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2010年6月19日 (土)

マネジメント版「失敗学」

4532316251 スティーヴン ブラウン(松野 弘訳)「マネジャー13の大罪―ビジネスの致命傷を避ける法」、日本経済新聞出版社(2010)

お奨め度:★★★★1/2

マネジャーが陥り易い落とし穴を、13の視点から整理したマネジャー向けの啓蒙書。

もし、あなたが何かのマネジャーの立場にあり、全く、心当たりがなければすばらしいマネジャーだといえよう。もし、心当たりがあれば、失敗事例を読みながら、学んでいけるすばらしい本なので、ぜひ、読んでみてほしい。

13の大罪とは以下の13である。

大罪その1:結果に対して責任をとらない
大罪その2:部下の育成を怠る
大罪その3:やる気を起こさせない
大罪その4:組織内での立場を忘れる
大罪その5:部下と一対一で接しない
大罪その6:利益の重要性を忘れる
大罪その7:問題点にこだわりすぎて目的を見失う
大罪その8:部下との間に一線を引かない
大罪その9:目標達成基準を設けない
大罪その10:部下の実務能力を過信する
大罪その11:部下のたるみに目をつむる
大罪その12:成績のよい部下だけに目をかける
大罪その13:アメとムチで部下を操ろうとする

この13は各1章でまとめられている。章の最後には行動誓約書というツールがあり、

1.この章で学んだ考え方のうち、わたしが個人的に応用できるものを一つあげると以下のことになる
2.その活用の仕方
3.活用によるメリット
4.この考えを話す相手

の4つを記入することによって、考えを整理し、実行の背中を押す仕組みを提供している。また、各大罪へ向かい合い、脱出するために(おそらく)最も重要だと著者が考えるポイントをフォーカスし、ツールを使って書き出し、内省をしたり、あるいは問題解決をしたりできるようになっている。

◇大罪その1:結果に対して責任をとらない
事業はすべてマネジメントに始まりマネジメントに終わる。したがって、効果的な仕事をするには、マネジャーが責任を持たねばならないとし、責任一覧表というツールが準備されている。このツールでは、
・あなたが責任を負うべき分野
・とるべき処置
を書き出すようになっている。

◇大罪その2:部下の育成を怠る
マネジメントの目的は、時間の経過や人事異動、当事者の不在などがあっても事業が継続することであるとし、2つのポイントでツールを準備している。
・従業員育成の目標
・通電柵の電流を遮断する
の2つだ。後者はメンバーは一度、痛い目に遭うとやらなくなるというメタファで、それを解除する責任がマネジャーにあるというものだ。

◇大罪その3:やる気を起こさせない
成功する人は、成功しない人がやらないことをする習慣を身につけており、そのためには思考→感情→活動→習慣→結果
という生産性の連鎖を起こす必要がある。そして、マネジャーにスタッフの各人についてこのような生産性の連鎖を書き出してみることをすすめている。ただし、ここで難しいのは、生産性の高いレベルで仕事をすることが自分には無理だと思っているスタッフの態度を改めさせることであり、そのためには自尊心をくすぐるのが有効だとしている。

◇大罪その4:組織内での立場を忘れる
マネジャーは正しい態度を育てることが重要であり、そのためには、代名詞として、「わたしたち」という言葉を使っているかどうかに注目せよという。もし、上級管理者に対して「彼ら」といった代名詞を使っていればそのマネジャーは経営に参加しているとはいえず、正しい態度であるとは言えない。
逆にいえば、間違った代名詞を撲滅すればよい。このために、
・致命的な代名詞を使ったとき
・他の人が致命的な代名詞を聞いたとき
にその理由を考え、是正する方法を見つけるツールが準備されている。

◇大罪その5:部下と一対一で接しない
成功しているマネジャーは、部下それぞれの人柄の本質的な違いを把握し、長所、短所を知ったうえで彼らを個別にマネジメントしている。これに対して、うまく行かないマネジャーは、個人的な接触を避けたがり、そこで部下をひとまとめにしていちどきに対処しようとする。この問題はマネジメントにとって本質的な問題であり、以下の4つのマネジメントテクニックを使い分けて、個人をマネジメントすべきである。
・独裁的なマネジメント
・官僚的なマネジメント
・民主的なマネジメント
・個性尊重のマネジメント
このために、
・マネジメントに対する反省
として、弱いマネジメントテクニック、良いマネジメントテクニック、スタイルの使い分けを整理してみるツールが準備されている。

