サーバントリーダーはメンバーの「ニーズ」に応える
ジェームズ・ハンター(高山祥子訳)「サーバント・リーダー 「権力」ではない。「権威」を求めよ」、海と月社(2012)
お奨め度:★★★★★
2004年にPHP研究所から「サーバント・リーダーシップ」のタイトルで出版されたジェームス・ハンダーの「The Servant」の新訳。原書は1998年の出版だが、ちょうど、勉強会で読む機会があり、すごく大切なことを学んだ本。
小説仕立ての本で、世界的なガラスメーカで例をみない若さで工場を任され、順調なキャリアを歩むジェネラルマネジャーが妻から警告され、教会の牧師に相談されることを提案され、牧師から修道院の修道会に参加することを提案される。気乗りはしなかったが、その修道院に伝説の経営者がいることに興味をひかれて、参加する。そして、その伝説の経営者から、リーダーシップを学ぶというストーリー。
◆リーダーシップ、権力、権威
この本では、リーダーシップを
共通の利益になるとみなされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技法
と定義している。そして、リーダーシップを発揮するためには、権威が必要である。ここで権威というのは、権力と比較されるもので、権力が
たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力
であるのに対して、権威とは
個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能
である。権威を持つためには、
・正直で信頼できる
・いいお手本
・愛情深い
・献身的
・話をよく聞く
・人に責任を持たせる
・敬意をもって人に接する
・人を励ます
・肯定的で熱心な態度
・人の価値を認める
などが必要だ。
リーダーシップは人を通してなにか成し遂げるためのものであり、タスク(任務)と関係の「バランス」が必要で、関係を構築しながら、任務を達成しなくてはならない。
◆逆ピラミッドにおけるリーダーシップモデル
健全で活発なビジネスをするためには、組織の中でC(顧客)・E(従業員)・O(オーナー)・S(サプライヤー)との健全な関係を築くことが不可欠、そのためには、顧客を中心とした新しいピラミッド型のパラダイムを作る必要がある。すなわち、
顧客
従業員(仕事仲間)
監督者
中間管理職
副社長(バイスプレジデンント)
CEO
というピラミッドである。そして、この逆ピラミッド型をうまく機能させるには、リーダーシップのモデルとして、
リーダーシップ
権威
奉仕と犠牲
愛
意志
というモデルが必要だ。つまり、リーダーシップのためには権威が必要である。そして、権威は奉仕と犠牲の上に成り立っている。つまり、ある人に影響を与えるのは、その人に何らかの形で奉仕し、犠牲を払った人だけである。
◆行為としての愛
奉仕や犠牲のためには、行為としての愛が必要である。行為としての愛とは
メンバーの正当なニーズを見極め、それに応えることによって、人のために努力をする行為
である。
◆欲求ではなく、ニーズに応える
サーバントリーダーシップの原型になっている考え方の一つであるが、この本を最初に読んだときに、印象に残ったのは、サーバントは「奴隷」ではないということ。奴隷か、サーバントリーダーかを分けるのは、メンバーのニーズに対して対応するのか、欲求に対して対応するのかの違いだ。後者は奴隷である。メンバーのニーズに対して対応するということは、必ずしもメンバーがそれを望むとは限らない。
グリーンリーフ「サーバントリーダーシップ」の翻訳が出版されて、サーバントリーダーシップという言葉は普及してきたが、いまだにこの点を理解していないケースが多い。
ロバート・グリーンリーフ、ラリー・スピアーズ編集(金井壽宏監修、金井真弓訳)「サーバントリーダーシップ」、英治出版(2008)
その原因は、逆ピラミッドの意味の理解不足にある。思い当たる節がある人は、ぜひ、この本を読んでみよう。小説形式なので、考えながら読める。
ちなみに、この文脈でのニーズとは何かという問題も難しい問題である。それについては、この本を読んでみることをお奨めする。
エドガー・H・シャイン(金井壽宏、金井真弓訳)「人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則」、英治出版(2009)
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