の解釈はできなかったを考える。
【Action】PRP法を使う。PRP法は、自分自身が人間であることを許す(Permisssion)、状況を再構築すること(Reconstruction)、そしてより広い視野から見ること(Perspective)の三段階を踏む方法。

44 バランスをとる
【解説】20代の頃、教授は情熱的な完璧主義者で、ほしいものをすべて手にしていた。しかし、結婚して子供ができると、優先がかわり、したいことをできなくなってきた。そこで、重要な分野を、「いい親であること」、「いい夫であること」、「仕事を充実させること」、「いい友人であること」、「健康であること」と決め、したいことをすべてしようとするのではなく、大切な5つの分野の中で、どの程度の活動が「ちょうどいい」のかを考え、調整をした。その結果、大きな開放感を覚え、それまでよりもエネルギッシュに物事に集中できるようになった。
【Think】あなたにとって人生の重要分野は何か。どうすればどの分野で「ちょうどいい」活動で満たすことができるか

49 深く根を張る
【解説】幸福の深さは木の根のようなもので、幸せに生きるための土台となる。人々の幸福は主として3つの要因によって決定される。
・遺伝子的に決まっている、幸福に対する感性
・幸福に関連する環境的要因
・幸福に関連した活動と実践
この中で、自分がコントロールするのは三番目である。意義と楽しさの両方を生み出してくれる仕事や教育、人間関係を継続的に求め続けることで、私たちはどんどん、幸せになっていく。
【Think】人生のどんな経験やどんな人々が、あなたに長期的な幸福をもたらしてくれたか
【Action】体験を分かち合う。価値を認め、その価値を高めていく。そのためのアプローチがAIである。

50 心をひらく
【解説】究極の通貨を追求する最大の障害は、「自分には幸福になる価値がない」と考えることだ。心理学者のナサニエル・ブランデンは「手に入れたいものがあるなら、自分にはそれを手に入れ、楽しむ価値があると考えなければならない」と行っている。人は自分が幸福になる価値があると感じているときのみ、人生の究極の宝物を手にいれることができる。
【Think】あなたの幸せをはばむ、内的もしくは外的な要因はあるか。あるとしたら何か。

こんな感じで、読み流しても十分に面白い本だが、読み流すだけでは価値がない。ペンとノートと(ちょっとした)時間を持って読んでほしい本だ。

最後に少し、違った視点からこの本の価値を指摘しておきたい。

最近、ビジネス分野でもポジティブ心理学が注目されるようになってきている。HAPPIERはその中でも影響を与えている本だと思うが、なんとなく、現実やビジネス活動との間にはギャップがあり、そのギャップを埋めることが必要だと感じていた。しかし、この本をガイドブックを読んで認識が変わった。

日本には、人作りという言葉がある。ポジティブな人をつくることこそが、ビジネスの分野にポジティブ心理学を活かすということではないかと思えるようになった。戦後の日本では、この本にあるような方法で、日本独特の価値間をもち、行動できる人材を育んできた。

これは、必ずしも、直接的なビジネススキルではない。人材育成とは一線を画しているといってもよい。ビジネスをつくって行くインフラとしての人作りである。そのために独特の手法を用いる。これからはポジティブな「人作り」が必要になってくる。そのように考えたとき、この本の果たす役割は大きい。

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