現場力強化の鍵はミドルが握る
遠藤功「現場力復権~現場力を「計画」で終わらせないために」、東洋経済新報社(2009)
お奨め度:★★★★1/2
日本における「現場力」ブームの発端になった、ローランド・ベルガー会長の遠藤功さんの著書
遠藤功「現場力を鍛える~「強い現場」をつくる7つの条件」、東洋経済新報社(2004)
の続編。事例の紹介をしながら、それらの事例に見られるベストプラクティスや、問題点の解決方法の提言をしている。
遠藤さんはこの本を書くことになった動機を問題提起として説明している。その中で、特に共感するのは
・「現場がもっとも大切」と言いながら、どうして過剰な非正規社員化を進めたり、過度なアウトソーシングをおこなうなど、現場力を削ぐ動きが続くのだろうか?
・「見える化」の有効性は皆、理解していながら、その取り組むがどうして定着しないのだろうか?
・「現場力強化」を謳いながら、多くの企業はどうしてその取り組みが、一過的な運動で終わってしまうのだろう?
本書は基本的には、現場力を計画で終わらせるなをキャッチフレーズに、このような展開上の問題点に答えている。
多くのポイントがある本だが、まず、最初のポイントは現場をコストとみているかどうか。遠藤さんの前書から一貫した発想は現場はコストセンターではなく、バリューセンターだというものだ。そして、バリューセンターにするには、当事者意識がもっとも重要だと主張する。つまり、当事者意識を持つ現場を作れば、現場が代わり、経営としてもコストダウンの対象としてのみはみれなくなるというロジックである。この例として、首都圏で食品スーパーを展開しているオオゼキという中堅スーパーの個店主義を紹介している。流通が本部主義になっているのに反して、このスーパーは個店主義ということで、立地、顧客層から始まり、施策や戦術をすべて店舗が決めている。これによって29店舗、売上650億で、19期連続増収増益を実現しているすごいスーパー。要するに、現場に当事者意識を持たせると、現場がバリューセンターになり、コストカットの対象にはらなないということだ。
次に、見える化の問題では、大きな問題として
・見える化が目的化してしまう
・「悪い情報」、「兆候」が見える化されていない
・顧客志向が欠如している
の3つを上げ、これらを解決するために見える化だけではなく
見える化 → 伝わるか → つなぐ化 → 粘る化
というサイクルを作り、改善文化の創造をしている例として、認知症高齢者を対象としたグループホーム「しあわせの家」の例を挙げている。ここでは、
・進捗の見える化
・受診報告書の見える化
などで、血の通った見える化をしている。
そして一過性に終わるという問題では、くせになるまでやることの重要性を説き、トヨタの改善活動、伊勢丹のウオンツクリップという有名な例を紹介している。
これらの問題は、さまざまなオペレーションマネジメントが抱える問題である。プロジェクトマネジメントでもやはり同じような問題が発生している。遠藤さんがこの本で行っているアドバイスや、対談の中での何人かの社長が述べていることは参考になる。特に、コストセンターをプロフィットセンターではなく、バリューセンターにしようという話はなかなか、おもしろい発想である。よく考えてみるとこれは一種のレトリックだと思わなくもないが、まあ、言いたいことはよくわかる。意識変革である。
ただ、一連の問題の中で、あまり取り扱いは大きくないが、
・現場力強化を推進する中核であるべきミドル層が、どうして冷めてしまっているのだろう?
という問題が中でも本質的な問題ではないかという気がする。例えば、野田彰先生は、
野田 稔+ミドルマネジメント研究会「中堅崩壊―ミドルマネジメント再生への提言」、ダイヤモンド社(2008)
の中で、日本企業の現場力の低下はミドルマネジメントの崩壊が大きな原因の一つであると断定され、その対応策として社内プロジェッティスタ制度というミドルアップダウンの制度の導入を提案されている。この本でも、遠藤さんは、また、コマツの復活の例を取り上げ、ミドルアップダウンの必要性を説を説いている。
遠藤さんが指摘する問題は、組織や、組織文化の変革の問題なので、特効薬があるようには思えないが、結局、この辺りがキーになるのではないかという気はする。
本書では、最後にまとめとして、現場力の要素能力ということで
・問題解決力
・連結力
・俊敏力
・臨機応変力
・粘着力
の5つを上げている。
看板を掛け替えた本ということではなく、本当に前書のアドバイスに真剣に取り組み、その結果うまく行かなかった企業への熱いメッセージになっており、トップマネジャー、現場マネジャー、ミドルマネジャー必読の一冊である。
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