創造性とイノベーションを解き放つ
リサ・ボデル(穂坂 かほり訳)「会社をつぶせ―ゾンビ組織を考える組織に変えるイノベーション革命」、マグロウヒル・エディケーション(2013)
お奨め度:★★★★★
ゾンビ組織(ゾンビ・インク)を考える会社(シンク・インク)に変え、イノベーションを生み出しすための方策を述べた一冊。著者はフューチャーシンクという会社の創設者であり、CEOのリサ・ボデル。基本的にはフューチャーシンクのソリューションの紹介のようだが、一般論として示唆に富んでいる。
まず、イノベーション診断を行うようになっている。16の質問があり、結果で現状維持、リスクテイカー、チェンジメーカーのいずれに該当するかが示され、 その特性が示される。そして、チェンジメーカーになるのはどのようなビジネス上の特性を身につければよいかが分かるようになっている。
そして、そのための取り組みには4つの基本原則がある。
・誰もが変化をもたらす主体である
・従業員による、従業員のためのもの
・小さな変化と大きな効果
・発展と繰り返し
これを守りながらイノベーションに取り組んでいく。
最初は組織文化。企業文化をイノベーションには不適切なものにしているのは、次の5つの特性だ。
1.権限は与えるが、行動させない
2.リーダーが人ではなく、プロセスに目を向けている
3.ミーティングへの過剰な依存
4.ビジョンが欠如
5.マネジメントが一方的に裁量を下す
イ ノベーションからみた組織文化は、ポジティブ(よい)、ネガティブ(悪い)、自己満足(最悪)の3つに分けることができる。最もたちが悪い自己満足の文化 では、同調性が邪魔をし、社員が成果とプロセスの偏重に抵抗を始めても、すぐに疲れてしまう。自己満足による同調性の怖さを示すエピソードとしてこんなエ ピソードが紹介されている。
5匹のサルを檻に入れ、檻の天井に1本のバナナを置く。そして、それをとったサルにホースで水をかける。バナ ナをとったサルだけではなく、他のサルにも水がかかり、すべてのサルがずぶぬれになる。何度か繰り返すと、サルが天井に上ろうとすると、他のサルが止める ようになる。そうするうちに、バナナをとろうとするサルはいなくなる。
そこで、今度は一匹を入れ替える。新しいサルはそれまでのことを知らないので、天井に上ろうとするが、止められ、やがて、やってはならないことだとして学習する。また、別の一匹を入れ替えても同じことが起こる。
こ のように学んだ習慣が身に染みついて、受け継がれていくが、このような同調性を消す方法はないという。だとすれば、イノベーションを起こすには、自分たち の行動を、創造的に考え、試し、失敗を恐れずに大胆なリスクをとることに、同調させるように起動修正することだ。つまり、マネジャーの立場にあるものが、 イノベーションをライフスタイルの一部とし、自らが規範になって、人の手本となるような行動を実践することだ。そのためには、
1.気づきを実践する
2.集団の力を利用する
3.暗示の力を活かす
4.優れた行動の現場をとらえる
5.居心地の悪さを受け入れる
といった行動を実践しなくてはならない。
そのような行動をするには、これまでとは違ったスキルが必要である。著者は、ダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト」を引き合いに出し、コンセプチュアル時代のイノベーターに必要なスキルとして
1.戦略的想像力
2.挑発的な質問力
3.創造的な問題解決能力
4.俊敏性
5.不屈さ
の5つを挙げている。
これらの能力を持つイノベーターは
1.未来に焦点を当てる
2.現状に挑戦する
3.賢いリスク(スマートリスク)を見極め、投資する
4.積極的に協業する
5.常に学ぶ
といった行動を取り、未来につながるイノベーションを引き起こしていく。
ソ リューションをまとめた本であるので、読みやすい。一方で、タイトルになっている「会社をつぶせ」というのは、アンチプロブレム系のエクスサイズ。また、 これ以外に「バカげたルールをつぶせ」というエクスサイズもあるらしい。これらの実施の様子が詳細に書かれており、エクスサイズの世界と現実のギャップが 指摘されており、そこにイノベーションのむずかしさがあることがよく理解できる。
また、上に示した行動規範についてもかなり詳しく説明されており、本を読めば取り組めるように思う。その意味で実践的な本だ。
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