プロフェッショナルからアグリゲーターへ
柴沼俊一、瀬川明秀「アグリゲーター 知られざる職種 5年後に主役になる働き方」、日経BP社(2013)
お奨め度:★★★★★
アグリゲーターとはあまり耳にしない言葉だ。この本のあとがきにも触れられているように、いまどき、インターネットで検索してみてもほとんど出てこない言葉だが、組織の枠にとらわれず、才能ある人、技術、チャンスをどん欲に巻き込みプロジェクトを遂行する。そんな人材を「アグリゲーター」と呼ぶ。この本はアグリゲーターとはどんな人で、アグリゲーターを育成することで会社や社会がどう変わるかを議論した本。
アグリゲーターが必要になっている背景には、固定的な戦略だけではやっていけないビジネス環境がある。変化の激しい環境では、「今、市場でどのようなビジ ネスのネタが生まれつつあるか」、「誰と組めば実現できそうか」、「どんなユーザーが増えそうか」といった現場の判断が不可欠になり、それを現場で行うこ とのできる自立的な組織が必要になってきている。
この本では組織を
・利益思考のニュートン型組織
・目的志向のダーウィン型組織
と名付け、これからの組織の在り方を両者のハイブリッドな組織であるとしている。そして、アグリゲーターはダーウィン型組織に必要な人財タイプだとしている。そこでは、個人と企業は
(1)企業は個人の成長を支援する器
(2)「個人の総合力」の組み合わせ
(3)多様な人財の新陳代謝
といった関係性ができてくる。
このように企業のあり方を変える際には、3つの道具が使える
・イノベーション
・コラボレーション
・モチベーション
である。これらをうまく活用することがダーウィン型組織には必要である。これらのツールを使って、組織を壊していくことが求められる。そのために経営者は
・ストレッチゴールを設定し、経営者のコミットメントで動かす
・組織の糸を混乱させず、ニュートン型とダーウィン型を両立させる
・イノベーションポートフォリオで事業を管理する
といったことが求められる。また、個人を自立させるためには、
・セルフスターターの動きを奨励する
・トライ・エンド・エラーを奨励する
・巻き込みを奨励する
と言った働きかけが必要になる。
こ のようなマネジメントによりアグリゲーターが活動できる環境ができるわけだが、アグリゲーターにはどのような性格があるのか。まず、興味深いのはアグリ ゲーションであって、インテグレーションではない点だ。インテグレーションには統合と言う意味があるが、アグリゲーションは集めてきて協業をする。つまり コラボレーションのイメージである。
このようなニュアンスでアグリゲーターには以下の特徴がある。
1.将来やってくる社会を具体的にイメージし、自分たちならどのような貢献ができるのか考えてしまうし、プランを書かずにはいられない
2.既存事業の枠組みに囚われず、その瞬間に最も適切と思われる事業モデル・アプローチを設計・実行する
3.事業を実現するために必要な能力を見極めることができるそれを集めるだけのネットワークを持っている
4.状況に応じて、自分の古いスキル・成功経験、能力をいとわず捨てることができ る
5.強烈なビジョニング力を備えている
アグリゲーターが活動する場としてはプロジェクトがよい。プロジェクトは
・目標が明確
・実施に期限がある
・期待成果が明確である
・解決すべき課題が明確で、予算や必要能力が明確である
の4つの性格を持つ仕事である。
アグリゲーターに組織がイノベーションパワーを持つには
・個人と企業のビジョンを整合させ、共鳴させる
・人財を学習で育てる
・未来を読んで動ける基礎体力を戦略とする
・経営資源をイノベーションポートフォリオで行う
・従来の枠を外したワークスタイル
・動かす仕組みは、自立化、モジュール化、可視化
・ニュートンとダーウィンのバランスさせた組織能力
の7つの要素が必要である。そして、アグリゲーターを育てるためのステップを示している。
この10年くらい多くの人はプロフェッショナルを志向している。アグリゲーターとプロフェッショナルはどう違うのか。この本によるとアグリゲーターはプロフェッショナルの進化系で、ビジョニング能力を持つプロフェッショナルだとしている。
プ ロフェッショナルがそうであるようにアグリゲーターもそのイメージが示されたからといってそう簡単になれるものではないように思う。ただ、イメージとして 今、必要だとされている人材像の包絡線のようなイメージの人材像であり、その意味でプロフェッショナルと同じように意識の中においておくことは意味がある ように思う。また、マネジメントもプロフェッショナル育成同様、アグリゲーターの育成を意識することは意味があるように思う。その意味で、読んでおく価値 のある本だ。
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