リーダーシップに愛は必要か?>もちろん、必要です!
藤沢あゆみ「「愛され社員」で行こう! 」、日本実業出版社(2008)
お薦め度:★★★★
『モテ本』でおなじみの、自称「恋愛・自己実現分野の作家」、「恋愛マニアリーダー」の藤沢あゆみさんが書いたビジネス本。発売されたころにさっと目を通したが、ちゃんと読んでみたいとずっと思っていた本。
藤沢あゆみ「「愛され社員」で行こう! 」、日本実業出版社(2008)
お薦め度:★★★★
『モテ本』でおなじみの、自称「恋愛・自己実現分野の作家」、「恋愛マニアリーダー」の藤沢あゆみさんが書いたビジネス本。発売されたころにさっと目を通したが、ちゃんと読んでみたいとずっと思っていた本。
顧客循環力という言葉を聞かれたことがあるだろうか?一言でいえば、CS(顧客満足)とES(従業員満足)のシナジーによる顧客サービス品質のスパイラル的向上を実現する組織力といえる。
顧客満足が大切だという考え方の背景にあるのは、「サービス品質が悪い」という認識である。ゆえに、品質向上の一環として顧客満足度を把握し、向上していくことに力を注いできた。
この分野はISOをはじめとして、マネジメントが相当体系化されており、書籍などでもよいものがたくさんある。お薦めの一冊はこれだ。
日本能率協会コンサルティング、永川 克彦、蛭田 潤、江渡 康裕、渡邊 聡「お客様に対応する業務の品質管理」、日本能率協会マネジメントセンター(2007)4820744208
顧客満足というと、どうやって計測するかが問題になるが、顧客満足の評価の指標としてもっとも一般的に使われているのは、リチャード・オリバーが提唱している「期待不確認モデル」である。このモデルは、期待(E)と実績(P)に注目し、その大きさで顧客満足を決めるものである。期待と実績を比較し、実績が期待より大きいなら、顧客満足が達成していると考えるモデルだ。実績が期待を下回っている場合には、それ自体が競争力を欠いており、実績を向上させる必要がある。これが上に述べた話である。
しかし、ここで考えなくてはならないのは、期待が低ければ、いくらリチャード・オリバーモデルで顧客満足が大きくなっても競争力にはならないことだ。
したがって、期待と実績の差を小さくすると同時に、期待そのものを大きくしなくてはならない。つまり、差を小さくしながら、期待を大きくしていくというスパイラルが求められる。
最近、顧客満足度に代わって、(カスタマー)ディライトという言葉が使われるようになってきた。JTの「私たちはディライトを提供します」という見て、ディライトって何だろうって思われた方もいらっしゃると思う。妙にインパクトのあるCMだ。別のキーワードは感動である。
たとえば、顧客満足向上のコンサルティングを専門とするJ.D.パワーなどの事例を見ていると、顧客満足の向上活動が、最終的には「感動を生み出す」活動になっていくケースが多いようだ。
クリス・ディノーヴィ、J.D.パワーIV世「J.D.パワー 顧客満足のすべて 」、ダイヤモンド社(2006)
口で感動を与えるというのは簡単だが、問題は如何に実現するかである。
この方法として、3つのキーワードがあるように思う。
ひとつ目はホスピタリティである。この分野は山ほど、本がある。昔から、
ヤン・カールソン(堤 猶二)「真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか」、ダイヤモンド社(1990)
のような名著が多い分野なのだが、この2~3年、ホテルサービスのベストプラクティスを応用しようといった趣旨の本がたくさん見られるようになってきた。たとえばこの本だ。
林田 正光「図解版 ホスピタリティの教科書」、あさ出版(2007)4860631978
また、ここに、最近、日本流の「おもてなし」本が出てきている。おもてなし本でお薦めは
リクルートワークス編集部「おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る」、英治出版(2007)
である。この本は、おもてなしは「主客の立場が入れ替わることさえ許容し、主と客が共にその場をつくる「共創」の関係を持つことを基本としている」という視点を置き、うまくまとめている本だ。
二番目は感動だ。これも多い。上に紹介したJ.D.パワーの本もお薦めだが、最近、読んで「感動」した本がこれ。
ロビン・レント、ジュヌヴィエーヴ・トゥール(フローレンス ミエット 石坂訳)「超高級ブランドに学ぶ感動接客」、日本経済新聞社(2008)
