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2010年11月 8日 (月)

機能的品質と情緒的品質をシナジーさせる

4532316421 遠藤功「「日本品質」で世界を制す!」、日本経済新聞社(2010)

お奨め度:★★★★★

最近の品質事故を引き合いに出しながら、「品質」管理の問題を分析し、これからの品質管理の視座を示すと同時に、それが日本企業のグローバル競争力となり、In-Outにも、Out-Inにも決定力になることを示唆した一冊。現場の品質管理担当者に新たな視点を与えるととにも、経営スタッフに品質管理への取り組みの視座を与える。製造業、IT業、サービス業などを中心にすべての人に読んでほしい本。

多くの日本企業は品質第一の看板を掲げながら、一方で品質はコストや納期と同じ次元で扱われてきた。日本と欧米の品質に対する意識の違いは、欧米企業が品質とコストがトレードオフだと考えてきたのに対して、日本企業は「品質とコストの両立」をめざし、現場レベルでトレードオフを克服するようなものづくりの能力を構築してきた。この努力がメイドインジャパン神話を生み出してきたといってもよい。

一方で、近年、トヨタなどで起こっている品質問題は、この範疇で扱えるような問題ではない。現場でのトレードオフの克服の基本は、不良の見える化をし、コストをアップさせずに(あるいはコスト削減をしながら)不良を徹底的に撲滅し、不良を外に出さないようにするための継続的改善を行ってきた。ところが今、起こっている品質問題は、商品の開発、あるいは製造の中では見えない不良が問題になっている。

例えば、トヨタのプリウスのブレーキ問題でいえば、メーカ側が不良を作っているわけではない。実際に車の操作をしたユーザがどう感じるかという問題で不良が生まれている。メーカからすると、「ユーザの感覚が設計者の想定と合わない」という問題だ。

現代的な品質問題は、見えない不良を克服する作り込み能力を如何に構築するかどいう問題である。このための視点は2つある。一つは「品質管理高度化」であり、もう一つは「品質リスク管理」である。見えない品質の問題は従来の品質とは全く異なる性格のものである。見える不良に対しては、ゼロデフェクトを目指した努力がされてきた。この努力は今後も必要であり、品質管理の考え方や仕組みを高度化していく必要がある。一方で、見えない不良に対しては、不良を無くそうと考えるのはナンセンスである。だからといって、見えないものをすべて見えるようにすることも不可能だ。その中で求められることは、品質に対しては、何か起こることを前提とした経営を行うことである。これが、「品質リスク管理」の視点である。

トヨタの問題が大きな問題になったのも、不良が問題化したときに、迅速に対処しなかったためである。もし、初動で品質管理担当役員ではなく、経営最高責任者が出てくれば違った展開になっただろう。

「品質管理高度化」の視点からは、本書では3つの提言をしている。

(1)顧客と共に不良を潰す
(2)グローバル分散型ネットワークモデルの構築
(3)「品質の番人」の育成

また、「品質リスク管理」の視点からは、以下の4つの行動を原則とすべきだと指摘している。

原則1:受動的ではなく、能動的に対応する
原則2:初期対応重視
原則3:情報開示
原則4:一貫性のあるわかりやすいコミュニケーション

では、具体的に見えない品質の実現をし、それを新興国への競争力に換えて行くには何をすればよいのか。キーワードは顧客満足にある。これまでの品質管理の取り組みに対して、顧客が満足しているというのは、不満ではないというニュアンスが強い。このような状況において、韓国や中国のメーカに勝つためには、「満足を与える」品質を実現していかなくてはならない。これは、機能的品質の追求だけでは難しい。

そこで、機能的品質と並ぶもう一つの軸として、情緒的品質を考える必要がある。情緒的品質は「人間の情緒、感性に働きかける品質」である。経済合理性だけではなく、「ワクワクする」、「ときめく」などの感性に訴えかける品質を作り込むことが、「満足」や「感動」へとつながっていく。

機能的品質と情緒的品質は両輪であり、相互がシナジーを持つ。このような関係のある品質をプレミアム品質と呼んでいる。機能的品質は商品や製品に組み込まれているが、情緒的品質は、製品を巡る体験(品質の体験)に通じてもたらされる。品質の体験とは

(1)購入前体験の品質
(2)購入時体験の品質
(3)使用・所有時の品質

の3つである。

顧客が「具体的に感じる情緒的品質」を構成する因子は

・ストーリー(物語性)
・サプライコントロール(希少性)
・サービス(機微性)

の3Sである。この3Sを実現することによって情緒的品質を実現することができる。

サービスについて注意すべきことは、日本では日常的なあまり前のサービスが、海外では特別なサービスになることがあることだ。例えば、

・時間の正確さ

などはその典型的な例であるし、企業が提供するサービスでも

・宅急便
・セコム

などは、日本ではあたり前になっているサービスが、「ダントツ」品質のサービスとして受け入れられていることだ。

このような背景を踏まえて、著者はTQMを越えて、HQMを目指すことを提唱している。HQMとは Holistic Quality Management であり、トータルクオリティマネジメントの対象を、工業製品的品質から、顧客価値的品質に移すことを意味している。言いかえると、提供者起点の総合的品質管理がTQMであり、顧客起点の総合的品質管理がHQMである。HQMには以下の4つのポイントがあるとされる。

・「大いに満足」、「感動」を目標とする
・「機能的品質、「情緒的品質」の2つを常に視野にいれる
・二つの品質の関係性を動的なものととらえ、スパイラルアップさせていく
・品質リスク管理を常に視野にいれる

HQMとして品質活動に取り組んでいくことは、品質を企業戦略にすることに他ならない。冒頭に述べたように、品質をコストやスピードと同レベルの問題として、コンフリクトを現場が解決するのではなく、品質は最上位概念として、品質を犠牲にする施策は認めない方針を打ち出すことだ。そのためのコントロール機能として「品質創造本部」の創設が提案されている。

また、HQMによって実現される品質(日本品質)を競争力にするために

提言1:現場の一体感を取り戻せ
提言2:「つなぐ化」を強化せよ
提言3:顧客とともに「日本品質」を創造せよ
提言4:Q-BSCを導入せよ

の4つの提言をしている。

HQMという話は非常に理に適っているが、現場の品質活動と経営レベルの品質活動の有機的な統合を意味しているわけで、結構、難しい話である。真っ先に問題になってくるのは、どのような立場の人が動かしていくかだ。この本では、この部分がミッシングピースになっている。

その答えは遠藤先生の別の本にある。ミドルマネジャーである。興味がある方は、こちらの本を併せ読むとよいだろう。

遠藤功「課長力」、朝日新聞出版(2010)

 

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