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2009年2月25日 (水)

なぜ、米国の労働制度は日本でうまく機能しないのか

4492532536 冷泉 彰彦「アメリカモデルの終焉、金融危機が暴露した虚構の労働改革」、東洋経済新報社(2009)

お奨め度:★★★★1/2

大学卒業後、米国に留学し、日米で企業勤務を経験し、その後、米国に移住し、大学講師をつとめ、現在は日本語学校に勤務している著者の組織や労働に対する日米比較分析。キャリアからわかるように両国の現場を知っているだけに非常に説得力のある分析が並んでいる。企業でマネジメントに関わる人にはたいへん、参考になる本だ。

最初は成果主義に対する批判。前提が違うということを論理的に説明している。米国では組織は評価の対象と範囲を決めるために作られており、成果主義は組織の前提になっている。具体的にいえば、

ヨコの軸:同じレベルの他の同僚との間で、お互いの守備範囲をどう決めているか
タテの軸:一人の社員が上下関係の中でどう位置づけられているか
時間軸:長い年月の中で評価対象期間がどういう意味を持つか

の3つの点に注目し、米国の前提と、その前提の日本に適合しないことを述べている。

まず、ヨコの軸では、米国の組織は他人の職域を犯さないことを前提にしている。これに対して日本は、境界が曖昧になっている。米国の場合には、職務記述書をそれぞれの社員が作って、責任範囲を明確にするととにも、評価対象となる目標を決めている。

次に、タテの軸。ここでは、管理職は、採用、評価、解雇の3つの権限をすべて持っている。そして、一人の直属の上司から指示を受けるような組織になっており、これによって、成果主義は可能になっている。これに対して日本は、上司と部下の関係、指揮命令系統が曖昧である。

3つ目の時間感覚ということでは、米国では期とか半期とかの短期で評価をするようなシステムが定着している。これに対して、日本では長期の仕事が多く、年度だとか期では評価がしにくい。これも成果主義が馴染まない理由になっている。

しかし、今回の金融危機でその米国の成果主義もうまく行かなくなってきたというのは一番目の指摘。

次に、ホワイトカラーエグゼンプションについて言及している。日本で言われているような形の制度は米国には存在しない。そして、米国でエグゼンプションが行われている分野も金融崩壊によって、エグゼンプションが成り立たなくなってきているという指摘がされている。

三番目のテーマは終身雇用である。日本では終身雇用は終わったと言われているが、実態としてはそんなことはなく、解雇の柔軟化が別の形で行われただけのような格好になっている。非常に本質的な話は解雇の柔軟化に対してセーフティネットになるべき、雇用の柔軟化が全くといって良いくらい行われていない。この背景には年功序列があるという指摘。つまり、終身雇用、年功序列がないのであれば、新入社員と高年齢の中途採用者が同じ能力であれば同じ評価をされなくてはならないが、実際には年功序列があって中途採用は評価が高くなる。すると、中途採用よりは新入社員ということになって、採用は柔軟化していない。また、雇用の問題では、派遣制度の違いについても言及している。

ところが、これについても、今回の金融危機で解雇の柔軟化が壊れつつあると指摘している。

四番目のテーマがすばらしいテーマである。米国ではプレゼン文化が崩壊しているという指摘。サブプライムに対しておもしろい指摘をしている。プレゼン文化はものごとを単純化し、そこで説得力を持たせていく。これがプレゼン文化であるが、行きすぎた単純化によって、MBAを持っている金融マンが、不動産価格が一定の水準を割れば、それは債権の価値の問題ではなく、金融システムが崩壊することになることに気がつかなかったのがサブプライム問題の本質だと指摘している。プレゼン文化が崩壊しつつあるという話はたいへん興味深いものである。

このように米国をモデルにした和洋折衷がうまく言っていないところに、米国のモデルそのものが崩壊しつつある。この時代にどのようにすればよいかということで最終章では提言をしている。提言は、大学を職業専門大学にして、国民をすべて専門家にすることによって、新入社員を戦力化するしかないと述べている。この提言はこの問題に限らず、古来から言われていることだが、現実には進んでいない。

この本は、日米、産学という軸で考えたときに、唯一、議論されていないところが、日本の学の問題である。そこに、答えを求めようとしているが、ここはここで問題がある。従って、提言されていることはあまり現実的であるようには感じられない。

その点で、★を4つ半にした。最終章を除くと文句なしの五つ★である。

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