◇大罪その6:利益の重要性を忘れる
儲かっている会社は、製品、販売、PR、社員の4つの白い玉と、利益という赤い玉をジャグリングしている。利益を上げない限り、どれだけすばらしい製品、社員であっても、すぐにトラブルに陥ってしまう。そうならないために、利益に執着することが重要である。そのために、「利益の見直し」というツールが準備され、
・自分の部下が日頃とっている行動
・利益への影響
・経営陣にこれを知らせる方法
の3つを考えることを推奨している。

◇大罪その7:問題点にこだわりすぎて目的を見失う
時間がないという多くのマネジャーは、売上げの1割にしか影響しないことに9割の時間をかけている。多くの場合、問題点に打ち込むあまり、目的を失ってしまっている。このような状況から解放されるために「問題と目的」に関する反省というツールが準備されている。このツールでは、
・問題であると考える分野
・本当の目的
・周囲の状況に助けてもらう方法
・目的を達成する方法
の4つを整理する。

◇大罪その8:部下との間に一線を引かない
部下との間の関係に悩むマネジャーは多いが、著者は以下のようなアドバイスを送っている。
「部下とマネジャーの関係では、少なくとも会社の一番大事な顧客に対してやらないことは、部下にも決してしてはならない」
この視点から、マネジメント上の問題点を反省するツールが準備されている。ここでは、
・あなたが決定を避けている、人間関係上のやっかいな問題
・行動方針
を内省するものである。

◇大罪その9:目標達成基準を設けない
目標達成基準を業績の上がらない社員に罰則を設ける手段としてみているマネジャーが多いが、それは間違いで、個人や企業のプライドを高めるために設定するものである。基準には、
・数量
・品質
・タイミング
・コスト
の4つの分野で設定すればよい。この指摘を実行するツールとして「基準による採点」というツールを準備している。このツールでは
・基準を設定すべき分野
・設定の方法
を考えるためのものである。

◇大罪その10:部下の実務能力を過信する
マネジメントの仕事は、部下に正しい行動をすることである。このためには常に「PAR」レベルの仕事をさせることである。PARとは、最低基準で、前例、行動、結果からなる。そして、もう一つ重要なことは「PAR」の仕事を到達したレベルを維持されることである。
そのために「訓練に対する反省」ツールを準備している。このツールは
・新人にはPARをさせるためにどの領域に持っていくか
・以前からの従業員にPARの働きを維持させるにはどの部分を手伝うべきか
を考えるツールである。

◇大罪その11:部下のたるみに目をつむる
不満足な仕事には目をつぶるべきではない。そのためには、対立を回避しないことが重要である。対決の仕方としてはGAPが役立つ。
G:意見を言わせる(Get his opinion)
A:実行すべきことについて合意する(Agree what will be done)
P:望ましい行動を積極的に強化する(Positiveli reinforce the desired behavior)

GAPで対立するために、「対立の指針」というツールを準備している。このツールは
・対決が必要な行動
・目撃したこと
・それを見ての感想
・その理由
・行動を改めてほしい点
を書き出すようになっている。

◇大罪その12:成績のよい部下だけに目をかける
利益を上げている企業は、実績が中位の信頼できる勤勉な社員と、少数のスーパースターの上に事業を構築している。したがって、中位の社員に気を配るべきであり、そのためには、個人的感触を含む表彰が適している。この項目に対するツールとしては、「表彰の再検討」が準備されている。

◇大罪その13:アメとムチで部下を操ろうとする
部下に生産性を上げさせるためには
・恐怖
・報酬
・信念を育てるもの
のいずれかしかない。前の2つが操縦であるのに対して、3つ目は育成であり、積極的に活用すべきものである。この項目についてには「信念を育てることについての反省」という内省ツールが準備されている。

この本は、25年前に出版されて多くの国で読まれている本である。日本でも20年前に翻訳出版されていたが、今回、日本経済新聞社のベストオブビジネスの1冊として再度出版された。最近、マネジャー(課長)向けの啓蒙書がちょっとしたブームになっているが、多くの本を読んでいて違和感があるのが、過去のやり方を全否定しているようなスタンスの本が多いことである。うまく行かないから、今までのやり方ではダメだという気持ちは分からないでもないが、だからといっても新しい方法でうまく行くという保証はない。少なくともこの25年前に書かれた本を読んでいると、問題の本質は変わっていないと思える。

この本は、「なぜ、うまく行かないのか」を分析して、その処方箋を書いたものである。正直、最近の啓蒙書と比較すると古い感じがするのは否めないが、それは、非力である、あるいは「遅れている」ということではない。

問題に蓋をして新しいものに飛びつく前に、問題を分析し、それに愚直に向き合うことが必要だろう。この議論は最後の大罪である、操縦から、育成へのトランジションに通じる。そのために非常に強力なツールとなる本だ。欧米で25年読み継がれてきたのは伊達ではない。リフレクティブなマネジャーを目指す人には必読だ。

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