少数精鋭チームをどのようにマネジメントするか
ブライアン・フィッツパトリック氏とベン・コリンス・サスマン(角 征典訳)「Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか」、オライリージャパン(2013)
お奨め度:★★★★★
著者のブライアン・フィッツパトリック氏とベン・コリンス・サスマン氏はGoogleでリーダーとして仕事をしたエンジニアで、その間の経験に基づくチームマネジメントの持論をまとめた本で、副題は「Googleのギークたちはいかにチームを作るのか」となっている。
「ギーク」というのは日本ではあまり耳にしない言葉だが、サーカスやパレードなどの見世物で、ヘビやニワトリを食いちぎったり、もともと、昆虫を呑み込ん だりするパフォーマーのことをさしていた。語源はドイツ語で「愚者」「嘲笑すべきもの」「騙されやすい者」といった侮蔑的な意味の言葉だと言われる。
インターネットが注目されるようになると共に、コンピュータやインターネット技術に時間を費やし、深い知識を有する者もギークと呼ばれるようになった。
そ して、多くの人がインターネットを使うようになっていく中で、リーダー的な役割を果たすようになってきて、よい意味で使われるようになってきた。日本語で いえば、オタクという言葉が近いと言われるが、ギークは尊敬の対象になっており、どちらかといえば創造性の高いプログラマのような存在で、日本にはあまり いないタイプの存在なのかもしれない。
さて、この本はチームマネジメントの本である。冒頭から延々と、プログラマも一人で仕事をしているわけではなく、チームが必要であるという主張が続く。そして、チームの3本柱は、HRT、すなわち
・謙虚(Humility)
・尊敬(Respect)
・信頼(Trust)
だとする。そして、あらゆる人間関係の問題はこれらの欠如から起こると主張する。
次にチームの文化について論じでいる。そして、その作り方をコミュニケーションの方法から説明している。興味深いというか、当たり前というべきかもしれないのは、すべての文化はコードにつながっていかなくては意味がないと断言していることだ。
三番目はマネジメントのあり方について論じている。ここでは、伝統的なマネジャーの「どのように仕事を終わらせるか」を考える態度を否定し、それはチームに任せ、何をできるかを考えるリーダーでなくてはならないとしている。
そのような態度の中で、アンチパターンと、リーダーシップパターンについて多くのパターンを示している。
<アンチパターン>
・自分のいいなりになる人を採用する
・パフォーマンスの低い人を無視する
・人間の問題を無視する
・みんなの友達になる
・採用を妥協する
・チームを子供として扱う
<リーダーシップパターン>
・エゴをなくす
・禅マスターになる
・触媒になる
・先生やメンターになる
・目標を明確にする
・正直になる
・幸せを追い求める
四番目はチームに有害な人がいるときにどうするかという問題を論じている。この議論が一番面白かった。有害な人から守らなくてはならないのは、チームの注意と集中である。これを乱すのは
・他人の時間を尊重しない
・エゴ
・権利の与えすぎ
・未熟で複雑なコミュニケーション
・パラノイア
・完璧主義
など。このようなことを行う人が有害な人になる。そこで対処が必要だ。対処には、
・完璧主義者には別の方向性を示す
・生命体に餌を与えない
・感情的にならない
・不機嫌の真実を洗い出す
・優しく追い出す
・諦めるときを知る
・長期的に考える
などの方法をとればいいとしている。一見、乱暴なようで、よく考えられた主張である。
五番目は組織の操作について。そして、最後はユーザについて。ユーザに関する議論も示唆に富んでいる。気づいていないプログラマが多いと思われるようなことが列挙されている。
チームで仕事をするのは当たり前だと考えている人もいる。この本が示しているのは、非常に高いパフォーマンスを持つ人たちがチームを作るという議論である。中庸なパフォーマンスの人材でチームを組むのであれば、この本に書かれていることのほとんどは当たり前のことだと思う。しかし、高いパフォーマンスの人を集 めてチームを組むと当たり前ではない。
ソフトウエア業界で言われる生産性で10倍くらいの違いがある人だけでチームを組むことを想像しながらこの本を読むと面白いだろう。
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