見えないものを「視える化」する「ハカる」
三谷 宏治「ハカる考動学」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2010)
お奨め度:★★★★1/2
三谷 宏治さんの「いまは見えないものを見つけ出す 発想の視点力」でメインテーマのひとつであった「ハカる」ことをだけをとりだし、深めた一冊。ハカることを概念化し、豊富な事例を用いて説明し、エクスサイズを通じて理解を深めることのできる、とてもインスパイアされる本。
温度計の原理をご存知だろうか。温度変化に伴う物性の変化等の物理現象を使って温度を測る仕組みである。基本は、熱力学温度と直接対応する物理量を測定することで温度が決定する仕組みである。ところが、これ以外の方法がある。
それは、温度との「対応が明確に関連付けられた」別の量、たとえば、電気抵抗値や液柱の高さ、出力される電圧などを計測し、温度の計測を行う方法である。測るという行為をこのように捉えると、いろいろなものを測ることができる。見えないものでも図ることができる。要は、対応が明確に関連付けれるものを探せばいいわけだ。
この本は、ハカる方法を体系的にまとめた本である。まず、著者のいうハカる動作とは
(1)言いたいコトとグラフをイメージする
(2)「軸」を決める
(3)「目盛り」を刻む
(4)「組み合わせ」る
(5)グラフからインサイトを読み取る
の5つのステップからなる。
たとえば、「プロジェクト計画を詳細に作れば、プロジェクトの成功確率が上がる」といいたいとしよう。これが(1)である。このための軸を決める。軸は、計画の詳細さは計画の単位時間と、スケジュール誤差にしよう。目盛りは、単位時間の方は、1時間か、1日か、1週間か、1ヶ月という単位を取る人もいるので、時間にする。スケジュール誤差は日にする。ひょっとすると、成功はスケジュール効率の方がよいかもしれない。これを軸にすれば、目盛りは%だ。やっぱり、スケジュール誤差のほうがわかりやすいか。
そして、単位時間とスケジュール誤差を2つを組み合わせる。そして、過去のプロジェクトデータを集めて、グラフを作る。言いたいこと(仮設)がいえるかもしれないし、別の発見があるかもしれない。これが(5)である。
このような方法でハカれる領域は多い。そこで、この本では、難しい領域、面白い領域、ジャンプがある領域に限定して考えている。具体的には
・ヒトをハカる
・作ってからハカる
・新しいハカり方を創る
の3つを考える。
まず、最初のヒトをハカるでは、行動を図ることを基本としている。
・顧客生活をハカってアイデア・ネタを探す(入浴剤)
・顧客評価をハカって商品コンセプトを作る(無印良品)
・顧客行動をハカって市場規模・売上を推定する(イタリア高級ブランド)
・顧客満足度から商品・サービスのレベルをハカる(飛行機)
といったハカるについて述べている。
つぎに、作ってからハカるでは、試作をして、それを使ってハカる方法を述べている。
・完成品でハカる(グリコなど)
・試作品でハカる(IDEOなど)
3つの目の新しいハカり方を創るはなかなか面白い事例が多い。
・テクノロジーでハカる(Wii、タニタ、アマゾンほか)
・ヒトでハカる(グラミン銀行ほか)
の2つを取り上げている。
事例の面白さもさることながら、事例の解説の中で、抽象化している点が非常に興味深い。事例はマーケティングを中心の示されているが、概念化されているため、一度読んでおけば、いろいろなものをハカることに応用できると思われる。
たとえば、ヒトをハカるで、顧客満足度をハカるというテーマがあるが、ITのプロジェクトで、プロジェクト中に定期的に顧客満足を測ることによって、商品の品質レベルの計測をしている企業がある。こういう話である。作ってから測ることは、本書でもプロトタイピングを取り上げているが、まさに、そのまま、ほかの分野にも活用できる。
実は、この本を紹介したいと思った理由は、ありそうで意外とない本なのだ。いっていることはそんなに複雑なことではないし、すごいアイデアということでもない。ただ、ハカる「学」のようなものはあまり見かけないので、ビジネスマンがひとつのスキルとして読んでおく価値のある本だと思う。とくに、評価などで、メトリクスを作る立場にあるヒトにはお勧めしたい。
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