現代の管理職に求められるものと、その達成方法を学ぶ
樋口 弘和「理想の上司は、なぜ苦しいのか: 管理職の壁を越えるための教科書 (ちくま新書)」、筑摩書房(2012)
お奨め度:★★★★★
管理職のあり方について書いた本は多いが、この本は、管理職に求められるものがどのように変わってきたか、そして、その変化にどのように対応していけばよいかを解説している。
お奨め度:★★★★★
管理職のあり方について書いた本は多いが、この本は、管理職に求められるものがどのように変わってきたか、そして、その変化にどのように対応していけばよいかを解説している。
よく考えてみると、管理職のイメージは自分が部下として働いているときにできていく。求められるものの変化がこの10年くらいに起こっていることを考えると、新しく管理職になる人や、より上位の管理職になる人が見ているのは古い管理職である。したがって、どう変わっていけばよいかを示すアプローチは合理的である。
以前、係長、課長と呼ばれていた管理職は、今は、リーダー、マネジャーと呼ばれることが多い。また、部長もディレクターと呼ばれることがある。たとえば、係長とリーダーは、
・リーダーは判断業務を行わなくてはならない
・リーダーはスタッフの管理を行わなくてはならない
の2点で大きく異なっている。係長の時代には、係長→課長→部長、部長→課長→係長という指示や報告ラインがあった。しかし、ビジネスがスピード化している今の時代、そんなことをしている余裕はなく、現場で意思決定をする必要がある。つまり、リーダーは判断業務を行わなくてはならない。
また、スタッフも急速に成長を求められることから、モチベーション管理を中心に、スタッフの管理が必要になってきた。
課長とマネジャーを比較すると、課長の時代には、年次計画で目標を一度決めれば、1年間変わることはなく、目標に対する業績責任を担えばよかった。しかし、今は目標自体が変わるので、マネジャーは目標の変更や戦略変更という本来、部長が負っていた仕事までを背負うようになってきている。
その部長は、従来は人材育成や、環境づくりなどの仕事をしていればよかったが、今は、短期の成果を追い求めており、ディレクターは、日々、起こる問題解決に当たっているのが実情である。
このような中で、管理職の壁を越えられない人が多くなっている。管理職の壁を越えられるのは、
・自尊心より好奇心が勝っている
・部下を理解し、コミュニケーションが取れている
・仕事に対する信念がある
の3つを兼ね備えた人だ。
その管理職にとって最も大切な役割は部下の育成であり、育成はOJTによって行われる。OJTでは、以下のような点がポイントになる。
(1)部下の特性を把握する
(2)育成プランを作る
(3)仕事においては目的を伝える
(4)仕事を任せ、うまく行かないときはサポートする
(5)共感しながらアドバイスする
最後に、プロジェクトマネジャーについて言及している。一般的な管理職よりさらに厳格に成果が求められるプロジェクトマネジャーであり、その意味で、「管理職のプロフェッショナル」と言い換えることができる。
企業の人件費のパイが限られている今、固定化した管理職よりも、このように流動的に動けるマネジメントのプロフェッショナルの方が企業にとっても望ましい人材になっている。また、プロジェクトマネジャーは能力が高くなればなるほど、部門や企業に限定されず、活躍することができます。そのため、今後はますますプロジェクトマネジャーのニーズが増え、企業間でも奪い合いになる花形ポジションになるだろうと述べている。
プロジェクトマネジャーにもっとも必要なのは、固定概念に対しての柔らかさ、役割に対しての柔らかさ、相手に対する柔らかさ、仕事の最終目的以外の子細については、自分のこだわらない柔らかさなど、「柔らかさ」である。
この本はすべてのランクの管理職において、福音になる一冊だ。また、プロジェクトマネジャーにとっても、力づけられる本である。
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