ホスピタリティにしろ、おもてなしにしろ、あるいは感動にしろ、その実現のメカニズムというのがもう一つの問題である。ホスピタリティであれば、「ホスピタリティマネジメント」といった形でいくつかのフレームワークが提案されている。たとえば、
中村 清、山口 祐司「ホスピタリティマネジメント―サービス競争力を高める理論とケーススタディ」、生産性出版(2002)
などがある。しかし、あまりとっつきやすいものではなかったが、最近、「満足循環」という概念を中心にまとめた本が出版された。
志澤秀一「ディズニーに学ぶ満足循環力―「お客様満足」+「社員満足」の秘密」、学習研究社(2008)
志澤秀一氏は東京ディズニーランドの立ち上げから人材育成にかかわってこられ、今はコンサルタントとして活躍されている方だ。
この本では、ディズニーランドにおいて、育成プログラムのバックボーンとなっている理論を紹介されている。この本で述べられているのは
(1)すべてのゲストはVIPという個性化されたメッセージの発信と、その実現の
ために必要なプロフェッショナルな仕事の定義
(2)期待を上回るサービス提供ができるような仕込みをする
(3)期待を上回るサービスを実現し、評価を受ける
(4)社員は評価に満足し、さらなる向上を図るモチベーションとする
(5)会社は発展し、より明確な個性化されたメッセージを発信する
(6)リピートが増え、さらに大きな満足をえる
というCSとESの循環(スパイラル)を作れといことだ。最近、顧客満足というより、カスタマーディライトの実現のためにESの果たす役割の議論が盛んになっているが、結局、この満足循環につきるのではないかと思う。
顧客満足は百歩譲れば現場でできるかもしれない。しかし、ディライトは千歩譲っても経営と現場の協調がない限り実現できない。それをわかりやすく説明してくれている本は、まさにこれからの経営者も現場リーダーも必読の一冊だといえる。
この本を読んでいると、どうしてもディズニーランドは特別だという人も少なくないだろう。よく聞く話で、東京ディズニーランドやJTBを目指す人は、入社試験に落ちても業界他社は受験しないという話がある。どの程度信憑性があるかはしらないが、納得できる話ではある。そこで、もう少し、一般化された話を求めている人もいるかもしれない。そんな人には、この本をお勧めしておく。
最後に、従業員満足に対して、より体系的なアプローチを探している人には、この本をお薦めしておきたい。
吉田 寿「社員満足の経営―ES調査の設計・実施・活用法」、日本経済団体連合会出版研修事業本部(2007)
エリック・エイブラハムソン、デイヴィッド・フリードマン(田村義進訳)「だらしない人ほどうまくいく」、文藝春秋(2007)
お薦め度:★★★★
著者のひとり、エリック・エイブラハムソンは名門ビジネススクール、コロンビア大学ビジネススクールの教授である。そのエイブラハムソンが、きっちり系、だらしな系を事例をあげ、対比しながらながら、「だらしない」ことのメリットを解説した一冊。ただし、だらしないのには病的なものもあり、それは除いて議論している。
本書でだらしな系のメリットの根拠となることは、コストと柔軟性である。最初に、トランプのメタファが紹介されている。2組のトランプがある。1組はよく切ってある。もう1組は絵柄ことに数字の順に並べられている。それを2人の人間に渡し、特定の4枚のカードの絵柄と数字を告げてどちらが早く見つけ出せるかを競わせる。当然、並べてある方だ。並んでいるなかから探し出すのに16秒、並んでいない方から探し出すには35秒かかった。
ここで面白い指摘をする。並んでいないトランプをトランプ愛好家に協力して並べてもらうと140秒かかるというのだ。
つまり、トランプは並んでいないという日常的な状況を前提にすると、結果が逆転するというのだ。
さらに、面白いのは、抜いた4枚のカードを並べている組の元の位置に戻すには16秒かかるという。つまり、並んだ状態を前提にしても、35秒と32秒ということで、ほとんど変わらない。
このように完全性を保つにはコストがかかり、必ず、きっちりとしている方がよいということはないというのが本書の主張。これを事例、歴史、だらしな系の組織など、いろいろな視点から体系的に250ページにもわたり書いているのだ。
本書で指摘されているだらしな系とキッチリ系の比較は以下のようなものだ(前者がだらしな系、後者がキッチリ系)
