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2009年12月13日 (日)

製品開発マネジメントのバイブル復刊

4478001936 藤本 隆宏、キム・クラーク(田村 明比古訳)「 【増補版】製品開発力―自動車産業の「組織能力」と「競争力」の研究」、ダイヤモンド社(2009)

お奨め度:★★★★★

出版不況のせいか、80~90年代の名著の復刊が目につく。特に、ダイヤモンド社は、持っているコンテンツの質の良さがあって、非常のよい本を結構、復刊してくれている。今年だけでも、先日紹介したテーラーの「科学的方法論」もそうだし、コッターの「ビジネス・リーダー論」もそうだ。その中の一冊が、藤本先生のこの本。

大学の先生が書く研究書は、例外なく定量的な分析が中心でとりあえず納得させられるが、読んでおもしろいと思う本はそんなにない。その中で、この本は定性的分析が中心である。インタビューデータをふんだんに取り入れ、定性的な分析を徹底的に行ったこの本は専門書としては異例のおもしろさだ。400ページくらいある本が「お~、そうなんだ」という感動とともに、どんどん先を読みたくなる。

ビジネス書でもこういう本はなかなか出会わないが、ましてや専門書でこの品質がすごい。初版は1993年に出版されたもので、大学院に行っているときに読んだので、1995年くらいに読んだのだと思うが、15年経って改めてみた感想だ。

この本は日本、米国、欧州の自動車メーカの開発プロセスを丹念に調査し、

・パフォーマンス(リードタイム、品質、生産性)
・製品開発マネジメント
・プロジェクト戦略
・製造能力
・問題解決サイクル
・リーダーシップと組織
・競争環境

について分析し、まとめたものである。分野は自動車であるが、定性的な分析が多いため、自動車に限らず、あらゆるものづくりプロジェクトのマネジメントの参考になるすばらしい本である。

先日、山本一郎氏の「ネットビジネスの終わり」という本を読んだ。その中では、いいものを作れば売れるというものづくり幻想を批判し、盛んに製造業のガラパゴス化を言っていた。ここでいう製造業はおそらく、「電気メーカ」を指していると思うが、山本氏の提起している問題に対する答えが書いてある本だとも思う。

よいものを作れば売れるというのは幻想であるというのは賛成であるが、だからといって、よくないものが長期間にわたって競争力を持ち続けるというわけではない。よいものを作るだけでは売れなかっただけの話である。

よいものをつくる以上という場合に、マーケティングやサービス化がすべてだとは思わないが、品質の高いものを作りながら、マーケティングに力を入れるというのは口で言うほど容易なことではない。それを実現するには、さまざまな組織能力が必要である。たとえば、今、ITと呼ばれる分野では、ハードもソフトも顧客や市場のドラスティックな変化に手を焼いている。山本氏の指摘するように、開発期間は世間との接触を無視して、とことん作り込み、できたらさあ、売ろうという方法は通用しにくくなっている。

あらゆる意味で情報がキーになっている。藤本先生たちの研究では、この問題を

・ユーザ体験のシミュレーションととしての製品開発
・細部にわたる整合性
・製品の首尾一貫性の競争

という3つの視座から分析している。この視座は、あらゆる分野において、有効だと思われるので、この研究から得られた本書の知見は、おそらく分野を限らず役立つだろう。

自動車は早くから古くから、国際競争をしており、その中でどのような組織能力を身につけていったかは、まさにベストプラクティスの宝庫だ。

特に、商品開発に関わっている人には、どのような組織マネジメントが必要か、そして、どのような組織能力を身につけなくてはならないのかが、よく分かり、役立つと思う。

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