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2013年4月29日 (月)

日本型経営の神髄

4062175649 百田 尚樹「海賊とよばれた男」、講談社(2012)

お奨め度:★★★★★

出光佐三をモデルにした小説。主人公は異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造。これまで読んだ経済小説の中では間違いなくベスト。小説として脚色している部分もあるのだろうが、ほぼ、事実に基づいており、まさに事実は小説よりだ。

「国岡商店」の成功は国岡鐵造のリーダーシップによるところが大きいが、ポイントは3つあるように思う。一つは、国岡鐵造の実践するタイムカートなし、出 勤簿なし、馘首なし、定年なしという絶対的「人間尊重」の経営だ。二つ目は卸などの中間流通を設けない、「大地域小売業」だ。大地域小売業は日本全国津々 浦々に直営店を設けて、中間搾取なしに消費者に低価格で商品を提供するシステムだ。そして、三つ目は、社会貢献である。戦争や権力に批判的でありながら、 その命令が消費者のためになるならば積極的に従う懐の大きさである。

一番目の難しさはよく分かると思う。今だの実現している企業はほとん どないことだ。国岡商店が米国の石油メジャーという強力な競合からおそれられたのはまさにこの点だった。よく働き、動きが早い。戦後すぐに、石油配給の統 制が行われ、GHQは海軍が使っていたタンクの底を浚わない限り、新しい石油は入れないという嫌がらせをしてきた。軍でさえできず、主たる石油会社がしり 込みをした中で、国岡商店はやり遂げる。過酷で、生命の危険さえある仕事を嬉々として行う。この源泉にあるのは、国岡鐵造の人間尊重の経営で生まれた国岡 鐵造への信頼と、国岡商店への愛だ。そして、タンクの作業の様子は、官僚、同業者、金融マンなど、内外の多くの人が目の当たりにすることとなり、国岡商店 は信頼され、それが国岡鐵造の直面する問題の解決に役にたっていく。

そして、国岡商店の理念が「大地域小売業」だ。国岡鐵造が店員から信頼される大きな理由はぶれない姿勢にあった。そしてその軸が、大地域小売業の理念に基づく徹底的な消費者志向だ。

今 ではインターネットと物流の高機能化により当たり前になりつつあるが、20年前までは製造業と流通は明確に分かれており、行政の産業施策の前提になってい た。それ故に、大地域小売業を追求すると行政や業界との軋轢が生じ、国岡鐵造の人生は行政や業界との戦いの人生だった。

人間尊重と大地域小売業を徹底的に実践しようとすると、問題の連続になる。そして、国岡商店は国岡鐵造の強い意志とリーダーシップにより問題を解決するたびに成長していく。これはまさに不可能を可能にする連続である。

戦前は帳合をかいくぐる海上での灯油販売(海賊と呼ばれた理由)、満州鉄道におけるメジャーとの戦い、終戦後は、戦争で事業基盤が破壊された会社に一人残らず再雇用したことから始まり、石 油タンクの浚い、業界からの締め出し、日本市場を巡るメジャーとの戦い、タンカーの保有、イランからの石油の輸入、官による生産調整が招いた経営危機など の困難を、どんどん、切りぬけていく。

そして、消費者のためにという姿勢と同時に、問題解決の推進力になったのが、三番目の社会貢献であ る。国岡鐵造のブレナイ意思決定の根源にあったのが、社会貢献であり、すべては国のためになるかどうかで判断をしていた。もちろん、それが社会的な意味で 消費者のためになることが大前提であり、国の命令も消費者のためにならなければ徹底的に戦った。

成功要因と意味でいえば、日田重太郎とい うエンジェルの存在を欠かせない。この小説では実名で登場している。日田重太郎は資産家で、資産の一部を処分し、開業資金を提供する。結果、親族から冷たい目で見られ、故郷に住めなくなり、流浪の人生を送るが、国岡を信じる。そして、成功した国岡が経済的な面倒を見る一方で、国岡のメンターになる というよい関係を一生続ける。

僕の中で、出光佐三氏は印象深い人物だ。理由は二つある。一つは出光が日本で最初に作った石油精製 所である徳山のプラントが非常に身近なものだったこと。徳山は海が見え、非常にきれいな街だ。そこに石油プラント(のちにコンビナートができる。これも日 本で出光が最初に作った)ができたわけだが、景観を崩していない。小学校のときに社会見学に行ったことがあるが、工場とかプラントというイメージではな かったのが印象的で、とてもよい印象を持っている。

ちなみに、このプラントを作るところのストーリーはすごい。2~3年かかるという見積もりに対して、国岡は人間でも子供が生まれるまでに10か月なので、10か月で完成させろといって譲らない。日本の業者も米国の技術者も不可能だという中で始まる。国岡の思いを汲んでだんだんチームとしてまとまり、業者は24時間体制で作業をするようになる。米国人も24時間体制を自発的に作り、絶対不可能な10か月で完成させてしまう。

二つ目は大学。僕の出身校の神戸大学には出光佐三記念六甲台講堂というのがあるが、出光佐三氏は OB(神戸高商)である。この小説を読んでいると、加護野忠夫先生の顔が浮かんでくる。ほかにもこのような価値感に共感されている先生が多いように思う。 日本型経営といえば、日本型経営だが、松下幸之助や出光佐三氏の影響を受けているのかもしれない。

神戸高商時代の話を読んでいると、人間 尊重も大地域小売業を考える出光は異色の存在だったようだ。こういう価値観を作った一つの要因は出光佐三氏なのかもしれない。そう思って読んでみると、大 学のときにいろいろな先生から聞いたことと、この小説の内容が関連することが多々あり、その意味でも面白い小説だ。

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