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2009年5月29日 (金)

合理的な問題解決アプローチ

4478750068 佐藤 允一 「新版 図解・問題解決入門―問題の見つけ方と手の打ち方、新版版」、ダイヤモンド社(2003)

お奨め度:★★★★★+α

問題解決本のバイブル。

問題解決は戦略と並ぶビジネスの両輪である。

その問題解決の分野で、1987年に出版され、ずっと定番本の位置を守ってきている。さすがにこの数年、問題解決本の出版が相次ぎ、売れ行きは落ちているようだが、未だにこの本を超えるレベルの問題解決本には出会わない。多くの本は、この本の一部を切り出して易しくしたり、独自の視点を付け加えたようになっている。その意味で、この本はまさに、日本の問題解決のバイブルだといっても過言でないだろう。

この本が何よりもすばらしいのは、2点ある。一つは問題とは何か、つまり、問題の構造を明確にしている点。問題解決本はたくさんあるが、問題とは何かを本書ほど明確にしている本はほかにない。

もう一つは、構造を使って、目標・方針・戦略・戦術・機会活用、危機管理といった問題解決に関連する概念を見事に整理している点。戦略マネジメントには問題解決は不可欠であるが、その後、ベストセラーになった「問題解決プロフェッショナル」などと比較しても構造的なアプローチをしており、わかりやすい。

本書の問題の定義は、目標と現状のギャップというだけではなく、その中で「解決すべき事項」だとしている。つまり、ギャップが解決不能であったり、あるいは、解決する意志がない場合にはそれを問題とは言わない。

たとえば、乱暴運転をして事故を起こしたという場合に、問題は乱暴な運転なのか、事故を起こしたことなのか、どちらだろうか。ここで、よく「乱暴な運転はよくない」という先入観によって問題は「乱暴運転」だとなるが、そうではない。問題は事故を起こしたことである。たとえば、砂漠で乱暴な運転をしても問題ないが、事故は常に問題になるからだ。

ここでもう少し考えてみると、今度は事故という問題(結果)に対して、原因はいくつも考えられる。つまり、乱暴な運転をしていたのが事実だとしてもそれが原因かどうかは分からない。路面が悪かった、雨が降っていたなどいろいろな原因が考えられる。

これに対して、、本書では、「問題点」という概念を定義している。問題点というのは、問題の原因の中で、手の打てるもの、改善可能なものである。上の例で、たとえば、雨が降っていたことが問題点であるなどと考えても仕方ないというわけだ。

そして、問題解決とは、問題点に対する改善だというのが本書の定義である。

次に、問題というのは、当事者が決まらないと決まらないという指摘をしている。つまり、誰の問題なのかという意味。上の例で、運転者が問題の当事者であれば乱暴な運転をしたことは問題点になるが、当事者が行政であれば乱暴な運転をしていたかどうかは問題点にはならない。

そこで次に考えるべきことは、問題の当事者には立場というのがあることだ。たとえば、上の例で言えば、道路の状態が悪いとしても、予算がなければ対応できない。

つまり、問題には、目標達成を阻害する客観的な事実(制約条件)がある。これも配慮しなくてはならず、結局のところ、目標と制約条件がセットで問題ということになる。

さて、このように問題を定義した上で、本書では問題には3つのタイプがあるとしている。

(1)すでに起きているという問題:発生型
(2)今よりよくしたいという問題:探索型
(3)この先どうするかという問題:設定型

の3つである。このことを意識しながら問題解決の流れを解説している。

まずは問題の組み立て。ここで重要なことは、目標には上位目標があり、現状とのギャップはもっとも下位の目標で決まるということを明確にしながら、問題の構造を組み立てていく。次に、問題点の列挙。そして、最後に解説策の検討。

本書で提案する問題解決は、このような流れで進んでいく。基本的な流れは、同じなのだが、問題のとらえ方に工夫があり、また、問題のパターンが体系化されている。このパターンによって問題解決の際のポイントが変わってくる。その点を踏まえて、問題解決の流れを解説しているので、本書のアプローチだと非常に合理的に問題解決を行うことができる。この点が評価されて、ずっとバイブル的な存在になっているものと思われる。

なお、本書はかなりビジネス書的な記述になっているが、もう少し、本書で提案されている問題解決法の理論をきちんと押さえておきたいという向きには、本書よりさらに前に出版された

4478420246 佐藤 允一「問題構造学入門―知恵の方法を考える」、ダイヤモンド社(1984)

を一読することをお奨めしたい。

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