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2010年6月22日 (火)

心にウブントゥを持つ

4152091347 スティーヴン・ランディン、ボブ・ネルソン(酒井 泰介訳)「職場をしあわせにするウブントゥ――アフリカの知恵がもたらす、信頼と感謝のチームワーキング」、早川書房(2010)

お奨め度:★★★★

従業員満足が下がり、それによって顧客満足まで下がってきた大手小売企業ブルズアイ社に、南アフリカ出身の青年が「ウブントゥ」による組織改革をもたらストーリー。著者は全世界で700万部読まれているという「フィッシュ!」の著者。フィッシュのときのコミュニティの高揚感がよみがえる一冊。

主人公のジョン・ピーターソンは、クレジット部門の部長である。専門職として高いパフォーマンスを誇ったジョンは、期待された部長になるが、任された部門で、部下に自分と同じパフォーマンスを求め、結果として部下の離反を招いてしまう。そして、ついには、かつてのジョンの上司であり、ジョンを部長に引き立ててくれたファイナンス部門のハーブからも業務上の問題を指摘される。そして、上司である役員ナンシーからは左遷をにおわされる。

そんな、ある連休、部下のミスのフォローのために休日出勤したジョンを待っていたのは、ハーブの話を聞いていた部下のサイモンだった。サイモンは南アフリカの出身で、自分の会社を経営していたが、現在は米国に留学し、MBAのコースに通いながら、ブルズアイで働いていた。そのサイモンが、期末テストをキャンセルして、ジョンのフォローに出勤していた。サイモン自身の仕事にはまったくミスはないにもかかわらずである。

なぜ、そんなことをするのかと聞くジョン。サイモンの答えは「ウブントゥ」だった。ウブントゥとは、

自分の成功より集団の成功を重んじる哲学のことだ

ここから、ジョンのウブントゥを探す旅が始まる。試行錯誤の中でいろいろなこと学んでいく。

・ウブントゥに命を吹き込むには、まず自分の心の中にそれを見いだすこと。ウブントゥは内面からやってくる。

・信頼と尊敬があれば、ひとは失敗にも寛容になってくれる

・ウブントゥは行うものではない。生き方の問題である

・ウブントゥとはまずい仕事を受け入れるということではない。その仕事をやったひとを尊敬せよということである

・人とのちがばかりを探していたら、いつまでたってもうまくいかない。ウブントゥとは、人と自分の共通点を探し、最もうまく力を合わせる術を見いだすことだ。

・自分で心から信じられることから始めよう。その行動が本物であることが、その後の基礎になる。

そうしているうちに、モチベーションアッププログラム「OPM」のコンテストに、サイモンが優勝し、賞品として上司と南アフリカへの旅をすることになる。旅のメンバーは6人。単なる旅ではなく、旅ののちに、南アフリカで学んできたことをプレゼンテーションしなくてはならない。

南アフリカで、ウブントゥの真理を知ると同時に、サイモンが地元ではウブントゥの実践で有名な経営者で、ウブントゥのエバンジェリストであることを知る。

そして、旅から戻った、ジョンたちは、以下のようなウブントゥの実践を提案する

1.社員の注目を引きつけるには、まず職場という最も長い時間を過ごす場所について考えさせなければならない。
2.ウブントゥチームは行動のすべてにおいて、社員哲学の規範を示し、言行一致でなくてはならない
3.社員の注目をひきつけ、ウブントゥの効果を理解してもらうことができたら、彼らにも参加するように呼びかける
4.興味を持つ人すべてに、ウブントゥを紹介すること
5.ウブントゥは、互いの理性と心に訴えかけることによって、社員同士を同僚としても人としても結びつけるものと訴えなければならない。
6.ウブントゥの絆は、一人ずつ結んでいかなければならない
7.ウブントゥをながく保つエネルギー源は、自己変革と生き方を改めることによる活力である
8.ウブントゥは、私たちがやること、作るもの、売るモノすべてに息づいていなくてはならない。人は、他の人々と調和を持って生きるときにのみ、十分に人間になれる。

やがて、ウブントゥはブルズアイ社の哲学となり、従業員の満足と顧客満足の実現への足がかりをえる。

以上のようなストーリーであるが、ウブントゥというのは日本の「和の経営」に近い。ただし、根本的な違いがあるのは、個の自律が前提としてあることである。

自分の成功より集団の成功を重んじる

という哲学は、滅私奉公ではない。自律した個があって、その個が自分の成功より、集団の成功を重んじる。滅私奉公ではこのような図式は成り立たない。

ウブントゥはアフリカの考え方だが、最近、欧米で日本的な考え方でも注目されていることが多い。例えば、思考の分野でいえば、分けることにこだわってきた欧米で、統合という考え方が見直されている。表面的にみれば、日本でやっていることと同じであるが、このケースでも論理的な考えの上に統合をするのと、訳の分からないままで統合することは全く意味が異なる。

ウブントゥもこの点を見誤ると非常に危ういと思うが、方向性として非常にインパクトがある。

この本を読み、心にウブントゥを持とう!

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