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2013年8月15日 (木)

忙しいマネジャーのためのマネジメント手法

4761269332高木 晴夫「プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ」、かんき出版(2013)

お奨め度:★★★★★

マネジメントにはどんな組織や部署、部下に対しても通用する「根本的な知識」があるがあり、それを学んで実践すれば誰もが優れたマネジャーになるという前提で書かれた本。特にプレイングマネジャーで忙しく、とてもマネジメントなんて考えていられないという方には奨めの一冊。また、これからマネジャーになっていく人は準備のためにぜひ読んで欲しい。


基本的な知識とは、「配る」である。「配る」マネジメントと呼んでいる。内容に入る前に触れておきたいのは、著者の高木先生はマネジメント教育では日本で も有数の見識を持っておられる先生で、この本の内容も慶応ビジネススクールで行われた授業をそのまま、書籍化したものである。この本はよくあるその人の流 儀を書いた「これだけ」系の本ではない。

つまり、「配る」ことだけすれば十分だという本ではない。むしろ、逆で配ることだけで、おおよそ マネジャーがしなくてはならない仕事はほとんどできるということを主張している本である。マネジャーが配るというと、トップマネジャーであれば人と金と情 報、ミドルマネジャーはモノと人と情報、担当レベルのマネジャーは情報という感じだと思うが、簡単にいえば配り方を考えることによって、マネジャーの仕事 である意思決定、ステークホルダーマネジメント、部下の動機づけなどはすべてできてしまうというのが本書の趣旨なのだ。

まず、動機づけから。動機付けは、情報の配布で実現できる。部下を動機づけるには任された仕事について

・どんな状況で、それがどんな意味を持つのか
・なぜ、その仕事を担当するのか
・その仕事はどう評価されるのか
・上司は何を考えているのか

と いう4つの情報を配る必要がある。これらをきちんと説明していないマネジャーは意外と多い。きちんとという意味は、部下が納得するレベルでという意味だ。 つまり、これらの情報を与えることが部下の動機によい影響を与えることは分かっているのだが、自分が分かっている範囲でしか情報を配らない。

しかし、それで部下が納得するという保証はない。ここがマネジャーの優秀さの分岐点だが、よいマネジャーは部下を納得させるだけの情報を集めている。

つまり、配るためには、集めることが不可欠である。ここがポイントであり、ステーホルダーマネジメントとしてすべきことでもある。マネジャーが情報を得る先は

・直接の上司
・直接の上司の上の上司、あるいは、経営層
・仕事で関係する人々
・同期の人脈
・社内文書
・社外情報

が あるとしている。一昔前なら、担当者はほとんど情報を得る方法がなかったので、マネジャーが知っている範囲の情報で十分だったのだが、社内で情報共有が進 んできて、また、社外情報もインターネットで得ることができる。したがって、これらの情報ソースにアクセスしているだけでは不十分であり、自分が管理して いる業務を部下が行うときにどういう情報が必要かという洞察が欠かせない。

また、配るときにも、誰に、どのようなタイミングで、どういう情報を配ればいいかをよく考える必要がある。

そのためには、マネジャーは組織というものがどういうものかを熟知しておく必要がある。特に、部下にとって見えないものは何かという点が大きなポイントになる。

もう一つの配るマネジメントのポイントは、変革に関わることである。今の時代、変革を避けて通ることはできない。担当レベルのマネジャーであっても自分には責任がないといっていると現実的につらい目にあうのは自分である。

配るマネジメントを実践していると、経営層が変革をどう考えているか、会社として変革が必要かどうかを知ることができる。そこで経営層が望んでいたり、イノベーションが必要だと思えば、自ら動く。これも配るマネジメントの一つである。

つまり、配るマネジメントによって、部下を変革にチャレンジするように仕向けることもマネジャーの役割の一つである。あるいは、場合によっては自らがチャレンジすることもあるかもしれない。

配るマネジメントでここまでできると、本当に優れたマネジャーということになる。

さ て、では配るマネジメントを実践するにはどのようなスキルが必要か。ここで出てくるのがコンセプチュアルスキルである。そもそも、「配る」マネジメントと いうのは概念的な話であって、配るという概念を、具体的な行動にどれだけ落としていけるかがマネジャーの優秀さに通じる。この本では、そこをかなり具体的 に踏み込んでいるが、実践となるとやはり、もう一段ハードルが上がる。このハードルを越えるには、コンセプチュアルスキルが不可欠だろう。

特に、どのような情報を得て、どのように配るかというところはその役割は大きい。

また、配るというコンセプトからどれだけ創造力を働かせることができるかというのもコンセプチュアルスキルの高さによる。

本書では、ロバート・カッツのマネジャーの3つのスキル(テクニカル、ヒューマン、コンセプチュアル)の話を持ち出し、配るマネジメントとの関係を整理している。興味深いのは、配るマネジメントをすること自体がコンセプチュアルスキルの向上に役立つとしていることだ。

配るマネジメントをすることで優秀なマネジャーになれるというのは、コンセプチュアルスキルとの相互作用に根拠があるように思える。その意味で、実践する価値のあるマネジメント手法である。

高 木先生はこのようなマネジメントのスキルを身につけるのはマネジャーになってからでは遅く、できるだけ若いときから身につけることを推奨している。共感す る人は、ぜひ、手に取ってみてほしい。新入社員では難しいかもしれないが、会社に入って3~4年たっている人なら読みこなせるだろう。

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