・素早く、劇的に、多様に、より少ない労力で状況に適応し、変化することができる
vs 需要の変化や予期せぬ出来事、新たな情報に対して融通がきかず、対応が遅れがちである
・異質なものを簡単に内側に取りこむことができる
vs 内に含めるものの量や種類を制限する。有益なものや、不可欠なものも排除してしまうことがある
・環境や情報や変化となじみ、そこから有益な影響を受けられる
vs 外部からの影響を遮断して、決して相容れることがない
・さまざまな要素に触れ、変化を促し、問題を顕在化させ、新たな解決策を導き出してくれる
vs 未知の存在や不測の事態を嫌い、それが現れると、即座に排除しようとする
・比較的少ない労力で目標を達成することができる。労力の一部をアウトソーシングすることができる
vs システムを維持するために常に大きな労力が必要になる。その労力はすべて自分で背負いこまなければならない
・大きく異なる要素でも内に組み込むことができるため、攻撃や妨害や模倣に対する抵抗力がある
vs 強さと弱さを併せ持ち、たやすく破壊されたり、失敗をおかしたり、混乱したり、模倣されたりする
若干、ものの言いようだという気もしなくはないが、確かにこう考えると、だらしな系が効果を発揮すビジネスやマネジメントというのは思い当たるものがあるだろう。もちろん、本書の中にも、運行スケジュールのない航空会社、POS管理しない書店、設計図なしでビルを建てる建築家など、いろいろな事例が紹介されている。
ただし、この本の結論は、だからだらしな系ということではない。バランスが重要だというある意味で当り前の結論だ。当たり前ではあるのだが、意外とこのバランスというのは考えられないことが多い。どこまでやるかという判断は難しいからだろう。その点について明確な示唆はない。この点が多少不満であるが、ビジネスマンとしてもマネジャーとしてもこのような視点を持つことは重要だろう。
エイブラハムソンも指摘しているように、整理整頓をするというのは思考停止を引き起こす。つまり、何も考えずに、きっちりした方がよいと無条件に考えがちである。この点について考えなおすきっかけになるだけでも貴重な本だ。
特に、マネジャーには一読をお勧めしたい。
イアン・エアーズ(山形浩生訳)「その数学が戦略を決める」、文藝春秋社(2007)
お薦め度:★★★1/2
山形浩生さんの訳書を紹介するのは、これで2冊目だと思うが、実は結構読んでいる。テーマや著者で読むというよりも、山形さんが目をつけて翻訳をする本というので読んでいる。
山形さんを有名にしたのはたぶん
ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門」、メディアワークス(1998)
ではないかと思うが、僕が山形浩生にはまったのは、これではなく、
エリック・スティーブン レイモンド 「伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト」、光芒社(1999)
である。
昨年もこの本以外に、2冊ほど読んだ。
ジョージ・エインズリー「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」、NTT出版(2006)
ポール・ポースト「戦争の経済学」、バジリコ(2007)
とにかくインパクトが大きい。新しいトレンドを鋭く見つける。この本もそうではないかと思う。
さて、前置きが長くなったが、この本は「絶対計算」について書かれた本である。絶対計算という言葉はあまりなじみがないが、要するに、回帰分析やニューラルネットワークによって、実績として残っているすべてのデータを分析し、それから統計的法則を導き出す「数学」である。
最初の4章程、いやというほど、絶対計算により、人間より適切な判断ができたという事例を挙げている。象徴的なものとして、ヴィンテージワインの価格予測、最高裁判事の違憲判断の予測、野球選手の実績評価など、結構、どぎつい例を挙げた上で、まずは、マーケティングの分野での実績に触れている。
・アマゾンのリコメンド
・お見合いサイトのマッチング
・カジノ
などである。次に取り上げられているのは、政策決定において、ある政策が政策目標の実現に役立つかどうかを判断するのに、絶対計算が役立ち、防犯、貧困対策などでの実績を紹介している。
さらには、医療の世界でも同じことが起こっていると紹介している。
