「影響力の法則」を実践する
アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォード(高嶋 薫、高嶋 成豪訳)「続・影響力の法則―ステークホルダーを動かす戦術」、税務経理協会(2009)
お奨め度:★★★★★
2007年に同じ訳者で翻訳出版された「影響力の法則」は、原書「Influnence without Autohrity」の1章~9章を訳したもの。残りの10章~17章を翻訳したのが本書と訳者の前書きに書いてあるのだが、なぜか本書は7章構成。まあ、細かいことは気にしないということで。
また、本書には訳者による影響力の法則ミニセッション的なページが冒頭にもうけられているので、一同、前書を読まなくても読めるようになっている。
前書では、「影響力の法則」の理論について、多少の事例を織り交ぜながら述べたものだが、この本は「影響力の法則」をどのように実践するか、どのように使うべきかを状況や目的別に解説した本になっている。
取り上げている状況は
・プロジェクトをリードする
・部門全体を動かす
・同僚を巻き込む
・変革をリードする
・間接的に影響を及ぼしたい
・社内政治を乗り越える
・強行手段をとらざるを得ない状況
という7つ。
「プロジェクトをリードする」はプロジェクトメンバーを動かし、ステークホルダを巻き込むのに、「影響力の法則」がどのように使えるかを述べている。基本的には個人を動かすための方法である。
次の「部門全体を動かす」というのは、組織(集団)を動かす方法。
ステップ1:その部署や部門を潜在的な提携相手を考える
ステップ2:その部署や部門の世界を理解する
ステップ3:相手部門から何を得たいのかを明確にする
ステップ4:関係に配慮する
の4ステップで相手部門を動かす方法を示している。そして、そのポイントを「働きかけたい相手部門をお客様として扱う」ほか、6項目にまとめている。
次のテーマは「同僚を巻き込む」だ。ここでは、「影響力の法則」を応用し、
・同僚の置かれている立場を理解する
・その同僚から得たい協力について、ぶれない
・カレンシーの幅を広くしておく
・こちらの依頼を相手のニーズ、目標、願望に結びつける
・うまくいかなくても相手との関係にひびが入らないようにする
の5つを基本的な考え方にする方法を紹介している。
次の「変革をリードする」では、ビジョンをカレンシーとし、キーマンに影響力を与えていく方法について述べている。この中でおもしろいのは、「アコーディオン方式」と呼ぶ方式。局面に応じて、巻き込んだり、会議に参加してもらう範囲を変えてうまく、変革活動を進めていく重要性を説いている点。
その次は「間接的な影響を与える」ということで、組織の制度をうまく活用したり、設定したり、あるいは、トレーニングプログラムをうまく活用したりして、変えたい相手を変えて行く方法を述べている。
6章はがらりと話が変わって、社内政治をうまくくぐり抜けて、しかるべき人に影響を与えるにはどうすればよいかを述べている。ここでは、著者の友人がややこしい社内政治環境の中で、同僚の100万ドルのプロジェクトをつぶしたというかなり長いケースストーリーが示されている。
さらに7章では、強行手段に訴える、つまり、脅しをかけることによって相手に影響を与える方法を述べている。このようなやり方は、努力しても相手の所望のカレンシーが与えられそうにないときに有効な方法だとしている。
前書の感想の中で、絶妙のハウツーの与え方をしていると書いたが、この本の7章を読み込むことによって、相当に影響力の法則に対する理解が深まり、また、影響力の法則を実践するというのがどういうことなのかがよくわかる。
まだ、前書を読んでいない方はこの本を先に読んで頂くとよいと思う。前書の終盤に掲載されていたケースもそうだし、今回の本で扱っているケースもそうだが、日本型組織にあったものと、あまりしっくりこないものが混在している。それを感じた上で、前書で、その行動原理である「影響力の法則」の理論をどのように使えるかを考えながら読むといいと思う。
しっくりこないものの理由は、価値観が異なることと、日本の組織の場合、活動単位が個人ではなくチームであることによるものだと思う。今回の7つの章の中で、それをもっとも感じたのは、同僚の巻き込みである。米国の組織では巻き込みというのは、コラボレーションを意味しているが、日本の組織では巻き込みはチームビルディングを意味している。この違いがあるように感じた。
逆にたいへん参考になったのは、2章の部門組織を動かす話。こういう発想が必要な局面は多いが、どうすればよいかとなると、せいぜい、部門長への影響のようなことしか出来ないものだ。この章のステップやポイントは大変参考になった。
全般的に前回と同じく、その活動を行うためにどのようなことを考えればよいか、どのような質問を相手にすればよいかなどが、具体的に例示されている。これは、前書同様、実践的にである。
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(2)誰を味方につけるべきか? ステークホルダー戦略のスタート
(3)本当の目標は何か? 相手から得たい協力、プロジェクトの目標、個人的な目標
(4)相手の立場で考える 仕事上の目標は何か、誰の意向に左右されるか
(5)使える能力を見極める 人・物・金、ビジョン、人間関係能力、承認
(6)実行 相手の言葉で話す、過去の経緯をリカバーする
(7)目的を忘れない 何のための協力なのか
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