質問でイノベーションを生み出す
フィル・マッキニー(小坂恵理訳)「キラー・クエスチョン 常識の壁を超え、イノベーションを生み出す質問のシステム」、阪急コミュニケーションズ(2013)
お奨め度:★★★★★
質問に着目した、イノベーションマネジメントの本。FIRE と呼ぶイノベーションマネジメントのサイクルを提唱し、この中でどのような質問をすればイノベーションを加速できるかを述べている。質問をイノベーションの触媒として捉えている本は何冊かあるが、この本は長年集めたという質問を具体的に示しており、実践的な本である。
イノベーションの方法で、常識を破ろうとか、いろいろと出てくるが、実際問題としてマネジャーがマネジメントとして部下にどうやって考えさせるのかと考えると意外と難しい。対話といっても実際にはかみ合わないことが多いが、指示をしたのでは意味がない。
この問題を解消するのに有効なのが質問だ。質問だと、イニシアティブをとりながら、部下に考えさせられることができる。また、自分自身に問いかけることもできる。
FIRE (Focus, Ideation, Rank, Execution) というイノベーションマネジメントの枠組みを提供し、特に、 Ideationのところですればよい質問を体系的に紹介している。著者がいろいろな機会を通じて集めた質問の中から、イノベーションに効くものを整理し たものだそうだ。これをキラークエスチョンと呼んでいる。たとえば、ハーレイに思いを巡らせて生まれた質問は
あなたの製品やそれに関連するものは、誰から熱狂的に支持されているものか。なぜ、そうなるのか、あるいはなぜそうならないのか」
だったそうだ。
まず、本書で議論しているのは、イノベーションの一番の阻害要因である思い込みをどのように解消するかである。ここでは、思い込みに関して、
「私の業界はどのような思い込みに支配されているか」
「私の会社はどのような思い込みに支配されているか」
と いった思い込みに関する質問と併せて「ジョトル」という概念を提唱している。これがなかなか面白い。ジョトルは、思い込みの反対で、地震や津波のように突 然やってきて、戦慄の状態を引き起こす。そこでは思い込みは通用せず、どうしてよいか分からない状況に陥る。ジョトルをうまく乗り越えれば、思い込みは吹 き飛ぶ。そのためには、
あなたのビジネスを様変わりさせる可能性があるのは、どんな予想外のジョトルか
という質問が有効である。
次に議論しているのは、組織の抵抗勢力にどのように対処するかだ。抵抗勢力が拒む理由は
・エゴ
・疲労
・リスクを避けたい
・現状への満足
のいずれかである。このような理由に対して、変化が良い方向に向かうものだということを理解させることができれば事態は好転する可能性が高い。
さて、次にFIREであるが、それぞれのプロセスと質問には以下のような関係がある。
フォーカス:イノベーションを必要とする分野を特化する
アイデア作り:キラークエスションにより、素晴らしいアイデアを生み出す
ランキング:5つのシンプルな質問によりアイデアをランクづけし、ベストのものを特定する
実行:質問を使った段階的なゲートプロセスにより、ベストのアイデアからイノベーションを創造する
本書ではキラークエスションの体系化を、いわゆるコンセプト(誰に、何を、どのように)をベースに行われている。つまり、
「誰」に関するキラー・クエスチョン
「何」に関連したキラー・クエスチョン
「どうやって」に関連したキラー・クエスチョン
という風に分けている。
誰に対するキラークエスションは、フォーカスが中心に使われると思われるが、
・私には思いもつかなかった方法で製品を使っているのは誰か。具体的にはどんな方法か
・顧客が私たちの製品を選ぶときの基準は何か
・顧客が欲しいものについてあなたはどんな信念にこだわっているか
・私の製品やそれに関連するものに夢中になってくれる相手はだれか
・私の製品に不満を持っている相手はだれか
などの質問が挙げられている。各質問に対して、「ひらめきの瞬間」ということで答えをより明確なものにするための補助質問が準備されている。
次に何に関連するキラークエスション。
・カスタム製品を規格品として提供することは可能か
・新しいトレンドや流行をどうすれば利用できるか
・顧客の煩わしさを取り除き、ユニークな恩恵を新たに提供するにはどうすればよいか
など。同じようにひらめきの瞬間も準備されている。
三つ目はどうやってに関連するキラークエスション。
・私たちの業界と似ているのはどの業界か。そこから何を学べるか
・私が業界の関係を調整しなおしたら何が起こるか
・研究開発のプロジェクトを選択する基準は何か
などだ。
ここで紹介したのはほんの一部であり、各項目に関連するキラークエスションは10個以上示されており、関連質問は各3~5くらいあるので、膨大な質問リストが提供されていることになる。
これらをワークショップでうまく使って、上で述べたような方法でイノベーションにつなげていくわけだが、ワークショップの運営について述べてられている。
通常、アイデア出しではファシリテーションがポイントであると言われるが、この質問リストがあれば、質問自体がファシリテータになってくれるだろう。特に、現場でまずは自分たちで何かしようと思ったときに、役に立つのではないかと思う。
ぜひ、試してみてほしい。
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