この本が興味深いのは、この後で、なぜ、人間はうまく判断できないのかを分析した部分。結論は、主観の混入により、統計でいうところの信頼区間がうまく設定できないことが原因だという。ここで面白いクイズがある。( )を埋めるというクイズ。
1.マーチン・ルーサー・キング牧師の死亡時年齢は( )歳から( )歳
2.ナイル川は全長何キロ?( )キロ~( )キロ
といったクイズが10問ある。これにたいして、まったくわからないというのはダメ。たとえば、1.であれば、1歳から200歳とすれば必ず正解になる。これが信頼区間だ。これに対して、正答を9個以上含む範囲を挙げた人は1%。99%は判断にバイアスが乗っていることになるという。
つまり、正解があるところをはずして、そこでいろいろな分析をするので、人間はうまく判断できないのだという。絶対計算は信頼区間を広くとり、手当たりしだいに分析していくので答えを見逃さないというのだ。
ただ、どんな問題でもそのような分析を行おうとすると、無限の因子が出てきて、不可能であることが多い。そこで、その信頼区間の絞り込みは人間(専門家)が行うべきであり、それを適切にできるためには、仮説立案が重要であると結論する。
そして、人間にそのような役割をさせるための教育のあり方にまで言及している。
日本ではビジネスの中にこのような絶対計算を取り入れることに遅れているが、そろそろではないかと思う。一度、このような世界を知っておくことはどのような仕事をしていても意味のあることだろう。
2008年第1号です。本年もよろしくお願いいたします。 今年のスタートはこの本から。
リクルートワークス編集部「おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る」、英治出版(2007)
お薦め度:★★★★1/2
リクルートワークスが「おもてなし」とは何かを考えるために、旅館、茶道、花街、祭など「おもてなしの場」を調査し、その道の第一人者の話を聴いた連載「おもてなしの源流」を書籍化したもの。ワークスの連載のときから興味深く読んでいたが、改めて、書籍化され、まとめて読んでみると本質がはっきりしてくる。
欧米流のサービスは主と客が分離され、その関係構築に主眼を置く。これに対して、この本があぶりだしている日本のもてなしは、主客の立場が入れ替わることさえ許容し、主と客が共にその場をつくる「共創」の関係を持つことを基本としている。
これは旅館、茶道、花街、祭など、いずれにおいてもその傾向がはっきり見られる。そして、このスタイルを評価し、それを求めて欧米の人々がやってくるという。
非常に興味深い話である。
本書はサービスマネジメントの本として位置づけられているのだと思うが、これらはおそらく、すべてのビジネスにおける主客関係の基盤になっていると思われる。
たとえば、メーカに頼んでものをつくることを考えてみてほしい。メーカとユーザが協力することは比較的あたりまえだととらえられてきた。そうして初めて、ユーザは自分たちが役立つものを手に入れることができると考えらてきたのだ。
これに対して、欧米では、まず、契約ありき。契約で主客と明確にし、それぞれの領分をきちんと守ることによって、メーカは良いものを作ることができ、ユーザは役立つものを作ることができると考えられてきた。
この根底には、専門性に対して社会的な敬意を払い、たとえスポンサーといえどもその専門領域に手を突っ込むべきではないというプロフェッショナリズムがある。
今、日本もまさにこの方向に向かっている。
職人というと、自分の技術に自信を持ち、顧客はそれを対価として受け入れてくれるようなイメージがある。しかし、これは誤ったイメージではないかと思う。鮨屋で「おれの握ったすしが食えねえのか」の世界があるというが、京都のある(有名)鮨屋の店主にそんなのは職人ではないという話を聞いた。職人とは、「相手に悟られないように相手のニーズを聞き出し、そこに洞察を加えて客を満足させることができる」ものだという。ゆえに、無愛想な客と愛想のよい客で、出す鮨の品質が違うのもやむなしだそうだ。だから、客も作法をわきまえている必要があるし、品質を維持するためにわきまえない客は断る。だから、一見さんは断るのだという。これは花街にも通じる話だ。
少なくとも日本流のプロフェッショナルとはこれ、つまり、客と一緒に場を作れる人ではないのか?
そんなことを考えさせてくれる一冊である。
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