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2013年1月31日 (木)

ビジネスマンのためのアジャイル読本

4798129704平鍋 健児、野中 郁次郎「アジャイル開発とスクラム 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」、翔泳社(2013)

お奨め度:★★★★★

古くからアジャイル開発の普及に携わり、最近では特にスクラムの活用を推奨する平鍋健児さんと、スクラムという概念の生みの親ともいえる野中郁次郎先生がコラボレーションした一冊。

アジャイル開発を行うには、開発者だけではなく、ユーザや経営層の理解が欠かせないという考えのもと、経営者からビジネスマン全般に向けた幅広い解説をしている。前半はアジャイル開発やスクラムの解説、つぎにリクルートや楽天、富士通のアジャイル開発の事例紹介をしている。

アジャイル開発やスクラムの解説は、淡々と行われているが、その中でもいくつかおっと思うようなポイントがあるので、紹介しておこう。まず、アジャイルのイメージをホールケーキに対するショートケーキだとしている。この例はソフトウエア開発を全く知らないビジネスマンでも何かの意味を感じることができるだろう。

次は、アジャイルの必要な理由として、開発された機能のうち、まったく使われていないものが45%、ほとんど使われないものと併せると64%あるという調査結果。そしてその原因として、時間が経過すれば必要なものが変わるからとされる。

ケーキの例でいえば、イチゴのホールケーキを作っていたら、待っているうちに10人のうちの6人が別のケーキを食べたいと言い出したようなものだ。

次にスクラムの解説は完結で分かりやすいものだ。ここでは紹介しないが、ソフトウエア開発の知識がない人が読んでもある程度、イメージできるだろう。また、プラクティスの解説も同様に分かりやすい。

リクルートや楽天、富士通の事例はいずれもかなり踏み込んでいる。いわゆるコンピューター系の雑誌に掲載されているような技術やプロジェクトマネジメントの事例紹介ではなく、どのように意思決定をしたか、なぜそのような意思決定をしたか、そして、もっとも重要なポイントである、なぜ意思決定できたかを詳しく書いているので、アジャイルに取り組むには非常に参考になる。

そして、野中先生によるオリジナルのスクラムと今のスクラムの比較と続く。比較は

・不安定な状態を保つ
・プロジェクトチームは自ら組織化される
・開発フェーズを重複させる
・マルチ学習
・柔らかなマネジメント
・学びを組織で共有する

の6つの視点から行われている。いずれも、スクラムの特徴になるポイントであり、スクラムの基本哲学、アジャイルの意味を理解するには非常に有用な情報である。

最後に、野中先生と平鍋さんの、イノベーションが求められる時代の製品開発やシステムの開発の在り方についての対談がおさめられている。

ビジネスマンや経営者、開発者、読んでほしいパートがあり、また、それ以外の部分についても平易に工夫して書かれているので、理解しやすい。

アジャイルになじみのある開発者の人には対談を、アジャイルにあまり縁のない開発者の人にはアジャイルの説明部分を、ビジネスマンの人には野中先生の解説を読まれることをお奨めしたい。


対談を読んでいると、この本全体が野中先生と平鍋さんのかなり深い議論の中の上澄みの部分を書籍化したような印象を持った。少なくとも野中先生の語りの深層の部分は

野中 郁次郎、紺野 登「知識創造経営のプリンシプル―賢慮資本主義の実践論」、東洋経済新報社(2012)4492521992

を読むとかなり、分かるのではないかと思う。併せて読むことをお奨めしたい。平鍋さんと野中先生が、紺野先生と野中先生のような関係になり、これからも共著が出てくることを期待する。

特に、この本はベンダー視点から構成されている。これをビジネス視点から見た第2弾を期待したい。

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