ミドルマネジャーの教科書~100冊の啓発書よりこの一冊
秋沢 志篤「 「オキテ破り」が人を動かす」、日本実業出版社(2008)
お奨め度:★★★★★
まだ、年を振り返るには多少早いが、今年は酒井穣さんの「課長の教科書」の大ヒットに始まって、ミドルマネジメントの本がたくさん出版された。僕は神戸大学の金井壽宏先生のゼミナールに参加したが、そのときに先生が言われていたことを思い出している。正確ではないが、「ミドルマネジャーは組織によって立場が違うし、人によってキャリアが違う。モデル化するよりも、フィールドワークから何かを学ぶことが重要」といったニュアンスのことである。
金井先生の本に
金井 壽宏「変革型ミドルの探求―戦略・革新指向の管理者行動」、白桃書房
に書かれているような探求がその根拠だと思う。この本は、出てきたのが10年早かったように気がする。それが、金井先生の先見性だと思うが、今こそ、この本が読まれるべき時代になってきたように思う。
話は脱線したが、なぜ、金井先生の話を思い出したかというと、ミドルマネジメントの本を片っ端から読んで、気に入ったものがほとんどなかったからだ。酒井さんの本だけは事情があって紹介記事を書いたが、それ以外に10冊くらいは読んでいると思うが、まったくないていない。僕にとってはそんなところだった。酒井さんの本も含めて管理行動だけしか書かれておらず、違うだろうという感覚があったからだ。
そこで今回ご紹介の本。
著者の秋沢志篤さんはコンビニエンスチェーン、am/pmの元会長である。もともと、am/pmは共同石油がスタンド併設を基本コンセプトに立ち上げたコンビニチェーンである。地方にいくとほとんど見かけないので、ブログ読者の中には知らない人もいるかもしれないが、首都圏を中心にほとんどの店舗を大きなビルのテナントとして立地し、弁当は注文制など、通常のコンビニとは一線を隠した運営をしているチェーンである。そのコンセプトを作り上げたのが秋沢志篤さんである。
秋沢さんがこの本でまず、明かしているのは、
あるべき論
で動くという考え方。これがすべての基本になっている。この本では弁当のエピソードが知られている。弁当はコンビニにとってなくてはならない商品だが、化合物や着色料をふんだんに含んだ弁当を展開することに抵抗があって、「あるべき姿」を考えたときに、今の形がでてきたという。ちなみに、以前テレビの番組でやっていたが、コンビニ弁当には、百種類以上の化合物が入っているそうだ。
ここから始まって、この本1冊が秋沢志篤さんの共同石油、am/pmでのリーダーとしてのエピソード集になっており、その経験を通じて得られた宝石のようなメッセージが随所にちりばめられている。
基本はタイトルにあるように「オキテ破り」である。秋沢さんのいうあるべき論というのはゼロベース思考ということなので、オキテ破りというのは当たり前の話なのだが、この本がすばらしいのは、オキテ破りの方法をエピソードに基づいて教えてくれているところ。彼のリーダー像として
・チャレンジングスピリッツ
・倫理観
・情緒性
の3つがあるので、おいそれとはまねできないと思うが、ものの考え方は同じようにルールを破らないと成果は出せないと思っている人には良いヒントになると思う。
また、話が脱線するが、秋沢さんはam/pmの会長で、時々、雑誌とかの取材記事では目にしていたが実は考え方を明確に知ったのは、この本。
秋沢 志篤「魂のトレーニング」、こう書房(2008)
この本を読んでなんとすばらしい人だと思って俄然興味がわいた。オキテ破りをしたければ、こちらの本もあわせて読むといいだろう。
さて、もう一度、オキテ破り本に戻る。この本で述べられていることはすべて共感できるが、特に共感できるのは
・「こうあるべき」で突き進むと結果がついてくる
・オキテ破りは思考を活性化させる
・考えに考え抜くために、上から山を見て、下からの道を探せ
・人付き合いの基本は借金を重ねること
・ど真ん中にいけば活路が開ける
・すべて相手の立場に立つことですべてが解決する
といったこと。読んだら勇気をもってすぐにやりたくなることも多いと思うが、ただし、最初に「あるべき姿」を明確にしておくことだけは忘れてはダメ。ここを忘れてこの本から受けたインパクトで行動しようとすると空回りする。
最初の話に戻るが、この本で秋沢さんが書いているような行動規範がもっとも重要なのは
ミドルだと思う。ミドル向けの啓蒙本を100冊読むよりは、この本を一冊熟読することをお奨めしたい。
特に、また別途「ひとつ上のプロマネ。」ブログに記事を書こうと思っているが、中世ドイツのキリスト教神学者マイスター・エックハルトが残した言葉に
人々がじっくり考えるべきことは、「何をすべきか」ということよりむしろ「どうあるべきか」ということだ
という名言がある。この本は、「何をすべきか」を書いたリーダー本向けのハウツー本が氾濫している中で、「どうあるべきか」を論じている珍しい本である。秋沢さんのハウツーを盗むのもよいが、秋沢さんのリーダーは「どうあるべきか」論を盗んでほしい。
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