変化を生み出す、原理原則とは何か?
ジョセフ・ジャウォースキー(金井 壽宏監訳、野津智子訳)「源泉――知を創造するリーダーシップ」、英治出版(2013)
お奨め度:★★★★★
みなさんはダニエル・デフォーの「ロビンソン漂流記」を読まれたことはあるだろうか。
ロビンソン・クルーソーという船乗りが大西洋の赤道近くの無人島で長い間暮らしたときの物語である。イギリス人のロビンソンはひょんなことからブラジルで農園を経営することになる。農園は軌道にのり、事業を拡大するためにアフリカから黒人を連れてきて奴隷にしようと考える。ロビンソンは船長としてアフリカに向かうが途中、嵐に見舞われ、船は難破してロビンソンだけが生き残り、船は赤道近くの無人島にたどり着く。ロビンソンは船にあった銃・弾丸・火薬そしてナイフ・斧などを島に運び、28年間、島で生活するという物語だが、小学生のときにワクワクしながら、何度も読んだ覚えがある。
なぜ、ワクワクしたのかというと、ロビンソン・クルーソーになって、どことも分からない無人島で、生き延びていかなくてはならないという実際には体験できない状況でいろいろと想像するからだ。
ジョセフ・ジャウォースキーの「シンクロニシティ」を最初に読んだときに連想したのが「ロビンソン漂流記」だった。「ロビンソン漂流記」はサバイバルの旅、「シンクロニシティ」は内面の旅だが、「シンクロニシティ」という本は「ロビンソン漂流記」を読んだときのように一体化しながら読む本だろうなと思った。
「シンクロニシティ」は弁護士だったジョセフ・ジャウォースキーがアメリカ史に残る汚職事件「ウォーターゲート事件」に直面し、「リー ダー」のあり方に疑問を持ち、弁護士をやめ、「真のリーダーシップ」を求めて旅へ出る。そして、旅の中で、同じ考えを持つ多くの人と出会い、対話をし、 リーダーシップ像を自分の中に創り上げ、普及活動に取り組むという物語。この本と同時に、増補改訂版が出ているのでぜひ、この本と一緒に読んでみてほし い。
ジョセフ・ジャウォースキー(金井 壽宏監訳、野津 智子訳)「シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ」、英治出版(2013)
正直にいえば、「シンクロニシティ」を最初に読んだときには、「ロビンソン漂流記」ほど引き込まれることはなかった。著者の考えによく分からい部分があり、一体化できる部分とできない部分があったからだ。
そ もそも、「シンクロニシティ」が出版されたときには、この言葉の意味するところすらよく分からなかった。読み終えてみると、この言葉が自然に出てくるよう になった。そして、グローバルリーダーシップにおいては、「シンクロニシティ」が非常に重要な役割を果たしていることがよく分かった。これらは表面的なこ とであるが。
今回の旅のテーマは、「源泉(ソース)」である。
企業化的な(変化の)衝動の源泉は何か?知とつながって、まさにその瞬間に必要な行動をとれるようになる私たちの力の源泉は何か?
というのが今度の旅をドライブする問いである。この問いを巡って、主人公がいろいろな人と出会い、シンクロし、考えを深めていく。そして、たどり着いたのは4つの原理。
[原理1]宇宙には開かれた出現する性質がある
[原理2]宇宙は分割されていない全体性の世界である。
[原理3]宇宙には無限の可能性を持つ創造的なソースがある
[原理4]自己実現と愛への規律ある道を歩むと言う選択によって、人間はソースの無限の可能性を引き出せるようになる
今回のテーマの源泉の方が「シンクロニシティ」よりもっと難解である。しかし、主人公との一体化の度合いは、「シンクロニシティ」より大きかったように思える。
なぜかと考えてみると、「U理論」に触れたことが大きいように思う。ジャウォースキーは、「シンクロニシティ」より前に、システム思考のピーター・センゲとオットー・シャーマーと一緒に「出現する未来(Presence)」というUプロセスに関する本を出版している。
ピーター・センゲ、オットー・シャーマー、ジョセフ・ジャウォースキー(野中 郁次郎監訳、高遠 裕子訳)「出現する未来」、講談社(2006)
そして、オットー・シャーマーが、U理論という形で体系化した本を出版する。
オットー・シャーマー(中土井 僚、由佐 美加子訳)「U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術」、英治出版(2010)
この本を読んでいると、ソースに書かれているジャウォースキーの行動は分かりやすくなる。
ジャウォースキーが目指しているのは、第4段階のリーダーシップである。
第1段階:自分が中心になるリーダー
第2段階:一定の水準に達しつつあるリーダー
第3段階:サーバントリーダー
の3つの段階を超え、第4段階のリーダーは、サーバントリーダーの特徴と価値観を持ち合わせながら、暗黙知を活かし、戦略策定、オペレーションエクセレンス、イノベーションを行うことができるリーダーである。
「ロビンソン漂流記」を読むことは、その物語に出てくることからサバイバルの知識を身につけるだけではなく、一体化し、いろいろなことを想像することにより問題解決能力が身につくのだと思う。
「ロ ビンソン漂流記」と同じように、「シンクロニシティ」や「源泉」では、著者とうまく一体化できれば第4段階のリーダーとしてのリーダーシップを開発するの に役立つだろう。一体化するには一回、二回ではなく、しつこく読み直すとよい。読むたびに一体化の度合いが上がってくる。
そして、僕がそうだったように、読んでいると一体化をするために、「シンクロニシティ」をはじめとして、これまでの本に当たりたくなるだろう。そのような欲求を感じたら、素直にその本に移ってみることをお奨めしたい。
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