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2012年9月17日 (月)

天才でなくてもイノベーションを達成できる

4822231437小林 三郎「ホンダ イノベーションの神髄――独創的な製品はこうつくる」、日経BP社(2012)

お奨め度:★★★★★

facebookページ:「イノベーションの本質を突き止める

ホンダを題材にしたイノベーション論。ホンダという企業の面白さもあるが、切り口が鋭く、多くの企業やマネジャーが明日から実践できる、非常に実践的なイノベーション論にまとまっている。

イノベーションはトップが方針で落としてきても、実践しようとすると動きにくさがある。指示した人たちが裾を踏んでいると感じる人が多いそうだ。その理由として、2つ、考えるべき本質がある。一つは、人と組織に関わることだ。

著者は面白い指摘をしている。ベンチャー企業の特徴は

・ユニークなリーダーがいる
・ろくでもない社員がほとんど(一般社会の評価で、B級、C級)
・年寄りがいない

の3つの特徴だ。これに対して、今の日本の普通の企業には、

・普通のリーダー
・有名大学卒の優秀な社員
・年寄りだらけ

の3つが特徴である。これを比較すれば、イノベーションの阻害要因として挙げられるのは、普通のリーダーや年寄りがリスクを極度に恐れる結果、イノベーションに挑戦しなくなっている。また、普通のリーダーや優秀な社員は管理が好きだが、管理すればするほど、イノベーションから離れていく。ベンチャー企業の3つの特徴は少なくとも、必要条件である。

二つ目は反対勢力である。イノベーションには必ず反対勢力が出てくる。イノベーションを実現するには、反対勢力に打ち勝たなくてはならない。特に、技術的なエキスパートが従来の価値感で反対するケースが多い。小林先生の手がけたエアバックの開発でも賛成したのは研究所トップの久米是志さん(第3代社長)だけで、他の技術屋は総反対だったそうだ。本田宗一郎氏は

今起きていることは、若い人にしか分からない。年寄りは過去の知識と経験が豊富なので、素直に正面から受け取れない

と言っていたという。

もう一つ、イノベーションの本質を考えるに当たって重要なのは、仕事の性格である。仕事には、オペレーションとイノベーションがある。オペレーションはかけた時間にほぼ成果が比例するが、イノベーションは時間に応じて成果がでてこないが、長い時間、やっていると突然成果が出る。これが定義だといってよい。

両者の特徴は、オペレーションには正解があり、その正解を論理的に追及するので、論理的なアプローチである工学やMBAが役立つ。これに対してイノベーションには正解などなく、みんなが反対する中に解があることも少なくない。

この3つの視点から、イノベーションを成功するための方法を示している。


まず、イノベーションを考える上で、ポイントになるのは、「絶対価値」の追求である。絶対価値とは、「違い」を生む価値である。ホンダには、違いと差を分ける文化がある。これはなかなか、面白い。たとえば、技術レベルがAである場合に、技術の改善・改良によってレベルを高めてBに持っていく。これを差と呼ぶ。クリステンセン教授のいう、持続的イノベーションである。これに対して、現状の技術を何らかの点で飛躍させ、絶対価値を実現できるものを生み出す。この場合は違いという。

従って、イノベーションにおいては、技術ではなく、どのような絶対価値を実現するかが重要になるわけだ。

ところが、絶対価値を実現しようとすると、イノベーション包囲網とも呼ぶべき、反対がでてくる。イノベーションの初期段階において、世界のどこにもない技術に対して、開発額や利益額などを問い詰めていく。すると、イノベーションは動機を奪われ、死んだ状態になる。これをイノベーションの死と呼ぶが、イノベーションの死を避けるには、仕事の性格を考える必要がある。オペレーションとイノベーションである。両者の違いは上に述べたとおりだが、業務の中で成功率が異なること、そして、考えるべき期間が異なることを理解しておく必要がある。オペレーションの場合には、95%以上の成功が求められる。これに対して、イノベーションの成功率は10%以下である。したがって、成功することを前提にしたマネジメントをしていると、片っ端からイノベーションは死に至ることになる。

絶対価値は目標としてあらわされるが、それは骨太の本質的な目標でなくてはならない。ホンダでは、A00と呼ぶが、いわゆるビジョン、夢、ありたい姿である。本質的な目標は10年以上の長い時間をかけて実現していくものである。本質的な目標を実現しようと思えば、コンセプトが重要になってくる。たとえば、シビックの5代目のコンセプトとサンバだったらしい。コンセプトがあると、技術はついてくるという。

ホンダのイノベーションは見取り図が描ける。もっとも底辺にあるのは、哲学である。ホンダの哲学は「三つの喜び」と「人間尊重」である。三つの喜びは、作る喜び、売る喜び、買う喜びを表す哲学だ。人間尊重は、自立、信頼、平等の3つの哲学である。

その哲学の上に、熱気と混乱がある。そこには、まず、気質がある。ホンダの気質は

・高い志と、強い想い

である。そして、その上に加速装置としてあるのが、企業文化と、仕掛けだ。企業文化には

・本田宗一郎の言葉
・学歴無用のフラットな組織
・異端者、変人、異能の人が集う
・叱る文化
・ミニマムルール
・若手に任す

などがある。仕掛けには

・ワイガヤ
・A00
・三現主義
・定番の質問
・しきたり

などがある。それぞれの構成要素については、本書で具体的に述べられているので、参照してほしい。

そして、これらの上に、コンセプトを明確にし、本質的な目標を決定し、絶対価値を実現するというイノベーション活動が営まれるのだ。

著者の小林三郎先生は、ホンダで、技術の仕事を経て経営企画部長を務められた方だ。技術者の時代には、日本で最初にエアーバックを開発に成功し、さらに、助手席のエアーバックを開発された。その後、大学に活動の場を移されて後進の指導に当たられている。

本書の書き方は、ホンダのイノベーション活動を見取り図としてモデル化しており、そのモデルが極めて実践的である。イノベーションに取り組む人は、ぜひ、一度読んでみて、このモデルを参考にして、自社・自部門に取り入れられるものは何か、新たに加えることができるものは何かを考えてほしい。

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