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2013年2月21日 (木)

イノベーションを妨げる「否認」とは

4532316790リチャード・テドロー(土方 奈美訳)「なぜリーダーは「失敗」を認められないのか―現実に向き合うための8の教訓」、日本経済新聞出版社(2011)

お奨め度:★★★★★

ハーバードビジネススクールのベテラン教授が、輝かしい成功をおさめたのちに、衰退した企業を対象に、トップリーダーの意思決定を調査し、そうならないための教訓をまとめた一冊。調査が詳細で、ストーリーがたいへん面白い一冊。


この本で問題としているのは、リーダーの「否認」という行動である。つまり、目の前の現実から目をそらし、失敗を認めない行動である。本書は、さまざまなケースを取り上げながら、否認のパターンを探っている。

最初に取り上げられたのは、フォードのケース。フォードはモデルを絞り、コストダウンをすることにより、車を誰もが手に入るようにしたT型フォードで絶対的な成功をおさめた。しかし、そののちに、バラエティのあるものが欲しいという消費者のニーズを否認し、結果として、消費者のニーズに応えたライバルGMに惨敗した。

次の事例は、アメリカのタイヤ産業。米国のタイヤ産業はバイアスタイヤで米国の市場を独占していた。そこに、ヨーロッパからラジアルタイヤが入ってきた。ラジアルタイヤの技術的な優位性は十分に分かっていながら、ラジアルタイヤに市場を取られることを否認した。その否認は2つのパターンがあり、一つはヨーロッパを席巻しているが、それが米国にくることはないだろうという読み。二つ目はラジアルタイヤにより二流のタイヤメーカが先頭集団に追いつく機会になり、業界としては悪い話ではないと言う考えだった。結果としては米国のタイヤ産業は壊滅的なダメージを受ける。

三つ目のケースは、A&P(アトランティック・アンド・パシフィック・ティー・カンパニー)という薄利多売のコンセプトの食料品流通を創り上げた企業。彼らが否認したのは、スーパーマーケットだった。最初は否認するが、結局スーパーマーケットの世界に入っていった。

四つ目のケースはシアーズ。シアーズは小売りで大成功をし、成長を続けているように見えたが、経営実態が悪くなっていった。シアーズの否認はそれを市場の飽和のせいにして、さまざまな問題に手を打とうとしなかった。

五つ目のケースはIBM。IBMは90年代後半にもっとも成功した企業で、その原動力になったのが360というシステムだった。360はリスクの高い開発だったが、成功をおさめ、それがIBMの成長の原動力となった。一方で、そのあとのミニコンピュータとか、PCの市場の可能性を否認し、その結果、特にPCでは重要な成長機会を逃し、インテルやマイクロソフトの市場独占を許すことになる。

六つ目はコカコーラ。コカコーラは、主力製品の製法を変えて大失敗する。そこで彼らがとったのは、その失敗を否認することで、そのために新しい製法こそがよいという嘘っぱちのストーリーを作り、それでブランドイメージを著しく下げた。

これ以外にも、ディポン、インテル、P&Gのタイレノールなどの否認による失敗のケースを取り上げ、否認による失敗をしないための8つの教訓を示している。以下の8つだ。

(1)手遅れになるまで危機を待たない
(2)事実を曲解しても、待ち受ける現実は変わらない
(3)権力は人を狂わせる
(4)経営陣は、悪い知らせを聞く耳を持つ
(5)長期的な視野に立つ
(6)バカにしたり、歪曲した言葉遣いには要注意
(7)隠すことなく真実を語る
(8)失敗は、常識に囚われることから始まる

この本を読むと、経営は難しいと思う。リーダーだけの問題だけではなく、リーダーを忖度するとりまきとか、いろいろな原因でリーダーは否認する。事業30年説というのがあるが、単に事業としての寿命になるというだけではなく、この否認の問題が絡んでいることは間違いない。

今、この問題は別の形で姿を現している。イノベーションの否定だ。イノベーションに取り組みながら、何らかの否認が出てきて、なかなか、最後までたどり着かない。トップリーダーだけではなく、経営層、管理層全体に否認の傾向がある。イノベーションに取り組むにには、リチャード・テドローの8つの教訓を頭に入れて進めていくとよいだろう。

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