「1分間マネジャー」の著者が語る「ビジネス書で得た知識を実行に移す方法」
ディック・ルー、ケン・ブランチャード、ポール・メイヤー(門田 美鈴訳)「なぜ、ノウハウ本を実行できないのか―「わかる」を「できる」に変える本」、ダイヤモンド社(2009)
人々をうまく動機づけ、動かす方法について、単純な真実を成功を収めた作家がいた。作家の本はみんながいいと思い、100万部以上売れた。しかし、作家には一つだけ困ったことがあった。「あなたの本はすべて読んでます。とても気に入っています」という読者に、「それであなたの行動はどう変わりましたか?」と聞くとほとんどの人が返答に困ることだ。
分かっているのに、行動できない
本書の著者は、「1分間マネジャー」を初めとする、「1分間シリーズ」の大ヒットで知られる、ケン・ブランチャードであり、自身がとく、知識を行動に変えるための秘訣をまとめた一冊。
ブランチャードが、知識に実践に活かす障害になっていると指摘しているのは、以下の3点だ。
(1)情報過多
(2)ネガティブなフィルター
(3)フォローアップの欠如
(1)の指摘は、知識を得ることは、実践することより容易だ。このため、向上心のある人はひたすら知識を得ることに夢中になり、得た知識を活かす方に意識が向かないという指摘である。これは、たとえば、ビジネス書を読む人に一般的にみられる傾向だろう。これはある出版社の人に聞いた話だが、ビジネス書は同じテーマのものを買う傾向があるという。まさに、ブランチャードの指摘どおりだ。知識を得て、実践するより、もっとよい方法があるのではないか思って、また、別の本を買う。
この問題の解消は、実践することを少数に絞り、それを徹底的に「反復」することである。単なる反復ではなく、「時間をあけた反復」が重要だという。興味深い例が挙げられている。ある企業では、毎年1回、同じことを繰り返し、研修で教えているという。もちろん、同じ研修を受けると言うことではなく、同じことを教え方を変えたり、見方を変えたりして、繰り返し教えるという。
ビジネス書もこのような読み方をできれば、それなりに意味があるのかもしれない。あるテーマの本を読む。その本に書いてあることを実践し、その本以外は読まない。そして、1年くらい経ったら、同じテーマの別の本を読む。これを3~4年繰り返せば、効果があるだろう。
(2)は、得た知識を実践しようとするときに、ネガティブな考えが浮かび、それが意欲をくじくという問題だ。ちょっと考えただけでも、ネガティブなフィルターはいくつか思い浮かぶ。自分には適さない、時間をかけてそれをやる余裕がない、それをすると失敗してしまうかもしれない、などなど。
この問題の解決方法として、「青信号思考」というのを提案している。新しいアイディアやプロジェクトの提案があったときに、ゴーを前提として、「それをなぜ、実行すべきなのか」という方向性で考えるのだ。創造的な意見が出つくすまでは、ネガティブな考えは控える。
この指摘はよく分かる。動かすために、よく「否定しない」ということが言われるようになってきた。否定はしない。しかも、もっともらしい言い方で「心配」する。これでは不十分なのだ。ブランチャード流の言い方をすれば、これだと「黄信号思考」ということになる。ゴーを前提にしなくては前に進んで行かないのだ。
もうひとつ、興味深い指摘は、常に青信号思考をすることによって、心配ごとについてより耳を貸してくれるようになる。
ブランチャードの本から少し離れるが、この議論の実践者の視座からいえば、「プロデュース」の話に通じてくる。できることを前提にしてひたすらポジティブに考える。分別があることを気取って、ポジティブさを隠す。あるいは、多少、ネガティブに考える。「どうせ~」という態度をとる。本人にちょっとでもネガティブな思いがあるものを、周囲がポジティブに受け入れてくれるはずはなく、結果として本人の思いは実現できない。この話にも通じてくる。
さて、最後は、行動を変えるには、行動を変えたいという思いをフォローアップすることが必要だ。フォロアップのためには、「仕組み」と「サポート」と「説明責任」が必要である。この指摘の中で、興味深いなと思うのは、
実践では完全なものにならない。完全な実践によって初めて完全なものになる
という指摘だ。知識を得たときに、知識を与えた人が、とりあえず、やってみて下さいという指導をすることがある。これは逆効果だというのだ。必要なことは、フォローアップをして、完全なものにしていくことだ。
これについても興味深い事例がある。ある会社は、管理職は2週間に一度、部下全員と面談を行う。面談のスケジューリングは部下が行う。その中で目標についてどのような取り組みを行い、どうなっているか、そして、どのような支援が必要かを話す。そして、この活動は、経営が上司も部下も評価する。また、研修などの後には外部コーチによる6週間のコーチングも行う。このようなフォローアップは行動の定着にはたいへん効果的であるそうだ。
この本の指摘の(1)と(2)は、スマントラ・ゴシャールが意志力革命で、アクティブ・ノンアクションの克服で述べていることとほとんど同じだ。
問題は定着化である。ブランチャードは、ここに仕組みが必要だと言っている。スマントラ・ゴシャールは意志力だという。どちらが適しているかは人によって違うのだろう。
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