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2010年10月30日 (土)

「捌く」・「こなす」から「突破」へ

4023308447 遠藤 功「課長力 逆境を突破する6つの力」、朝日新聞出版(2010)

お奨め度:★★★★★

課長は仕事を「捌く」、「こなす」だけではだめ、「突破」せよという発破をかける課長論。突破しイノベーションを起こす課長力の6つのディメンジョンを示し、それを実践している課長のストーリーを紹介している。今の時代に活躍するミドルマネジャーを紹介しているのだが、いるところにはいるなあという感じ。

本書では、愛知県経営協会「ミドルマネジメント層の育成研究委員会」のアンケート結果を使って極めて興味深い問題提起を行っている。ミドルマネジャーに自分が重要だと考える自分自身の役割を聞いたところ

組織のモチベーションの維持・向上 63.6
経営方針をわかり易く部下へ伝えたり、現場の状況を上司に伝える 62.2
部下を管理・育成する 59.1
組織の業績を上げる 39.1
組織の目標設定 26.2
組織の業務管理・監督 23.6
組織の意志決定 20.4
組織内外の利害調整 4
自身の業績を上げる 1.3

という結果だったという。サーバントリーダーが求められるとか、エンパワーメントが重要であるといった風潮の背景がまさにこのデータに浮き彫りになっている。実際に、この2~3年、あふれかえっている課長本の読んでみても、このような状況が反映されていると思われるものが多い。もちろん、この状況を肯定するものである。

よくいえば、業務や組織が円滑に運営されるために必要な役割を果たしているということだが、悪くいえばというか、客観的にいえば

・意志決定をしていない
・自分で動いていない
・影響を与えていない

ともいえる。もっとはっきりいえば、リーダーシップを発揮していない。サーバントリーダーシップを発揮していると見る向きもあるが、それは、組織の意志決定が上位3つと同じレベルにあったらの話であって、これを見る限り、リーダーシップを発揮しないばかりか、当事者意識がないという現実が浮き彫りになっているように見える。

著者はこの状況を「主観が見えてこない」と指摘している。今、求められている逆境を切り抜けるには、「突破」をすることが不可欠であり、そのためには、「強烈な主観」をもつことが必要だ。ここに最大のポイントがある。

この本では、強烈な主観をもち、突破を達成した6人の課長の物語が紹介されている。

アキレス 久住登(子供用シューズ「瞬足」の仕掛け人)
明治製菓 伊藤喜一(美容商品「アミノコラーゲン」の仕掛け人)
富士フイルム 網盛一郎(ホログラムの代替製品「フォージガード」の仕掛け人)
良品計画 嶋崎朝子(香りを楽しむ「アロマディフィーザー」の仕掛け人)
富士フィルル 飯田年久(デジカメ事業再生の仕掛け人)
JA愛知 飯田勝弥(組織風土改革の仕掛け人)

いずれも、商品や事業、テーマなどはよく知られている著名な事例ばかりであるので、ここでは内容は紹介しない。ぜひ、本を読んでみてほしい。

本書では、これらの事例を通じて、ミドルが突破力を持つためには6つの力を身につければよいことを提唱している。

(1)観察する力
(2)跳ぶ力
(3)伝える力
(4)はみ出る力
(5)束ねる力
(6)粘る力

の6つである。

そして、最後にミドルが変わろうとしたときに、スポンサーシップが極めて大切であることにふれ、突破できる課長を増やすための仕組みづくりについて論じている。

遠藤功先生というと「現場力革命」がベストセラーになったが、この本は現場力革命よりもっと感銘を受けた。課長本を一冊読むなら、文句なしにこの本を読むことをお薦めする。というよりも、ほとんどの課長本は課長になる前の人をターゲットに作られているように思う。この本は明らかに「現在、課長である人」を対象に書かれている。おそらく、現役の課長がこの本を読むと耳が痛いと思うが、それでも読む価値のある本だ。

本来、課長の仕事とはおもしろいものだ。団塊の世代の人にビジネスキャリアを振り替えて、いつが一番充実していたかと聞くと、圧倒的に課長時代が多い。自分で動けるし、体力もある。経験や人脈もあり、また、失敗しても責任を取れる立場にある。今の課長は成果主義の中で、「捌く」、「こなす」だけのポストになっているが、この本を読んで課長という仕事のおもしろさをもう一度、取り返して欲しい。

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